俺たちの地獄はゆっくりと消えていく | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

はっぴいえんど写真展

12月。渋谷の雑居ビルで開催された野上眞宏氏の「はっぴいえんど写真展」を訪れた際、ぼくは、ふと、「彼」もここに来たのではないか、いや、来たに違いないという奇妙な感覚に襲われた。何故だろう、これまで一度も、そのようなことは考えもしなかったのに。「彼」とは、もう30年近く会っていない。これからも会うことはないであろう。1985年の秋、「彼」は碧落の世界へと行ってしまった。

恐らくは、その雑居ビルの入り口で手にしたある映画のチラシが、「彼」のことをぼくに思い出させたのだろう。映画には、あの秋の日の炎に包まれた遁走劇も記録されているのだろうか。あれは本当に馬鹿げた出来事であった。「彼」の若さを利用し、二度と戻れない程の遠方に跳躍させ、消耗させ、孤独で惨めな逃走を強いた狡猾な大人たちを憎む。あれから30年――連中も今では善良な前期高齢者の顔をして、ちゃっかり福祉の世話にでもなっているのではあるまいか。ならば、ぼくはこう念じよう。“醜悪な老人たちよ、とっとと地獄に落ちてしまえ” と。

まもなく終わる2014年は格別に酷い年だった。しかし、今に始まった話ではない。この惨状の責任は少なからずぼく自身にもある。昭和40年前後に生まれた者なら、身に覚えがあるはずだ。若き日のぼくたちは、歴史に無知で、思想アレルギーで、泥臭い“運動”を毛嫌いし、一方で、新人類と持て囃され、ディスコにコンパ、車にスキー、世はバブル真只中、就職戦線は絶好調、貧困も差別も戦争もすべて別世界の話だったじゃないか。ひたすら享楽的かつ刹那的に生き、次の世代につなぐべき責任あるバトンなど何一つ持とうとしなかったじゃないか。そして、手法としては全く間違っていたが、私心無く、世の中の矛盾や不正に身体を張って立ち向かった「彼」のことを、忌まわしき存在として、嫌悪し、無視し、嘲笑していたではないか。

まぁいい、気を取り直して、中山ラビさんが1970年代前半に歌った「子供にはこういってやんな」を聴く。原曲は、かの有名なクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの「ティーチ・ユア・チルドレン」だが、中山容氏の味わい深い訳詞と、名手、古川豪氏による乾いたバンジョーの音色が相まって、まるでラビさんのオリジナル曲であるかのような不思議な魅力を醸し出している。

  ねえ あんたは旅空で
  あるんだよ 生きるには守るものが
  一人前になるだろう
  過ぎたものは 捨てようぜ

  子供には こういってやんな
  親父の地獄は ゆっくりと消えてく

  わけなんか 聞いちゃ駄目なのさ
  解れば きっと泣くだろう


ところで、同世代サン、あなたは、藤原さくらという若きミュージシャンを知っているだろうか。福岡出身の18歳の歌姫は、まだ未熟ではあるが、それでも時折ハッとするような良い曲を作る前途有望なソングライターでもある。彼女は、まさに我々の子供の世代だ。ぼくは、そのことがとても嬉しいし、愛おしい。だから、子供たちにはこう言ってやろう。親の世代の愚行を、お前たちが塗り替えていくのだと。

◆藤原さくら - Ellie