Kate Rusby / Sweet Bells | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

AFTER THE GOLD RUSH-Kate Rusby / Sweet Bells イングランド中北部のサウス・ヨークシャーは、この時期、最高気温6度、最低気温0度前後。身を切るような冷たい北風が吹く中、シェフェールドの街には、色鮮やかなクリスマスイルミネーションが煌めいていることだろう。郊外に行くと、煉瓦造りの古い一軒家。暖炉の前で子供たちが走り回り、キッチンでは母親がクリスマスディナーの準備をしている。ローストターキー、ミンスパイ、そして、ブランデーでフランベしたクリスマスプディング。着飾ったもみの木のクリスマスツリーも優しく微笑んでいる。――さぁ、家族揃って、お祝いだよ。

 

ケイト・ラスビーの可憐な歌声を聴いていると、そんな情景が目に浮かぶ。サウス・ヨークシャーに古くから伝わる素朴なクリスマス・キャロル集。シンプルなアコースティックギターの爪弾きに、ダイアトニックアコーディオンやシターンなどの伝統楽器があたたかな色を添える。ケイトの歌声は、静かに降り積もる雪のように透明感に満ちて、さりげなく、しんしんと、演奏に溶け込んでいく。時に軽やかに踊るように、時に切なく胸がしめつけられるように。それは、高揚感と寂寥感が入り混じったイブの夜のようだ。

 

「ジングルベル」など定番のクリスマスソングは一曲も無く、煌びやかな派手さも無い。しかし、このしみじみとした味わいの伝承歌達は、聴く度に、ぼくを英国の牧歌的なクリスマスに誘う。そこは、懐かしい土の匂いがする。そこは、冷たい風が吹いているけれど、心温か。――ウォントリーのドラゴンもロビン・フッドも出ておいで。此処はお前達の故郷ヨークシャー。耳を澄ませば、ほら、懐かしいクリスマス・キャロルが聴こえてくるだろう。