Three Score & Ten - A Voice to the People | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

AFTER THE GOLD RUSH-Three Score & Ten - A Voice to the People ブリティッシュ・トラッド/フォークの世界は、まるで汲めども尽きぬ泉のようで、その底知れない深度に、時に眩暈すら感じてしまう。かれこれ10年以上聴き続けているが、いまだ、道半ばどころか、1合目にすら到達していない。もしかすると、登山道の入り口あたりで足踏みしている状態なのかも。そんなことを考えると、眩暈を通り越して、ゾっとしてしまう。おー、ぼくの人生は、英国民謡の片鱗すら掴めぬまま、終わってしまうのではないか。

 

英国トラッドの老舗レーベル、トピックレコードの70年の歴史をまとめたボックスセット「Three Score & Ten - A Voice to the People」は、そんなぼくにとって、この上ない見通しの良い登山地図となった。ありがたい。

 

1939年に創業したトピック・レコードは、当初、英国共産党の関連組織「ワーカーズ・ミュージック・アソシエイション」が運営し、政治的な歌を中心にリリースしていた。その後、英国フォーク・リヴァイヴァルの最重要人物A.L.ロイドが運営の主導権を握り、トラッド・フォーク専門のレーベルへと変貌していく。

 

このボックス・セットには、レーベル最初期の録音である、「赤旗」や「インターナショナル」などの労働歌から、ルイス・キレン、シャーリー・コリンズ、アン・ブリッグスなどのリヴァイヴァリスト達による伝承歌、そして、彼らの娘の世代であるイライザ・カーシーによるトラッドまで、と、実にバラエティに富んだ曲が収録されており、何回聴いても飽きることがない。伴奏がまた簡素で、素朴で、(さらに伴奏すらない曲も多く)、だから、歌声が力強く響いてきて、それが本当に素晴らしい。

 

英国で口承伝承されてきたバラッドが、ブロードサイド・バラッドとなり、その流れを受け継ぐかのように、日本では明治後半に演歌師、米国では60年代にプロテスト・フォークが誕生し、それは、かの東京フォーク・ゲリラにまで繋がっていると夢想するのも一興か。このあたりは、もう少し時間をかけてまとめてみたい。