時の流れを誰が知る | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

Unhalfbricking

Fairport Convention/Unhalfbricking(1969年作)

 

ザ・バーズとジェファーソン・エアプレインに憧れる英国の若者たちが、ウッドストックのビッグ・ピンク経由で、土臭い英国民謡の世界に立ち返り、伝承歌とロックの融合という偉業を成し遂げる。フェアポート・コンベンションの「アンハーフブリッキング」は、その生々しいドキュメント。片足をフォークロックの喧騒に突っ込んだまま、もう片足でトラッドの大海へと踏み出す、その凛とした立ち姿が美しい。

 

リチャード・トンプソン作の陰鬱な「Genesis hall」で幕を開け、ボブ・ディランの「If You Gotta Go Go Now」の仏語ヴァージョン、-というより、マンフレッド・マンの1965年のヒット曲の仏語バージョンと言った方が正確かな-「Si tu dois partir」がボクらを陽気に踊らせ、そして、問題の曲「A Sailor's life」が始まる。この重苦しい程に荘厳な11分間、サンディ・デニーのピンと張り詰めた歌声と、トンプソンの鋭角的なギター、そしてデイヴ・スウォーブリックのリズミックなフィドルが緊張感溢れるバトルを展開する。トラッド・ロックの誕生を告げるこの曲に、ボクは何故か、土の匂いより、むしろインドのお香のような"サイケデリックの香り"を感じてしまう。それは、松平維秋氏言うところの「フェアポート・コンベンションの音楽にたちこめる(中略)あの肥えた英国の土の匂いとは、その上に生きて死んだものすべての死臭」という説と関係しているのだろうか。


アルバム録音直後の69年5月、悲劇的な交通事故で、ドラムスのマーティン・ランブルとリチャード・トンプソンの恋人ジーニー・フランクリンが命をおとし、リチャード・トンプソンとアシュレイ ・ハッチングスも重傷を負う。だから、という訳ではないが、サンディ・デニー畢生の名曲「Who Knows Where the Time Goes」は、痛いほど胸に響くし、全員でヴォーカルをとる「Million Dollar Bash」は、騒がしくて陽気な分、無性に悲しくなってしまう。

 

 寂しく見捨てられた海岸 気まぐれな友が去っていく
 その時あなたは気付く 彼らが去り行く時なのだと
 だけど私はここに残ろう
 ここを離れることは考えもしない
 時を数えもしない
 だって 時の流れを誰が知るの?
 時がどこに行くかなんて誰も知らないでしょう
 (Who Knows Where the Time Goes)

 

ボクが世界で一番敬愛する女性ヴォーカリスト、サンディ・デニーについては、次の機会に。