アメリカの会社で対日輸出を経験した者に言わせて貰えば:前田正晶 | 日本のお姉さん

アメリカの会社で対日輸出を経験した者に言わせて貰えば:前田正晶

アメリカの会社で対日輸出を経験した者に言わせて貰えば:前田正晶

「対日輸出の仕事では苦労が多かったのでは」と言って下さった方がおら れました。私は苦労をしたと言うよりも、途方もない世界に踏み込んだと する方が適確かも知れないと思うのです。

我が国の市場を相手にした場合に最も苦しめられ且つ悩まされるのが「売 り手が買い手(=中間の需要家と最終需要者)に対して余りにも弱いこと でした。念のために申し上げておけば、我々はその売り手の方々に向けて 輸出していたのです。

苦しめられた理由の一つが我が国の市場に付き物の”過当競争”でしょう。 その辺りを別の言葉で言えば、あるアパレル業の経営者がいみじくも言っ た”オーヴァー・ストア”状態でしょう。即ち、「うちが崖から飛び降りる 覚悟で値上げすれば、必ず何処かのcompetitorが安値で横取りする」よう な危険性を言うのです。危険性どころか多くのものを失うことが多いで しょう。

アメリカ人の思考体系では「コストが上がれば最終価格(末端価格)に転 嫁するのは当然。受け入れられなければ買わなきゃ良いじゃないか」です が、そこはそれ「義理と人情」、「長年の好関係を壊すようなことを言う な」、「長いつき合い」、「同じ業界で飯を食ってきた間柄じゃない か」、「お客様にご負担をおかけしたくない」、「市況は値上げを許す状 態ではない」等々が当たり前のように言われるのです。

これらの理屈はアメリカのビジネスマンに言わせれば「感情論」で相手に しません。そして、客先には転嫁出来ず、泣き泣き上昇したコストを背負 い込むことになっているようです。

アメリカ側から見れば「市況がどうのと言うのは、それこそ”none of our business”だし、我々は好関係と商売しているのではない」と一蹴しま す。だが、日本の市場の特性が解ってくると譲歩まではしなくても、それ こそ用意してあった”contingency plan”で対応するようになる企業もあり ます。

この辺りの微妙さは「外国の会社の日本人社員がどれほど相互のビジネス 社会の文化の違いを弁えているか」乃至は「会社の代弁しか出来ないような奴か」にかかってきます。

だが、「得意先のご意向はこういう拒否反応だから、再考を」などと上司 や本国に進言すれば「雇用の安全」が危機に瀕しかねないのがアメリカと いう世界。従って、”Yes, sir. I will be sure to do it, whatever customers may say.”と言うような従順な人物が最も評価が高いのです。 往年は為替の助けで外資にいれば高給でしたが、今はそういう時代でもな くなり、外資には優秀な人材は寄りつかないのではと危惧します。何度か 言いましたが「私は最初からそういう世界だと知っていたら、転身などし なかっただろう」と。それでも精一杯努力して、61歳でリタイヤーするま で22年半も勤めました。
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リタイヤするまで、頑張れたんだ。偉いね。