“南シナ海問題に首を突っ込むな” 武装船で領海侵犯を繰り返す中国、狙いは日本への警告か | 日本のお姉さん

“南シナ海問題に首を突っ込むな” 武装船で領海侵犯を繰り返す中国、狙いは日本への警告か

中国が西沙にミサイル配備した意図とは?海外専門家の見解 エスカレートする米中の攻防
更新日:2016年2月20日

南シナ海のパラセル(西沙)諸島のウッディー(永興)島に、中国が地対空ミサイルを配備していたことが分かった。「なぜこのタイミングなのか」「なぜパラセル諸島なのか」など、この問題にはいくつかの「なぜ」がある。海外の専門家はこれをどのように考えているのだろうか。

◆アメリカの「航行の自由作戦」がきっかけか
南シナ海の北西寄り、中国の海南島やベトナムの沖合に位置するパラセル諸島は、中国、ベトナム、台湾が領有権を主張しているが、1974年以来、中国が全島を実効支配している。ウッディー島はパラセル諸島最大の島だ。中国は埋め立てによって島を拡張し、島の両側にはみ出す格好で3000メートル級の軍用滑走路を設置している。島には軍の駐屯地や行政施設がある。戦闘機が配備されていると語る専門家もおり、軍事拠点化はすでに相当進んでいた。

それではなぜ今この時期に中国はミサイル部隊を配備したのか。このニュースをスクープしたFOXニュースによると、衛星画像から判断して、今月3日から14日の間に配備されたとのことだ。

配備のきっかけになったと多数のメディアで指摘されているのは、アメリカが南シナ海で行っている「航行の自由作戦」だ。今年1月に実施された際は、パラセル諸島周辺が舞台だった。

◆「航行の自由作戦」を口実に軍備を拡充?
これには二つの側面があると考えられている。一つは、アメリカなど各国に対して、中国は「自国の領土」を防衛する決意と力がある、と示すための対抗措置だというもの。もう一つは、軍備拡充を正当化する理由として、アメリカの動きを利用している、というものだ。

シンガポールの東南アジア研究所のシニアフェロー、イアン・ストーリー氏は、中国はここ数年間、パラセル諸島で軍事施設を建造し続けている、とワシントン・ポスト紙(WP)で指摘する。そして、報じられている中国の今回の動きが、米軍が実施した作戦への直接的な対抗措置かどうかははっきりしないが、中国政府は「南シナ海でのアメリカの軍事的措置への対抗措置」という名目で、ミサイル配備を正当化しようとおそらく試みるだろう、と語っている。

軍事情報誌「IHSジェーンズ・インテリジェンス・レビュー」のニール・アッシュダウン副編集長も、ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)のインタビューで、両側面について語っている。今回の配備は、アメリカと南シナ海で主権を主張する他の国に対して、中国には自分たちの領有権主張を守り抜く能力がある、というメッセージを送ることをおそらく意図したものだと氏は語る。

また、今年6月には、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海での中国の領有権主張に関する判断を下すとみられているが、中国はそれに先立って南シナ海での既成事実の積み上げを行った、というのが氏の読みだ。

二つ目の側面に関しても、今回の配備は、静かに着々と南シナ海で軍備を整えるという中国の戦略にのっとったものだと氏は指摘している。中国はこの戦略に従い、より有効な軍事システムをより多く各島に配備するのを正当化するため、他の権利主張国とアメリカの外交・軍事活動を利用している、と氏は語る。

◆まだ実戦配備ではなく、反応をうかがうための「見せミサイル」の可能性も
今回の配備はまだ実戦配備ではなく、演習用で、いわば「見せミサイル」の可能性があると指摘する専門家もいる。豪ローウィ国際政策研究所の国際安全保障プログラムのディレクターのユアン・グラハム氏は、衛星画像では、部隊の活動を支援する軍事施設が写っていないように見えるため、運用中ではない可能性が示唆される、とインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)で語っている。

配備は一時的なものであり、中国は、南シナ海問題の交渉で有利な立場を得ようとしているだけで、同時にアメリカや、オーストラリアなど各国の反応を見定めようと試みているのかもしれない、と氏は語る。「ミサイル配備には軍事的要素があるかもしれないが、シグナル発信という要素もある」と語っている。

◆中国は本当は何を防衛しようとしているのか
中国の王毅外相が、「中国の人員が駐留する島や礁に、中国が限定的かつ必要な自衛施設を構築することは、国際法上、いかなる主権国家にも認められている自衛権に完全にのっとったものだ」と語っているように、中国は今回の配備に関しても、国防目的であることを強く主張している。

中国外交部の洪磊報道官は17日の定例記者会見で、ウッディー島のミサイル配備に関して具体的な状況は承知していないとしつつ、中国が自国領土の防衛を強化するのは「全く正当なもので道理にかなっている」「いわゆる軍事化とは何ら関係がない」と語ったとINYTは伝えている。

中国がミサイル配備によって防衛しようとしている「自国領土」とは、一次的にはパラセル諸島だろう。しかしそれだけではないようだ。それが「なぜパラセル諸島か」という疑問の答えとなる。

南京大学中国南海協同創新センターの朱鋒主任が、WSJとINYTで語っているところによると、ウッディー島へのミサイル配備は、近辺の中国の軍事施設の防衛力を高めるための当然の措置であるという。その軍事施設とは、海南島・三亜市の中国海軍基地である。氏によると、この基地は潜水艦の根拠地となっており、ゆくゆくは空母の母港になるとみられているという(報道によれば、昨年、約700メートルのふ頭が完成した)。「三亜市は中国海軍の本拠地になりつつある」と同氏は語っている。

CSISのアジア問題のシニアアドバイザー、ボニー・グレイザー氏は、中国は今回の配備をしばらく前から計画していたふしがある、とWSJで語っている。

東南アジア研究所のストーリー氏は、今回のミサイル配備は、中国が南シナ海北部に、ある種の防空識別圏(ADIZ)をついに宣言することの前兆になるかもしれない、とWPで語っている。そしてゆくゆくは、スプラトリー諸島の軍事施設が増強されれば、はるか南方まで拡張されるかもしれない、と語っている。

◆米中の火花の散らし合いはやみそうにない
今後の見通しについて、IHSジェーンズのアッシュダウン氏は、今回の配備がもし確認されれば、中国が南シナ海での領有権主張で、今年は昨年以上に強硬な姿勢を取るつもりだというしるしになる、と語っている。それによって地域の外交は難しくなるだろう、と語っている。

WSJは、米中間の緊張の高まりに焦点を当てて報じている。両者ともあからさまな対立を望んでいないが、互いの姿勢が固定化しているために、外交解決の選択肢は狭まりつつあり、危険な事態が勃発する可能性が高まっている、と語る。

WPによると、オバマ大統領は米・ASEAN首脳会議後の16日の記者会見で、アメリカは南シナ海での「航行の自由作戦」を引き続き実施すると約束した。一方、中国当局者は南シナ海の防衛能力を今後も強化し続けると語っており(WSJ)、米中どちらも簡単に引き下がりそうにない。

オーストラリア国立大学のアジア太平洋安全保障問題のローリ-・メドカフ教授は、「戦略的なシグナル発信の応酬が悪化することのリスクは、大いに注意する必要がある。特に、計算違いの可能性について」とWSJで語っている。
(田所秀徳)

“南シナ海問題に首を突っ込むな” 武装船で領海侵犯を繰り返す中国、狙いは日本への警告か
更新日:2016年1月5日

中国が南シナ海や東シナ海で軍事的圧力を強めていることを示すニュースが、連日のように報じられている。中でも、日本に直接的な影響を与える可能性が最も高いのは、中国が尖閣諸島周辺に武装した公船を送り込んでくるようになったことだろう。ブルームバーグは、日本が南シナ海問題に介入することを嫌った中国が、あえて東シナ海の緊張を高め、日本政府の注意をそちらに集中させようとしているのかもしれないとの分析を示している。

◆海軍の軍艦を沿岸警備艇にコンバート
海上保安庁によると、武装した中国海警局の船が尖閣周辺で初めて確認されたのは12月22日のこと。機関砲のようなものの搭載が確認された。この船は26日、他2隻とともに日本の領海に侵入した。

また1月3日・4日と連続で、尖閣周辺で再び、武装している中国海警局の船が確認された。船体番号からすると前回侵入した船とは別の船のようだ。こちらもやはり、機関砲のようなものを装備していることが確認されている。

ブルームバーグの先月30日の記事によると、武装している中国海警局の船は、中国人民解放軍海軍のフリゲート艦だったものを転換したものだという。機関砲以外の装備は取り外されているもようだ。IHSジェーン・ネイビー・インターナショナル誌は昨年7月に、中国海軍のフリゲート艦が、ネービーブルーから白色に塗り替えられている写真を公表している。

なお日本と中国は、軍事衝突の危険を避けるため、軍艦ではなく、海上保安庁や海警局の船を尖閣周辺に配置している、とブルームバーグは説明する。

◆尖閣問題に日本をくぎ付けにする狙いが?
中国が武装した船で海警局を増強している狙いはどこにあるだろうか。

中国が武装した船を東シナ海に初めて配置したことで、緊張が高まりつつあるが、これは南シナ海問題から日本政府の注意をそらそうとする企てかもしれない、とブルームバーグは語る。中国は日本に「首を突っ込むな」というメッセージを送っているのだとしている。

安倍政権は、東アジアの安全保障において、日本がより積極的な役割を果たすことを追求している。南シナ海の「航行の自由」を守るためにアメリカが行っている作戦も支持している。中国は、日本のそんな姿勢に懸念を抱いている。「中国は日本が南シナ海問題に首を突っ込むことを望んでいない」と、日中関係を専門とする独ハイデルベルク大学中国研究所のジュリオ・プリエーゼ助教授はブルームバーグに語っている。もし遠く離れた南シナ海に自衛隊を派遣するようなことになれば、(足元の東シナ海の防衛が手薄になるという)リスクがあることを、中国は日本に思い出させようとしている、というのが同助教授の読みだ。

シンガポールのナンヤン工科大学S.ラジャラトナム国際研究大学院(RSIS)のコリン・コー・スウィー・リーン客員研究員も、中国は「日本政府が、東シナ海の状況はもう和らいでいるのだから、南シナ海に注意を向け始めることができるなどと『誤って』考えたりするといけないので」、日本の注目を東シナ海に縛りつけておくことに関心がある、とブルームバーグに語っている。

またコー氏は、近い将来、尖閣に来る中国海警局の船はますます、より新型で、より大型で、武装した船舶になっていくだろう、と推察している。ブルームバーグは、日本の海上保安庁の船舶は、中国海警局の船舶よりも、信頼性、機動性が高いと考えられている、と語る。コー氏は、中国がその差を急速に埋めつつあり、日本にとっては優位性が失われていくので厄介な問題に違いないとみている。

◆南シナ海での実効支配を積み上げていく中国
中国は、南シナ海での軍事力の増強を着々と行っている。昨年末、人民解放軍海軍の南海艦隊は新たに3隻を就役させた。

2日には、中国外交部が、スプラトリー(南沙)諸島ファイアリー・クロス礁を埋め立てた人工島で、飛行場の建設が完了しており、最近、民間機を試験飛行で着陸させたと発表した。この滑走路は約3000メートルの長さで、中国はいつでも軍用として使用できる、と米海軍大学校のアンドリュー・エリクソン准教授はウォール・ストリート・ジャーナル紙で指摘している。同准教授によれば、南シナ海で中国が完成させた滑走路は、パラセル(西沙)諸島のウッディー(永興)島のものに続き、2本目だという。こちらは長さ2700メートルの滑走路だ。

◆「第一列島線」は中国を守るとりで? 中国を閉じ込めるおり?
また中国国防部は12月29日、2隻目となる空母を建造中だと公式に認めた。

フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中国の軍事専門家らの言として、アメリカはこれまで以上の軍事力を東アジア地域に重点的に配置しようとしており、中国はそのアメリカによる「封じ込め」に対抗するため、また韓国、日本、フィリピンを含むこの地域のアメリカの同盟国に対抗するため、より強力な海軍を必要としている、と伝えた。

日本、台湾、フィリピンなどが、中国の東側と南側に「第一列島線」と呼ばれるものを形成しているが、「アメリカのアジアへの重点配置の目的は、第一列島線に基づいて、中国を封じ込めることだ」と中国・外交学院の周永生教授はFTに語っている。

「第一列島線」はそもそも、中国側が国防上重要と位置づけていたと考えられるラインだ。アメリカとの有事の際、東シナ海、南シナ海といった自国の周辺海域で、米海軍の空母や原子力潜水艦を自由に活動させないために、中国は「第一列島線」の「内側」を自分たちの勢力範囲にしようとしてきた。

南シナ海に関しては、人工島埋め立てや滑走路建設などで、それがある程度進行してしまっている。ロイターの12月18日の記事は、南シナ海で人工島はほぼ完成しており、関係者の間では、中国が軍事的な支配を確立しつつあるとの認識が広まっている、と語る。南シナ海は今、中国の勢力圏に入りつつあるとしている。

そこで「第一列島線」は、中国のこれ以上の膨張を防ぐための境界線として、今後、より戦略的な重要性を帯びてくる、というのがロイターの見方だ。日本が南西諸島に軍事拠点を設立し、東シナ海での抑止力や有事対応力を増やそうとしていることは、その観点から大きな意味を持ってくる。アメリカは、国防費を大幅に削減する一方、中東問題から抜け出せずにおり、アメリカ1国で中国の膨張を止めることは難しくなりつつある、とロイターは指摘している。

(田所秀徳)
http://newsphere.jp/world-report/20160105-1/
米海軍の「航行の自由作戦」が開始 中国の出方を左右する要因とは? 米紙分析
更新日:2015年10月28日

南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で27日、中国が造成した人工島から12カイリ(約22km)以内を、米駆逐艦「ラッセン」が通過した。これに対し、中国海軍は、艦艇と航空機でラッセンを「追尾、監視、警告」する対抗措置を取った。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、「南シナ海での両大国のライバル関係が、ついに重大局面を迎えた」と報じている。

◆米駆逐艦を中国艦が追尾
各国領土から12カイリ以内の海域は、その国の領海とされる。ラッセンは27日朝、中国が一方的に領有を主張する「スービ礁」の人工島などから12カイリ以内を航行した。ロイターによれば、哨戒機P8AとP3も同行したようだ。これに対し、中国国防省によれば、同海軍のミサイル駆逐艦「蘭州」と巡視艦「台州」などがラッセンを追尾し、「監視」と「警告」を行った。ラッセンの哨戒行動はその日のうちに終了した。

米海軍は先日、南沙諸島へ艦船を派遣し、「航行の自由作戦」を行うことを示唆していた。しかし、27日の行動そのものは、中国側に事前通知しなかった。米国務省のカービー報道官は「公海で航行の自由に関する演習をするにあたっては、いかなる国にも相談する必要はない」とその理由を述べている。

AFPが、匿名の米当局者の情報として伝えているところによれば、中国人工島周辺での「航行の自由作戦」は、近日中に再び実施されるようだ。この当局者は、「われわれは、国際法で認められている場所であればどこでも飛行・航行し、作戦を展開する、という原則に則って行動している」と語っている。一方、南シナ海のほぼ全域の領有を主張している中国政府は、米軍の動きに激怒し、作戦終了直後に米国大使を呼び、厳重抗議した。

◆中国側はあくまで領有権を主張
中国国営新華社通信によれば、中国外交部(外務省)の陸慷報道官は、「米側軍艦の関連行為は中国の主権と安全を脅かしている。島礁の人員と設備の安全にも危害が及んでおり、地域の平和と安定を損害している」と述べ、「中国側はこれに対し強い不満と断固たる反対を表している」と記者団に答えた。

新華社は、陸報道官による中国側の主張を次のようにまとめている。「中国は南沙諸島及びその周辺海域に対して、争う余地のない主権を有している。中国側が自国の領土において建設を行うのは主権範囲内の事で、如何なる国を標的にしなく、如何なる国に影響を及ぼさなく、各国が国際法に基づいて南中国海(南シナ海)において享有する航行と飛行の自由に如何なる影響を与えることはない」(原文ママ)。同報道官は、引き続き米軍の動きを監視し、状況に応じて必要な措置を講じるとしている。

一方、米側は、争われている海域を通過することで国際法に則った正当な実例を作り、公海での航行の自由を確立するのが「航行の自由作戦」の目的だとしている。これは、南シナ海だけでなく、米海軍が普段から世界中で行っていることだと米識者は解説する。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、南シナ海には他にもいくつかの航行ルートがあるが、米軍は今回、故意に中国が領有を主張する海域を通るルートを選んだようだ。米国防総省のアーネスト報道官は、「航行の自由は、特に南シナ海においては非常に重要な信条だ。なぜなら、この地域を通って、何十億ドル分もの世界貿易が行われているからだ。その海域の自由通過を確保することは、世界経済にとって非常に重要だ」と述べている。

◆中国の「ナショナリズム」が今後の展開の鍵か
WSJは27日付のオピニオン記事で、南シナ海での「航行の自由作戦」が実行に移されたことにより、米中の覇権争いが「今まさに、重大局面を迎えた」と見る。筆者の同紙特派員・コラムニストのアンドリュー・ブラウン記者は、「中国による挑戦的な領有権の主張に反論してきた米国の言葉は、いよいよ軍事行動に変わった」と記す。今回の航行により、アメリカは「この海域の将来をかけた“戦い”が、公然と始まった」というシグナルを、中国側に送ったと同記者は見ている。

ブラウン記者は、中国の人工島の軍事的な価値は、それほど大きくはないとし、それよりも大きな意味は、「第2次世界大戦後に米国主導で形成された秩序の崩壊を目指す中国の取り組みの象徴であるという点だ」としている。その狙いとは、「朝鮮半島から日本やフィリピンまで大きな弧を描いて広がる米国の同盟態勢(包囲網)を打ち破る」というものだ。「人工島は習近平国家主席のもとで推進されているナショナリズムのシンボルでもある」と同記者は記す。

予想通り中国側の強い抗議があったことを受け、「航行の自由作戦」の遂行は、米国にとってもリスクの大きな賭けだと同記者は見る。全面的な紛争に発展する見通しはないものの、両海軍の接近遭遇が繰り返されれば、どんなアクシデントが起こるか分からない。「中国は海軍とミサイル兵器を増強中だ。米国はどのような紛争であれ勝利するにしても、恐ろしく高い代償を払うことになるだろう」とブラウン記者は記す。

そして、「国民に人気のある習氏が米国の動きに何も反応してみせないのは考えにくい。仮に世論に火が付けば、行動を求める大きな圧力にさらされることになるだろう。次は習氏が動く番だ」と、中国が軟化する可能性はなく、逆に強硬手段に出る可能性もあると見る。「抗日戦争勝利70年を記念する軍事パレードを成功させたばかりの習氏が弱気のシグナルを出すわけがない」――。中国の「ナショナリズム」が、今後の展開の鍵になりそうだ。

(内村浩介)
http://newsphere.jp/world-report/20151028-1/

米国、中国の人工島12カイリ内に艦船派遣へ 「航行の自由作戦」承認、英紙報じる
更新日:2015年10月9日

南シナ海での中国の振る舞いに、米海軍がいよいよ行動でノーを突きつける時が来たようだ。といっても、攻撃するわけではない。中国が領有権を主張し、他国の侵入を拒んでいる人工島周辺海域で、艦船を航行させるのである。これにより、アメリカは中国の主張を認めないという姿勢をはっきりと示すことになる。

◆国際法にのっとった正当な実例を確立することが目的
このニュースは、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が8日、米高官の情報として伝えた。また、米海軍関係者向け新聞のネイビー・タイムズ紙(NT)も、軍高官らの情報として7日付で伝えている。時間的に先行するNTの記事では、作戦はオバマ政権からの最終承認待ちとなっているが、FTの記事では、行政府(ホワイトハウス)が承認したと伝えられている。

このような作戦は「航行の自由作戦」と呼ばれている。争われている海域を通過することで、公海での航行の自由と、領海の無害通航権について、国際法にのっとった正当な実例を確立することが目的であり、米海軍が普段から行っている作戦である、とNTで専門家が説明している(米国防問題シンクタンク・米国戦略予算評価センターのアナリスト、ブライアン・クラーク氏。元潜水艦将校)。

今回のケースでは、中国が建設を行っている人工島の周囲12カイリ以内を艦船が通過することになる。本来の島であれば、国際法上、領海であると認められる範囲だ。「法的に有効な12カイリの境界があるように振る舞えば、たとえアメリカがそれは認めないと言っていても、暗黙裡に、主張が正当なものだと認めていることになる」とクラーク氏は語っている。

FTによると、この作戦は今後2週間以内に開始される見通しだという。

◆米中首脳会談がターニングポイント?
南シナ海における中国の振る舞いは、もはやアメリカにとって座視できるものではなく、このような作戦を行う必要があるとの意見が、米国内で徐々に強くなっていたようだ。

NT によると、9月17日の米上院軍事委員会の公聴会で、米海軍は2012年以後、中国が実効支配する岩礁の12カイリ以内を航行、または飛行していないと、シアー国防次官補(アジア太平洋地区安全保障担当)が報告した。中国の人工島建設プロジェクトがまだ本格的に始まる前の話だ。その日のうちに、下院軍事委員会の議員29人が連名で、ホワイトハウスに対し、「航行の自由作戦」の実施を求める要望書を提出したという。「これらの行動(人工島建設)を思いとどまらせ、地域の安定のさらなる浸食を防ぐため、アメリカは、南シナ海の航行の自由を維持し続ける覚悟であるということをはっきりさせなければならない」とそこには書かれているとのことだ。

FTによると、カーター米国防長官はここ何ヶ月間も、ホワイトハウスに対し、より積極的な海洋作戦行動を認可するよう強く求めていた。行政府側は、そのような行動を取れば、南シナ海の争われている海域での状況をエスカレートさせることになるとの懸念から、受け入れてこなかったという。しかし、中国の習近平国家主席の最近の訪米時に、当局がこの問題で前進できなかったということがあって行政府はついに承認した、とFTは伝える。

習主席との米中首脳会談が、ターニングポイントになったようだ。

首脳会談直前のウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)の記事では、ハリス米太平洋軍司令官を含む米軍幹部は「航行の自由作戦」の実施に対して前向きだが、これまでのところ、ホワイトハウスはそのような計画を認可することを渋っている、と伝えられていた。それでも当局は、そのような作戦も依然として「政策オプション」の1つであると主張していたという。

おそらくオバマ大統領は、南シナ海の人工島建設をやめるよう、対話によって中国を説得できれば、と考えていたのだろう。しかしこの問題に関して、首脳会談が全くの物別れに終わったことから、残しておいた「政策オプション」を取り上げることにしたのではないだろうか。

FTによると、オバマ大統領は首脳会談後の共同記者会見で、「争われている海域での土地の埋め立て、建設、軍配備に対して重大な懸念」を(会談で)表明したと発表。またアメリカは「今後も、国際法が許すところであればどこでも航行、飛行、活動する」と力説したそうだ。

◆中国の反発が予想される
この作戦が実施されれば、中国が強く反発することは必至だろう。また、このような作戦が計画中である、ということだけでも、ある程度のプレッシャーを中国に与えることにはなるかもしれない。5月の段階で、作戦が計画中だとの報道が表れた際、中国外務省の報道官が、関係国は危険かつ挑発的な行動を控えるよう強く求めた、とNTはWSJの報道を引用して伝えている。また、南シナ海で中国が実効支配する島々の近くを米軍が巡視すべきとした米軍高官の発言について、中国外務省は「強い懸念」を表明した(ロイター9月18日)。

それを踏まえて、ホワイトハウスや軍部は、意図的に情報をリークし、メディアに報道させているのかもしれない。正式な筋からの情報ではないので、この作戦が確実に行われるかどうかは、現時点では不明だ。

ロイターはこれらの報道に対する中国の反応を伝えている。中国外務省の華春瑩報道官は8日の定例記者会見で、中国はそのような報道を注視している、また中国とアメリカは南シナ海問題について「この上なく綿密な対話」を継続していると語ったそうだ。他にも発言が伝えられているが、米側に対する要求を、中国としては抑え気味の口調で語ったものだ。公式の発表ではないため、反応が弱かったと考えられる。

(田所秀徳)
http://newsphere.jp/world-report/20151009-2/