チュウゴク企業には甘く、外資企業には厳しい
中国で警戒すべき「外資企業の狙い撃ち」
JBpress 4月12日(火)6時10分配信
中国におけるビジネス上のリスクについての7回目は、中国の法制度に関する問題を取り上げたい。
2015年3月にJETROから発表された「2014年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によれば、中国におけるビジネス上のリスク・問題点について、回答企業の41.9%が「法制度が未整備、運用に問題あり」と回答している。
中国は法治国家であるが、共産党の指導的地位が憲法で明記されていることから、法制度と実際の運用との乖離、頻繁かつ急な制度変更などの問題が存在している。中国におけるコンプライアンスは依然としてビジネス上の大きなリスクである。今回はその要因および留意が必要な法律等について解説したい。
■ 法制度が急激に変動することも
中国の法体系は以下のように階層化している。()内は制定主体である。
(1)憲法(全国人民代表大会)
(2)法律(全国人民代表大会常務委員会)
(3)行政法規(国務院)
(4)国務院部門規章(国務院の各部・委員会)
(5)地方性法規 (各省・自治区・直轄市・省政府所在市等の人民代表大会)
(6)地方政府規章(地方人民政府)
(※)上記以外でも経済特区法規、自治条例・単行条例、特別行政区令(香港、マカオ)等の法律体系がある。
中国では法令制定のスピードが速く、狭義の法律(全人代および全人代常務委員会により制定される法律)と中央レベルの行政法規だけで年間100~200件が制定されていると言われている。そのため、法制度が急激に変動することも少なくない。例えば、輸出増値税還付率の引き下げまたは撤廃、加工貿易輸出禁止類または制限類の拡大等は、現地ビジネスの趨勢を左右する大きな問題ともなり得る。
一方で、あまりに多くの法令があるため、法律間の矛盾も指摘される。特に中央・地方の利害対立を背景に、例えば地方性法規(地方政府の制定する法規)と中央が制定した部門規則で矛盾が生じることが多く、さらに両者の優劣関係が不明確な点が問題となる。また、法律が制定・施行されても、実際に運用するためのルールである実施細則などの運用規定が未整備であったり、法律の適用範囲が曖昧で規定と規定の間に矛盾や重複があることもある。
中国においては地域ごと、行政担当者ごとに、運用・解釈が異なる場合も多く、日本企業が対応に苦慮するケースも少なくない。さらに、法律の運用において、国内産業保護主義の観点から外資系企業に対して不利な運用がなされることもあるとされている。
中国の法律・法規定の一部には、当該法・規定が施行された日から過去に遡って適用する遡及適用の条項が含まれることも多い。そのため、過去に遡って課税されるといった問題も発生している。例えば、2008年1月施行の従業員年次有給休暇条例では細部が規定されていなかったが、2008年9月施行の従業員年次有給休暇条例実施弁法で初めて規定された。実施弁法ではその細部を2008年1月から対応すると規定していたため、遡って適用されたという事例がある。
また、新たな法令が公布・施行された場合、その具体的な内容の確認に長時間を要する場合も多い。さらに、公布から施行まで短時間の場合が多いことも、日本企業を含めた外資系企業において大きな問題となっている。
■ 商業賄賂に注意
中国には公務員法等を含め、公務員に対する贈収賄等の汚職行為を禁止する複数の法律がある。また、昨今では、米国の連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)、英国の腐敗防止法(Bribery Act 2010)等、国際的な贈収賄規制の
厳格化が進んでいるが、これらの法律で摘発された汚職行為が実際に行われた国としては中国が最も多い国の1つとなっている。
中国で最も留意すべきなのは、商業賄賂の問題である。不正競争を防止するための法律である「反不正当競争法」においては、民間企業同士の金品・便益のやり取りも商業賄賂犯罪となる。実際に2014年9月には、英国企業の現地法人に約30億元の罰金と幹部の懲役刑の処分が下されている。また、2014年12月には日本企業の現地法人に罰金の処分があった旨も報告されている。
■ 日本よりも範囲が広い製造物責任
中国でも、製造物責任に関する製品品質法、消費者権益保護法、権利侵害責任法等の法律が制定(改正)され、製品の標準化、品質監督、検査等の多くの制度が整備されている。特に近年は中国の消費者の権利意識が高まっており、製造物責任に関する訴訟件数が増加している。
製品に欠陥があり、その欠陥が原因で消費者の生命・身体等に障害が発生した場合、中国でも日本と同様に製造者が製造物責任を負うというのが一般的である。ただし中国の製造物責任においては、消費者の生命、身体および財産を保護するという目的から、責任範囲・適用範囲が日本よりも広いことが大きな特徴である。
また、最近では賠償金も高額化する傾向となっており、日本企業を含めた外国企業が訴訟の対象となることも増えている。特に日本製品は消費者の期待が大きいことから、その反動で紛争になる場合もある。
さらに大きな問題としては、訴訟となった場合、偽物のコピー商品が事故を起こしたのにもかかわらず、その製品が偽物であると立証できずに、実際には製造していない企業が賠償責任を負ったケースもある。
ちなみに、中国では品質問題に対する関心の高まりから、「消費者の日」である毎年3月15日に中国国営中央テレビが消費者保護をテーマとした特集番組を放映する。中国の消費者の権利を侵害した国内外の企業を取り上げて批判するという内容だ。これまでも、日本企業を含めた多くの外資系企業が取り上げられ、企業の間で大きな問題となっている。
■ ガイドラインが不明瞭な独占禁止法
中国では2007年8月に独占禁止法が公布され、2008年8月に施行された。しかしながら、その運用は複雑な面がある。例えば、同法を所管する政府機関が4つあり、各機関の連携不足による法執行の混乱、不整合が生じる可能性が指摘されている。
また、手続きの面でも問題が指摘されている。特に、運用におけるガイドライン等が不明瞭である。例えば、欧米では一般的な「リニエンシー制度」(カルテル等の参加者が罰金の減額等の恩恵を得るために自発的に自首することを奨励する制度)については、価格カルテルとそれ以外のカルテルで、それぞれ別個に運用が規定されているといった問題が指摘されている。
ちなみに、中国国家発展改革委員会(NDRC)は2014年8月、日本企業10社に対し、自動車部品およびベアリングに関するカルテル事案で制裁金を課したことを公表した。また、2015年12月には、日本企業3社を含む7社に、自動車運搬費に関するカルテル事案で制裁金を課した。さらに2015年9月には、日本の自動車メーカーに対し、乗用車の価格維持を目的に販売店に圧力をかけたとして制裁金を賦課している。
■ 環境保護の法律を相次いで施行
中国においては近年、環境問題への取り組みを加速させている。この背景には、「河川も大気も土壌も! 有害物質に囲まれた中国の生活」でも取り上げているが、中国の環境問題が深刻な状況であることが挙げられる。中国では環境問題を「四害」(大気汚染・水質汚染・騒音・固体廃棄物汚染)としており、最も大きな社会問題となっている。また、この環境問題が経済の面でも、大きなマイナス効果となっていることも事実である。さらに、環境問題に関連し、一般市民による暴動等も頻発している状況であり、国として抜本的な対策を迫られていると言える。
最近採択された第13次5カ年計画(2016~2020年)においても「中国は資源節約、環境保護という基本国策を堅持し、資源節約型で環境友好型の社会の建設を加速し、グリーン、低炭素、循環的な発展を推進して、中国さらには世界の生態安全のために貢献しなければならない」としている。
法律面では1989年に施行された環境保護法が2015年1月に改正・施行された。また、大気汚染防止法、水汚染防止法、環境影響評価法等も相次いで改正・施行されており、法律・政策面での厳格化が進められている。
特に、改正された環境保護法では、土壌汚染対策も明記された他、事業者の罰則の大幅な強化(無制限の罰金+個人身柄拘束+資産凍結+操業停止)も盛り込まれており、今後日本企業にも大きな影響を与えることが予想されている。
(本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません)
茂木 寿
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160412-00046543-jbpressz-int&p=1
JBpress 4月12日(火)6時10分配信
中国におけるビジネス上のリスクについての7回目は、中国の法制度に関する問題を取り上げたい。
2015年3月にJETROから発表された「2014年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によれば、中国におけるビジネス上のリスク・問題点について、回答企業の41.9%が「法制度が未整備、運用に問題あり」と回答している。
中国は法治国家であるが、共産党の指導的地位が憲法で明記されていることから、法制度と実際の運用との乖離、頻繁かつ急な制度変更などの問題が存在している。中国におけるコンプライアンスは依然としてビジネス上の大きなリスクである。今回はその要因および留意が必要な法律等について解説したい。
■ 法制度が急激に変動することも
中国の法体系は以下のように階層化している。()内は制定主体である。
(1)憲法(全国人民代表大会)
(2)法律(全国人民代表大会常務委員会)
(3)行政法規(国務院)
(4)国務院部門規章(国務院の各部・委員会)
(5)地方性法規 (各省・自治区・直轄市・省政府所在市等の人民代表大会)
(6)地方政府規章(地方人民政府)
(※)上記以外でも経済特区法規、自治条例・単行条例、特別行政区令(香港、マカオ)等の法律体系がある。
中国では法令制定のスピードが速く、狭義の法律(全人代および全人代常務委員会により制定される法律)と中央レベルの行政法規だけで年間100~200件が制定されていると言われている。そのため、法制度が急激に変動することも少なくない。例えば、輸出増値税還付率の引き下げまたは撤廃、加工貿易輸出禁止類または制限類の拡大等は、現地ビジネスの趨勢を左右する大きな問題ともなり得る。
一方で、あまりに多くの法令があるため、法律間の矛盾も指摘される。特に中央・地方の利害対立を背景に、例えば地方性法規(地方政府の制定する法規)と中央が制定した部門規則で矛盾が生じることが多く、さらに両者の優劣関係が不明確な点が問題となる。また、法律が制定・施行されても、実際に運用するためのルールである実施細則などの運用規定が未整備であったり、法律の適用範囲が曖昧で規定と規定の間に矛盾や重複があることもある。
中国においては地域ごと、行政担当者ごとに、運用・解釈が異なる場合も多く、日本企業が対応に苦慮するケースも少なくない。さらに、法律の運用において、国内産業保護主義の観点から外資系企業に対して不利な運用がなされることもあるとされている。
中国の法律・法規定の一部には、当該法・規定が施行された日から過去に遡って適用する遡及適用の条項が含まれることも多い。そのため、過去に遡って課税されるといった問題も発生している。例えば、2008年1月施行の従業員年次有給休暇条例では細部が規定されていなかったが、2008年9月施行の従業員年次有給休暇条例実施弁法で初めて規定された。実施弁法ではその細部を2008年1月から対応すると規定していたため、遡って適用されたという事例がある。
また、新たな法令が公布・施行された場合、その具体的な内容の確認に長時間を要する場合も多い。さらに、公布から施行まで短時間の場合が多いことも、日本企業を含めた外資系企業において大きな問題となっている。
■ 商業賄賂に注意
中国には公務員法等を含め、公務員に対する贈収賄等の汚職行為を禁止する複数の法律がある。また、昨今では、米国の連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)、英国の腐敗防止法(Bribery Act 2010)等、国際的な贈収賄規制の
厳格化が進んでいるが、これらの法律で摘発された汚職行為が実際に行われた国としては中国が最も多い国の1つとなっている。
中国で最も留意すべきなのは、商業賄賂の問題である。不正競争を防止するための法律である「反不正当競争法」においては、民間企業同士の金品・便益のやり取りも商業賄賂犯罪となる。実際に2014年9月には、英国企業の現地法人に約30億元の罰金と幹部の懲役刑の処分が下されている。また、2014年12月には日本企業の現地法人に罰金の処分があった旨も報告されている。
■ 日本よりも範囲が広い製造物責任
中国でも、製造物責任に関する製品品質法、消費者権益保護法、権利侵害責任法等の法律が制定(改正)され、製品の標準化、品質監督、検査等の多くの制度が整備されている。特に近年は中国の消費者の権利意識が高まっており、製造物責任に関する訴訟件数が増加している。
製品に欠陥があり、その欠陥が原因で消費者の生命・身体等に障害が発生した場合、中国でも日本と同様に製造者が製造物責任を負うというのが一般的である。ただし中国の製造物責任においては、消費者の生命、身体および財産を保護するという目的から、責任範囲・適用範囲が日本よりも広いことが大きな特徴である。
また、最近では賠償金も高額化する傾向となっており、日本企業を含めた外国企業が訴訟の対象となることも増えている。特に日本製品は消費者の期待が大きいことから、その反動で紛争になる場合もある。
さらに大きな問題としては、訴訟となった場合、偽物のコピー商品が事故を起こしたのにもかかわらず、その製品が偽物であると立証できずに、実際には製造していない企業が賠償責任を負ったケースもある。
ちなみに、中国では品質問題に対する関心の高まりから、「消費者の日」である毎年3月15日に中国国営中央テレビが消費者保護をテーマとした特集番組を放映する。中国の消費者の権利を侵害した国内外の企業を取り上げて批判するという内容だ。これまでも、日本企業を含めた多くの外資系企業が取り上げられ、企業の間で大きな問題となっている。
■ ガイドラインが不明瞭な独占禁止法
中国では2007年8月に独占禁止法が公布され、2008年8月に施行された。しかしながら、その運用は複雑な面がある。例えば、同法を所管する政府機関が4つあり、各機関の連携不足による法執行の混乱、不整合が生じる可能性が指摘されている。
また、手続きの面でも問題が指摘されている。特に、運用におけるガイドライン等が不明瞭である。例えば、欧米では一般的な「リニエンシー制度」(カルテル等の参加者が罰金の減額等の恩恵を得るために自発的に自首することを奨励する制度)については、価格カルテルとそれ以外のカルテルで、それぞれ別個に運用が規定されているといった問題が指摘されている。
ちなみに、中国国家発展改革委員会(NDRC)は2014年8月、日本企業10社に対し、自動車部品およびベアリングに関するカルテル事案で制裁金を課したことを公表した。また、2015年12月には、日本企業3社を含む7社に、自動車運搬費に関するカルテル事案で制裁金を課した。さらに2015年9月には、日本の自動車メーカーに対し、乗用車の価格維持を目的に販売店に圧力をかけたとして制裁金を賦課している。
■ 環境保護の法律を相次いで施行
中国においては近年、環境問題への取り組みを加速させている。この背景には、「河川も大気も土壌も! 有害物質に囲まれた中国の生活」でも取り上げているが、中国の環境問題が深刻な状況であることが挙げられる。中国では環境問題を「四害」(大気汚染・水質汚染・騒音・固体廃棄物汚染)としており、最も大きな社会問題となっている。また、この環境問題が経済の面でも、大きなマイナス効果となっていることも事実である。さらに、環境問題に関連し、一般市民による暴動等も頻発している状況であり、国として抜本的な対策を迫られていると言える。
最近採択された第13次5カ年計画(2016~2020年)においても「中国は資源節約、環境保護という基本国策を堅持し、資源節約型で環境友好型の社会の建設を加速し、グリーン、低炭素、循環的な発展を推進して、中国さらには世界の生態安全のために貢献しなければならない」としている。
法律面では1989年に施行された環境保護法が2015年1月に改正・施行された。また、大気汚染防止法、水汚染防止法、環境影響評価法等も相次いで改正・施行されており、法律・政策面での厳格化が進められている。
特に、改正された環境保護法では、土壌汚染対策も明記された他、事業者の罰則の大幅な強化(無制限の罰金+個人身柄拘束+資産凍結+操業停止)も盛り込まれており、今後日本企業にも大きな影響を与えることが予想されている。
(本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません)
茂木 寿
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160412-00046543-jbpressz-int&p=1