核についても、核開発ができる姿勢を維持することが抑止力につながる。 | 日本のお姉さん

核についても、核開発ができる姿勢を維持することが抑止力につながる。

◎トランプ氏が教えてくれた…対米自立は同盟と矛盾せず 【湯浅博の世 界読解】

戦後の日米関係を批判する用語に「対米従属」という形容句がある。これ は右派だけでなく左派にこそあって、ともに日米同盟を否定的に捉えた昔 懐かしい表現である。

米大統領選の共和党の指名争いでトップを走るトランプ候補が、米紙 ニューヨーク・タイムズで日米同盟に疑問をぶつけたことから、対米従属 論が再び日米のメディアで語られるようになった。

かつて、戦後占領期から日本が独立する際、左派は共産主義陣営のソ連な ども含めた全面講和を求めた。すでに米ソ冷戦がはじまっており、多数講 和を選択しなければ早期独立は不可能であった。
このとき、多数講和と日 米安保条約を結んだ吉田茂首相に浴びせられた批判が、この「対米従属」 である。

従属論を党綱領に格上げしたのは日本共産党である。1961年綱領で、日本 の地位を「半ば占領された従属国」と表現した。こうした認識は、旧社会 党や新左翼運動にも引き継がれ、日米安全保障条 約に反対する際のプロパ ガンダとして用いられてきた。

トランプ候補は日本が同盟国なのをいいことに、「非関税で米国に輸出し て大もうけしたタダ乗り国だ」と批判した。彼の対日観は80年代のまま止 まっているらしい。その上で、米国の核の傘から 出て、「自前の核兵器を 持つことを認める」と混ぜ返したのは周知のとおりだ。

これを機に、日本では日米同盟を対米従属に置き換えて語る識者がでてき た。左派と現状維持派からの懸念で、「対米従属」を嫌う右派がトランプ 発言を奇貨として、「対米自立」に向かう危険 性を指摘する。自立には (1)憲法改正(2)核武装(3)日米同盟の再検討-の3点セットがあ るという。

しかし、還暦を超えて永続する同盟は歴史的にも珍しい。長持ちには秘訣 (ひけつ)があり、日米外交・防衛当局者がときどきの国際環境の変化に 柔軟に対応してきたからだ。日米同盟は冷戦期に はソ連からの侵攻を防 ぎ、最近でも東日本大震災で「トモダチ作戦」のありがたさが身に染みた はずだ。

まして日本は、軍事化した中国、核開発を進める北朝鮮、軍備を増強する ロシアに接している。にもかかわらず、米軍庇護(ひご)下の65年で、 経済力と安定性は享受できたが、自らの国を守る 気概を失いつつあった。

対米自立には、自立・自存の防衛を固めた上で日米が双務性を高め、より 強固な同盟を構築するとの考え方がある。本来は日米安保条約を再改定す べきだと思うが、2015年改定の日米防衛協力の ための指針(ガイドライ ン)は、そうした考え方の延長にある。

核についても、核開発ができる姿勢を維持することが抑止力につながる。 政治的コストのかかる「独自核」も考えられるが、「米国核」を共同管理 するケースもあって選択肢は広い。抑止力に重要 なのは、核・非核を問わ ない自由な議論と能力を保持し、「核のオプション」を放棄しないことで あろう。

まして、左派からの「対米従属を通じて戦争ができる国へ」という政権批 判は、スローガン化していてまともな議論とはいえない。むしろ、巨大中 国の軍事的台頭を前に、日米同盟を基礎にアジア 海洋国家との同盟の輪を 広げるべきだろう。それらは、戦争を未然に抑止するためである。(東京 特派員)
【産經ニュース】 2016.4.6 10:00 〔情報収録 - 坂元 誠