危機感を持って世界に売るモノを開発しないといつか、日本も後進国に! | 日本のお姉さん

危機感を持って世界に売るモノを開発しないといつか、日本も後進国に!

JMM [Japan Mail Media] No.891 Saturday Edition
http://ryumurakami.com/jmm/
■ 『from 911/USAレポート』第713回
「日本経済低迷の主因は外部要因?それとも内部要因?」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
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直近2回の内容を簡単にご紹介しておきます。

第108号(2016/03/22)「ここがヘンだよ、識者の天皇論」「日本のオーケストラ、何が問題なのか?」「NHKファンタジー大河『精霊の守り人』シーズン1、第1回」

「『弱さの権力化』論(つづき)」「フラッシュバック71(第90回)」

第109号(2016/03/29)「トランプ現象、日本の視点」「売春はどうして必要『悪』なのか?」「ファンタジー大河『精霊の守り人』第二回」「北海道新幹線試乗記」「フラッシュバック71(第91回)」「Q&Aコーナー『音楽論をめぐって』」

■ 『from 911/USAレポート』 第713回

短い間ですが、日本に一時帰国していました。東京には雑踏があり、卒業式のシーズンとあって羽織袴姿の女子大生が行き来していたり、その一方で多くの外国人観光客を目にしたり平和な光景には、特に何の問題もないように見えました。

ですが、その一方で、安倍政権は「消費税率アップの先送り」を真剣に検討しているようですし、多くの経済指標は依然として「マイナス成長」が続き、もはや恒常化しているということを示していました。そんな中、鴻海によるシャープの買収がようやくクロージングを迎えるなど、日本経済に取ってネガティブなニュースも、特に痛みの感覚もなく報道されていたのに驚かされました。

私は、そんな中で違和感を感じざるを得ませんでした。このまま「マイナス成長の恒常化」ということは、要するに年率換算で1.4%なら1.4%で経済が縮小し続けるということになります。要するに今年は、昨年のGDPの98.6%、つまり0. 986倍にしかならないということであり、仮に同じようなマイナス成長が来年も続くのであれば、今年をはさんだ2年間で0.986×0.986≒0.972になります。仮に10年このようなマイナス成長が続けば、その10乗となり、約0.868倍、つまり14%マイナスになるわけです。

問題は、その原因です。

日本がマイナス成長に陥っている原因としては、大きく2つに分けて考えることができると思います。外部要因か内部要因か、日本の外部に原因があって、日本にはコントロールできない、つまり世界経済全体に共通のファクターか、あるいは日本一国の問題かということです。まずは、外部要因、あるいは世界経済一般に共通の問題ですが、これはカテゴリの(1)として(1-1)から(1-10)ぐらいに細分が可能です。

(1-1)グローバルな流通・決済システムが完成したために、国際分業が進展し、大量生産品は人件費の安い地域へ生産地がシフトし、全体としてはコスト安が実現された。

(1-2)主としてオバマ政権の密かな努力によって、エネルギー源の多様化が進み、 世界的なエネルギー価格が安値安定の時代を迎えた。

(1-3)世界的にIT化が更に新しい段階へと進む中で、事務コストの劇的な削減が進んでいる。

(1-4)機械製品など、多くの製品ジャンルで生産技術の進展と共にコストが下落している。食料の価格も、生産技術の進歩により安定している。

(1-5)生活必需品に関わるライフスタイルにおける世界での標準化が進み、低価格の大量生産品が市場を席巻し、高付加価値の奢侈品のニーズが縮小した。

(1-6)電子機器は端末の多機能化と標準化が進む中で、ハードの市場と価格は全体で縮小の方向が著しい。

(1-7)輸送用機器や運輸サービスも、LCC航空、自動運転車などの普及というトレンドの中で付加価値が削ぎ落とされる傾向にある。

ここまでは、構造的な変化ですが、その結果として出てきている現象としては、(1-8)中国経済がスローダウンを迎えている。

(1-9)ブラジルやロシア、トルコなどの新興国経済も急速なスローダウンを迎えている。

(1-10)北米や欧州では、2008年から09年の大きな「底」からの景気回復が続いてきたが、波動を繰り返してきた欧州だけでなく、北米にもスローダウンの兆しがある。

といった問題があるわけです。アメリカの大統領選で、バーニー・サンダースに引きずられる格好でヒラリー・クリントンが「バラマキの大風呂敷」を広げたり、真偽は不明ですが、ポール・クルーグマンに対して安倍首相が「財政余力のあるドイツに財政出動を期待」と言ったとか、言わないという話はこの(1-8から10)に該当します。

ですが、因果関係としては、7番までの構造的な問題があって、その結果として8から10のスローダウンがあるわけです。勿論、日本から見れば、8から10という問題も日本経済への影響が大きいわけですが、重要なのは、あくまで1から7の変化です。

こうした変化のトレンドがある限り、例えばヒラリーやメルケルといった政治家が「積極的な財政出動」を行ったとしても、効果は限定的であると思われるからです。

このことは、それこそ、2009年にオバマが実施した「景気刺激策」の効果が限定的であり、また90年代から日本が何度も投入した「積極策」もまた決して成功しなかったということが証明しているように思います。

一方で、日本独自の要因ですが、こちらはかなり特殊な事情があります。

(2-1)人口減による国内市場縮小の恐怖が、企業の国内向け設備投資も、個人の消費意欲も減退させている。

(2-2)少子高齢化の進行は、全人口における就労人口比の更なる低下をもたらすだけでなく、将来不安により実際に負担が拡大する以前に、投資や消費を減退させている。

(2-3)新興国と比較すれば、まだまだ高人件費である日本は、改めて中付加価値大量生産の拠点という地位を奪い返すほどの競争力はない。

(2-4)国家の累積債務は、国内の消費意欲を減退させるには十分だが、債務を円建てで消化してしまっているために、何もしなければ「比較優位で」円高に振れてしまうという苦しさがある。

(2-5)最初は国内の高人件費や為替変動を嫌ったり、貿易摩擦の結果の譲歩としてスタートした「現地生産化」が、現在では「国内からは世界の消費市場が見えなく」なった結果、必然的な問題として加速、その結果として巨大な生産量と雇用が流出し、しかもそのトレンドが止まらない。

(2-6)エレクトロニクス産業においては、世界の最終消費者市場を獲得する継続的な努力が途切れてしまったために、重電による法人・公共需要という分野か、またはハイテクのコモディティ化を受けた部品産業への逃避が起きた。結果として、産業全体の収益が収縮し、特に利幅とキャッシュフローが大きく毀損した。

(2-7)エレクトロニクス産業にしても、例えば航空機産業にしても、長期的でリスクを選好する資金が国内に決定的に不足している一方で、長期的な自国通貨への信頼が欠ける中で国際的な資金調達にも躊躇がされる中で、技術や人材に比べて「慢性的な資金不足」のために産業が拡大できない。

(2-8)リスク選好資金の不足ということは、産業としての金融業の発展も阻害している。英国が長期の「英国病」から蘇ったような金融業の貢献は、日本の場合は現時点では期待できない。

(2-9)IT産業における主導権がハードからソフトに完全にシフトしている一方で、日本ではプログラムやコーディングを担う人材の社会的・経済的地位が低く、従って高付加価値を生み出すような人材育成ができていない。その一方で、「ハード製造の夢よもう一度」といった懐古的で後ろ向きなセンチメントが根強い。

(2-10)小規模農業や、オフィスの間接事務部門、サービス業の多くなど、全産業の中に局所的に「生産性が先進国で最低水準」の部分を抱えている。

(2-11)コスト負担を嫌って「上場を回避」する企業の増加、東芝やオリンパスの問題には無力であった形式だけのコンプライアンス、哲学を理解せぬまま半身の構えで導入が進むIFRSなど、資本主義の根幹にある制度インフラに実効性が伴わない。

(2-12)世界だけでなくアジアの公用語も英語となる中で、依然として実用的な英語教育が実践できていない。これに加えて、ヒエラルキーの文化が捨てられない中で、英語圏への劣等意識から、一種の植民地のような英語への態度が残っており、「英語を導入してもコミュニケーションの生産性が上がらない」という独特の病を抱えている。

(2-13)非就労人口の世論形成への関与が増大しており、以上のような問題の解決への世論の後押しが期待できない。

というような問題が指摘できるわけです。シャープが鴻海に買われ、東芝が粉飾決算の結果として事業の多くを切り売りすることとなり、その一方で、自動運転車の登場が「自動車の運転」という行為とそのための自動車の購入ということの「付加価値を破壊」する危険がある、それでも危機感が社会全体に広がらない背景には、こうした根深い問題を指摘することができます。

今回の消費税率先送り論議については、「先送り」が不可避という結論に関しては、ことここに及んでは否定するのは難しいのかもしれません。

ですが、昨今の「先送り論議」に関しては、やはり強い違和感を感じます。というのは、主として(1)の、つまり外部環境が厳しいから、世界経済の需要後退があるから日本がマイナス成長に陥っているという議論が主流だからです。

そうではない、問題は(2)の日本独自の要素であり、そこを改革していかなくては「プラス成長」への復帰は難しいのです。プラス成長に復帰できなければ、当然のことですが「プラス2%」の消費増税を吸収はできません。

勿論、増税をしなければいいというわけには行きません。国家財政の赤字体質は何とか改善してゆかねばならないし、仮に更に悪化するようであれば、最後には自国通貨の価値は大きく毀損され、エネルギーや食糧の自給のできない日本としては、国民の生活水準の大幅な切り下げを余儀なくされるからです。

また、今後もマイナス成長が続くようでは、やがて日本は先進国から脱落していく危険があります。近代の歴史の中には、過去にも英国が「英国病」という長期の停滞を余儀なくされたことや、一旦は先進国並みの経済力を誇ったアルゼンチンが畜産業の競争力喪失により、経済的地位を大きく低下させたという先例はあります。

ですが、これだけの規模の経済を誇り、これだけの成功を誇りながら、先進国の地位から転落するという例はありません。具体的には一人あたりGDP3万ドルの水準を大きく超えていたのが、改めてこのラインを割っていくようなストーリーを描いた国というのは、ないと思います。そして、あってはならないことです。

確かに(1)にあるように、グローバルな経済縮小の要因ということは大きいと思います。そして、この問題への処方箋は描きにくいのも事実です。この(1)が世界共通のスローダウン要因、あるいはグローバルなデフレ構造の要因として否定できないとして、日本経済の場合は、更にその上に(2)にあるような日本独自の要因が重しのように乗っかってしまっているのが現実です。

その克服のためには改革が必要です。改革というのは、多くの産業で、その資金配分や個々人の行動様式を変えていくということです。ですから、当然に「痛み」を伴います。ですから、改革か、衰退かという選択肢について、国を挙げての議論を起こす必要があるように思います。その議論が十分でない、いやそのような議論の気配もないということでは、本当に日本は先進国から脱落してしまいます。

新しい年度のスタート、そして参院選などの政局の季節の本格化を前にして、改めてこの問題の議論を深めていかねばならないと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ消えたか~オーラをなくしたオバマの試練』。訳書に『チャター』がある。 最新作は『場違いな人~「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房)。

またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。

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