将来年金給付に必要な金額が明らかにされていない
とにかく、今まで、給料から引かれてきた分だけは返してくれ。
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公開すればパニックに?年金(GPIF)が保有株式より前に開示すべきもの=近藤駿介
2016年3月10日 ニュース
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用に関して開示しなければならないのは保有株式ではなく、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。それができないのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が抱える2つの問題点
「保有銘柄を開示」意義は高くない
GPIFの運用のほとんどは「インデックス運用」と「(インデックスをベンチマークとした)ベンチマーク運用」だから、ルール通り運用しているなら保有銘柄を開示する意義は高くない。
塩崎恭久厚生労働相は8日の閣議後の記者会見で、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資先について『個別銘柄を含めて一定期間後に開示する方向性を議論してきた』と述べ、保有株式を公開する考えを示した。
出典:GPIFの投資先、厚労相『保有株式を開示』 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
公的年金の運用に関して開示しなければならないのは、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。これを開示しない限り、GPIFがどれだけの運用利回りを出す必要があるのか分からない。
これが分からないということは、GPIFのポートフォリオが適正なものか否かの議論もすることはできないということ。
保有銘柄よりも国が抱えている年金債務を公開するべきだ。それができないというのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
安倍総理はGPIFは「世界最大の機関投資家」だと豪語しているが、それは「世界最大の年金債務を抱える機関投資家」の同義語でしかない。
Next: GPIFを利用した株価テコ入れ策は根本的に間違っている
将来世代にツケを残す形で「クジラ」を動かすな
「年度末にかけ株価テコ入れ策が出てくる」。市場でこんな思惑が浮上している。<中略> 約140兆円の資産を持ち、「クジラ」の異名をとる巨大投資家、年金積立金管理
運用独立行政法人(GPIF)による買い支えも取り沙汰され始めた。
出典:クジラ、年度末に動くか 夏の選挙控え、市場に思惑 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
「将来世代にツケを残すな」というのが民意なのだとしたら、GPIFを利用した株価テコ入れ策には反対する声が上がってきてしかるべき。
「力ずくで株価を押し上げてもヘッジファンドなどに売りの好機を提供するだけ」という専門家の指摘が紹介されているが、こうした低次元の議論を繰り返しても意味はない。
自分で株価を引上げても、それによって生じた評価益を実現益に変えることはできない。年金支給に必要なのは評価益ではなく実現益(cash)だ。
「世界最大の機関投資家は、その評価益を実現益に変えることは不可能に近い」
こうした現実を知ったうえで、公的年金の運用のあるべき姿を論じなければならない。
セミナーで冗談交じりにお伝えしていることは、
「将来世代の人にとっての公的年金は、平均寿命を越えて長生きした場合のお祝い金となる(支給開始年齢が80代になる可能性がある)」
「将来世代の人に対する年金給付は現物支給(年金を現金ではなく株券/投信受益権で受け取る)になる」
ということ。
そして、「将来年金が受け取れなくなる可能性があるから自分で投資をしなければならない」と考えている方には、投資に対する基本的考え方をお伝えしている。この辺のことは12日に「勉強カフェ関内スタジオ)で開催する「家計を守るマネー講座」で。
【関連】GPIF運用益4.7兆円~それでも日本の公的年金は実質破綻している=近藤駿介
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月8日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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近藤駿介~金融市場を通して見える世界
[無料 ほぼ 平日刊]
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来た近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。
http://www.mag2.com/p/money/7829
GPIF運用益4.7兆円~それでも日本の公的年金は実質破綻している=近藤駿介
2016年3月3日 ニュース
公的年金(GPIF)の運用状況は大いに問題だが、その本質は赤字だ、黒字だというだけにとどまらない。もし安倍総理やGPIFの説明が正しいのであれば、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」といった措置をとる必要はないはずである。
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。
株安による「大赤字」を出したGPIFが抱える本当の問題
公的年金の運用資産額は2015年末から約8.3兆円減少か
GPIFが運用する公的年金の2015年10~12月期の運用状況が明らかになった。2015年7~9月期に7.9兆円の損失を出したが、10~12月期にその約6割を取り戻した格好。
公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が1日発表した2015年10~12月期の運用成績は、4兆7302億円の黒字だった。期間収益率は3.56%で15年7~9月期(マイナス5.59%)から改善。国内外の株式相場が反発したことが寄与し、2四半期ぶりにプラスとなった。
出典:公的年金 運用益4.7兆円 – 日本経済新聞(2016年2月2日)
しかし、喜んでばかりはいられない。2016年初からの世界的株価の下落傾向を受け、「現時点で運用収益がマイナス基調」(1日付日経電子版)となっているからだ。
実際に、発表された2015年末時点での運用資産額(139兆8249億円)を基に、ポートフォリオが維持されている等の仮定をおいて試算すると、2016年2月末時点での運用資産額は131.5兆円前後と、2015年末から約8.3兆円減少している可能性が高い。
運用収益が約7.9兆円の赤字だった2015年7~9月期の運用資産額の減少幅は約6兆円であった。このことと比較しても、年明け以降約8.3兆円運用資産額が減っているとしたら、赤字は2015年7~9月期の7.9兆円を遥かに上回る規模になる可能性が高い。
また、2015年3月末時点の運用資産額は約137.5兆円であるから、2015年度を通しても運用資産は6兆円程減少していると推察される。
さらに、2015年6月末の141.1兆円と比較すると10兆円少なく、2014年9月末の130.9兆円とほぼ同規模まで資産が減ってきているということである。
信用できないGPIFの説明、安倍総理の国会答弁
こうした公的年金の運用状況は大いに問題ではあるが、その問題は赤字だ、黒字だという運用状況だけではない。
「GPIFの三石博之審議役は1日の記者会見で『短期で見れば収益のブレは大きくなるが、年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい』と強調した」(同日本経済新聞)
GPIFは公的年金の運用状況について「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」としている。そして同じような認識は安倍総理も国会答弁で示している。
Next: 「将来の年金給付に必要な金額が分からない」酷すぎる現状とは?
「将来の年金給付に必要な金額が分からない」酷すぎる現状
一般的に、確定給付型企業年金などは5年ごとの財政検証によって、将来年金受給者に支払う必要のある金額を推計し、実際に持っている年金資産が十分かどうかの判定を行っている。そして保有する年金資産が将来の給付額に対して不足する場合は、年金債務として会計上処理して行くことになる。
多くの大企業はこうした年金債務に伴う会計的負担に耐えられずに確定給付型年金から確定拠出型など、企業の負担が少ない年金制度に移行してきている。
ところが、公的年金の運用に関して「年金財政上、必要な額」は示されていない。
おそらくそれは、公的年金は、現役世代からの保険料収入がそのまま年金給付に回るという「賦課方式」を採用しているために、将来の負債は存在しないという考え方に基づいたものだからである。
つまり、「年金財政上、必要な額」というのが不明であるが故に、今回発表された139兆8249億円という金額が、将来の年金給付に必要な額と比較して十分なものであるのかチェックしようがないという状況になっている。
もし、将来年金給付に必要な金額が600兆円とか700兆円だとしたら、140兆円弱という運用資産額では心もとないことは論を俟たない。
当然、「4兆7302億円の黒字」など焼け石に水であるし、仮に運用資産額を8.4兆円減らしていたとしたら大問題ということになる。
年明け以降金融市場が不安定な展開を見せたことで、国会でも何回かGPIFの資産運用問題が取り上げられている。しかし、将来年金給付に必要な金額が明らかにされていないなかでは、「赤字だ、黒字だ」と言いあっても意味がないし、現在の基本ポートフォリオの是非を論じることもできない。
言い換えれば、将来年金給付に必要な金額がない中で作られた基本ポートフォリオは、何の意味もないものだとも言える。
現実と乖離した安倍総理やGPIFの説明
総理もGPIFも「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」としているが、実際に公的年金に関しては、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」という措置がとられている。
こうした措置は、金融的に言えば、実質破綻企業の延命策である「資金の早期回収」「支払額の減額」「支払期限の先延ばし」と同じである。
Next: 安倍総理やGPIFの言うことが「正しくない」ことの証拠とは?
安倍総理やGPIFの言うことが「正しくない」ことの証拠
このように考えると、「公的年金は金融的には実質的に破綻している」可能性が高いといえる。
もし、総理やGPIFの言う通り「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」のであれば、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」というような措置をとる必要はないはずである。
換言すれば、こうした措置をとっているということは、総理やGPIFの言うことが正しくないことの証明でもある。
円安・株高の流れが止まり、金融市場が不安定になって来たことで、GPIFの運用に対する注目も高まってきている。
しかし、GPIFが抱える問題は、「黒字だ」「赤字だ」というものだけではなく、もっと本質的なところになる。株価や為替の動きに一喜一憂するのではなく、これを契機にGPIFが抱える本質的な問題に焦点があてられていくことを期待して止まない。
【関連】安倍総理が国会質疑で答えなかった年金運用の「不都合な事実」=近藤駿介
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月2日号)より
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公開すればパニックに?年金(GPIF)が保有株式より前に開示すべきもの=近藤駿介
2016年3月10日 ニュース
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用に関して開示しなければならないのは保有株式ではなく、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。それができないのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
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年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が抱える2つの問題点
「保有銘柄を開示」意義は高くない
GPIFの運用のほとんどは「インデックス運用」と「(インデックスをベンチマークとした)ベンチマーク運用」だから、ルール通り運用しているなら保有銘柄を開示する意義は高くない。
塩崎恭久厚生労働相は8日の閣議後の記者会見で、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資先について『個別銘柄を含めて一定期間後に開示する方向性を議論してきた』と述べ、保有株式を公開する考えを示した。
出典:GPIFの投資先、厚労相『保有株式を開示』 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
公的年金の運用に関して開示しなければならないのは、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。これを開示しない限り、GPIFがどれだけの運用利回りを出す必要があるのか分からない。
これが分からないということは、GPIFのポートフォリオが適正なものか否かの議論もすることはできないということ。
保有銘柄よりも国が抱えている年金債務を公開するべきだ。それができないというのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
安倍総理はGPIFは「世界最大の機関投資家」だと豪語しているが、それは「世界最大の年金債務を抱える機関投資家」の同義語でしかない。
Next: GPIFを利用した株価テコ入れ策は根本的に間違っている
将来世代にツケを残す形で「クジラ」を動かすな
「年度末にかけ株価テコ入れ策が出てくる」。市場でこんな思惑が浮上している。<中略> 約140兆円の資産を持ち、「クジラ」の異名をとる巨大投資家、年金積立金管理
運用独立行政法人(GPIF)による買い支えも取り沙汰され始めた。
出典:クジラ、年度末に動くか 夏の選挙控え、市場に思惑 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
「将来世代にツケを残すな」というのが民意なのだとしたら、GPIFを利用した株価テコ入れ策には反対する声が上がってきてしかるべき。
「力ずくで株価を押し上げてもヘッジファンドなどに売りの好機を提供するだけ」という専門家の指摘が紹介されているが、こうした低次元の議論を繰り返しても意味はない。
自分で株価を引上げても、それによって生じた評価益を実現益に変えることはできない。年金支給に必要なのは評価益ではなく実現益(cash)だ。
「世界最大の機関投資家は、その評価益を実現益に変えることは不可能に近い」
こうした現実を知ったうえで、公的年金の運用のあるべき姿を論じなければならない。
セミナーで冗談交じりにお伝えしていることは、
「将来世代の人にとっての公的年金は、平均寿命を越えて長生きした場合のお祝い金となる(支給開始年齢が80代になる可能性がある)」
「将来世代の人に対する年金給付は現物支給(年金を現金ではなく株券/投信受益権で受け取る)になる」
ということ。
そして、「将来年金が受け取れなくなる可能性があるから自分で投資をしなければならない」と考えている方には、投資に対する基本的考え方をお伝えしている。この辺のことは12日に「勉強カフェ関内スタジオ)で開催する「家計を守るマネー講座」で。
【関連】GPIF運用益4.7兆円~それでも日本の公的年金は実質破綻している=近藤駿介
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月8日号)より
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GPIF運用益4.7兆円~それでも日本の公的年金は実質破綻している=近藤駿介
2016年3月3日 ニュース
公的年金(GPIF)の運用状況は大いに問題だが、その本質は赤字だ、黒字だというだけにとどまらない。もし安倍総理やGPIFの説明が正しいのであれば、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」といった措置をとる必要はないはずである。
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。
株安による「大赤字」を出したGPIFが抱える本当の問題
公的年金の運用資産額は2015年末から約8.3兆円減少か
GPIFが運用する公的年金の2015年10~12月期の運用状況が明らかになった。2015年7~9月期に7.9兆円の損失を出したが、10~12月期にその約6割を取り戻した格好。
公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が1日発表した2015年10~12月期の運用成績は、4兆7302億円の黒字だった。期間収益率は3.56%で15年7~9月期(マイナス5.59%)から改善。国内外の株式相場が反発したことが寄与し、2四半期ぶりにプラスとなった。
出典:公的年金 運用益4.7兆円 – 日本経済新聞(2016年2月2日)
しかし、喜んでばかりはいられない。2016年初からの世界的株価の下落傾向を受け、「現時点で運用収益がマイナス基調」(1日付日経電子版)となっているからだ。
実際に、発表された2015年末時点での運用資産額(139兆8249億円)を基に、ポートフォリオが維持されている等の仮定をおいて試算すると、2016年2月末時点での運用資産額は131.5兆円前後と、2015年末から約8.3兆円減少している可能性が高い。
運用収益が約7.9兆円の赤字だった2015年7~9月期の運用資産額の減少幅は約6兆円であった。このことと比較しても、年明け以降約8.3兆円運用資産額が減っているとしたら、赤字は2015年7~9月期の7.9兆円を遥かに上回る規模になる可能性が高い。
また、2015年3月末時点の運用資産額は約137.5兆円であるから、2015年度を通しても運用資産は6兆円程減少していると推察される。
さらに、2015年6月末の141.1兆円と比較すると10兆円少なく、2014年9月末の130.9兆円とほぼ同規模まで資産が減ってきているということである。
信用できないGPIFの説明、安倍総理の国会答弁
こうした公的年金の運用状況は大いに問題ではあるが、その問題は赤字だ、黒字だという運用状況だけではない。
「GPIFの三石博之審議役は1日の記者会見で『短期で見れば収益のブレは大きくなるが、年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい』と強調した」(同日本経済新聞)
GPIFは公的年金の運用状況について「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」としている。そして同じような認識は安倍総理も国会答弁で示している。
Next: 「将来の年金給付に必要な金額が分からない」酷すぎる現状とは?
「将来の年金給付に必要な金額が分からない」酷すぎる現状
一般的に、確定給付型企業年金などは5年ごとの財政検証によって、将来年金受給者に支払う必要のある金額を推計し、実際に持っている年金資産が十分かどうかの判定を行っている。そして保有する年金資産が将来の給付額に対して不足する場合は、年金債務として会計上処理して行くことになる。
多くの大企業はこうした年金債務に伴う会計的負担に耐えられずに確定給付型年金から確定拠出型など、企業の負担が少ない年金制度に移行してきている。
ところが、公的年金の運用に関して「年金財政上、必要な額」は示されていない。
おそらくそれは、公的年金は、現役世代からの保険料収入がそのまま年金給付に回るという「賦課方式」を採用しているために、将来の負債は存在しないという考え方に基づいたものだからである。
つまり、「年金財政上、必要な額」というのが不明であるが故に、今回発表された139兆8249億円という金額が、将来の年金給付に必要な額と比較して十分なものであるのかチェックしようがないという状況になっている。
もし、将来年金給付に必要な金額が600兆円とか700兆円だとしたら、140兆円弱という運用資産額では心もとないことは論を俟たない。
当然、「4兆7302億円の黒字」など焼け石に水であるし、仮に運用資産額を8.4兆円減らしていたとしたら大問題ということになる。
年明け以降金融市場が不安定な展開を見せたことで、国会でも何回かGPIFの資産運用問題が取り上げられている。しかし、将来年金給付に必要な金額が明らかにされていないなかでは、「赤字だ、黒字だ」と言いあっても意味がないし、現在の基本ポートフォリオの是非を論じることもできない。
言い換えれば、将来年金給付に必要な金額がない中で作られた基本ポートフォリオは、何の意味もないものだとも言える。
現実と乖離した安倍総理やGPIFの説明
総理もGPIFも「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」としているが、実際に公的年金に関しては、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」という措置がとられている。
こうした措置は、金融的に言えば、実質破綻企業の延命策である「資金の早期回収」「支払額の減額」「支払期限の先延ばし」と同じである。
Next: 安倍総理やGPIFの言うことが「正しくない」ことの証拠とは?
安倍総理やGPIFの言うことが「正しくない」ことの証拠
このように考えると、「公的年金は金融的には実質的に破綻している」可能性が高いといえる。
もし、総理やGPIFの言う通り「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」のであれば、「掛け金引き上げ」「給付額減額」「給付年齢引き上げ」というような措置をとる必要はないはずである。
換言すれば、こうした措置をとっているということは、総理やGPIFの言うことが正しくないことの証明でもある。
円安・株高の流れが止まり、金融市場が不安定になって来たことで、GPIFの運用に対する注目も高まってきている。
しかし、GPIFが抱える問題は、「黒字だ」「赤字だ」というものだけではなく、もっと本質的なところになる。株価や為替の動きに一喜一憂するのではなく、これを契機にGPIFが抱える本質的な問題に焦点があてられていくことを期待して止まない。
【関連】安倍総理が国会質疑で答えなかった年金運用の「不都合な事実」=近藤駿介
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月2日号)より
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