アメリカが豪の次期潜水艦に日本の「そうりゅう型」を希望する理由 日本の面子まで配慮?
アメリカが豪の次期潜水艦に日本の「そうりゅう型」を希望する理由 日本の面子まで配慮?
2016年1月27日
現在、オーストラリア海軍の次期潜水艦計画は、日本の官民連合、ドイツ、フランス企業からの最終提案を受け、共同開発・生産のパートナーをいずれかに決定する段階にある。ターンブル豪首相は先週、就任後初の訪米を行ったが、豪メディアによると、その際行われたいくつかの会談でも次期潜水艦が話題に上ったそうだ。米政府の公式の立場は、豪政府の決定を尊重するというもので、オバマ大統領を始めとする政府要人はいずれかに肩入れする発言を控えている。だが、米政府高官や米軍幹部が日本の潜水艦の採用を望んでいることは、さまざまな形で表現されており、豪政府にとっても思案材料となっているようだ。
米政府が日本の潜水艦の採用を望む4つの理由とは
オーストラリアの次期潜水艦計画をめぐっては、日本、オーストラリア、アメリカそれぞれに思惑がある。日本にとっては、積極的平和主義を推進する上で、オーストラリアとの安全保障・防衛協力を深めることは重要だ。豪による日本の潜水艦の採用はそれを前進させるだろう。それはアメリカの意向でもある。両国はアジアにおけるアメリカの主要同盟国だ。
豪オーストラリアン紙は、ある米高官が同紙に語ったところとして、米政府が日本の「そうりゅう型」潜水艦の採用を豪政府に望む理由を4点に分けて伝えている。最初の3つは、「そうりゅう型」の採用で期待できることについて述べたものだ。
第1の点は、米軍の分析では、3者のうち日本の「そうりゅう型」が採用されれば、オーストラリアに最大の戦力を与えるだろう、とされていることだ。オーストラリアの戦力強化はアメリカにとって重要な関心事である。オーストラリアンは、アメリカは自国の同盟国が、同盟全体での戦力を強化することを期待しており、アジアでは主にオーストラリアと日本にそれを望んでいる、としている。
アメリカは世界各地に戦力を同時に投射しなければならず、予算の制約のある中、アジアでの中国の軍事的台頭に単独で対抗することは難しくなっている、というのが同紙の見方だ。米戦略国際問題研究所(CSIS)はオバマ政権のアジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)戦略について検証した報告書を20日発表した。中国の著しい軍拡と、アメリカの防衛予算の厳しい削減を考慮すると、「現行規模のアメリカの戦力配置では、地域の軍事力のバランスはアメリカに不利に転じつつある」と述べているのを、オーストラリアンは傍証として引用した。
第2に、「そうりゅう型」であれば、米豪の潜水艦、日豪の潜水艦それぞれの間で、最良の相互運用性がもたらされるとアメリカは考えている。相互運用性とは、迅速な協力を可能にするため、装備や手続きにおいて共通性、互換性を持たせることである。
第3に、「そうりゅう型」の採用によって、日米豪3国間の戦略的協力が大いに強化されるだろうとアメリカは考えている。日米豪いずれの政府にとっても、このような協力を強化することは政策目標である、とオーストラリアンは語る。
第4の点だけは他と異なり、期待ではなく米政府の懸念となる。中国政府が、日本の潜水艦の採用に激しく反対しているので、もし日本が選ばれなかった場合、日本政府にとっての恥、中国政府にとっての外交的・戦略的勝利とみなされることになるだろうと米政府は考えている、と同紙は語っている。
米政府高官も米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」が他より優れていると
CSISアジア兼日本チェアのマイケル・グリーン上級副所長と、かつてアボット前首相ら豪首相2人の国家安全保障アドバイザーを務めたCSIS客員研究員アンドリュー・シアラー氏らによる連名の記事が、米外交専門誌ナショナル・インタレストのウェブサイトに17日掲載された。ターンブル首相の訪米に先立って、米豪同盟のさらなる強化のため、両国間で詰めておくべき問題について提言したものだ。その中で、日米豪の3国関係の強化や、日本の潜水艦の採用が、重要な案件として挙げられている。
ターンブル首相とオバマ大統領は、安倍首相が最近成立させた安保改革案を考慮し、首脳会談で、両国が日本とより緊密に協力する方法について話し合うべきだとしている。これまでにも日米豪には緊密な協力の実績があるが、集団的自衛権の行使が容認されたこと、武器輸出の制限が緩和されたことで、3国間の安保協力と、軍の共同作戦能力の強化の重要な機会が開かれた、と記事は述べる。
それらの中で最も差し迫った問題が、オーストラリアの次期潜水艦選定だという。米政府がこの件で中立的姿勢を取っているのは妥当なことだが、米政府高官も、米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」の戦力が他より優れていることには疑いを持っていない。また、アメリカの戦闘システムを備えた、相互運用性のある日豪の通常動力型潜水艦の艦隊から得られる、アメリカとアジア地域にとっての長期的な戦略的メリットに関しても疑いを持っていない、と記事は語る。
日本の潜水艦でなければ、アメリカが最新鋭の戦闘システムを提供しないのではないか
米政府、軍が、日本の潜水艦の採用を豪政府に望んでいるとして、それが選定に影響を与えうるだろうか。
次期潜水艦には米豪共同開発の戦闘システムが採用されることになっている。オーストラリアンによれば、この戦闘システムが大きな鍵になりうるらしい。豪政府内では、日本以外の潜水艦の採用が決まった場合、アメリカが最先進の戦闘システムの技術供与に前向きでなくなるのではないか、という深刻な疑いがあるそうだ。アメリカに対するこの疑念が、日本にとって有利な切り札として浮上している、と同紙は語る。アメリカは、日本の潜水艦が採用された場合には、自国の最新鋭の戦闘システムを提供することを明言しているという。
アメリカがどの技術を最終的に提供するかは、どの国の潜水艦が選ばれるかによって異なりそうである、とオーストラリアンは語っている。つまり、最新鋭のものではない戦闘システムが提供される可能性があるということだ。
オーストラリアンによれば、ドイツが中国の産業スパイ活動から、極めて重要な防衛技術を守ることができるかどうかについて、アメリカは大きな疑いを抱いているとの情報があるそうだ。
ドイツが受注争いで後退?
ロイターによると、日本、ドイツ、フランスの受注争いで、ドイツが後退し、候補は日本とフランスに絞られつつある、と複数の情報筋が語っている。
オーストラリアは次期潜水艦に4000トン級を計画している。「そうりゅう型」がまさに4000トン級だ。ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)は、2000トン級の「214型潜水艦」を大きくし、4000トンにする計画だという。しかしこれは技術的に難題だと専門家は指摘しているそうだ。その技術上の懸念から、ドイツは支持を失っているという。
ただしロイターは、うわさを安易に信用すべきではないとの意見も伝えている。
豪政府による決定は、オーストラリアンによると、今年半ばには発表されるはずだという。ただしその際も、選考対象を2国に絞り込むだけにとどまるかもしれないと情報筋が示唆しているそうだ。自国に有利なように交渉を進めるためである。
(田所秀徳)
http://www.mag2.com/p/news/142423?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_0128
豪潜水艦の受注競争:“技術を全て共有してもいい” どうしても受注したい日本の思惑とは
更新日:2015年11月21日
オーストラリア海軍の次期潜水艦導入計画をめぐって、日本の官民連合、ドイツ、フランスの企業が受注を争っている。艦体の建造や、運用開始後のメンテナンスなどを合わせて予算総額は500億豪ドル(約4.4兆円)を超え、超大型契約となる。その最終提案をオーストラリア政府に提出する期限が11月30日に迫っている。3者のアピール合戦もクライマックスを迎えている。
◆オーストラリアでの建造が必須条件に
契約は、オーストラリアとの潜水艦の共同開発、建造、運用開始後のメンテナンスやアップグレードを含むものとなる。日本からは、防衛省と三菱重工業、川崎重工業の官民連合が名乗りを上げている。またドイツからはティッセンクルップ・マリン・システムズ、フランスからは国策企業DCNSが名乗りを上げている。独仏2社は国際的な兵器取引の世界的重鎮であるが、日本にはその経験が全くない、とブルームバーグは指摘する。
オーストラリア国内で最も注目されているのは、潜水艦の建造を国内で行うかどうかという点だ。アボット前首相は、当初、日本に建造を発注することを検討していたようだが、世論や与党内の声などに押され、国内での共同開発、共同生産へのシフトを余儀なくされていった。この問題がアボット氏の失脚の一因になったとの指摘もある(フィナンシャル・タイムズ紙)。
日本は当初、オーストラリアでの建造に前向きな姿勢を示していなかったが、独仏の2社は早くからその点をアピールしていた。やがて日本も遅まきながら9月に、オーストラリアでの建造を受け入れることを正式に表明した。防衛省の石川正樹官房審議官は今月13日のブルームバーグのインタビューで、「基本的に、われわれの技術を全て共有する用意がある」と改めて強調した。「現在まで、同盟国であるアメリカに対してさえも、わが国の潜水艦技術を見せたことは一切ない」とも語っている。
◆日本の狙いには日米豪の戦略的関係の強化も
潜水艦技術の移転に関しては、日本国内で不安視する声も多い。そこまでしてこの契約を勝ち取る理由が、金額の大きさの他にもあるのだろうか。
ブルームバーグは「商業的利益以上のものが、これにはかかっている」と語る。安倍首相のアジア太平洋地域での積極的平和主義の観点から、この問題を捉えているようだ。受注に成功すれば、首相が、中国に対抗して、米同盟国同士であるオーストラリアと築こうとしている特別な関係を固めることになるだろう、と語っている。
同様の見解はウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、日本は自国の潜水艦の売却によって、日本政府とオーストラリアの深まりつつある戦略関係が強固になるかもしれないと期待している、と伝えている。
また日本は、世界の兵器市場でより大きなシェアを担いたいという野心を大々的に宣伝してもいる、とWSJは語る。
オーストラリア戦略政策研究所の防衛経済学アナリストのマーク・トムソン氏は、ブルームバーグで「間違いなく日本を選ぶ決定は戦略上、明白な意味を含むものとなるだろう」と指摘した。「日本が軍事的に普通の国になる道を進む助けとなるだろうし、中国と米国の双方に、日豪が協力していく用意があることに関して明白なメッセージを送ることにもなろう」と語っている。「軍事的に普通の国になる」ということには、兵器の輸出も含まれていると思われる。
反対に、日本が選ばれなかったら、どうなるだろうか。トムソン氏は、「もしこれが純粋な商取引の話なら、受注に失敗しても、単にがっかりするだけだろう」「しかし私の直観では、もともとこの取引は、金銭以上に戦略的な面がはるかに大きかった」「もし私が正しければ、日本を落選させれば、オーストラリアが日本との戦略的関係での接近を拒んだことになる。あるいは少なくともそのように見られることになる」と語っている。
◆オーストラリアの首相交代の影響は?
オーストラリアでは今年9月、与党の党首選により、アボット前首相からターンブル新首相への交代劇があった。そのことは潜水艦の取引相手の選定にどのような影響を与えているだろうか。
アボット前首相は安倍首相との密接な関係で知られていた。防衛省の石川審議官は豪当局から、首相交代は選考プロセスに影響しないだろう、と伝えられたという。
だが、首相交代によって、国内建造を求める声はますます高まっているようだ。アボット前首相が降ろされた後、機運は急速に移り変わっており、ターンブル政権は、もし国内製造によって対価がもたらされ、価格が抑えられたままであるならば、国内建造計画を熱望している、と豪紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー(AFR)は伝える。
またAFRは、多くの業界消息通が、アボット前首相が2014年末に日本との秘密の取引に署名する寸前だったと確信している、と語る。その計画では、12隻の潜水艦が日本で建造され、メンテナンスのわずかな部分だけがオーストラリアで実施されることになっていた、としている。WSJは、日本はオーストラリアの首相交代によってえこひいきを失った、と語っている。
オーストラリアのペイン国防相によれば、豪政府は来年前半に取引相手を決定する予定だという(WSJ)。3者ともオーストラリア国内での建造に同意しているが、必ずしも全艦が同国内で建造されるわけではない。オーストラリア政府は応募者に対し、「全艦オーストラリア国内建造」「全艦国外建造」「折衷」の3パターンのプランを提示することを求めている。そして政府は取引相手の決定後に、3年間かけて、工程と詳細を相手側と煮詰めていくそうだ(AFR)。
◆アジア太平洋諸国の国防戦略にとって潜水艦の重要性は増している
オーストラリアのこれからの国防戦略にとって、潜水艦は非常に大きなウエイトを占めているようである。
豪テレビ局「9 News Australia」が伝えたところによると、ペイン国防相は「わが国の将来の問題に対処するため」最新鋭潜水艦を導入する旨を語ったそうだ。「潜水艦は今日のわが国の防衛戦略の不可欠な要素であり、今世紀後半になってもそうだろう」として、潜水艦は根幹をなす戦略的軍事能力であり続けると語ったという。
潜水艦を戦力の重要な要素と見るのは、アジア全体に広がっている傾向のようだ。ブルームバーグによると、多くのアジア太平洋諸国が、通常動力型潜水艦によって自国の潜水艦隊を近代化することを目指しており、オーストラリアもその1つだという。2030年までには、世界の潜水艦の半分以上が、アジアに存在するようになると予想されているとも。中国も、70隻前後からなる自国の潜水艦隊を近代化しつつあるという。
WSJによると、豪政府は、小さいながらも技術面で練度の高い自国軍が中国など近隣国に対して持っているアドバンテージを、新たな潜水艦隊も保つことを望んでいるという。提案されているどの潜水艦が導入されても、オーストラリアはアジアで最強クラスの水中艦隊を得ることになる、とWSJは語っている。
(田所秀徳)
http://newsphere.jp/politics/20151121-1/
豪潜水艦、日本も現地製造視野で巻き返しへ 一方、技術移転に懸念の声も
更新日:2015年10月6日
9月29日、防衛省の石川正樹官房審議官は、オーストラリア海軍の次期潜水艦の選定競争に関連して、そうりゅう型潜水艦の全製造行程をオーストラリア国内の造船所で行う用意があることを、日本側代表として初めて公にした 。また、同
氏は日本製潜水艦製造のためにオーストラリアのエンジニア数百人を訓練し、技術移転することも発表している。潜水艦契約の選定競争ではドイツ、フランスとの熾烈な競争が続いており、今回の石川審議官の発言や最近のオーストラリアの動向についても、複数の海外メディアが報じている。
◆契約が実現すれば日本には数兆円の利益が
これまでオーストラリア政府は、日本・フランス・ドイツの3ヶ国に対し「全てオーストラリア国内で製造」「全て海外で製造」「国内・海外の両方で製造」の3パターンでのプラン提示を求めてきた。しかし雇用問題解消のため、オーストラリアでは議員らが「全てオーストラリア国内での製造」を求めて政府に要請するという動きがあった。こうした状況のもと、ドイツのティッセン・クルップ社(TKMS)とフランスのDCNS両社が、日本に先んじて「完全にオーストラリア国内での製造」を提案していた。契約が実現すれば、日本には数兆円 の利益がもたらされる
見通しだ。なお、この契約には数十年に及ぶメンテナンスプログラムも含まれている。
◆ライバル国との競争に苦戦するも契約実現への意欲を示す日本側
莫大な予算が動くこの選定競争については、以前から海外メディアの関心が高く、選定競争の現在の状況と今後の見通しについて海外メディア各紙が報じている。
9月28日、アジア太平洋の外交専門メディアであるザ・ディプロマットは、「オーストラリアの新しい首相は、日本の潜水艦選定競争に悪影響か?」という記事を掲載した。同記事では、日本のそうりゅう型潜水艦が高性能であることを指摘したうえで、トニー・アボット前首相に比べると現首相であるマルコム・ターンブル氏は安倍晋三首相と親密でないこと、日本は長年武器輸出をしてこなかったためフランスやドイツに比べると売り込みノウハウに欠けていること、そうりゅう型潜水艦製造の莫大なコストなどが問題として挙げられ、日本の苦戦が報じられている。
一方イギリスのクオリティペーパーであるガーディアン紙は、「オーストラリア政府がいかなるオプションを選んだとしても、我々は必要な技術を提供し、オーストラリアの産業を最大限に活用するつもりだ」との石川審議官の発言を掲載している。10月6日からシドニーで開催されるビジネスイベント「パシフィック2015」において日本側は2度目のプレゼンテーションを行う予定だが、同記事では石川審議官の「シドニーでは、巻き返しを図るためのより明確なメッセージを伝えられるだろう」というコメントも掲載され、日本側の強い意欲が報じられている。
◆戦後初の主要武器輸出―だが潜水艦の技術移転に懐疑的な意見も
2014年4月、安倍内閣はこれまでの武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」を閣議決定しているが、この潜水艦の選定競争が単なる巨額の外交ビジネスという枠組みにとどまるものでないことは明白だ。9月15日に日本経済団体連合会が「防衛産業政策の実行に向けた提言」を発表したように、現在経団連と政府は一体となって防衛産業の振興・拡大を目指している。先日可決された安保法制関連法案やマイ・ナンバー制度の導入に比べればオーストラリアの潜水艦選定競争は国内で報じられることは少ないが、防衛産業の拡大が安倍政権による重要な変革の一つであることは間違いない。
この契約の意義について、ザ・ディプロマットは「三菱重工と川崎重工の契約受注が実現されれば、世界の防衛産業に普通に参加できる方向に近づくことになり、安倍政権にとっては大きな成功になるだろう」と日本の立場を解説している。同様にカナダのニュースメディアであるザ・カンバセーションズは、「実現すれば、日本にとって戦後初の主要な武器の輸出となる」としたうえで、契約の成立は「オーストラリアとの安全保障関係を強化するだろう」とつけ加えた。
一方日本国内では貴重な潜水艦技術の移転に懐疑的な意見も少なくない。日本は過去に新幹線「はやて」の技術を中国に盗用 された過去があるが、オーストラリア側から中国など他国
への情報漏えいがないとは言い切れない。目先の数兆円やオーストラリアとの安全保障関係強化というメリットのみを理由として、技術移転に踏み切るのは軽率という見方もある。
契約の最終決定は本年度末、もしくは2016年度初頭になる予定だ。
(本間吉郎)
http://newsphere.jp/politics/20151006-3/
豪潜水艦契約、日本がようやく重い腰上げる 「そうりゅう」受注失敗の可能性で危機感
更新日:2015年8月19日
オーストラリア海軍の次期潜水艦の選定競争で、そうりゅう型潜水艦を売り込んでいる日本の官民連合が、26日に南部アデレードで説明会を開く。同地はオーストラリア造船業の中心地で、雇用確保のため、野党や労働組合が次期潜水艦の現地生産を強く求めている。ロイターによれば、日本側は説明会で、現地企業と協業する用意があることをアピールする予定だ。
豪次期潜水艦の契約を巡っては、日本とドイツ、フランスが競合している。性能面とアメリカ主導のアジア太平洋の防衛戦略上、当初は日本の「そうりゅう」が有利とされてきたが、最近は完全現地生産を熱心にアピールする独仏が巻き返している。現地メディアなどは、これに危機感を感じた日本がようやく重い腰を上げたと注目している。
◆「完全国内製造」を求める豪世論
オーストラリア海軍は、2030年ごろに現行の国産「コリンズ級」を世代交代させる計画だ。次期潜水艦候補には、静粛性や航続距離で通常型潜水艦としては世界最高性能とされる「そうりゅう」が最有力候補に上がっていた。日米と歩調を合わせて中国に対抗しようと模索するオーストラリアにとっては、既に海上自衛隊で米海軍との共同作戦に対応した運用がされている点も魅力的な要素だとされている。
しかし、6隻から12隻の新造艦を建造する500億豪ドル(約4兆5600億円)ともいわれる巨大プロジェクトには、武器輸出に実績のあるドイツのティッセン・クルップ社(TKMS)、フランスの国策企業DCNSも豪政府の「競争選定プロセス」に指名されている。豪政府が求めているのは4000トン級の航続距離の長い通常型潜水艦で、TKMSは「タイプ216」(4000トン)、DCSは「バラクーダ級」(5300トン)を売り込んでいる。日本は防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の官民連合が、そうりゅう型(4200トン)で戦後初の本格的な武器輸出を目指す。
豪政府は当初、「そうりゅう」の輸入を目指していたが、雇用喪失を懸念する造船労組や野党・労働党の猛反対に遭った。TKMSとDCNSはそれに乗じて豪州にロビイストや国防専門家、広報担当者、技術者からなる事務所を立ち上げ、受注活動を進めている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。現在、豪政府は日独仏勢にそれぞれ、「完全にオーストラリア国内で建造」「完全に海外で建造」「国内・海外の両方で建造」の3つのパターンで、プランを提示するよう求めている。
◆今や本命はドイツ?
積極的に「現地生産」をアピールする独仏勢とは対照的に、武器輸出に不慣れな日本勢は「政府主導の秘密主義のせいもあってか動きが鈍く、受注に失敗する可能性が出てきた」とWSJは見ている。三菱重工と川崎重工は、豪政府主催で3月に開かれた潜水艦計画の会議も、アデレードで7月に開かれた議会公聴会も欠席している。独仏勢はともに出席して猛アピールした。また、TKMSは日本勢が沈黙を保っている間に、「タイプ216」が選ばれれば、造船関係の現地雇用を増やし、オーストラリアをアジア太平洋の潜水艦建造の拠点にすると豪側に約束した。WSJは、「豪州の多くの有力議員は今では同社が本命とみるようになっている」としている。
日本勢による26日の説明会開催は、こうした状況に危機感を感じた日本政府が、ようやく重い腰を上げたことの表れだと見られている。説明会では、防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の幹部らによる官民連合の代表団が、地元議員や造船企業関係者に「協業」を提案する見込みだ。
既にこれに先立ち、草賀純男駐豪大使と三菱重工関係者らによる代表団が今月11日、首都キャンベラで造船都市アデレードがある南オーストラリア州選出議員らと会合を開いている。出席した与党・自由党のマット・ウィリアムズ議員は「(日本側)代表団に、将来の潜水艦計画にオーストラリアの産業が最大限に参加することの重要性と、なぜ私が南オーストラリア州の雇用確保のために戦い続けているかを訴えた」と、地元紙『ザ・オーストラリアン』に語っている。同議員は、会合は「建設的だった」と述べ、日本側の反応に手応えを感じたようだ。
◆外交専門誌は最終的には日本に軍配と予想
アジア太平洋の外交誌『ザ・ディプロマット』は、これまでの状況を俯瞰し、「日本はオーストラリアの潜水艦契約を勝ち取れるか」と題した記事を掲載している。同記事は、契約獲得の鍵は、潜水艦の性能だけでなく、「南オーストラリア州の雇用確保の要求にどれだけ応えられるか」だとしている。与党自由党も次期選挙に向け、同州の有権者の意向を重視していると見られている。
『ザ・ディプロマット』によれば、日本は現地生産に向け、豪州で実績のあるスウェーデンのサーブ社に協力を求めることを検討中だという。また、ロイターは、イギリスの軍需メーカー、バブコック・インターナショナルとBAEシステムズが、三菱重工と川崎重工に協力を申し出たと報じている。バブコックは現行の豪潜水艦のメンテナンスを手がけており、BAEは現地で4500人を雇用している。
『ザ・ディプロマット』は、日本勢の対応は遅れているものの、「最終的には、アボット首相は高い政治的リスクを犯してでも、日本と契約しようとするだろう」と見ている。その理由は政権が支持するアメリカ主導の「アジアの再バランス」にとって、米海軍の信頼が厚い「そうりゅう」の採用がベストだからだとしている。
(内村浩介)http://newsphere.jp/world-report/20150819-1/
2016年1月27日
現在、オーストラリア海軍の次期潜水艦計画は、日本の官民連合、ドイツ、フランス企業からの最終提案を受け、共同開発・生産のパートナーをいずれかに決定する段階にある。ターンブル豪首相は先週、就任後初の訪米を行ったが、豪メディアによると、その際行われたいくつかの会談でも次期潜水艦が話題に上ったそうだ。米政府の公式の立場は、豪政府の決定を尊重するというもので、オバマ大統領を始めとする政府要人はいずれかに肩入れする発言を控えている。だが、米政府高官や米軍幹部が日本の潜水艦の採用を望んでいることは、さまざまな形で表現されており、豪政府にとっても思案材料となっているようだ。
米政府が日本の潜水艦の採用を望む4つの理由とは
オーストラリアの次期潜水艦計画をめぐっては、日本、オーストラリア、アメリカそれぞれに思惑がある。日本にとっては、積極的平和主義を推進する上で、オーストラリアとの安全保障・防衛協力を深めることは重要だ。豪による日本の潜水艦の採用はそれを前進させるだろう。それはアメリカの意向でもある。両国はアジアにおけるアメリカの主要同盟国だ。
豪オーストラリアン紙は、ある米高官が同紙に語ったところとして、米政府が日本の「そうりゅう型」潜水艦の採用を豪政府に望む理由を4点に分けて伝えている。最初の3つは、「そうりゅう型」の採用で期待できることについて述べたものだ。
第1の点は、米軍の分析では、3者のうち日本の「そうりゅう型」が採用されれば、オーストラリアに最大の戦力を与えるだろう、とされていることだ。オーストラリアの戦力強化はアメリカにとって重要な関心事である。オーストラリアンは、アメリカは自国の同盟国が、同盟全体での戦力を強化することを期待しており、アジアでは主にオーストラリアと日本にそれを望んでいる、としている。
アメリカは世界各地に戦力を同時に投射しなければならず、予算の制約のある中、アジアでの中国の軍事的台頭に単独で対抗することは難しくなっている、というのが同紙の見方だ。米戦略国際問題研究所(CSIS)はオバマ政権のアジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)戦略について検証した報告書を20日発表した。中国の著しい軍拡と、アメリカの防衛予算の厳しい削減を考慮すると、「現行規模のアメリカの戦力配置では、地域の軍事力のバランスはアメリカに不利に転じつつある」と述べているのを、オーストラリアンは傍証として引用した。
第2に、「そうりゅう型」であれば、米豪の潜水艦、日豪の潜水艦それぞれの間で、最良の相互運用性がもたらされるとアメリカは考えている。相互運用性とは、迅速な協力を可能にするため、装備や手続きにおいて共通性、互換性を持たせることである。
第3に、「そうりゅう型」の採用によって、日米豪3国間の戦略的協力が大いに強化されるだろうとアメリカは考えている。日米豪いずれの政府にとっても、このような協力を強化することは政策目標である、とオーストラリアンは語る。
第4の点だけは他と異なり、期待ではなく米政府の懸念となる。中国政府が、日本の潜水艦の採用に激しく反対しているので、もし日本が選ばれなかった場合、日本政府にとっての恥、中国政府にとっての外交的・戦略的勝利とみなされることになるだろうと米政府は考えている、と同紙は語っている。
米政府高官も米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」が他より優れていると
CSISアジア兼日本チェアのマイケル・グリーン上級副所長と、かつてアボット前首相ら豪首相2人の国家安全保障アドバイザーを務めたCSIS客員研究員アンドリュー・シアラー氏らによる連名の記事が、米外交専門誌ナショナル・インタレストのウェブサイトに17日掲載された。ターンブル首相の訪米に先立って、米豪同盟のさらなる強化のため、両国間で詰めておくべき問題について提言したものだ。その中で、日米豪の3国関係の強化や、日本の潜水艦の採用が、重要な案件として挙げられている。
ターンブル首相とオバマ大統領は、安倍首相が最近成立させた安保改革案を考慮し、首脳会談で、両国が日本とより緊密に協力する方法について話し合うべきだとしている。これまでにも日米豪には緊密な協力の実績があるが、集団的自衛権の行使が容認されたこと、武器輸出の制限が緩和されたことで、3国間の安保協力と、軍の共同作戦能力の強化の重要な機会が開かれた、と記事は述べる。
それらの中で最も差し迫った問題が、オーストラリアの次期潜水艦選定だという。米政府がこの件で中立的姿勢を取っているのは妥当なことだが、米政府高官も、米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」の戦力が他より優れていることには疑いを持っていない。また、アメリカの戦闘システムを備えた、相互運用性のある日豪の通常動力型潜水艦の艦隊から得られる、アメリカとアジア地域にとっての長期的な戦略的メリットに関しても疑いを持っていない、と記事は語る。
日本の潜水艦でなければ、アメリカが最新鋭の戦闘システムを提供しないのではないか
米政府、軍が、日本の潜水艦の採用を豪政府に望んでいるとして、それが選定に影響を与えうるだろうか。
次期潜水艦には米豪共同開発の戦闘システムが採用されることになっている。オーストラリアンによれば、この戦闘システムが大きな鍵になりうるらしい。豪政府内では、日本以外の潜水艦の採用が決まった場合、アメリカが最先進の戦闘システムの技術供与に前向きでなくなるのではないか、という深刻な疑いがあるそうだ。アメリカに対するこの疑念が、日本にとって有利な切り札として浮上している、と同紙は語る。アメリカは、日本の潜水艦が採用された場合には、自国の最新鋭の戦闘システムを提供することを明言しているという。
アメリカがどの技術を最終的に提供するかは、どの国の潜水艦が選ばれるかによって異なりそうである、とオーストラリアンは語っている。つまり、最新鋭のものではない戦闘システムが提供される可能性があるということだ。
オーストラリアンによれば、ドイツが中国の産業スパイ活動から、極めて重要な防衛技術を守ることができるかどうかについて、アメリカは大きな疑いを抱いているとの情報があるそうだ。
ドイツが受注争いで後退?
ロイターによると、日本、ドイツ、フランスの受注争いで、ドイツが後退し、候補は日本とフランスに絞られつつある、と複数の情報筋が語っている。
オーストラリアは次期潜水艦に4000トン級を計画している。「そうりゅう型」がまさに4000トン級だ。ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)は、2000トン級の「214型潜水艦」を大きくし、4000トンにする計画だという。しかしこれは技術的に難題だと専門家は指摘しているそうだ。その技術上の懸念から、ドイツは支持を失っているという。
ただしロイターは、うわさを安易に信用すべきではないとの意見も伝えている。
豪政府による決定は、オーストラリアンによると、今年半ばには発表されるはずだという。ただしその際も、選考対象を2国に絞り込むだけにとどまるかもしれないと情報筋が示唆しているそうだ。自国に有利なように交渉を進めるためである。
(田所秀徳)
http://www.mag2.com/p/news/142423?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_0128
豪潜水艦の受注競争:“技術を全て共有してもいい” どうしても受注したい日本の思惑とは
更新日:2015年11月21日
オーストラリア海軍の次期潜水艦導入計画をめぐって、日本の官民連合、ドイツ、フランスの企業が受注を争っている。艦体の建造や、運用開始後のメンテナンスなどを合わせて予算総額は500億豪ドル(約4.4兆円)を超え、超大型契約となる。その最終提案をオーストラリア政府に提出する期限が11月30日に迫っている。3者のアピール合戦もクライマックスを迎えている。
◆オーストラリアでの建造が必須条件に
契約は、オーストラリアとの潜水艦の共同開発、建造、運用開始後のメンテナンスやアップグレードを含むものとなる。日本からは、防衛省と三菱重工業、川崎重工業の官民連合が名乗りを上げている。またドイツからはティッセンクルップ・マリン・システムズ、フランスからは国策企業DCNSが名乗りを上げている。独仏2社は国際的な兵器取引の世界的重鎮であるが、日本にはその経験が全くない、とブルームバーグは指摘する。
オーストラリア国内で最も注目されているのは、潜水艦の建造を国内で行うかどうかという点だ。アボット前首相は、当初、日本に建造を発注することを検討していたようだが、世論や与党内の声などに押され、国内での共同開発、共同生産へのシフトを余儀なくされていった。この問題がアボット氏の失脚の一因になったとの指摘もある(フィナンシャル・タイムズ紙)。
日本は当初、オーストラリアでの建造に前向きな姿勢を示していなかったが、独仏の2社は早くからその点をアピールしていた。やがて日本も遅まきながら9月に、オーストラリアでの建造を受け入れることを正式に表明した。防衛省の石川正樹官房審議官は今月13日のブルームバーグのインタビューで、「基本的に、われわれの技術を全て共有する用意がある」と改めて強調した。「現在まで、同盟国であるアメリカに対してさえも、わが国の潜水艦技術を見せたことは一切ない」とも語っている。
◆日本の狙いには日米豪の戦略的関係の強化も
潜水艦技術の移転に関しては、日本国内で不安視する声も多い。そこまでしてこの契約を勝ち取る理由が、金額の大きさの他にもあるのだろうか。
ブルームバーグは「商業的利益以上のものが、これにはかかっている」と語る。安倍首相のアジア太平洋地域での積極的平和主義の観点から、この問題を捉えているようだ。受注に成功すれば、首相が、中国に対抗して、米同盟国同士であるオーストラリアと築こうとしている特別な関係を固めることになるだろう、と語っている。
同様の見解はウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、日本は自国の潜水艦の売却によって、日本政府とオーストラリアの深まりつつある戦略関係が強固になるかもしれないと期待している、と伝えている。
また日本は、世界の兵器市場でより大きなシェアを担いたいという野心を大々的に宣伝してもいる、とWSJは語る。
オーストラリア戦略政策研究所の防衛経済学アナリストのマーク・トムソン氏は、ブルームバーグで「間違いなく日本を選ぶ決定は戦略上、明白な意味を含むものとなるだろう」と指摘した。「日本が軍事的に普通の国になる道を進む助けとなるだろうし、中国と米国の双方に、日豪が協力していく用意があることに関して明白なメッセージを送ることにもなろう」と語っている。「軍事的に普通の国になる」ということには、兵器の輸出も含まれていると思われる。
反対に、日本が選ばれなかったら、どうなるだろうか。トムソン氏は、「もしこれが純粋な商取引の話なら、受注に失敗しても、単にがっかりするだけだろう」「しかし私の直観では、もともとこの取引は、金銭以上に戦略的な面がはるかに大きかった」「もし私が正しければ、日本を落選させれば、オーストラリアが日本との戦略的関係での接近を拒んだことになる。あるいは少なくともそのように見られることになる」と語っている。
◆オーストラリアの首相交代の影響は?
オーストラリアでは今年9月、与党の党首選により、アボット前首相からターンブル新首相への交代劇があった。そのことは潜水艦の取引相手の選定にどのような影響を与えているだろうか。
アボット前首相は安倍首相との密接な関係で知られていた。防衛省の石川審議官は豪当局から、首相交代は選考プロセスに影響しないだろう、と伝えられたという。
だが、首相交代によって、国内建造を求める声はますます高まっているようだ。アボット前首相が降ろされた後、機運は急速に移り変わっており、ターンブル政権は、もし国内製造によって対価がもたらされ、価格が抑えられたままであるならば、国内建造計画を熱望している、と豪紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー(AFR)は伝える。
またAFRは、多くの業界消息通が、アボット前首相が2014年末に日本との秘密の取引に署名する寸前だったと確信している、と語る。その計画では、12隻の潜水艦が日本で建造され、メンテナンスのわずかな部分だけがオーストラリアで実施されることになっていた、としている。WSJは、日本はオーストラリアの首相交代によってえこひいきを失った、と語っている。
オーストラリアのペイン国防相によれば、豪政府は来年前半に取引相手を決定する予定だという(WSJ)。3者ともオーストラリア国内での建造に同意しているが、必ずしも全艦が同国内で建造されるわけではない。オーストラリア政府は応募者に対し、「全艦オーストラリア国内建造」「全艦国外建造」「折衷」の3パターンのプランを提示することを求めている。そして政府は取引相手の決定後に、3年間かけて、工程と詳細を相手側と煮詰めていくそうだ(AFR)。
◆アジア太平洋諸国の国防戦略にとって潜水艦の重要性は増している
オーストラリアのこれからの国防戦略にとって、潜水艦は非常に大きなウエイトを占めているようである。
豪テレビ局「9 News Australia」が伝えたところによると、ペイン国防相は「わが国の将来の問題に対処するため」最新鋭潜水艦を導入する旨を語ったそうだ。「潜水艦は今日のわが国の防衛戦略の不可欠な要素であり、今世紀後半になってもそうだろう」として、潜水艦は根幹をなす戦略的軍事能力であり続けると語ったという。
潜水艦を戦力の重要な要素と見るのは、アジア全体に広がっている傾向のようだ。ブルームバーグによると、多くのアジア太平洋諸国が、通常動力型潜水艦によって自国の潜水艦隊を近代化することを目指しており、オーストラリアもその1つだという。2030年までには、世界の潜水艦の半分以上が、アジアに存在するようになると予想されているとも。中国も、70隻前後からなる自国の潜水艦隊を近代化しつつあるという。
WSJによると、豪政府は、小さいながらも技術面で練度の高い自国軍が中国など近隣国に対して持っているアドバンテージを、新たな潜水艦隊も保つことを望んでいるという。提案されているどの潜水艦が導入されても、オーストラリアはアジアで最強クラスの水中艦隊を得ることになる、とWSJは語っている。
(田所秀徳)
http://newsphere.jp/politics/20151121-1/
豪潜水艦、日本も現地製造視野で巻き返しへ 一方、技術移転に懸念の声も
更新日:2015年10月6日
9月29日、防衛省の石川正樹官房審議官は、オーストラリア海軍の次期潜水艦の選定競争に関連して、そうりゅう型潜水艦の全製造行程をオーストラリア国内の造船所で行う用意があることを、日本側代表として初めて公にした 。また、同
氏は日本製潜水艦製造のためにオーストラリアのエンジニア数百人を訓練し、技術移転することも発表している。潜水艦契約の選定競争ではドイツ、フランスとの熾烈な競争が続いており、今回の石川審議官の発言や最近のオーストラリアの動向についても、複数の海外メディアが報じている。
◆契約が実現すれば日本には数兆円の利益が
これまでオーストラリア政府は、日本・フランス・ドイツの3ヶ国に対し「全てオーストラリア国内で製造」「全て海外で製造」「国内・海外の両方で製造」の3パターンでのプラン提示を求めてきた。しかし雇用問題解消のため、オーストラリアでは議員らが「全てオーストラリア国内での製造」を求めて政府に要請するという動きがあった。こうした状況のもと、ドイツのティッセン・クルップ社(TKMS)とフランスのDCNS両社が、日本に先んじて「完全にオーストラリア国内での製造」を提案していた。契約が実現すれば、日本には数兆円 の利益がもたらされる
見通しだ。なお、この契約には数十年に及ぶメンテナンスプログラムも含まれている。
◆ライバル国との競争に苦戦するも契約実現への意欲を示す日本側
莫大な予算が動くこの選定競争については、以前から海外メディアの関心が高く、選定競争の現在の状況と今後の見通しについて海外メディア各紙が報じている。
9月28日、アジア太平洋の外交専門メディアであるザ・ディプロマットは、「オーストラリアの新しい首相は、日本の潜水艦選定競争に悪影響か?」という記事を掲載した。同記事では、日本のそうりゅう型潜水艦が高性能であることを指摘したうえで、トニー・アボット前首相に比べると現首相であるマルコム・ターンブル氏は安倍晋三首相と親密でないこと、日本は長年武器輸出をしてこなかったためフランスやドイツに比べると売り込みノウハウに欠けていること、そうりゅう型潜水艦製造の莫大なコストなどが問題として挙げられ、日本の苦戦が報じられている。
一方イギリスのクオリティペーパーであるガーディアン紙は、「オーストラリア政府がいかなるオプションを選んだとしても、我々は必要な技術を提供し、オーストラリアの産業を最大限に活用するつもりだ」との石川審議官の発言を掲載している。10月6日からシドニーで開催されるビジネスイベント「パシフィック2015」において日本側は2度目のプレゼンテーションを行う予定だが、同記事では石川審議官の「シドニーでは、巻き返しを図るためのより明確なメッセージを伝えられるだろう」というコメントも掲載され、日本側の強い意欲が報じられている。
◆戦後初の主要武器輸出―だが潜水艦の技術移転に懐疑的な意見も
2014年4月、安倍内閣はこれまでの武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」を閣議決定しているが、この潜水艦の選定競争が単なる巨額の外交ビジネスという枠組みにとどまるものでないことは明白だ。9月15日に日本経済団体連合会が「防衛産業政策の実行に向けた提言」を発表したように、現在経団連と政府は一体となって防衛産業の振興・拡大を目指している。先日可決された安保法制関連法案やマイ・ナンバー制度の導入に比べればオーストラリアの潜水艦選定競争は国内で報じられることは少ないが、防衛産業の拡大が安倍政権による重要な変革の一つであることは間違いない。
この契約の意義について、ザ・ディプロマットは「三菱重工と川崎重工の契約受注が実現されれば、世界の防衛産業に普通に参加できる方向に近づくことになり、安倍政権にとっては大きな成功になるだろう」と日本の立場を解説している。同様にカナダのニュースメディアであるザ・カンバセーションズは、「実現すれば、日本にとって戦後初の主要な武器の輸出となる」としたうえで、契約の成立は「オーストラリアとの安全保障関係を強化するだろう」とつけ加えた。
一方日本国内では貴重な潜水艦技術の移転に懐疑的な意見も少なくない。日本は過去に新幹線「はやて」の技術を中国に盗用 された過去があるが、オーストラリア側から中国など他国
への情報漏えいがないとは言い切れない。目先の数兆円やオーストラリアとの安全保障関係強化というメリットのみを理由として、技術移転に踏み切るのは軽率という見方もある。
契約の最終決定は本年度末、もしくは2016年度初頭になる予定だ。
(本間吉郎)
http://newsphere.jp/politics/20151006-3/
豪潜水艦契約、日本がようやく重い腰上げる 「そうりゅう」受注失敗の可能性で危機感
更新日:2015年8月19日
オーストラリア海軍の次期潜水艦の選定競争で、そうりゅう型潜水艦を売り込んでいる日本の官民連合が、26日に南部アデレードで説明会を開く。同地はオーストラリア造船業の中心地で、雇用確保のため、野党や労働組合が次期潜水艦の現地生産を強く求めている。ロイターによれば、日本側は説明会で、現地企業と協業する用意があることをアピールする予定だ。
豪次期潜水艦の契約を巡っては、日本とドイツ、フランスが競合している。性能面とアメリカ主導のアジア太平洋の防衛戦略上、当初は日本の「そうりゅう」が有利とされてきたが、最近は完全現地生産を熱心にアピールする独仏が巻き返している。現地メディアなどは、これに危機感を感じた日本がようやく重い腰を上げたと注目している。
◆「完全国内製造」を求める豪世論
オーストラリア海軍は、2030年ごろに現行の国産「コリンズ級」を世代交代させる計画だ。次期潜水艦候補には、静粛性や航続距離で通常型潜水艦としては世界最高性能とされる「そうりゅう」が最有力候補に上がっていた。日米と歩調を合わせて中国に対抗しようと模索するオーストラリアにとっては、既に海上自衛隊で米海軍との共同作戦に対応した運用がされている点も魅力的な要素だとされている。
しかし、6隻から12隻の新造艦を建造する500億豪ドル(約4兆5600億円)ともいわれる巨大プロジェクトには、武器輸出に実績のあるドイツのティッセン・クルップ社(TKMS)、フランスの国策企業DCNSも豪政府の「競争選定プロセス」に指名されている。豪政府が求めているのは4000トン級の航続距離の長い通常型潜水艦で、TKMSは「タイプ216」(4000トン)、DCSは「バラクーダ級」(5300トン)を売り込んでいる。日本は防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の官民連合が、そうりゅう型(4200トン)で戦後初の本格的な武器輸出を目指す。
豪政府は当初、「そうりゅう」の輸入を目指していたが、雇用喪失を懸念する造船労組や野党・労働党の猛反対に遭った。TKMSとDCNSはそれに乗じて豪州にロビイストや国防専門家、広報担当者、技術者からなる事務所を立ち上げ、受注活動を進めている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。現在、豪政府は日独仏勢にそれぞれ、「完全にオーストラリア国内で建造」「完全に海外で建造」「国内・海外の両方で建造」の3つのパターンで、プランを提示するよう求めている。
◆今や本命はドイツ?
積極的に「現地生産」をアピールする独仏勢とは対照的に、武器輸出に不慣れな日本勢は「政府主導の秘密主義のせいもあってか動きが鈍く、受注に失敗する可能性が出てきた」とWSJは見ている。三菱重工と川崎重工は、豪政府主催で3月に開かれた潜水艦計画の会議も、アデレードで7月に開かれた議会公聴会も欠席している。独仏勢はともに出席して猛アピールした。また、TKMSは日本勢が沈黙を保っている間に、「タイプ216」が選ばれれば、造船関係の現地雇用を増やし、オーストラリアをアジア太平洋の潜水艦建造の拠点にすると豪側に約束した。WSJは、「豪州の多くの有力議員は今では同社が本命とみるようになっている」としている。
日本勢による26日の説明会開催は、こうした状況に危機感を感じた日本政府が、ようやく重い腰を上げたことの表れだと見られている。説明会では、防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の幹部らによる官民連合の代表団が、地元議員や造船企業関係者に「協業」を提案する見込みだ。
既にこれに先立ち、草賀純男駐豪大使と三菱重工関係者らによる代表団が今月11日、首都キャンベラで造船都市アデレードがある南オーストラリア州選出議員らと会合を開いている。出席した与党・自由党のマット・ウィリアムズ議員は「(日本側)代表団に、将来の潜水艦計画にオーストラリアの産業が最大限に参加することの重要性と、なぜ私が南オーストラリア州の雇用確保のために戦い続けているかを訴えた」と、地元紙『ザ・オーストラリアン』に語っている。同議員は、会合は「建設的だった」と述べ、日本側の反応に手応えを感じたようだ。
◆外交専門誌は最終的には日本に軍配と予想
アジア太平洋の外交誌『ザ・ディプロマット』は、これまでの状況を俯瞰し、「日本はオーストラリアの潜水艦契約を勝ち取れるか」と題した記事を掲載している。同記事は、契約獲得の鍵は、潜水艦の性能だけでなく、「南オーストラリア州の雇用確保の要求にどれだけ応えられるか」だとしている。与党自由党も次期選挙に向け、同州の有権者の意向を重視していると見られている。
『ザ・ディプロマット』によれば、日本は現地生産に向け、豪州で実績のあるスウェーデンのサーブ社に協力を求めることを検討中だという。また、ロイターは、イギリスの軍需メーカー、バブコック・インターナショナルとBAEシステムズが、三菱重工と川崎重工に協力を申し出たと報じている。バブコックは現行の豪潜水艦のメンテナンスを手がけており、BAEは現地で4500人を雇用している。
『ザ・ディプロマット』は、日本勢の対応は遅れているものの、「最終的には、アボット首相は高い政治的リスクを犯してでも、日本と契約しようとするだろう」と見ている。その理由は政権が支持するアメリカ主導の「アジアの再バランス」にとって、米海軍の信頼が厚い「そうりゅう」の採用がベストだからだとしている。
(内村浩介)http://newsphere.jp/world-report/20150819-1/