“難民はもうたくさん…” パリ同時多発テロでEU内の難民政策に不協和音 | 日本のお姉さん

“難民はもうたくさん…” パリ同時多発テロでEU内の難民政策に不協和音

“難民はもうたくさん…” パリ同時多発テロでEU内の難民政策に不協和音
更新日:2015年11月16日

13日にパリで起きた同時多発テロは、世界を震撼させた。一部の自爆テロの現場から、シリアのパスポートが見つかったことから、テロリストが難民に紛れ込んで欧州に侵入している疑いが浮上。EU諸国では、難民受け入れ政策の見直しや、域内の移動の自由の制限を求める声が上がっている。

◆パリのテロが難民問題に飛び火
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、すでに欧州では火がついていた難民流入問題に、パリの事件が油を注ぐ形となり、右派の政治家や国々が、新たな国境管理について議論を始めたと述べた。他の欧米メディアも、同様の見解を示している。

ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、東欧では、以前から貧しいイスラム移民の流入には冷ややかな目が向けられており、パリの事件で批判の声が高まっているという。スロベニアの外相は、「悪意を持った」者が、難民に紛れていることが明らかになったと警告した。チェコの財務相も、欧州は戦時中であり国境を封鎖するなど断固たる措置を取る必要がある、と語っている。

ポーランドでは、先月末の総選挙で圧勝し、政権を取るのが確実となった保守強硬派政党の「法と正義」が、EUから割り当てられる難民は、もはや受け入れたくないと表明。(FT)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、フランスでは極右政党のリーダー、マリーヌ・ルペン氏が、EU内のパスポートなしでの移動を自由にするシェンゲン条約の廃止を主張し、事件後から行われている一時的な国境封鎖での出入国管理では不十分だと述べた。イタリアでは、反移民を掲げる政党、北部同盟のリーダーが、移民入国の規制を強め、欧州の国境封鎖を求めている。

◆難民=テロリストではない
アナリストのアントニオ・バロッソ氏は、過激なポピュリスト政党だけでなく、穏健な中道右派からも批判が上がっているとし、安全保障上の懸念は、EUの移民政策への圧力となると見ている(WSJ)。

そこで高まる批判を鎮めようとしているのが、EUとドイツ政府だ。欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長は、亡命希望者とならず者を同じと見るのは不適切だとし、そのような考えのポピュリストがEUの政策を変更するために、パリのテロ事件を利用していると反論した(FT)。ドイツのデメジエール内相も移民や難民はテロから逃れてきているのであり、テロを起こすために来ているのではないと説明。難民危機への対処とテロリズムへの対処を結びつけるべきではないと述べ、冷静な対応を求めている(Daily Beast)。

しかし、各国ですでに難民に対する嫌がらせや暴力も確認されており、難民保護のための警備も必要になっているという(Daily Beast)。元EU駐トルコ・シリア大使だったマルク・ピエリーニ
氏は、パリの事件が難民政策を複雑化させたと述べ、とりあえず国民を安心させることができる解決策に政治家が走ることは明白で、根本的解決は難しいことを示唆している(FT)

◆全難民の情報管理は不可能
メルケル独首相は、現状の移民と国境政策を変える意図は今のところないようだが、WSJは、限られた効果しかない現状の欧州全体のセキュリティのメカニズムを改善しなければ、オープンな政策がうまくという同氏の考えに、人々の賛同は得られないと述べる。

同紙は、現状のEUの政策では、だれが入国してくるかをコントロールするのは困難と指摘。何十万人の難民の個人情報を登録し、指紋を採取しても、パリの事件の後では、イスラム過激派を特定し阻止する効果はないように思えると述べる。イタリアのリベロ紙のジャーナリスト、フランコ・べキス氏は、イタリアでは多くの難民が、身分証明書もなく、名前や出身地も言わず入国してくるケースもあると指摘。だれが難民のなかに隠れているのか分かったものではないと述べている(Daily Beast)。

テロ防止と難民受け入れ。どちらを優先すべきか、欧州は揺れている。



(山川真智子)



>>>NEXT:フランスの言論の自由はダブルスタンダードか?
パリの風刺新聞社『シャルリー・エブド』などが襲撃されたフランスの連続テロ事件に関連して、フランス司法当局は14日、テロ行為を賞賛する言動をしたなどの理由で、事件後に54人を逮捕したと発表した。『シャルリー・エブド』のイスラム風刺が支持される一方で、こうした取り締まりが行われていることに対し、フランス国内では、「言論の自由のダブルスタンダードだ」などとする批判的な意見も出ているという。

◆人気コメディアンも逮捕
英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によると、フランス司法当局は先週のテロ攻撃後、ヘイトスピーチを行ったり、テロ行為を賞賛した者に対する取り締まりを強化するよう検察に新たに命じ、それによって54人が逮捕されたと発表した。その中には、人気コメディアンのデュドネ・ムバラ・ムバラ氏のほか、未成年や「酔った弾みで口が滑った」者まで含まれているという。

デュドネ氏は、最初に攻撃された『シャルリー・エブド』と、ユダヤ食品店を襲って4人を射殺したアメディ・クリバリ容疑者の名前をもじり、「俺は今、シャルリー・クリバリな気分だ」とFacebookに投稿。これが当局によって、「反ユダヤ主義的」なヘイトスピーチであり、テロ行為を賞賛したと受け止められた。ちなみに、「シャルリー・クリバリ」のフレーズは、全仏で行われている『シャルリー・エブド』の犠牲者を悼む集会などで掲げられる合言葉、「私はシャルリー(Je suis Charlie)」のパロディでもあるようだ。

デュドネ氏は若者を中心に人気を集めるアフリカ系フランス人のコメディアンで、きわどい政治ネタを得意としている。特に「反ユダヤ的」なネタが多く、過去にも何度か今回と同様の逮捕歴があるという(FT)。

◆「風刺」と「差別」は違う
一方、『シャルリー・エブド』は、襲撃後の最新号でもイスラム教の予言者ムハンマドの風刺画を掲載し、テロに屈しない姿勢を示した。ワシントン・ポスト紙(WP)は、この最新号が爆発的に売れたことにより、「言論の自由のシンボルとなった」と記している。

しかし、『シャルリー・エブド』の風刺が賞賛され、デュドネ氏の“ジョーク”が逮捕容疑となることについて、フランス国内では「ダブルスタンダードだ」という批判も出ているという。FTはその例として、夕刊紙『ル・モンド』の社説や著名作家のブログの書き込みを挙げている。

こうした批判に対し、言論の自由の問題に詳しいフランスの法律家は、FTで「シャルリー・エブドは、フランス社会全体の様々な対象に向けた風刺だ。一方、デュドネの発言は、差別主義的な思想がベースになった過度に政治的なものだ」とコメントしている。

また、ヴァルス首相は国会で「(風刺という)生意気で図々しい態度を取る自由と、反ユダヤ主義、人種差別主義、テロ行為の賞賛とホロコーストの否定には根本的な違いがある。後者はいずれも法が厳格に罰するべき攻撃的な行為であり、犯罪である」と述べた(WP)。デュドネ氏は2003年に、「ユダヤ人ジャーナリスト」と「ガス室」を結びつけたギャグを披露し、逮捕されたという前科がある(FT)。

◆イスラム系コメディエンヌは「テロに迷惑している」
同じフランス人コメディアンの発言でも、広い支持を集めているケースも報じられている。アラブ系放送局『アルジャジーラ』が紹介するチュニジア系のコメディエンヌ、サミア・オロセマンさんは、自身がイスラム教徒でありながら、YouTubeに投稿した動画を通じてテロ行為を批判している。

彼女は動画で、「イスラム原理主義者」や「ジハード主義者」を「間違った事に関与する頭のイカれた連中」と批判。「(テロのせいで)私たち(ムスリム)がヨーロッパで暮らすことが難しくなってきている。それに(大多数のムスリムが)疲れきっていることは分かっているよね?だから、もう他の宗教を選んでほしい」と発言。この動画は、昨年10月にカナダで起きたイスラムテロ事件を受けて作成し、今回再投稿したものだが、パリの事件後だけで10万近いアクセスがあったという。オロセマンさんの訴えは、テロ行為も辞さないという狂信的なイスラム教徒はごく一部で、「その他大勢は迷惑している」という、ヨーロッパのイスラム社会の声を代弁していると好意的に受け取れられているようだ。

また、彼女は『シャルリー・エブド』については「好きだったことは一度もない」とアルジャジーラに答えている。14日の新作動画では、同紙の最新号の表紙を飾った予言者ムハンマドの風刺画について、次のように呼びかけている。

「今日、『シャルリー・エブド』は『マホメット(Mahomet=フランス語表記)』の風刺画を発表しました。マホメットって誰?私たちの予言者の名前は確か『ムハンマド(Muhammad)』だよね。『ムハンマド』は“崇拝される者”という意味。『マホメット』はその反対。だから、過剰反応せずに無視しましょう」

(Newsphere編集部)
http://newsphere.jp/world-report/20150116-5/
>>>NEXT:英国“ロシア機墜落はテロ” 発表にロシア、エジプトが怒り心頭 その背景とは?
英国“ロシア機墜落はテロ” 発表にロシア、エジプトが怒り心頭 その背景とは?
更新日:2015年11月6日カテゴリー:国際あとで読む
日本初0円海外送金!
www.payforex.net
外貨送金は0円から 円貨送金は500円から
Ads by Yahoo! JAPAN

見る


メールマガジン購読
英国“ロシア機墜落はテロ” 発表にロシア、エジプトが怒り心頭 その背景とは?
10月31日、エジプトのシャルムエルシェイク空港を出発したロシア機が墜落し、乗客乗員224人全員 が死亡する事故が起きた。イギリスのキャメロン首相は、原因は機内に仕掛
けられた爆発物である可能性が高いと発表し、同空港を発着する英国機の当面の運航停止を命じた。一方ロシアとエジプトは、原因究明に向けた調査の終了を待たずに出されたイギリスの発表に、強い不快感を表している。

◆爆発は内部から発生
シャルムエルシェイクは紅海に面したリゾート地で、フライト停止の影響で、滞在中の約2万人のイギリス人観光客が足止めを食らった。キャメロン首相は、入手した情報から、「テロによる爆発ではないというよりも、テロである可能性が高い」と判断し、安全を第一に考え、今回の措置を取ったと述べた(インデペンデント紙)。

テレグラフ紙は、墜落したメトロジェット9268便の最新の写真には、内側から外側に向かって開いた複数の穴が写っており、機体内部からの爆発であることが分かると説明。また、ドアなど機内にある部品にも、内部から出たと見られる破片を浴びた跡が残っているといい、内部に爆発物が仕掛けられた可能性を指摘している。シャルムエルシェイク空港には、乗客用に金属探知機とエックス線スキャナーが配置されているが、空港職員は検査を受ける必要がなく、荷物係、清掃係などの空港スタッフが爆弾を仕掛けた可能性が指摘されている。ただし、爆発物が事前にロシアで仕掛けられていたことも否定できない、と捜査担当者は見ている(テレグラフ紙)。

英政府は足止めされている自国民のため、すでに帰国便を手配しているが、荷物を検査するエジプト側の体制に問題があると判断し、さらなるテロの危険を避けるため荷物の持ち込みは許可せず、別便で輸送するとしている(インデペンデント紙)。

◆ロシア、エジプトは断固テロ説を否定
墜落の原因は、現在ロシアとエジプトが調査中だ。原因は技術的なものだと、両国はテロを否定してきたが、調査結果を待たずにイギリスがテロだという見解を示したため不快感を露わにしている。

フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、プーチン大統領はキャメロン首相が結論を急いだことに警告を発したという。また、ロシア連邦下院国際問題委員会のコサチェフ委員長は、英政府の決定には、「心理的圧力の要素」があると主張。「ロシアの行動への地政学的な反対がある」と述べた後、多くの人々が「必要な証拠もなしに、この惨事は(シリア空爆をした)ロシアに対するジハーディストからの反応だと言いたいのだ」と断じた。

訪英中にキャメロン首相の発表を聞いたエジプトのシシ大統領も、不満を隠せなかった。テレグラフ紙によれば、オランダ、ドイツ、アイルランドの航空会社もイギリスの運航停止に追従。「アラブの春」がもたらした政情不安の影響から脱し、なんとか経済を再生させたいエジプトにとって観光業は生命線であり、大きな打撃となることは確実だという。キャメロン首相との昼食の席でシシ大統領は、フライト停止は「軽率」と述べ、イギリスの行動を批判した。

◆イスラム国絡みの可能性も
この事件に関しては、4日にイスラム国を支持する「シナイ州」という組織から、ロシアのシリアへの軍事介入に対する報復だという、音声での犯行声明が出されていた。声の主は、「我々が使ったメカニズムを教える義務はない。残骸を探索し、ブラックボックスを回収するがいい」と述べているが、ロシアとエジプトは、この組織は高度3万フィート以上を飛ぶ旅客機を撃墜できるミサイルを保持していないとし、声明を退けていた(インデペンデント紙)。

ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、アメリカのオバマ大統領も、ロシア機の墜落原因がテロである可能性に言及している。同機の乗客にアメリカ人は含まれておらず、事故調査に直接関与していないことから、米政府は踏み込んだ発言は避けている。しかし、イスラム国が関係しているとすれば、アメリカとしても傍観するわけにはいかないだけに、今後の原因究明が待たれるところだろう。

(山川真智子)
http://newsphere.jp/world-report/20151106-2/