迫り来る外来生物の脅威(上)性格がしつこい中国、東南アジア原産の大陸型のスズメバチ | 日本のお姉さん

迫り来る外来生物の脅威(上)性格がしつこい中国、東南アジア原産の大陸型のスズメバチ

迫り来る外来生物の脅威(上)性格がしつこいスズメバチ、死の危険も
読売新聞(ヨミドクター) 11月12日(木)12時11分配信

BS日テレ「深層NEWSより」

国境を超えた人やモノの移動の速度と量が増す中で、外来生物が人や農産物などにまじって日本にやってくるケースが増えている。日本の環境に適応して在来種の存在を脅かすだけでなく、人間に危害を与えるハチなども確認されている。こうした外来種に対し、どんな対応が可能なのか。国立環境研究所プロジェクトリーダーとして外来種の研究、対策に取り組んでいる五箇公一さんが、BS日テレ「深層NEWS」に出演し、注意点や対応などを語った。(取材・構成 読売新聞編集委員 伊藤俊行)

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BS日テレ「深層NEWSより」

――番組は、岸田雪子キャスターが、3年前に長崎県対馬で確認され、今年8月下旬には福岡県北九州市でも確認されたツマアカスズメバチについて、その性質を五箇さんに尋ねるところから始まる。

◆危険度高いツマアカスズメバチ

ツマアカスズメバチは、基本的にスズメバチという狩りバチですから、獲物を捕らえるために毒針を持って襲うという性質を非常に強く持っています。その意味では、人に対する影響、危険度の大きい生き物だと考えなければいけません。

中国、東南アジア原産の大陸型のスズメバチなので、日本列島に生息するスズメバチに比べ、若干、性格がしつこいと言われています。中国南部の大陸で、他の生物と競合しながら進化してきたプロセスと、島国で進化してきたプロセスの違いによるもので、大陸型の方が、増殖力が強く、性格も荒い種類が多い。ツマアカスズメバチの名の由来は、お尻の先に行くほど色が薄く黄色くなって、飛んでいるときには赤く見えるところから来ています。

日本のオオスズメバチに比べると、ツマアカスズメバチの方が小さい。何しろ、日本のオオスズメバチはアジア最大のスズメバチですから。それでも、ツマアカスズメバチは、普通のハチよりは十分に大きい。しかも、狩りバチですから、注意が要るのです。

ツマアカスズメバチの特徴の一つとして、巣が非常に大きいということが挙げられます。図は、2年前に対馬で撮影された写真で、長さが2メートル、幅が80センチにも達しています。これは、ツマアカスズメバチの巣の中でも最大級のものです。

巣が大きいということは、それだけたくさん、働きバチを生むということです。1匹の女王蜂が非常にたくさんの子を産み、それだけの数の子が巣をどんどん大きくしていくことで、これだけ大きな巣になります。繁殖力が非常に強いのも、ツマアカスズメバチの特徴です。

普通のスズメバチだと一つの巣の中に、だいたい500匹ぐらいの働きバチがうごめいていますが、ツマアカスズメバチの場合は、最大で2000匹以上の働きバチがいて、さらに、次の世代の新しい女王蜂も多数生まれます。1匹の女王蜂が秋になると、次の世代の女王蜂を最低でも500匹ぐらい産みます。その新しい女王蜂が交尾して、次の年に別の巣を作ることを繰り返しますから、増えるスピードが非常に速いのです。

スズメバチの天敵はスズメバチで、スズメバチ同士で巣を襲い、乗っ取り、幼虫やさなぎを食べてしまうことがあります。その意味では、オオスズメバチがツマアカスズメバチを「退治」することもあり得ますが、エサが豊富であれば、あまり喧嘩(けんか)しません。それ以外の天敵は、熊や人間ということになります。
◆刺されると発作やけいれん、場合によっては死亡

人が刺された場合、体質によりますが、発作やけいれんが起きることがあります。その甚だしいものがアナフィラキシーショックと言って、場合によっては死亡するケースもあります。実際、中国やフランスでは、ツマアカスズメバチによるアナフィラキシーショックによる死亡例が報告されています。フランスでは、今年に入って既に10人ほどが死亡しているそうです。どうも、中国から輸出された鉢植えや陶器に隠れてフランスにツマアカスズメバチの女王蜂が侵入し、そこから繁殖が始まったのではないかと言われています。

韓国でも、中国南部から侵入したツマアカスズメバチが非常に繁殖しています。とくに増えている場所が、港町の釜山です。釜山では、民家や建物の軒下に作られた巣が、多数見つかっています。生息環境として森が必要になる一般的なスズメバチとは違い、市街地でも繁殖できる種であることが分かってきました。理由の一つは、エサです。いろいろなものを食べることができる。また、比較的乾燥した都市空間にも適応できる能力を持っているとも考えられます。

ツマアカスズメバチが食べるのは、基本的には虫ですが、中でも、ミツバチが非常に好きなので、養蜂場がある地域では、エサに困りません。その意味では、人間が多く暮らしている地域でも、十分に繁殖していけると言えます。

日本のスズメバチもミツバチを襲います。ただ、その方法は、巣の中にどんどん入って、巣の中でミツバチと戦って壊していくというやり方です。ツマアカスズメバチは、ミツバチの巣の周辺を飛び回って、飛んでくる働きバチを奪い去って食べます。ツマアカスズメバチが他のミツバチに襲われるリスクは低く、ミツバチの側にしてみれば、働きバチをどんどん持っていかれてしまうので、兵糧攻めに遭っているような格好になるのです。

ツマアカスズメバチの巣の駆除は、難しい面があります。というのも、営巣期は地面の中にいますが、大きくなってくると、人間の手が届かない樹木の高いところに移動して、そこに大きな巣を作る性質を持っているからです。

ツマアカスズメバチが増えると最も心配なのは、養蜂業への打撃です。また、ブドウなどの果実を食べて、農作物そのものに直接被害をおよばす可能性もあります。市街地に巣を作った場合、巣が大きい分、働きバチがたくさん出てきますので、必然的に人間と出会う確率も上がってきます。かりに、攻撃的な性格が日本のスズメバチと同じ程度だったとしても、数が多くなれば刺されるリスクは大きくなりますので、十分に注意する必要があると思います。
◆全国拡大の恐れ

日本への侵入ルートについては、はっきりしたことは分かりません。先ほど申し上げたように、韓国で非常に繁殖していますので、韓国と対馬、韓国と九州を往来する船に乗ってやってきた可能性が指摘されています。

本州に拡大していく恐れは強いと思われます。とくに北九州は、物流の拠点ですから、そこからトラックや船で国内のあらゆるところに運ばれて、増えていく可能性が非常に高いということになります。

今のところ、ツマアカスズメバチに対して有効な防御手段はありません。巣を見つけたら壊すという方法しかないのですが、人間の見えないところでも、たくさん巣を作っている可能性がありますから、見えないところの集団を含めて、どうやって効率良く防除していくかがこれからの研究の課題の一つです。早期防除が重要ですから、今後、早急に新しい駆除法を開発し、まだ、それほど定着していない今の時期に決着をつける必要があるだろうと思います。

◆20年で全国に広がったセアカゴケグモ

セアカゴケグモは、20年ほど前に大阪で確認された後、現在は岩手県から沖縄本島まで定着しています。毒グモとして知名度はあがりましたが、実際に毒そのものは、量が非常に少ないので、1匹に噛かまれても、人が死ぬ危険性はありません。このため、だんだんリスク感覚がなくなり、記憶の中から消えていってしまったのではないでしょうか。体質によっては、非常に強い影響が出るケースもあるのですが、件数が少なかったので、駆除がおろそかになったと思われます。また、見つけたら殺虫剤をかけるか、踏みつぶすという対処療法しかなく、根本的な駆除方法、解決方法がなかったことも、分散拡大を許してしまった要因でしょう。

これまで日本には、いろいろ外来生物が入ってきています。しかし、いったん定着して広がってしまった外来種を駆除できた事例はありません。

では、なぜ、外来種が増えていくのでしょうか。

それは、日本の環境がどんどん変わる中で、在来種がむしろ住みにくくなり、外来種が住みやすい環境が増えているためです。こうした現象を「空きニッチ」と呼びます。空間やエサは生物にとって「資源」です。在来種が住みにくくなり、生き物がいなくなった地域に残された資源に、外来種が適応し、はまりこんで増えていく状況があるのです。

<2015年10月16日放送の「深層NEWS」をもとに再構成しました。「深層プラスfor yomiDr.」は、深層NEWS(月曜日から金曜日の午後10時~11時放送)の医療関係の放送から、反響の大きかったものについて随時、とりあげます>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151112-00010001-yomidr-sctch&p=1