ピルスベリー氏も日本の左翼知識人等と異なって気がつくと悔恨するところは正直である。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成27年(2015)11月5日(木曜日)
通算第4717号 <前日発行>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いまさら遅すぎる」とも言いたいが
親中ハト派のピルスベリー氏も「中国に騙された」と悔恨の書
****************************************
「わたしは中国に騙されていました。中国は本気でアメリカを打倒する夢に取り憑かれ次々と国際金融機関を騙し、アメリカから技術を盗み取り、日々、その百年の目標に向かって、実行しているのです」というのが、彼が書いた話題の書『百年マラソン』の骨子である。
本が出版されたことは原書の段階で知っていたが、翻訳がでても読もうという気力がなかった。
ある日、勉強会で多くの保守系論客が、この本を話題にしたのは意外だった。中国の野望に関しては百万言を費やしてもまだ足りないことを同時に痛感した。
ピルスベリー氏が言っていることはこうである。
『中国の軍事拡張は平和を目ざすゆえになされる』と中国は西側に信じ込ませることに成功した。
これに一役買った中国宣伝のラウドスピーカー役を演じたのが、キッシンジャー、ブレジンスキー、スコウクラフト、ディブ・シャンボー、エズラ・ヴォーゲルらの「パンダハガー」だった。
日本でもごろごろと名前を挙げるいとまもないくらいにいる、いる。
政治論客はおおよその人は知っているだろうが、たちが悪いのは経済畑の論客等で、中国経済は破綻しない、崩壊論を言っている人たちはあまたがおかしいなどという言説を展開している。
『アメリカの多数は中国の本当の狙いに気がつかず、貧しい中国を助けるのは良いことだ』と信じてきた。
貧困中国をなんとか救出しようと、日米欧は支援を尽くした。
だが中国の指導者は本音をふせて、芝居を演じてきたのだ。
しかし本当の中国の夢とは習近平のいう「愛国主義による中華民族の復興」の言葉の浦に隠されている。革命から百年後の2049年に、中国がアメリカを打倒し、世界の覇者となる」という野望を。これが中国の『百年マラソン』である。
この発想の基本は中国春秋時代の古典の教訓にある、とピルスベリー氏は言う。
「才能と野心を隠し旧体制を油断させて打倒し、復讐を果たす」(養光韜晦)。
しかし西側は中国に民主主義を教え、資本主義メカニズムを教えれば、やがて中国は民主化すると無邪気にも信じてきた。
結果は西側から巨費を借金して軍拡を果たし、貿易では模造品と海賊版がGDPの8%をしめるほどの悪辣さをみせて外貨を稼ぎ、西側の経済を脅かすうえ、ついには覇権の野望を剥き出しにして、南シナ海の岩礁をつぎつぎと埋め立てて人口島を造成し、3000メートルの滑走路を参本もつくり、おおきな軍事的脅威としてアメリカの前に立ちはだかる。
『騙したものが勝つ』というのは中国古来の諺、実践訓令だ。ピルスベリー氏も、気がつくのが遅かった。だが日本の左翼知識人等と異なって気がつくと悔恨するところは正直である。
▽□ ○□ ◇△
書評 しょひょう
雄大な草原が、漢族の入植によって農耕地(漢地化)となったが、
破天荒な環境破壊、文化破壊につながり、内モンゴルは曠野となった
♪
リンチン(仁欽)著
『現代中国の民族政策と民族問題――辺境としての内モンゴル』(集広舎)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
かつて雄大な草原、宏大な牧草地をほこり、のどかに暮らしていたモンゴルの民が、中国共産党の侵略以後、いかなる悲劇に遭遇しなければならなかったか。
近年の日本ではチベットとウィグル問題はかなり頻繁に語られる機会が増えたが、南モンゴル(中国のいう「内蒙古自治区」)についての研究は緒に就いたばかりである。
最近ようやくにして楊海英氏、ボヤント氏の労作が登場し、また在野でも「アジア自由民主連帯協議会」などの活躍があり、人々の目が注がれるようになった。
本国のモンゴルは、ソ連支配下で、徹底的な非民族化教育が行われた結果、じつに驚くべきことに1992年までチンギスハーンはタブーだった。かわりにソ連の占領軍的な親玉ジューコフ将軍が国父のごとく教えられた。
旧ソ連崩壊後、モンゴルではただしい歴史を教えるようになるが、チンギスハーンの文献がないため、わざわざ日本の学者に聞きに来たほどだったのである。
民族の記憶を消すには言語を忘れさせ、歴史を抹殺せよ、というのが戦勝国側の原則である(このあたりの詳しい事情は拙著、宮脇淳子氏との対談「壊死する中国」(ビジネスシャ、11月下旬刊行予定)を参照されたし。
さて「内モンゴル」も例に漏れず、いつのまにか、気がつけば周りはずらり漢族が占め、教育現場でモンゴル語は消え、そしてめちゃくちゃな中華思想の歴史が教え込まれる。この歴史の空白を埋めるための学究が、文献集めやインタビューという、相当な苦労をともなう作業が必要となり、つまり内モンゴルの独自の歴史恢復は途次にある。
もともと清朝時代から「牧草地の開墾」を名目に漢族の入植が始まっていたが、季節的に春、モンゴルへやってきて収獲が終わると帰る「燕行」が主力だった。
それが清朝末からの「借地養民」政策が実施されるや1912年にははやくも漢族の人口比64・5%となっていたのだった。1957年には、全人口936万人のうち、86・7%が、漢族となっていた。驚くべし、この蝗の大群。
そして「放牧地が漸次、浸食されていくのである」(85p)
著者のこの変化を多彩なグラフ、数字、文献で克明に追求する。
言語に関しても革命後しばらくは「公文書」には必ず、少数民族の言語を併記するという保障があった。にもかかわらず、いつのまにか、教科書、各種届け出書類は漢語一色となり、「多数派となった漢族にしたがえ」とばかりに、「モンゴル語を学習する必要性はなくなり、貿易、郵便、銀行および各種の企業幹部においても、モンゴル人幹部も漢語を学習した方が出世や昇進に有利と」なって急速に廃れる。
つまり非モンゴルかが急速に進むのである。
整風運動、反右派闘争、そして大躍進という飢餓の時代を経る過程で、中国はソ連との対決時代を迎えた。
▼中ソ対立時代に、内モンゴルは漢族軍人と青年の生産建設兵団で溢れた
このため「生産大隊」(生産建設兵団)には軍人と漢族の青年知識人が急増するという構造をたどったのが、内モンゴル生産建設兵団の特徴だった。
「中ソ関係の悪化の中で、北方辺疆地域に位置し、しかも、モンゴル人の同胞が国境を挟んでモンゴルやロシア境内に多く移住し、とくにモンゴル人が独立運動、内外モンゴル合併運動を数回に亘り、推進したという歴史をもつ内モンゴルのモンゴル人に対する、中央の警戒心」があった(196p)
そのうえ、農牧場の建設過程で、モンゴルの伝統的農業方法や放牧のノウハウという「特徴や特殊性が無視され、数多くの国営農牧場が建設され(中略)、内モンゴル地域のさらなる漢地化の一つの手段となった」(197p)。
そして文革の悲劇がおこる。
「文化大革命の時期には「民族問題は階級問題」とされ、民族的なものはすべて否定された。
民族言語は「おくれた」「無用な」言語であると否定された。少数民族」教師も当然のこととして迫害、追放された」(151p)
「民族的なものは徹底的に抹殺されて」しまったため環境は激変し、むしろ生産効率は激減し、曠野による砂漠化、取り返しのつかない農地の残骸、そして文化が破壊されてしまった。
たとえばフフホトでは10の小学校が廃校となり、モンゴル語の先生90人の内、三名が(迫害をうけて)死亡、55名が職場を追われ、29名が転勤となった。
「漢地化」された土地は全モンゴルの三分の二と推定され、悲劇は固定されてしまった。
草原は劇的に縮小し、農地は荒れ果て、汚染され、再び放牧に適した、モンゴル人に適切で快適な土地に戻ることは困難だろう。
こうしたモンゴルの悲劇を世界はもっと知るべきではないのか。
◎◎◎
♪
(読者の声1)「日本李登輝友の会」のメルマガ(本日付け)に、「馬英九・総統と習近平・国家主席のシンガポール初会談への疑念」として見解がでており、参考になりますので、再録します。
(引用開始)
「台湾の馬英九総統が11月7日にシンガポールで中国の習近平・国家主席と会談するという。総統府の発表では「双方はいかなる協定にも調印せず、共同声明も発表しない」としている。あくまでも「両岸の平和を強化し、台湾海峡の現状を維持する」と強調している。しかし、強調すればするほどキナ臭さが漂ってくる。
馬総統の終極の目的は「台湾と中国の統一」にある。悲願と言ってもよい。ましてや、中国にとって絶対譲れない核心的利益の第一は台湾であり、「台湾統一」は中国の夢であり悲願でもある。馬英九と習近平の願うところは寸分も違わない。同じ「夢」を抱いている。
来年1月16日に実施される総統選挙と立法委員選挙のW選挙で、中国国民党は昨年11月29日の統一地方選挙に続く歴史的大敗がほぼ確実視されている。
中国国民党の朱立倫候補が勝つ見込みは万が一もない。政権交代はほぼ確実と予想されている。しかし、総統就任式は5月20日。選挙の投開票から総統就任式まで4ヵ月もある。この「魔の4ヵ月」、総統の馬英九は拱手傍観しているのだろうか。
ジャーナリストの迫田勝敏氏は「世界一の金持ち政党といわれる国民党の党資産は馬が握り、総統退任後の影響力維持のために使い方を決めるだろう。馬はまだレイムダックにはなってない」と警告している。
また李登輝元総統も、このW選挙で国民党が大敗すると予測し、馬英九が台湾と中国の「和平協商」(平和条約)の締結にとどまらず「大陸の人民解放軍に台湾を攻撃させることすらあり得る」とさえ指摘しているのだ。
いよいよ馬英九氏は、総統退任後の影響力維持のため、終極統一の「夢」実現に向かって動き出したと疑わざるを得ない。
馬・習会談の報に接し、林建良氏は本日(11月4日)のメルマガ「台湾の声」で「馬英九は退任後の自分を救うために台湾を中国に売り渡すかと疑わざるを得ない」と警告を発するとともに「この密室作業で決まった会談は正当性のないものであり、台湾人はこの会談のいかなる結果をも拒否しなければならない」と呼び掛けた。同感である。
ところで、この会談について、下記に紹介する中央通信社は「1949年に中国国民党が中国共産党との内戦に敗れ、中国大陸から台湾に渡って以来初めて」と報じた。これは事実だ。しかし、見出しは「台湾・中国大陸分断後初」としていた。日本メディアも「1949年の中台分断後初」と報じている。
しかし、分断というなら、戦後、台湾と中国が一緒に統治されていたという事実がなければならない。果たしてそういう事実はあったのだろうか。
蒋介石率いる中華民国と毛沢東率いる中華人民共和国という「2つの中国」が分裂した事実はある。その中華民国が中国共産党の内戦に敗れて台湾に逃げ、台湾を占領していた事実はある。しかし、領土として統治した事実はない。日本が台湾を中国(中華民国)に返還した事実がないからだ。ましてや、中華人民共和国が台湾を統治した事実はない。
台湾は戦後も日本の統治下にあった。台湾の領土主権は日本にあった。1945年以来、中華民国も中華人民共和国も、台湾を領土とした事実はない。だから日本は、1951年9月に署名したサンフランシスコ講和条約で台湾を放棄できたのである。
それにもかかわらず、メディアは歴史を無視して「中台分断」と書く。明らかなミスリードと言ってよい。
(宮崎正弘のコメント)総統選挙狙いが第一の動機であり、直後の世論調査の結果をみたいと想います。
習近平が馬総統との会談に応じるのは国民党の支援です、よ。
さて中国がつぎに考えている手だては台湾企業への嫌がらせ、輸出入での業務妨害、はては台湾観光に押し寄せる300万以上の爆買いツアーの出国制限など、ありとあらゆる手段を行使して、中国と仲良くしないとこうなるという脅しを民進党にかけてくるでしょう。選挙戦、泥仕合の様相になってきました。
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『「中国の終わり」にいよいよ備え始めた世界』
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――経済成長はついに7%を切り、米中首脳会談も完全に失敗に終わった。
――新シルクロード構想やAIIBなども展望が開けず、泥沼化する権力闘争のなかで、追い詰められた習近平は国内統制と軍事覇権の追求にひた走っている。
――各国を丹念に取材してきた著者が、衰退と暴走を繰り返す中国を、ついに切り捨て始めた世界の変化を明らかにし、「習近平Xデー」の可能性と中国の末路を分析する。
――混乱と崩壊へと向かいつつある中国の実態と、今後の世界情勢がわかります。
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――今頃になって日本のマスコミは中国経済の崩壊予測を流し始めているが、バブル崩壊から、人民元の切り下げ、上海株暴落はふたりが以前から予測したとおりで、次におこることは未曾有のシナリオになる、とする。
――凄まじい権力闘争が中国国内で闘われている。日本のマスコミは、なぜ、その裏面をもっとつたえないのだろうか?
――中国論、必読の対話、封切り版。
宮崎正弘のロングセラー
+++++++++++
『アジアインフラ投資銀行の凄惨な末路』(PHP研究所、999円)
『日本が在日米軍を買収し、第七艦隊を吸収・合併する日』(ビジネス社)
『中国、韓国は自滅し、アジアの時代がやってくる!』(海竜社、1080円)
『中国大破綻 ついに失われる20年に突入する』(PHP研究所、1404円)
『日本と世界を動かす悪の「孫子」』(ビジネス社。1188円)
『吉田松陰が復活する』(並木書房、定価1620円)
『中国・韓国を“本気で”見捨て始めた世界』(徳間書店 1080円)
『台湾烈々 世界一の親日国家がヤバイ』(ビジネス社、1188円)
『「中国の時代」は終わった』(海竜社、定価1080円)
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宮崎正弘 v 室谷克実『日本に惨敗し ついに終わる中国と韓国』(徳間書店)
宮崎正弘 v 小川榮太郎『保守の原点』(海竜社。1620円)
宮崎正弘 v 室谷克実『仲良く自滅する中国と韓国』(徳間書店)
宮崎正弘 v 川口マーン惠美『なぜ中国人とドイツ人は馬が合うのか?』(ワック)
宮崎正弘 v 石平『2015年 中国の真実』(ワック、シリーズ第五弾)
宮崎正弘 v 大竹慎一『中国崩壊で日本はこうなる』(1512円。徳間書店)
宮崎正弘 v 西部遭『日米安保五十年』(海竜社)
宮崎正弘 v 黄文雄『世界が知らない中国人の野蛮』(徳間書店)
宮崎正弘 v 佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本』(海竜社)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
(C)有限会社宮崎正弘事務所 2015 ◎転送自由。転載の場合、出典を明示
平成27年(2015)11月5日(木曜日)
通算第4717号 <前日発行>
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だが中国の指導者は本音をふせて、芝居を演じてきたのだ。
しかし本当の中国の夢とは習近平のいう「愛国主義による中華民族の復興」の言葉の浦に隠されている。革命から百年後の2049年に、中国がアメリカを打倒し、世界の覇者となる」という野望を。これが中国の『百年マラソン』である。
この発想の基本は中国春秋時代の古典の教訓にある、とピルスベリー氏は言う。
「才能と野心を隠し旧体制を油断させて打倒し、復讐を果たす」(養光韜晦)。
しかし西側は中国に民主主義を教え、資本主義メカニズムを教えれば、やがて中国は民主化すると無邪気にも信じてきた。
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リンチン(仁欽)著
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@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
かつて雄大な草原、宏大な牧草地をほこり、のどかに暮らしていたモンゴルの民が、中国共産党の侵略以後、いかなる悲劇に遭遇しなければならなかったか。
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旧ソ連崩壊後、モンゴルではただしい歴史を教えるようになるが、チンギスハーンの文献がないため、わざわざ日本の学者に聞きに来たほどだったのである。
民族の記憶を消すには言語を忘れさせ、歴史を抹殺せよ、というのが戦勝国側の原則である(このあたりの詳しい事情は拙著、宮脇淳子氏との対談「壊死する中国」(ビジネスシャ、11月下旬刊行予定)を参照されたし。
さて「内モンゴル」も例に漏れず、いつのまにか、気がつけば周りはずらり漢族が占め、教育現場でモンゴル語は消え、そしてめちゃくちゃな中華思想の歴史が教え込まれる。この歴史の空白を埋めるための学究が、文献集めやインタビューという、相当な苦労をともなう作業が必要となり、つまり内モンゴルの独自の歴史恢復は途次にある。
もともと清朝時代から「牧草地の開墾」を名目に漢族の入植が始まっていたが、季節的に春、モンゴルへやってきて収獲が終わると帰る「燕行」が主力だった。
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そして「放牧地が漸次、浸食されていくのである」(85p)
著者のこの変化を多彩なグラフ、数字、文献で克明に追求する。
言語に関しても革命後しばらくは「公文書」には必ず、少数民族の言語を併記するという保障があった。にもかかわらず、いつのまにか、教科書、各種届け出書類は漢語一色となり、「多数派となった漢族にしたがえ」とばかりに、「モンゴル語を学習する必要性はなくなり、貿易、郵便、銀行および各種の企業幹部においても、モンゴル人幹部も漢語を学習した方が出世や昇進に有利と」なって急速に廃れる。
つまり非モンゴルかが急速に進むのである。
整風運動、反右派闘争、そして大躍進という飢餓の時代を経る過程で、中国はソ連との対決時代を迎えた。
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このため「生産大隊」(生産建設兵団)には軍人と漢族の青年知識人が急増するという構造をたどったのが、内モンゴル生産建設兵団の特徴だった。
「中ソ関係の悪化の中で、北方辺疆地域に位置し、しかも、モンゴル人の同胞が国境を挟んでモンゴルやロシア境内に多く移住し、とくにモンゴル人が独立運動、内外モンゴル合併運動を数回に亘り、推進したという歴史をもつ内モンゴルのモンゴル人に対する、中央の警戒心」があった(196p)
そのうえ、農牧場の建設過程で、モンゴルの伝統的農業方法や放牧のノウハウという「特徴や特殊性が無視され、数多くの国営農牧場が建設され(中略)、内モンゴル地域のさらなる漢地化の一つの手段となった」(197p)。
そして文革の悲劇がおこる。
「文化大革命の時期には「民族問題は階級問題」とされ、民族的なものはすべて否定された。
民族言語は「おくれた」「無用な」言語であると否定された。少数民族」教師も当然のこととして迫害、追放された」(151p)
「民族的なものは徹底的に抹殺されて」しまったため環境は激変し、むしろ生産効率は激減し、曠野による砂漠化、取り返しのつかない農地の残骸、そして文化が破壊されてしまった。
たとえばフフホトでは10の小学校が廃校となり、モンゴル語の先生90人の内、三名が(迫害をうけて)死亡、55名が職場を追われ、29名が転勤となった。
「漢地化」された土地は全モンゴルの三分の二と推定され、悲劇は固定されてしまった。
草原は劇的に縮小し、農地は荒れ果て、汚染され、再び放牧に適した、モンゴル人に適切で快適な土地に戻ることは困難だろう。
こうしたモンゴルの悲劇を世界はもっと知るべきではないのか。
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(読者の声1)「日本李登輝友の会」のメルマガ(本日付け)に、「馬英九・総統と習近平・国家主席のシンガポール初会談への疑念」として見解がでており、参考になりますので、再録します。
(引用開始)
「台湾の馬英九総統が11月7日にシンガポールで中国の習近平・国家主席と会談するという。総統府の発表では「双方はいかなる協定にも調印せず、共同声明も発表しない」としている。あくまでも「両岸の平和を強化し、台湾海峡の現状を維持する」と強調している。しかし、強調すればするほどキナ臭さが漂ってくる。
馬総統の終極の目的は「台湾と中国の統一」にある。悲願と言ってもよい。ましてや、中国にとって絶対譲れない核心的利益の第一は台湾であり、「台湾統一」は中国の夢であり悲願でもある。馬英九と習近平の願うところは寸分も違わない。同じ「夢」を抱いている。
来年1月16日に実施される総統選挙と立法委員選挙のW選挙で、中国国民党は昨年11月29日の統一地方選挙に続く歴史的大敗がほぼ確実視されている。
中国国民党の朱立倫候補が勝つ見込みは万が一もない。政権交代はほぼ確実と予想されている。しかし、総統就任式は5月20日。選挙の投開票から総統就任式まで4ヵ月もある。この「魔の4ヵ月」、総統の馬英九は拱手傍観しているのだろうか。
ジャーナリストの迫田勝敏氏は「世界一の金持ち政党といわれる国民党の党資産は馬が握り、総統退任後の影響力維持のために使い方を決めるだろう。馬はまだレイムダックにはなってない」と警告している。
また李登輝元総統も、このW選挙で国民党が大敗すると予測し、馬英九が台湾と中国の「和平協商」(平和条約)の締結にとどまらず「大陸の人民解放軍に台湾を攻撃させることすらあり得る」とさえ指摘しているのだ。
いよいよ馬英九氏は、総統退任後の影響力維持のため、終極統一の「夢」実現に向かって動き出したと疑わざるを得ない。
馬・習会談の報に接し、林建良氏は本日(11月4日)のメルマガ「台湾の声」で「馬英九は退任後の自分を救うために台湾を中国に売り渡すかと疑わざるを得ない」と警告を発するとともに「この密室作業で決まった会談は正当性のないものであり、台湾人はこの会談のいかなる結果をも拒否しなければならない」と呼び掛けた。同感である。
ところで、この会談について、下記に紹介する中央通信社は「1949年に中国国民党が中国共産党との内戦に敗れ、中国大陸から台湾に渡って以来初めて」と報じた。これは事実だ。しかし、見出しは「台湾・中国大陸分断後初」としていた。日本メディアも「1949年の中台分断後初」と報じている。
しかし、分断というなら、戦後、台湾と中国が一緒に統治されていたという事実がなければならない。果たしてそういう事実はあったのだろうか。
蒋介石率いる中華民国と毛沢東率いる中華人民共和国という「2つの中国」が分裂した事実はある。その中華民国が中国共産党の内戦に敗れて台湾に逃げ、台湾を占領していた事実はある。しかし、領土として統治した事実はない。日本が台湾を中国(中華民国)に返還した事実がないからだ。ましてや、中華人民共和国が台湾を統治した事実はない。
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それにもかかわらず、メディアは歴史を無視して「中台分断」と書く。明らかなミスリードと言ってよい。
(宮崎正弘のコメント)総統選挙狙いが第一の動機であり、直後の世論調査の結果をみたいと想います。
習近平が馬総統との会談に応じるのは国民党の支援です、よ。
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『中国、韓国は自滅し、アジアの時代がやってくる!』(海竜社、1080円)
『中国大破綻 ついに失われる20年に突入する』(PHP研究所、1404円)
『日本と世界を動かす悪の「孫子」』(ビジネス社。1188円)
『吉田松陰が復活する』(並木書房、定価1620円)
『中国・韓国を“本気で”見捨て始めた世界』(徳間書店 1080円)
『台湾烈々 世界一の親日国家がヤバイ』(ビジネス社、1188円)
『「中国の時代」は終わった』(海竜社、定価1080円)
『中国共産党、三年以内に崩壊する!?』(海竜社、1080円)
『中国バブル崩壊が始まった』(海竜社、1080円)
『中国 大嘘つき国家の犯罪』(文芸社文庫、713円)
<宮崎正弘の対談シリーズ>
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宮崎正弘 v 渡邊哲也『激動する世界経済!』(ワック、994円)
宮崎正弘 v 室谷克実『日本に惨敗し ついに終わる中国と韓国』(徳間書店)
宮崎正弘 v 小川榮太郎『保守の原点』(海竜社。1620円)
宮崎正弘 v 室谷克実『仲良く自滅する中国と韓国』(徳間書店)
宮崎正弘 v 川口マーン惠美『なぜ中国人とドイツ人は馬が合うのか?』(ワック)
宮崎正弘 v 石平『2015年 中国の真実』(ワック、シリーズ第五弾)
宮崎正弘 v 大竹慎一『中国崩壊で日本はこうなる』(1512円。徳間書店)
宮崎正弘 v 西部遭『日米安保五十年』(海竜社)
宮崎正弘 v 黄文雄『世界が知らない中国人の野蛮』(徳間書店)
宮崎正弘 v 佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本』(海竜社)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
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