地下350メートル北海道最北の地、稚内市から南へ約50キロの高レベル放射性廃棄物埋立地 | 日本のお姉さん

地下350メートル北海道最北の地、稚内市から南へ約50キロの高レベル放射性廃棄物埋立地

2015.10.19 12:00
【高レベル放射性廃棄物の最終処分(5)提供:NUMO】
地下350メートルの世界 「核のごみ」はどう処分するのか
【現世代が向き合うべき課題「高レベル放射性廃棄物」最終処分
http://www.sankei.com/economy/news/151019/ecn1510190005-n1.html

幌延深地層研究センター(北海道幌延町)提供:日本原子力研究開発機構

地下350メートルとは、いったいどんな世界なんだろう。あの日本のシンボル、東京タワー(高さ333メートル)がすっぽり入る深さである。そんな地下奥深くで今、わが国のエネルギー政策の「未来」にかかわる壮大な実験と研究が続けられているのをご存じだろうか。現役大学生の論客、山本みずきとともに、北海道にある研究施設を訪れ「核のごみ」の最終処分について考える。

その場所は、北海道最北の地、稚内市から南へ約50キロ、酪農が主産業という幌延町にあった。施設の名称は「幌延深地層研究センター」。原子力発電所から出た使用済燃料を再処理した後に発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下深くに埋めて処分する「地層処分」の技術に関して、国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」が平成13年からこの場所で調査研究している。

幌延深地層研究センター(北海道幌延町)提供:日本原子力研究開発機構


敷地面積19万平方メートルという広大な丘陵地に、2棟の研究施設と地下に通じる3本の立坑、ハコ型の排水処理施設、道路を挟んで少し離れた場所には掘削時に出た土を盛り土にしたズリ置き場がある。町の中心部からは4キロ離れているが、隣接地にはトナカイ観光牧場もあり、北海道の大自然を肌で感じられるイメージ通りの場所である。
今回は地下施設の取材ということで、さっそくヘルメットと長靴、軍手とつなぎ服に着替え、センター西側の立坑へ向かった。定員11人の工事用エレベーターに乗り、いよいよ地下350メートルの最深部へ。安全確保のため、鉄柵のゴンドラがゆっくりと動き出す。エレベーターの明かりを消すと、真っ暗闇の世界が広がる地下へと吸い込まれていく。息をのむような静けさと暗闇が緊張感をさらに増幅させる。到着までの4分30秒という時間がいつもより長く感じたのは気のせいか。ほぼ同じ高さの東京タワーを上ったときとは、まるで異なる感覚だった。

最深部へ到着し、エレベーターを降りると、そこは奥へと続く半円状のトンネル「水平坑道」の入り口だった。坑道の幅は約4メートル、高さは約3メートル。3本の立坑を「8」の字を描くように横に結んでつながっており、総延長は約800メートルにもなるという。ここでは坑道の掘削が周辺の地層や地下水に与える影響などを調査するほか、地震による長期的な影響の観測や、高レベル放射性廃棄物の処分を想定した模擬実験なども行う。

エレベーターで地下350メートルへ。案内して頂いた日本原子力研究開発機構の棚井憲治さん


核のごみは、原発の運転により生じた使用済燃料から、燃料として再利用するプルトニウムやウランを取り出した後に残った廃液である。この廃液は放射能レベルが高く、元々の燃料の原料になった天然ウラン鉱石並の放射能レベルにまで下がるには数万年もの時間がかかるとされる。
このため、処分にあたっては廃液を融けたガラスと高温で混ぜ合わせてステンレス製の金属製容器(キャニスター)に入れ、冷やし固めて「ガラス固化体」にし、地下300メートルより深い地下の岩盤に埋める。その際、厚さ約20センチの炭素鋼(オーバーパック)に包んで、さらにベントナイトという粘土を主成分とした厚さ70センチの緩衝材で覆う「人工バリア」をつくり、火山活動や地殻変動などの影響が少ない安定した地質を選んで埋める考えだ。



地下350メートルの空間は、地上よりも少し蒸し暑い。坑道を進んで行くと、トンネルの壁から漏れ出た地下水が散見される。しばらくすると、トンネル内壁の一部分だけコンクリートが吹き付けられていない個所があった。「ここは見学者にこの辺りの地層を観察してもらうために、わざと窓のようにくり抜いています。およそ500万年前に堆積したと推定される泥岩の地質を見ることができます」。案内役を務めてくれた同機構研究計画調整グループの棚井憲治さんが説明してくれた。センターでは「幌延の窓」と呼んでいる場所だが、地質に詳しい人であれば、太古の昔、この辺りが海の底だったことが分かる地層らしい。事実、掘削工事に伴い、貝類の化石も多く見つかったという。

「幌延の窓」実際の岩盤を見て触れることができる


幌延の地層には、地下水脈も多く、掘削工事中には地下水が溢れ、中断することもあった。平成25年2月には、毎時60立方メートルもの湧水量を記録し、一週間も工事の中断を余儀なくされている。大量の湧水が確認された場所は、今は止水対策により湧水が抑えられており、滴水を防ぐためにブルーシートが施されていた。なお、坑道を掘ると圧力差から必然的に地下水がそこに出てくるが、埋め戻すと地下水は元通りほとんど動かなくなるという。
核のごみの最終処分にあたって、地下水は人工バリアの劣化を助長し、長期保管する上で厄介な「敵」でもある。このため、核のごみを包むオーバーパックは、腐食に耐えられるよう十分に厚みを持たせている。

「約3センチ腐食するのにおよそ1千年はかかる。仮に地下水と接触しても、ガラスは水に溶けにくい性質がある。仮に溶けたとしても、地表に放射性物質が到達するまでには、地下深部の水の動きは非常に遅いといった理由により何十万年もの時間がかかり、結果的に地上の生活環境における放射線量は自然界に存在するよりもはるかに小さいレベルまで下がっている」。棚井さんは安全性をこう強調した。

オーバーパックはガラス固化体と地下水との接触を防止する


坑道の入り口から数百メートル奥へ進むと、「試験孔」と呼ばれる大きな穴がある。直径2・4メートル、深さ4・2メートルの巨大な穴では、実物大のオーバーパックとそれを覆う緩衝材を使って実験している。センターでは放射性物質を使った実験は行っていないため、ガラス固化体の代わりに電熱ヒーターを内蔵した模擬オーバーパックを使用。これを緩衝材で覆って地中に埋めた後、埋め戻し材で坑道を埋め戻し、さらに「プラグ」と呼ばれる3メートルの分厚いコンクリートで蓋をする。実験では、地下水を送り込んで、人工バリアや周囲の岩盤の温度、水質、応力などの変化を設置した約200基のセンサーで計測し、地下水への影響や緩衝材の施工に問題が発生しないかなどを観測するという。

地下水を注水しながら、模擬オーバーパックの腐食の状況を検証


安定した岩盤と人工物を組み合わせた「多重バリアシステム」。同機構が安全性の確保に絶対の自信をみせる地層処分だが、最終処分地はまだ何も決まっていない。
政府は今年5月、原発に伴い発生する「核のごみ」の最終処分をめぐり、基本方針を7年ぶりに改定した。国が前面に立って取り組むとして、具体的には、地層処分をするうえで科学的により適性の高い地域「科学的有望地」を示すこととした。国民的議論を喚起しようという狙いだ。

だが、世界を見渡しても最終処分地が正式に決まったのは、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国だけ。いずれの国もこの問題の解決には苦慮しており、日本も例外ではない。

特に日本では、福島第一原発事故を契機に国民の多くが「原発アレルギー」に陥ったことが大きい。そもそも、既に生じた核のごみの最終処分と、原発再稼働をめぐる議論は別物のはずだが、この2つの問題をごちゃ混ぜにして多くの人が「原発」や「核」という言葉だけに過剰反応を示してはいないだろうか。いや、むしろ日本が直面する核のごみの処分という「至上命題」に対し、現世代が目を背けているだけで、未来世代に「解決」を先送りしているだけではないのか。



地下施設の見学が終わり、地上に戻ってくると、これまで抱いてきた疑問がふつふつと湧いてきた。「地震大国」の日本に地層処分は現実的ではないという否定的な見方もある。だが、最もあてにならないのは、戦争もすれば、テロも起こす「人間」だということも忘れてはならない。

たとえ今は平行線であっても、反対派、賛成派がそれぞれの立場で意見を出し合えばいい。国民一人ひとりが核のごみから目をそらすことなく、自分たちの身に置き換えて建設的な議論をしていくことこそ、いまできる唯一の解決策になるのかもしれない。(iRONNA編集長、白岩賢太)

20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分
20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分」

わが国には、原発から出た「核のごみ」がどれだけあるかご存じだろうか。現在、使用済燃料は1万7千トンにも達している。この使用済燃料に由来する「核のごみ」をどう処分するのか。いま、日本が直面する大きな課題でもある。北海道幌延町にある国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」の幌延深地層研究センターを訪れた現役大学生の論客、山本みずきが「核のごみ」について考える。

――政府は平成12年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を定め、核のごみを地下300メートルより深く安定した地層に処分する「地層処分」の方針を決めました。現在、核のごみをいかに安全に処分するか、技術的な検討が続いていますが、そもそも原発の運転から生じる核のごみについて、山本さんはどんなイメージをお持ちですか?

山本 人間の身体に害のある、近づきがたいイメージがあります。核のごみに対するアレルギーが私の中で支配的になっているのも事実です。とは言っても、日常生活の中で放射性廃棄物というのは遠い存在であり、いつも恐怖心を抱いていることはありません。友人との会話の中で核のごみについて触れることなんてありませんし、なんとなくですが、悪いイメージだけが先行しているような気はします。

それでも今回の施設見学を通して感じたのは、原子力研究開発機構が安全面には非常に配慮した上で慎重に研究を進めているということが理解できました。ただ、核のごみを安全に処分できるかどうかの評価については、やはり私自身の知識が乏しいこともあり、「核のごみとは何か」という基礎をしっかり理解した上で、ゆっくり考えてみたいと思っています。

――幌延深地層研究センターでは、地層処分の実験場所が地下350メートルという、普段の生活では立ち入らない場所を見学しました。実際、地下の調査坑道を見学してみて、どんな印象を持たれましたか?

山本 当たり前ですが、めちゃくちゃ深いなと思いました(笑)。最深部に行くまでには工事用エレベーターを使って片道約4分ほどかかります。そして見学を終えて、また地上に戻る時には、東京ディズニーシーのアトラクション「タワー・オブ・テラー」に乗っていたような不思議な感覚でした(笑)。地下トンネルの中では、核のごみを包むオーバーパック、緩衝材といった「人工バリア」の施工工程を間近で見ることができましたが、とにかく安全性に配慮した設計と施工の段取りになっており、私の想像以上に安全面に気を使ったシステムになっているという発見もありました。
特に印象に残っているのは、私たちを案内してくれた担当者の方の「あくまで幌延町は研究開発拠点である」という言葉です。幌延の施設は、あくまで地層の研究と処分技術の開発を進める場所であり、最終処分場になることはないということも、改めて知ることができました。この点については、まだ多くの人が誤解していると思いますし、こういう機会を通して皆さんにもぜひ知っていただきたいとも思います。

――現在の科学技術では、日本に限らず先進国も含めて、地層処分が最も妥当な手段であると考えられています。半面、技術は確立しても、核のごみを受け入れる場所の選定をめぐっては、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国以外に決定した例がないのも事実です。

実際に建設する地下坑道の総延長は、研究施設の300倍250キロメートルにおよぶ



山本 現代の科学力で最適な方法が地層処分であるのならば、それは早い段階で実現に向けて動くべきだと思います。そもそも、高レベル放射性廃棄物をいずれ処分しなければならないことは、原発を動かす前から分かりきっていたことだと思います。国や電力事業者だけでなく、私たち国民一人ひとりがこの問題の解決を先送りにしてきたツケが回ってきたというのが今の状態なんだと思います。だからこそ、私たちはこの問題から目をそむけてはならないのではないでしょうか。

わが国では原発そのものに反対する方が多いと思いますが、それでもこれまでは多くの人が原発の恩恵を享受してきたという事実もあると思います。もちろん、東京電力福島第一原発の事故以来、国や電力事業者に対する不信感は今も強烈にあります。たとえ国の発信している媒体などで数値が提示され、理解を求められたとしても、「どこかに嘘が隠されているのではないか?」と思えるほどの不信感は、正直言って拭い去ることは難しいかもしれません。正しい情報を受け入れようとしないのは国民の責任とは言えないと思います。国は教育や広報活動などを通して、次世代と呼ばれる層も含めて、真摯にアプローチし、正しい情報を理解できる人を増やす努力を重ねるべきです。
ただ、原発再稼働と既に生じた核のごみをどう処分するかは、全く別の議論です。核のごみの最終処分という問題については、私たち現世代が現実から目をそらすのはあまりに無責任ですし、少なくとも私は自分より後の世代に問題解決を押し付けるようなことはしたくありません。

――政府は今年5月、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する基本方針を7年ぶりに改定しました。自治体からの応募を待つ従来の方式から、国が科学的により適性が高いと考えられる地域「科学的有望地」を示し、国民的議論を喚起しようとする方針に転換しました。近い将来、国からこの「科学的有望地」が提示される見通しですが、国民の理解が広がらなければ、一向に進展しない可能性だってあります。より多くの人に理解を深めてもらうにはどうすればいいのでしょうか?

山本 この問題を理解するためには、当然のことながら国が積極的かつ丁寧に説明を続けることが不可欠です。ただ一方で、私たちも努力して勉強する必要があると思います。何が正しい情報なのか、何が誤った情報なのかを理解できるようにならなくては、理性的な判断を下すことができないと思います。国や電力事業者だけが努力をすればいいという話では決してありません。もちろん、反対や賛成の立場はそれぞれあるでしょうが、まずは私たち自身がこの問題について知ろうとする努力をしていかなければならないのではないでしょうか?両者の意見を聞いて比較検討し、もし反対するのなら現行の政策に対する代案を出すということまでしなければいけないと思います。これは地層処分に限らず全ての問題に対して言えることです。候補地が選定され、本格的に処分場が決定されるまでの18年以上の期間をつかって議論を深めるためには、国民一人ひとりが適確な判断力を身につけることが重要です。そのためにはもちろん専門的なことから、自分の意見を絶対的なものとせず、柔軟にさまざまな価値観に触れられる人材を形成していけるかが重要です。国や電力事業者からは、それを手助けする形で、何かしらアプローチがあるといいですね。

もう一つは、メディアにもこの問題を積極的に取り上げてもらう必要があります。私たちが自分たちの問題として核のごみの最終処分を考える、あるいは知ることのできる環境をつくっていくことが求められると思います。その上で、議論を深めるために、基礎的な知識を教えるような学校教育カリキュラムをつくったり、学校教育を終えた人々が今からでも学ぶためのシンポジウムを積極的に開催してみてはどうでしょうか? 知識を一方的に提供するだけではなく、地層処分の意義や問題点について、両方の立場の意見を聞ける場や発信できる機会が増えればいいなと思います。

《プロフィール》

■山本みずき(やまもと・みずき)慶應義塾大学法学部。1995年、福岡県生まれ。高校時代は生徒会長などを務め福岡市親善大使として活動する一方、ボランティア活動団体「Peaces」を設立。高校2年の時には、ジュネーブの国連欧州本部で世界的な軍縮を英語でスピーチした。2013年、「18歳の宣戦布告」(月刊正論2013年5月号)で論壇デビュー。現在は慶應義塾大学法学部政治学科に在籍する傍ら、国内外で講演・執筆活動に取り組む。iRONNA特別編集長としても活躍中
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