「中国に対抗する意志の強さ」(ボニー・グレーザー米 戦略国際問題研究所上級研究員)
「中華秩序」の構築抑止へベトナムの「力」を
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宇都宮 尚志
中国の究極的なアジア戦略は、アメリカを排除し、東・南シナ海を支配下に置き、周辺国を従える「中華秩序」の構築を狙うものであろう。
これに対抗するには、日米同盟の強化に加えて、東南アジア諸国連合(ASEAN)で利害の共通する国々と連帯を強めていく必要がある。
そ の基準となるのが「中国に対抗する意志の強さ」(ボニー・グレーザー米 戦略国際問題研究所上級研究員)であるとすれば、ベトナムは日米が連携 する相手としてまさにふさわしい国だ。
ベトナムの最高指導者、グエン・フー・チョン共産党書記長が先月、日本で安倍晋三首相と会談し、防衛・安全保障分野などでの協力で合意した。
これに先立つ7月には初訪米し、オバマ大統領と会談、安保を含む協力拡大をアピールした。中国が東・南シナ海で海洋覇権を強める中、日米越が関係を強化する動きだといえる。
今年は「ベトナム戦争終結40年」「米越国交回復20年」、さらに日 本やフランスからの「独立70年」にあたる。
その節目に「親中派」とさ れる最高指導者が日米を訪れた意味は大きい。
成立した安保法に対して も、ベトナムは、日本が平和と安定に果たす役割に強い支持を表明している。
ここ数年、中国の影響力が拡大する中で、ASEANの内部には“ズレ”が目立ち始めている。
カンボジアやラオス、タイなどが経済力に期待して中国に傾斜するのに対し、南シナ海での領有権問題で対立するベトナムやフィリピンなどは反発を強める。
その足並みの乱れが、中国につけ入る隙を与えている。
ベトナムはこれまで米中の間でバランス外交を展開してきた。
しかし、南シナ海で相次いだ中国船によるベトナム船への体当たりなどの挑発行為が、ベトナムに「中国の脅威」を再認識させた。
今回の日米への“接近”について、グレーザー研究員は、ベトナムが中国と事を構えた場合のコストの大きさを考えれば、「米国との関係を中国への圧力に使うことはあっても、中国を敵に回してまで米国と連帯することはない」との見方を示している(『中央公論』10月号)。しかし、ベトナムがひ弱な「小国」かといえば、決してそうではない。
1千年にわたって中国の圧力にさらされたベトナムは、苛烈な歴史の中で人々の独立心を鍛え上げてきた国だ。
それが抗仏戦争のディエンビエンフーでの勝利(1954年)や、米国を撤退に追い込みサイゴンを陥落さ せたベトナム戦争(75年終結)、中国側にも大きな損害を出した中越戦 争(79年)などに結びついていることを忘れてはならないだろう。
東京国際大学の村井友秀教授は「ベトナムの対中抑止力の源泉は、軍事力よりも戦争になれば最後の一人まで戦うという国民の意志である」(「正論」9月28日付)と指摘している。
ベトナムが中国へ傾斜しないようにするためには、ベトナムが重視する経済分野でも協力関係を強化する必要がある。
さらにフィリピンやインド、オーストラリアなどと連携し、中国への「対抗軸」形成を急ぐべきだ。
(論説委員)
産経ニュース【一筆多論】2015.10.3
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宇都宮 尚志
中国の究極的なアジア戦略は、アメリカを排除し、東・南シナ海を支配下に置き、周辺国を従える「中華秩序」の構築を狙うものであろう。
これに対抗するには、日米同盟の強化に加えて、東南アジア諸国連合(ASEAN)で利害の共通する国々と連帯を強めていく必要がある。
そ の基準となるのが「中国に対抗する意志の強さ」(ボニー・グレーザー米 戦略国際問題研究所上級研究員)であるとすれば、ベトナムは日米が連携 する相手としてまさにふさわしい国だ。
ベトナムの最高指導者、グエン・フー・チョン共産党書記長が先月、日本で安倍晋三首相と会談し、防衛・安全保障分野などでの協力で合意した。
これに先立つ7月には初訪米し、オバマ大統領と会談、安保を含む協力拡大をアピールした。中国が東・南シナ海で海洋覇権を強める中、日米越が関係を強化する動きだといえる。
今年は「ベトナム戦争終結40年」「米越国交回復20年」、さらに日 本やフランスからの「独立70年」にあたる。
その節目に「親中派」とさ れる最高指導者が日米を訪れた意味は大きい。
成立した安保法に対して も、ベトナムは、日本が平和と安定に果たす役割に強い支持を表明している。
ここ数年、中国の影響力が拡大する中で、ASEANの内部には“ズレ”が目立ち始めている。
カンボジアやラオス、タイなどが経済力に期待して中国に傾斜するのに対し、南シナ海での領有権問題で対立するベトナムやフィリピンなどは反発を強める。
その足並みの乱れが、中国につけ入る隙を与えている。
ベトナムはこれまで米中の間でバランス外交を展開してきた。
しかし、南シナ海で相次いだ中国船によるベトナム船への体当たりなどの挑発行為が、ベトナムに「中国の脅威」を再認識させた。
今回の日米への“接近”について、グレーザー研究員は、ベトナムが中国と事を構えた場合のコストの大きさを考えれば、「米国との関係を中国への圧力に使うことはあっても、中国を敵に回してまで米国と連帯することはない」との見方を示している(『中央公論』10月号)。しかし、ベトナムがひ弱な「小国」かといえば、決してそうではない。
1千年にわたって中国の圧力にさらされたベトナムは、苛烈な歴史の中で人々の独立心を鍛え上げてきた国だ。
それが抗仏戦争のディエンビエンフーでの勝利(1954年)や、米国を撤退に追い込みサイゴンを陥落さ せたベトナム戦争(75年終結)、中国側にも大きな損害を出した中越戦 争(79年)などに結びついていることを忘れてはならないだろう。
東京国際大学の村井友秀教授は「ベトナムの対中抑止力の源泉は、軍事力よりも戦争になれば最後の一人まで戦うという国民の意志である」(「正論」9月28日付)と指摘している。
ベトナムが中国へ傾斜しないようにするためには、ベトナムが重視する経済分野でも協力関係を強化する必要がある。
さらにフィリピンやインド、オーストラリアなどと連携し、中国への「対抗軸」形成を急ぐべきだ。
(論説委員)
産経ニュース【一筆多論】2015.10.3