どうなっているの?北朝鮮の拉致問題
救出に向け朝鮮総連解散新法を
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西岡 力
■6月に権力中枢で何があったのか
ご承知の通り、北朝鮮は7月に「調査結果」を出さなかった。
特別調査 委員会を設置して1年になる7月4日の2日前、7月2日に北京の大使館ルートで「全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが、今しばらく時間がかる」と連絡 してきた。
6月号で報告したように、金正恩政権は日本が総連幹部への捜査を続 け、拉致問題を国連に持ち込むことを続けるなら「政府間対話が困難になっている」 (4月2日在中北朝鮮大使館からの通知)などと拉致被害者の調査を中断するぞと脅して いた。
一方、安倍総理は今年に入ってからの北朝鮮との水面下の協議で、拉致被害者の帰国が最優先という姿勢を堅持して「拉致問題が解決しなければ北朝鮮は未 来を描くことが困難だと認識させる」(4月3日、家族会との面会)と繰り返し語って きた。
これを指して私は「気合いと気合いのぶつかり合い」と書いた。
ところが、安倍総理は北朝鮮が報告を延期したことを受けて、遺憾だとしながらも、一年前に緩めた制裁の再発動や、追加制裁の発動を行わず、ただ働き かけを強めるとだけ話している。
このままでは未来を描くことが困難だという、自身 の発言の実効性が疑われるのではないかと心配される。
家族会・救う会・拉致議連は 7月22日に開催した緊急国民集会で、被害者一括帰国の期限を切ってそれが実現しな い場合、強力な制裁を実施せよと決議したが、安倍総理は7月30日、参議院の平和安 全特別委員会で塚田一郎議員の質問に答えて次のように答弁した。
〈制裁は制裁を使うことによっていわば効果を発揮する。かつ制裁を解除していくことによって、カードとして使える。
(略)今回、新たな調査が開始した 段階において、我々はそのスタートにおいて、国際社会とと
もに行っているものとは 別に一部を解除している訳ですが、確かに制裁を強化せよという声はある訳ですが、 やっとつかんだ糸口は離してはならないという観点から、北朝鮮側にしっかりとした 誠実な正直な対応を促していくべくさらに努力を続ける考えであります〉。
「やっとつかんだ糸口は離してはならない」ので制裁強化を現段階では行わないと明言している。
一方、金正恩も自分の方から協議を切ることはしない。繰り返し、「誠実にストックホルム合意を履行している」と表明し続けている。
8月6日、マレーシア で開催されたASEAN関連外相会議に出席した李洙●(土ヘンに庸、リ・スヨン)北朝鮮 外相も岸田外相に「ストックホルム合意に基づき特別調査委員会は調査を誠実に履 行している」と語った。
なお、岸田外相は「昨年5月の日朝合意の履行を求めつつ、日本国内の 懸念を伝え、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」という。
やはり6 月号拙稿で報告したように、これまで外務省は、「合意の履行」すなわち、調査報告 の提出を求めてきた。
それでは、あたかも死亡報告でもいいから早く出せと北朝鮮側 にいっているように聞こえるから危険だと、家族会・救う会は、「求めるのは報告書 ではなく生存者全員の帰国である」という運動方針を今年3月に決め、政府にもその ような交渉をするように繰り返し申し入れしてきた。
今回、岸田外相が「一日も早い 全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」のであれば、我々の運動方針が反映されたこ とになる。
■互いに席を立たずに睨み合い続く
7月以降の構図は、安倍総理は未来を描くことが困難になると脅しながら、追加制裁をかけない、金正恩も対話が出来なくなっていると脅しながら、水面下 の対話を続ける。
お互いに、昨年から始まった協議を切りたくないのだ。
言い換える と、この協議で獲得したいものがお互いに残っているので席を立たないのだ。
安倍政権にとって最優先で採りたいものは、もちろん、拉致問題の解決、すなわち、最低限でも認定未認定にかかわらず全被害者の帰国だ。
安倍総理は現 在水面下で行われている自身の側近まで使った協議の中身をみて、まだ、金正恩政権 が被害者を返す可能性が残っていると判断しているのだろう。
それが「糸口は離して はならない」発言の背景だろう。
それでは金正恩は何を狙っているのか。
彼にも安倍政権から獲得したいものがある。
だから、「未来を描くことが困難」などという主体思想からすると受 け入れがたい侮辱の言葉を安倍総理が吐いているにもかかわらず、協議を打ち切ら ず、また、安倍総理に対する名指しの非難をかなり抑えている。
それでいながら、安倍 総理が求める全被害者を返すという決断はしていない。
また、工作機関が準備してき た偽遺骨などを使って新たな死亡報告を出すことも決断していない。
5月の時点で「調査結果」を出す準備をしていたことは複数の異なる情 報源から確認できていたので、6月に新たな方針が決まったと思われる。
6月に北朝鮮 権力中枢で何があったのか。
この間救う会が集めた情報の一部
を披露したい。実は、 もっと多くの内部情報が集まっている。
北朝鮮の権力最高位層は、金正恩に対する忠 誠心が極度に落ち、いつ粛清されるか分からないという恐怖の中で、高級情報をカネ にかえたいと大多数が考えている。
今くらい、北朝鮮に対する情報活動が進めやすい時期はない。
■北側が示した5項目情報
6月の報告延期決定に、救う会の情報活動が決定的な影響を与えていた らしい。
そのことも合わせてこの間救う会が入手した、複数の情報源から確認が取れ たほぼ確実な情報の一部を報告する。
▼金正恩政権は対日協議で、・制裁と法執行を解除させて朝鮮総連を救 い出すこと・多額の身代金・安倍訪朝により中国との関係悪化による国際的孤立を 解消、なを狙っている。
また、被害者を帰国させた場合、・小泉訪朝時のように逆 に北朝鮮批判が高まることがないという保証・帰国被害者が金正恩政権の恥部を暴露 しないという保証を求めていた。
▼金正恩はこれらを獲得できるのであれば、生存拉致被害者を一部、あ るいは全部を帰国させることも検討していた。
しかし、7月段階で、誰を返し、誰を 残すのかについての最終決済をまだ行っていない。
金元弘国家安全保衛部部長は被害 者を返すことに積極的であり、党の工作機関は自分たちの秘密が暴露されることをお それてそれに反対している。
▼・~・を最終的に詰めるためには外務省ルートでは限界がある。
特 に、6月号で報告した松茸密輸事件に対する総連中枢への捜査が今年3月末から本格化 した時点で、外務省では話が通じないとの声が北朝鮮から出ていた。
▼5月に安倍総理の側近と国家安全保衛部の代表がモンゴルで秘密接触を持った。
これは、金正恩の信頼を得て、昨年からの対日協議を事実上、主導してき た金元弘国家安全保衛部長と、安倍総理の側近が直接のパイプを持ったことを意味す る。
このルートで上記、・~・について、具体的な協議が水面下で始まった可能性 がある。
モンゴル政府の積極的な仲介の動きもそれと一部連動している可能性がある。
▼一方、朝鮮労働党に所属する工作機関(統一戦線事業部、225局など)は金正恩の指令により、被害者の遺骨を偽造する技術開発を行ってきた。
救う会が 6月に、遺骨偽造技術開発に関する情報を公開して注意を喚起した。
それを受けて、 横田早紀江さんが公開の席で、外務省に「遺骨など受け取ってこないで欲しい。もし もらってきても家族はそれを受け取らない」と断言した。
これにより、横田めぐみさんらの遺骨を再度偽造して認定被害者の多数が死亡しているという報告を出そうとしていた工作機関の謀略計画が一時的にストッ プした。
▼また、工作機関は安倍政権が被害者の生存情報をほとんど持っていな いと判断していた。
昨年の水面下の日朝協議で外務省に、横田めぐみさんと田口八重 子さんは死亡しているという偽情報を繰り返し流した。
一方で、残留日本人やそこに含まれる政府認定以外の被害者の存在を強調したり、認定被害者が数人生存していることをほのめかしたりして、攪乱してきた。
▼しかし、救う会は「死亡」とされた拉致被害者の生存情報を収集している。
複数の異なる情報源が生存を確認しているのでそれらの情報の確度は高い。
2006年の第一次安倍政権以来、約10年間、予算と人材をつぎ込んで情報収集活動をして きた政府拉致問題対策本部事務局は、当然、かなりの生存情報を持っているはずだ。
以上の経緯を踏まえて、金正恩は、7月はじめに予定していた調査結果 報告を延期した。
以上は複数の情報源から救う会が入手した情報だ。最後に現状について、希望的な分析を紹介する。
水面下の交渉の中身については、極少数の交渉当事者以 外秘密にされており、北朝鮮内部からもなかなか漏れてこない。
だから以下の分析 は、確実な裏付け情報があるわけではないが、多くの状況証拠からその可能性があると 私が判断していることだ。
安倍政権が今、日本政府が持つ確実な生存情報をもとに、北朝鮮に対して、彼らが死亡謀略情報を流している横田めぐみさん、田口八重子さんは生きている から、この2人を含む全被害者を返せという水面下の交渉をしており、金正恩がそれ を決断できないので7月の報告が延期になった。
そうであれば、全員救出の希望はま だある。
■その一方で偽遺骨技術開発急ぐ北朝鮮
次に、救う会が入手した遺骨偽造技術開発情報について詳しく書いておく。
救う会は最近、以下の情報を入手した。
〈北朝鮮の専門家が、2年前から高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に拉致被害者の体液や排泄物などを混入し、当該被害者の遺骨を偽造する実験を 繰り返している。
金正恩はスイス留学を経験しているのでヨーロッパの科学技術に関して知識と関心を持っている。
金正恩政権になって、金正恩は専門家をヨーロッパのある 機関に研修に出した。
そこには日本が持っているものと似ているDNA鑑定装置がある。
2013年、研修を終えて帰国した専門家に、金正恩は、2015年5月までに 遺骨を偽造する技術を開発するように指令を下した。
ただし、彼らはその技術が何に 使われるのかは知らない。
期限である2015年5月現在、その技術開発はかなり進んだ が、完成はしていない。
その技術とは、DNAが抽出不可能になる限界温度で遺骨を焼き、ほぼ灰 状態になった遺骨に、他の人間の血液、体毛、大小便などのDNAを混入し、他の人間 の遺骨に偽造するというものだ。
遺骨偽造の対象者に、横田めぐみさんが含まれる可能性が高い。
彼女は金正恩を幼いときから知っているなど一番多く秘密を知っているからだ。
めぐみさん は日朝協議開始後、それ以前より一層厳重な管理の下におかれ、外部との接触を断た れている〉
2004年、北朝鮮が提出した横田めぐみさんのものといわれる高温で焼かれた遺骨から、他人のDNAが検出されたことに対して、英国の科学雑誌「ネイ チャー」は「遺骨が北朝鮮で保管されていたとき、他人のあか汗などで汚染されていたか もしれない。
検出されたのが混入されたDNAであれば、北朝鮮が遺骨を捏造したと 断定はできない」と書いたことがある。
北朝鮮は、この記事を見て、逆に、他人の遺 骨を被害者の体液などで汚染して出したら遺骨を捏造できると考えたのではないか。
これなら被害者を傷つけることはない。
■金正恩に正しいメッセージ発信を
この情報をもとに、救う会メールニュースで以下のような緊急報告を発信した。全文を引用する。
《緊急報告・金正恩が日本人拉致被害者の遺骨捏造を準備している
平成27年6月15日
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長 西岡力
救う会は最近、「北朝鮮の科学者らがヨーロッパで習得した技術を使って、高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に別の人間の体液や排泄物などを混 入し、別の人間の遺骨として偽造する実験を繰り返している」という情報を得た
。そ の実験が成功すれば、生存している日本人拉致被害者の遺骨を捏造することが可能に なる。
金正恩政権は早ければ7月にも、日本人拉致被害者に関する報告を出し てくるだろう。
そのとき、2002年に死亡と通告した8人について、「やはり死亡して いた」と再度、ウソをつく危険性は残っている。
もし、またウソをつくのなら、捏造 した「被害者の遺骨」が出てくるだろう。
この情報が正しければ、その準備をしていることになる。
西岡力救う会会長は昨年日朝協議が始まった頃から、繰り返し、金正恩政権が、生存している拉致被害者を傷つけて遺骨を捏造する危険があると警告してき た。
そのとき、「2012年にヨーロッパのある国の病院で遺骨を高温で焼いた後、DNA を鑑定する実験を実施し、●●(原文ママ)度で火葬すると死亡原因や年度は判別不能 になるが、DNAは検出可能だとの結果を得た」という北朝鮮内部情報を紹介して いる(詳しくは2015年4月に西岡が出した『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今し かない』PHP研究所)。
今回の情報は、生存している被害者を傷つけることなくその被害者の遺骨を捏造する技術実験をしているというものだが、遺骨捏造のための技術をヨーロッ パから得たという点では、西岡会長の上記情報と一致している。
「日本政府は世界最高のDNA鑑定技術を持っており遺骨から死亡時期を判別できる。
また、外部から混入されたDNAを遺骨から選別する技術もある。
その上、 死亡とされた8人に関して確実な生存情報を持っている。
被害者を殺傷するな。
それ をしたら日朝関係は最悪となる」というメッセージを金正恩に向けて発信し続けなけ ればならない。
家族会・救う会は今年3月、「北朝鮮に報告を求めるのではなく、すべ ての被害者が生きて帰ってくることを求める」という運動方針を決めた。
今こそ、す べての力を結集して、「全被害者を一括帰国させよ、それなしには金正恩政権の未来 をなくすぞ」、という毅然たるメッセージを発信しなければならないときだ。
あらためて政府には、ぶれずに全ての拉致被害者の一括帰国を強く北朝鮮に求めてほしい。
北朝鮮に対する私たち日本国民の怒りは頂点に達している。
全被 害者を返さなければ、制裁・法執行・国際連携を最大級に強めて「金正恩政権の未来 をなくすぞ」と警告する》
■被害者家族らの悲鳴に耳傾けよ
この緊急報告が発信された翌日6月16日、国会議員会館で拉致議連の総 会が開かれた。
そこで家族会代表である飯塚繁雄さんと横田めぐみさんのご両親は以 下のような緊迫感溢れる挨拶をした。総会には外務省から日朝協議を担当している伊 原アジア太平洋州局長も参加していた。
〈まさに今、決戦の時期がきたという緊張感がある。
しかし、北朝鮮がすべての拉致被害者について報告してくるとは考えられない。
全員を取り戻すのが 我々の目的であり、これを大きな声で要求していかなければならない。
金正恩がどう決断するかだが、国際社会の「理解と協力」だけではで取り戻せないと思う。
日本が、北朝鮮が困って返さざるを得なくするべきで、強い態度 と姿勢が不可欠だ。
そのために、日本の総力を結集して、各部署で精力的な努力をお 願いしたい。
我々は7月が決戦の時と考えている〉(飯塚繁雄・家族会代表、田口 八重子さん兄)
〈昨年日朝協議が始まったときには、1年後には帰ってくると期待した がいまだ何もない。
被害者の親の世代で一番若いのが早紀江で、私が2番目だがもう 82歳になった。
めぐみは何度も死んだことになったが、「死亡」とされた人も不自然 な形で報告され、さらに洪水に遺骨が流されたとか腑に落ちないことばかりだった。
是非、政府の力で取り戻してほしい〉(横田 滋・家族会前代表、横田めぐみさん父)
〈今度こそと思う度に頓挫して18年。総理や大臣に何度もお会いし、署名活動をし、国民の皆様に訴えてきた。
国連人権委員会も取り上げたが、北朝鮮は 態度を変えようとしない。
北朝鮮も捨てたものではないという態度を一回くらい示し てほしい。
報告書ではなく、生きた姿で祖国の土を踏ませてやってほしい。
最悪の場合、捏造した遺骨を出してくるかもしれないが、我々家族は受け取らいし、政府 も受け取らないでほしい〉(横田早紀江・横田めぐみさん母)
早紀江さんが「遺骨が出てきても受け取らないで欲しい」と断固たる調子で話したとき、伊原局長は緊張した表情でうなずいていた。
産経新聞などが、西岡緊急報告の内容を繰り返し報じた。
また、早紀江さんの「遺骨を受け取らないで欲しい」という発言は、NHKなどのTVニュースで映像 として流れ、関係者の衝撃を生んだ。
北朝鮮でもこれらのニュースは重く受け取られたと聞く。
この情報は信憑性が高いということだ。
先述の通り、金正恩は拉致問題を使って日本から獲得した いものを多く持っている。それらへの未練は捨てていない。
しかし、全員返すことに反対する工作機関の声を完全に無視もできない。
ジレンマを解消する方法として、遺骨を捏造する技術開発を進めてい
たことは間違 いないが、それが事前に暴露されたので、その手段を使うことも事実上困難になった のではないか。
それが、7月報告延期、しかし「誠実に履行している」と言い続けて 安倍政権との協議を中断しないという、現在の姿勢の背景だと考えるとかなりつじつ まが合う。
この部分についてはまだ、内部から情報は取れていない私の分析であることを明記しておく。
■偽死亡報告など絶対に許さない
ここで、救う会が持っている被害者生存情報について書いておく。
横田めぐみさん、田口八重子さん、有本恵子さんの生存情報はかなり多数ある。
八重子 さんは肝臓の病気で一時重態だったが、今年春以降、病状が好転した。
しかし、完治 はしていないので小康状態といえる。
早く日本で最新医療の治療を受けてもらいたい。
それ以外の被害者についても、具体的な生存情報がある。
したがって、新たに偽遺骨を捏造して死亡情報を通報してきたら、その瞬間に「殺したのだ!、遺 骨を偽造したのだ!」と叫ぶことができる。
その根拠を民間団体である救う会でも 持っているという点を、強調しておく。
救う会は今年4月26日に行われた国民大集会のチラシで以下のごとく、 なぜ生きていると言えるのかを整理した。
このタイミングで北朝鮮が再度、偽死亡報 告をしたら直ぐ暴露されるということを彼らに警告するため、それを引用しておく。
〈なぜ拉致被害者は生きていると言えるのか
(1)北朝鮮が「死亡・未入境」と通報した12人について、客観的証拠が1人もない
北朝鮮から提供された「死亡・未入境の証拠」はすべてでっち上げられたものだった。
その結果、2006年、第1次安倍晋三政権は被害者が全員生存している ことを前提にして全員の安全確保と帰還を求めるという現在まで続く基本方針を打ち 出した。
家族会・救う会だけが生存を主張しているのではなく、政府が全員生存と主張している。
政府がウェブサイトやパンフで生存を主張する根拠は以下の通り。
1.死亡したとされる8名[横田めぐみ、田口八重子、市川修一、増元るみ 子、原敕晁、松木薫、石岡亨、有本恵子]について、死亡を証明する客観的な証拠 が全く提示されていない。
(1)死亡を証明する真正な書類が一切存在しない=「死亡確認書」は日本政府調査団訪問時に急遽作成されたもの。また、交通事故記録には被害者の名前がない。
(2)被害者の遺骨が一切存在しない=亡くなったとされる8人について、北朝鮮は6人の遺骨は豪雨で流出したと説明。
提供された2人分の遺骨とされるもの からは本人らのものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結
果を得ている。
2.8人の被害者の生活状況、「死亡」に至る状況についての北朝鮮側説明には、不自然かつ曖昧な点が多く、また、日本側捜査により判明している事実・帰国 被害者の証言との矛盾も多く、説明全体の信憑性が疑われる。
3.北朝鮮が入境を否定、又は、入境未確認としている4ケース[久米裕、松本京子、田中実、曽我ミヨシ]は、捜査の結果、いずれも北朝鮮の関与が明らか。
北朝鮮が消息を一切承知しないという説明は、そのまま受け入れられない。
(2)確実な生存情報がある
政府は精力的な情報活動を行っており、かなりの情報を蓄積しているはずだ。
たとえば、菅官房長官は「もちろん生存していると私どもは確信しています。 政府の考え方は、すべての拉致被害者の生存を前提に、情報収集、その分析、その他 の取り組みを、今全力を挙げて取組んでいる」(2013年10月9日)と語っている。
救う会も確実な生存情報を持っている。その大部分は非公開だが、以下の情報はすでに公開している。
▼ 北朝鮮が「79年に死亡した」と伝えた市川修一さんは96年まで金正日政治軍事大学から龍城(リョンソン)招待所まで日本語を教えに行っていた。
▼ 北朝鮮が「94年に死亡した」と通報した横田めぐみさんは2001年まで平壌の龍城区域の七宝山(チルボサン)招待所で暮らしていた。
1987年に順安区域招待所に移り、そこで金英男氏と会って同居し、結婚した。
1993年に夫との不和で離婚した。94年4月、義州の49号予防院に入院させられたが、一日後に呼び戻され平壌の49号予防院に入った。94年9月、対日工作員と再婚、96年11月に、男子を出産した。
▼ 北朝鮮が「86年に死亡した」と通報した田口八重子さんは2014年に肝臓の病気で治療を受けていることが分かっている〉
次に、自民党拉致問題対策本部が6月25日に公表した制裁強化案につい て触れておく。
前述の通り安倍総理が4月3日、「拉致問題が解決しないと北朝鮮は未 来を描くことが困難になる」という発言をして、言葉による強い圧力をかけた直後の 4月14日、与党自民党の拉致問題対策本部(古屋圭司本部長)は総会を開いて、総理 の発言を裏打ちするために北朝鮮が拉致問題を解決させない場合に日本が取るべき措 置を検討するチームを作ることを決めた。
実は、その会合に私も呼ばれており、「総理の発言が張り子の虎とみられたら負てしまう、与党として北朝鮮の未来をなくすために何ができるのか検討し て欲しい」と訴えていた。
古屋本部長らと問題意識が一致したということだ。
同本部は各省庁の担当者を集め現行法規の下で圧力を強める方法を具体的に検討した。
私も一回ヒアリングに呼ばれたが、各省庁の担当者が真剣な顔をして 私の話をメモしていた姿を思い出す。
はり、総理が発言するということは重い。
同 チームは約2カ月間、8回の会合を開いて12項目の追加制裁案をまとめ、6月25日安倍 総理に提出した。まず、前文を引用してその中で重要な点を指摘する。
■対北朝鮮措置に関する要請
北朝鮮は、昨年5月26日、ストックホルムにおいて、拉致被害者をはじめ、全ての日本人の調査を我が国に約束した。
同年7月4日、北朝鮮が特別調査委員会 を設置したことに伴い、わが国は、北朝鮮に対する人的往来規制など、一部の制裁を 解除した。
当初、北朝鮮は、特別調査委員会の調査結果の第一回報告を、遅くとも昨年初秋までに行うとしていた。
かし、わが国に対して報告の先送りを一方的に通 告するとともに、その後に至っても報告を行なうことなく、不誠実な対応を取り続け ている。
わが党は、拉致問題に進展がない限り、更なる制裁緩和や支援は一切行わず、制裁強化を含めた断固たる対応をとることを政府に求めてきた。
こうした姿勢は、昨年12月の衆議院議員総選挙に際して、わが党の公約でも明確に打ち出している。
北朝鮮が調査期間の目途とする「1年」を目前に控えた今、拉致被害者等の帰国につながる具体的進展がない場合は、昨年解除した制裁の復活に加え、新たな制裁を科など、北朝鮮に断固とした措置を講ずることを検討すべきであり、この際、政府に対して、以下の対北朝鮮措置の実行を強く要請する〉
いつ、この追加制裁を実施すべきかについて、自民党対策本部は「拉致被害者等の帰国につながる具体的進展がない場合」と明記した。
ここで「進展」という言葉が使われていたので、総理の「拉致問題の解決なければ」という表現との整合性が問われると思い、私は古屋本部長に総会の席で「ここで言われている帰国につながる具体的な進展とは当然、全ての被害者の一括帰国につながる進展という意味ですね。
何人かが先に帰ってきたら進展ではあるがそれがあれば制裁をしないという意味ではないですね」と質問した。
すると古屋本部長は「自分が担当大臣のときに決めた一括帰国を目指すという方針通りだ」と答えた。
■総連への法執行の甘さ認めた与党
それでは一括帰国に向けた進展がない場合に政府は何をすべきなのか。
自民党の提言を引用しよう。13項目ある。
〈一、平成26年7月4日に解除を行った対北朝鮮措置をすべて再開させること。
二、北朝鮮を渡航先とした再入国禁止の対象を、朝鮮総連の中央常任委員会委員及び中央委員会委員、並びに核やミサイルの技術者に拡大すること〉
昨年7月4日以前は、北朝鮮の国会議員(最高人民会議代議員)を兼ねる総連幹部とそれを支える地位にいる総連副議長だけが再入国禁止対象だった。
それが解除されたのだが、ここでは、それに加えて中央の役員全員である中央常任委員会委員17人と地方本部や関連団体の役員数百人まで再入国禁止を広げろとしている。
総連の役員は中央も地方も関連団体も全て北朝鮮との往来が禁止されることになる。
その上、特筆すべきは「核やミサイルの技術者」まで再入国禁止せよと提言していることだ。
これは私達が10年以上前から主張してきたことだ。
与党が関係官庁と協議した上でこれを書いた重みは無視できない。
現行法規で可能だということだ。
〈三、北朝鮮に対する送金は、人道目的での10万円以下の送金を除き、全面禁止すること。
併せて、迂回送金や資産隠し等の規制逃れを防止するため、国際機関及び各国当局との連携により規制対象者を特定するための情報収集を強化すること〉
送金をほぼ全面的に禁止することも含まれた。すでにカナダがこれと同じ制裁を実施しているという。
〈四、北朝鮮に寄港した全ての船舶に対する検査を徹底すること。
五、第三国を経由した北朝鮮との迂回輸出入を防止すべく厳格な法執行を行い、万全の対策を講じること〉
すでに北朝鮮船籍の船舶は入港禁止とされているが、外国船籍でも現行法規では「北朝鮮に寄港した全ての船舶」の入港を禁止することも可能だ。
ここでは、中国や韓国の港に入港した貨物船が北朝鮮にも入ることがあり、それまで禁止すべきではないという意見が役所から出されたようだが、まさに、北朝鮮に貨物船を入港させれば日本には入港できないという状況を作って、中国や韓国などの船舶会社に圧力をかけることも必要なのだ。今後の課題としてもらいたい。
〈六、朝鮮総連に対し厳格な法執行を行うとともに、総連本部建物の継続使用に係る資金の流れを把握し、整理回収機構による債権回収に万全の対策を講じる こと。
七、朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し、公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止を強く指導・助言すること。
併せて、住民への説明を十分に行うよう指導・助言すること〉
この第6項目の持つ意味は大きい。先述のように金正恩は総連を再建することを日朝協議の狙いの一つにしている。
これまで、政府は「厳格な法執行」という言葉を使っていた。その対象を特定することはしなかった。
法の下での平等原則を意識していたのだろう。
しかし、与党自民党は「朝鮮総連に対し厳格な法執行を行う」と明記した。
朝鮮総連への法執行が事実上タブーとなっており、その背景に与党の大物政治家が存在していたことを私達はやはり数十年前から告発してきたが、ついに与党が総連を名指しで「法執行の対象」として明記した。
総連に対する法執行が甘かったことを与党が認めた意味は大きい。
金正恩からすると、安倍政権を怒らせると法執行によって総連が潰されるかもしれないという一定の緊張感を与える効果がある。
だ、これはあくまでも現行法規で行う法執行である。
私は、国際社会とわが国の安全に脅威を与える海外のテロ集団、テロ政権を支援する団体を違法化して解散できる新法を作って、総連の解散を検討すべきだと提唱している。
■朝鮮総連に解散を検討すべし
8月9日、大阪読売テレビが東京圏を除くほぼ全国ネットで地上波で放映した「そこまでいって委員会」という討論番組で私は拉致被害者救出のために新法を作って朝鮮総連を解散させるべきだと提言した。
地上波番組でこのような提言がなされること自体、隔世の感があるが、そもそも、核ミサイル技術や核開発資金を不法にテロ政権に持ち出してきた団体が合法的に存在できる現在の日本の法秩序そのものがおかしいと言うべきだ。
韓国では朝鮮総連は国家保安法に基づく反国家団体に指定され、加盟者は最高死刑とされている。
日本政府は多額の予算を使って北朝鮮の核ミサイルを抑止するためのミサイル防衛システムを整備している。
そのようなわが国に害をなすテロ政権の活動をわが国の中から助けている団体があるのに、できることは幹部に対する再入国許可の禁止だけだという現状はあまりにもおかしいと言うべきだろう。
〈八、政府認定に係る拉致被害者以外で、特定失踪者等拉致の疑いが排除できない事案についても、引き続きその真相究明に取り組むこと。
九、国連人権理事会や国連総会における北朝鮮人権状況決議の採択に引き続きイニシアティブを取り、安全保障理事会による国際刑事裁判所への付託並びに北朝鮮の人権問題を根拠とした制裁決議の採択を目指すこと。
併せて、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)の勧告に基づいて韓国ソウル市に設置されたフォローアップ拠点との連携、活動を強化し、国際社会における北朝鮮の人権問題の早期改善への圧力が更に高まるよう努めること。
十、米国が北朝鮮をテロ支援国家として再指定し、拉致を含む北朝鮮の人権侵害を根拠に大統領令に基づく金融制裁などを発動するように働きかけるとともに、拉致の疑いが濃厚である米国人のデビッド・スネドン氏を含む拉致問題解決に向けた連携を強化すること。
十一、北朝鮮向けの情報発信手段として短波放送の充実を図ること。
十二、朝鮮半島有事等に備え、米国とより一層緊密な連携を図り、拉致被害者を含む邦人の安全確保と保護に全力を尽くすこと。
十三、全ての対北朝鮮措置について厳格な法執行を徹底するとともに、各国当局との規制対象等に係る情報共有及び連携を図り、制裁措置の有効性を確保すること〉
この第12項目、朝鮮半島有事における被害者救出は大きな課題だ。
残念ながら、現在国会で審議されている安保法制が成立しても有事に自衛隊を使って被害者を救出する作戦は事実上、不可能だ。
集団的自衛権などについて議論した安保法制懇談会の報告では、個別的自衛権の範囲として海外での自衛隊による邦人救出を現行憲法でも可能だとしていたが、安倍政権はその解釈をとらなかった。
政治的配慮のためだろうが、中山恭子参議院議員が7月30日、参議院平和安全特別委員会で次のように述べていることに強く共感する。
〈在外で被害に遭ったとき、その被害者を救出するのは母国でございます。
北朝鮮に軟禁されている拉致被害者を救出するのは母国、日本しかありません。
協力をお願いすることはできても、この救出をしっかりと行うのは、日本が行わなければ拉致被害者を救出することはできないと言って過言ではないと思っております。
救出できる体制、法整備を行っておくことは国の責務であります〉
■これまでにない政権基盤の揺らぎ
最後に今後の展望を書いておく。金正恩政権は10月10日労働党創建記念日の前後に、大陸間弾道ミサイルの発射実験を行う準備を進めている。
これも北朝鮮内部から複数伝えられている確実な情報だ。
一方、史上初めて将軍クラスの大物亡命者が2人も出ており、佐官クラスの亡命者は数十人になっている。ま
た、秘密資金を管理している39号室関係者などが少なくとも4人、数百万ドルずつを持ち逃げして亡命している。こ
れまでにないほど政権基盤が揺らいでいる。
先述の拉致被害者を使って日本から獲得したい目標の価値は金正恩の立場からすると一層高く
なってきた。
だから、韓国のメディアが激しく批判している安倍談話についても北朝鮮は安倍総理を罵倒することを控えたおとなしい批判声明を出しただけで日朝協議中断は言わない。
9月3日の中国共産党主催、いわゆる「戦勝記念行事」に金正恩が不参加となれば、脱出口は日本しかなくなる。
ミサイル発射前に、水面下での話し合いで条件を詰めようと焦るのは金正恩の側だ。
わが国は全ての拉致被害者を一括で返せ、それが実現しない限り、自民党が準備した制裁強化と法施行、そして西岡が提案している新法を成立させて総連を 完全に崩壊させ、金正恩政権に強い圧力をかけつづけるという怒りのメッ セージを発するべき時だ。
家族会・救う会・拉致議連・知事の会・地方議連の5団体は今年2回目の国民大集会を9月13日、東京で開。安倍総理にも出席された。
そこまでに金正恩が被害者を返す決断をしていない場合は、政府に対して制裁を断行せよという強いメッセージを送ることになるだろう。
正念場中の正念場だが、中山議員が言うとおり、日本人拉致被害者を救うのは日本国の責務だ。不退転の決意で最終決戦に臨む覚悟だ。(東京基督教大教授)
(採録:松本市 久保田 康文)
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軍を持たない力の無い日本が北朝鮮と交渉をして、拉致された日本人を取り返そうというのだから、相当な気力を持って、経済的な制裁や逆に援助など、いろんなムチと飴を使って、解決に向けて努力しないと、物事が進まないです。
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西岡 力
■6月に権力中枢で何があったのか
ご承知の通り、北朝鮮は7月に「調査結果」を出さなかった。
特別調査 委員会を設置して1年になる7月4日の2日前、7月2日に北京の大使館ルートで「全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが、今しばらく時間がかる」と連絡 してきた。
6月号で報告したように、金正恩政権は日本が総連幹部への捜査を続 け、拉致問題を国連に持ち込むことを続けるなら「政府間対話が困難になっている」 (4月2日在中北朝鮮大使館からの通知)などと拉致被害者の調査を中断するぞと脅して いた。
一方、安倍総理は今年に入ってからの北朝鮮との水面下の協議で、拉致被害者の帰国が最優先という姿勢を堅持して「拉致問題が解決しなければ北朝鮮は未 来を描くことが困難だと認識させる」(4月3日、家族会との面会)と繰り返し語って きた。
これを指して私は「気合いと気合いのぶつかり合い」と書いた。
ところが、安倍総理は北朝鮮が報告を延期したことを受けて、遺憾だとしながらも、一年前に緩めた制裁の再発動や、追加制裁の発動を行わず、ただ働き かけを強めるとだけ話している。
このままでは未来を描くことが困難だという、自身 の発言の実効性が疑われるのではないかと心配される。
家族会・救う会・拉致議連は 7月22日に開催した緊急国民集会で、被害者一括帰国の期限を切ってそれが実現しな い場合、強力な制裁を実施せよと決議したが、安倍総理は7月30日、参議院の平和安 全特別委員会で塚田一郎議員の質問に答えて次のように答弁した。
〈制裁は制裁を使うことによっていわば効果を発揮する。かつ制裁を解除していくことによって、カードとして使える。
(略)今回、新たな調査が開始した 段階において、我々はそのスタートにおいて、国際社会とと
もに行っているものとは 別に一部を解除している訳ですが、確かに制裁を強化せよという声はある訳ですが、 やっとつかんだ糸口は離してはならないという観点から、北朝鮮側にしっかりとした 誠実な正直な対応を促していくべくさらに努力を続ける考えであります〉。
「やっとつかんだ糸口は離してはならない」ので制裁強化を現段階では行わないと明言している。
一方、金正恩も自分の方から協議を切ることはしない。繰り返し、「誠実にストックホルム合意を履行している」と表明し続けている。
8月6日、マレーシア で開催されたASEAN関連外相会議に出席した李洙●(土ヘンに庸、リ・スヨン)北朝鮮 外相も岸田外相に「ストックホルム合意に基づき特別調査委員会は調査を誠実に履 行している」と語った。
なお、岸田外相は「昨年5月の日朝合意の履行を求めつつ、日本国内の 懸念を伝え、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」という。
やはり6 月号拙稿で報告したように、これまで外務省は、「合意の履行」すなわち、調査報告 の提出を求めてきた。
それでは、あたかも死亡報告でもいいから早く出せと北朝鮮側 にいっているように聞こえるから危険だと、家族会・救う会は、「求めるのは報告書 ではなく生存者全員の帰国である」という運動方針を今年3月に決め、政府にもその ような交渉をするように繰り返し申し入れしてきた。
今回、岸田外相が「一日も早い 全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」のであれば、我々の運動方針が反映されたこ とになる。
■互いに席を立たずに睨み合い続く
7月以降の構図は、安倍総理は未来を描くことが困難になると脅しながら、追加制裁をかけない、金正恩も対話が出来なくなっていると脅しながら、水面下 の対話を続ける。
お互いに、昨年から始まった協議を切りたくないのだ。
言い換える と、この協議で獲得したいものがお互いに残っているので席を立たないのだ。
安倍政権にとって最優先で採りたいものは、もちろん、拉致問題の解決、すなわち、最低限でも認定未認定にかかわらず全被害者の帰国だ。
安倍総理は現 在水面下で行われている自身の側近まで使った協議の中身をみて、まだ、金正恩政権 が被害者を返す可能性が残っていると判断しているのだろう。
それが「糸口は離して はならない」発言の背景だろう。
それでは金正恩は何を狙っているのか。
彼にも安倍政権から獲得したいものがある。
だから、「未来を描くことが困難」などという主体思想からすると受 け入れがたい侮辱の言葉を安倍総理が吐いているにもかかわらず、協議を打ち切ら ず、また、安倍総理に対する名指しの非難をかなり抑えている。
それでいながら、安倍 総理が求める全被害者を返すという決断はしていない。
また、工作機関が準備してき た偽遺骨などを使って新たな死亡報告を出すことも決断していない。
5月の時点で「調査結果」を出す準備をしていたことは複数の異なる情 報源から確認できていたので、6月に新たな方針が決まったと思われる。
6月に北朝鮮 権力中枢で何があったのか。
この間救う会が集めた情報の一部
を披露したい。実は、 もっと多くの内部情報が集まっている。
北朝鮮の権力最高位層は、金正恩に対する忠 誠心が極度に落ち、いつ粛清されるか分からないという恐怖の中で、高級情報をカネ にかえたいと大多数が考えている。
今くらい、北朝鮮に対する情報活動が進めやすい時期はない。
■北側が示した5項目情報
6月の報告延期決定に、救う会の情報活動が決定的な影響を与えていた らしい。
そのことも合わせてこの間救う会が入手した、複数の情報源から確認が取れ たほぼ確実な情報の一部を報告する。
▼金正恩政権は対日協議で、・制裁と法執行を解除させて朝鮮総連を救 い出すこと・多額の身代金・安倍訪朝により中国との関係悪化による国際的孤立を 解消、なを狙っている。
また、被害者を帰国させた場合、・小泉訪朝時のように逆 に北朝鮮批判が高まることがないという保証・帰国被害者が金正恩政権の恥部を暴露 しないという保証を求めていた。
▼金正恩はこれらを獲得できるのであれば、生存拉致被害者を一部、あ るいは全部を帰国させることも検討していた。
しかし、7月段階で、誰を返し、誰を 残すのかについての最終決済をまだ行っていない。
金元弘国家安全保衛部部長は被害 者を返すことに積極的であり、党の工作機関は自分たちの秘密が暴露されることをお それてそれに反対している。
▼・~・を最終的に詰めるためには外務省ルートでは限界がある。
特 に、6月号で報告した松茸密輸事件に対する総連中枢への捜査が今年3月末から本格化 した時点で、外務省では話が通じないとの声が北朝鮮から出ていた。
▼5月に安倍総理の側近と国家安全保衛部の代表がモンゴルで秘密接触を持った。
これは、金正恩の信頼を得て、昨年からの対日協議を事実上、主導してき た金元弘国家安全保衛部長と、安倍総理の側近が直接のパイプを持ったことを意味す る。
このルートで上記、・~・について、具体的な協議が水面下で始まった可能性 がある。
モンゴル政府の積極的な仲介の動きもそれと一部連動している可能性がある。
▼一方、朝鮮労働党に所属する工作機関(統一戦線事業部、225局など)は金正恩の指令により、被害者の遺骨を偽造する技術開発を行ってきた。
救う会が 6月に、遺骨偽造技術開発に関する情報を公開して注意を喚起した。
それを受けて、 横田早紀江さんが公開の席で、外務省に「遺骨など受け取ってこないで欲しい。もし もらってきても家族はそれを受け取らない」と断言した。
これにより、横田めぐみさんらの遺骨を再度偽造して認定被害者の多数が死亡しているという報告を出そうとしていた工作機関の謀略計画が一時的にストッ プした。
▼また、工作機関は安倍政権が被害者の生存情報をほとんど持っていな いと判断していた。
昨年の水面下の日朝協議で外務省に、横田めぐみさんと田口八重 子さんは死亡しているという偽情報を繰り返し流した。
一方で、残留日本人やそこに含まれる政府認定以外の被害者の存在を強調したり、認定被害者が数人生存していることをほのめかしたりして、攪乱してきた。
▼しかし、救う会は「死亡」とされた拉致被害者の生存情報を収集している。
複数の異なる情報源が生存を確認しているのでそれらの情報の確度は高い。
2006年の第一次安倍政権以来、約10年間、予算と人材をつぎ込んで情報収集活動をして きた政府拉致問題対策本部事務局は、当然、かなりの生存情報を持っているはずだ。
以上の経緯を踏まえて、金正恩は、7月はじめに予定していた調査結果 報告を延期した。
以上は複数の情報源から救う会が入手した情報だ。最後に現状について、希望的な分析を紹介する。
水面下の交渉の中身については、極少数の交渉当事者以 外秘密にされており、北朝鮮内部からもなかなか漏れてこない。
だから以下の分析 は、確実な裏付け情報があるわけではないが、多くの状況証拠からその可能性があると 私が判断していることだ。
安倍政権が今、日本政府が持つ確実な生存情報をもとに、北朝鮮に対して、彼らが死亡謀略情報を流している横田めぐみさん、田口八重子さんは生きている から、この2人を含む全被害者を返せという水面下の交渉をしており、金正恩がそれ を決断できないので7月の報告が延期になった。
そうであれば、全員救出の希望はま だある。
■その一方で偽遺骨技術開発急ぐ北朝鮮
次に、救う会が入手した遺骨偽造技術開発情報について詳しく書いておく。
救う会は最近、以下の情報を入手した。
〈北朝鮮の専門家が、2年前から高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に拉致被害者の体液や排泄物などを混入し、当該被害者の遺骨を偽造する実験を 繰り返している。
金正恩はスイス留学を経験しているのでヨーロッパの科学技術に関して知識と関心を持っている。
金正恩政権になって、金正恩は専門家をヨーロッパのある 機関に研修に出した。
そこには日本が持っているものと似ているDNA鑑定装置がある。
2013年、研修を終えて帰国した専門家に、金正恩は、2015年5月までに 遺骨を偽造する技術を開発するように指令を下した。
ただし、彼らはその技術が何に 使われるのかは知らない。
期限である2015年5月現在、その技術開発はかなり進んだ が、完成はしていない。
その技術とは、DNAが抽出不可能になる限界温度で遺骨を焼き、ほぼ灰 状態になった遺骨に、他の人間の血液、体毛、大小便などのDNAを混入し、他の人間 の遺骨に偽造するというものだ。
遺骨偽造の対象者に、横田めぐみさんが含まれる可能性が高い。
彼女は金正恩を幼いときから知っているなど一番多く秘密を知っているからだ。
めぐみさん は日朝協議開始後、それ以前より一層厳重な管理の下におかれ、外部との接触を断た れている〉
2004年、北朝鮮が提出した横田めぐみさんのものといわれる高温で焼かれた遺骨から、他人のDNAが検出されたことに対して、英国の科学雑誌「ネイ チャー」は「遺骨が北朝鮮で保管されていたとき、他人のあか汗などで汚染されていたか もしれない。
検出されたのが混入されたDNAであれば、北朝鮮が遺骨を捏造したと 断定はできない」と書いたことがある。
北朝鮮は、この記事を見て、逆に、他人の遺 骨を被害者の体液などで汚染して出したら遺骨を捏造できると考えたのではないか。
これなら被害者を傷つけることはない。
■金正恩に正しいメッセージ発信を
この情報をもとに、救う会メールニュースで以下のような緊急報告を発信した。全文を引用する。
《緊急報告・金正恩が日本人拉致被害者の遺骨捏造を準備している
平成27年6月15日
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長 西岡力
救う会は最近、「北朝鮮の科学者らがヨーロッパで習得した技術を使って、高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に別の人間の体液や排泄物などを混 入し、別の人間の遺骨として偽造する実験を繰り返している」という情報を得た
。そ の実験が成功すれば、生存している日本人拉致被害者の遺骨を捏造することが可能に なる。
金正恩政権は早ければ7月にも、日本人拉致被害者に関する報告を出し てくるだろう。
そのとき、2002年に死亡と通告した8人について、「やはり死亡して いた」と再度、ウソをつく危険性は残っている。
もし、またウソをつくのなら、捏造 した「被害者の遺骨」が出てくるだろう。
この情報が正しければ、その準備をしていることになる。
西岡力救う会会長は昨年日朝協議が始まった頃から、繰り返し、金正恩政権が、生存している拉致被害者を傷つけて遺骨を捏造する危険があると警告してき た。
そのとき、「2012年にヨーロッパのある国の病院で遺骨を高温で焼いた後、DNA を鑑定する実験を実施し、●●(原文ママ)度で火葬すると死亡原因や年度は判別不能 になるが、DNAは検出可能だとの結果を得た」という北朝鮮内部情報を紹介して いる(詳しくは2015年4月に西岡が出した『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今し かない』PHP研究所)。
今回の情報は、生存している被害者を傷つけることなくその被害者の遺骨を捏造する技術実験をしているというものだが、遺骨捏造のための技術をヨーロッ パから得たという点では、西岡会長の上記情報と一致している。
「日本政府は世界最高のDNA鑑定技術を持っており遺骨から死亡時期を判別できる。
また、外部から混入されたDNAを遺骨から選別する技術もある。
その上、 死亡とされた8人に関して確実な生存情報を持っている。
被害者を殺傷するな。
それ をしたら日朝関係は最悪となる」というメッセージを金正恩に向けて発信し続けなけ ればならない。
家族会・救う会は今年3月、「北朝鮮に報告を求めるのではなく、すべ ての被害者が生きて帰ってくることを求める」という運動方針を決めた。
今こそ、す べての力を結集して、「全被害者を一括帰国させよ、それなしには金正恩政権の未来 をなくすぞ」、という毅然たるメッセージを発信しなければならないときだ。
あらためて政府には、ぶれずに全ての拉致被害者の一括帰国を強く北朝鮮に求めてほしい。
北朝鮮に対する私たち日本国民の怒りは頂点に達している。
全被 害者を返さなければ、制裁・法執行・国際連携を最大級に強めて「金正恩政権の未来 をなくすぞ」と警告する》
■被害者家族らの悲鳴に耳傾けよ
この緊急報告が発信された翌日6月16日、国会議員会館で拉致議連の総 会が開かれた。
そこで家族会代表である飯塚繁雄さんと横田めぐみさんのご両親は以 下のような緊迫感溢れる挨拶をした。総会には外務省から日朝協議を担当している伊 原アジア太平洋州局長も参加していた。
〈まさに今、決戦の時期がきたという緊張感がある。
しかし、北朝鮮がすべての拉致被害者について報告してくるとは考えられない。
全員を取り戻すのが 我々の目的であり、これを大きな声で要求していかなければならない。
金正恩がどう決断するかだが、国際社会の「理解と協力」だけではで取り戻せないと思う。
日本が、北朝鮮が困って返さざるを得なくするべきで、強い態度 と姿勢が不可欠だ。
そのために、日本の総力を結集して、各部署で精力的な努力をお 願いしたい。
我々は7月が決戦の時と考えている〉(飯塚繁雄・家族会代表、田口 八重子さん兄)
〈昨年日朝協議が始まったときには、1年後には帰ってくると期待した がいまだ何もない。
被害者の親の世代で一番若いのが早紀江で、私が2番目だがもう 82歳になった。
めぐみは何度も死んだことになったが、「死亡」とされた人も不自然 な形で報告され、さらに洪水に遺骨が流されたとか腑に落ちないことばかりだった。
是非、政府の力で取り戻してほしい〉(横田 滋・家族会前代表、横田めぐみさん父)
〈今度こそと思う度に頓挫して18年。総理や大臣に何度もお会いし、署名活動をし、国民の皆様に訴えてきた。
国連人権委員会も取り上げたが、北朝鮮は 態度を変えようとしない。
北朝鮮も捨てたものではないという態度を一回くらい示し てほしい。
報告書ではなく、生きた姿で祖国の土を踏ませてやってほしい。
最悪の場合、捏造した遺骨を出してくるかもしれないが、我々家族は受け取らいし、政府 も受け取らないでほしい〉(横田早紀江・横田めぐみさん母)
早紀江さんが「遺骨が出てきても受け取らないで欲しい」と断固たる調子で話したとき、伊原局長は緊張した表情でうなずいていた。
産経新聞などが、西岡緊急報告の内容を繰り返し報じた。
また、早紀江さんの「遺骨を受け取らないで欲しい」という発言は、NHKなどのTVニュースで映像 として流れ、関係者の衝撃を生んだ。
北朝鮮でもこれらのニュースは重く受け取られたと聞く。
この情報は信憑性が高いということだ。
先述の通り、金正恩は拉致問題を使って日本から獲得した いものを多く持っている。それらへの未練は捨てていない。
しかし、全員返すことに反対する工作機関の声を完全に無視もできない。
ジレンマを解消する方法として、遺骨を捏造する技術開発を進めてい
たことは間違 いないが、それが事前に暴露されたので、その手段を使うことも事実上困難になった のではないか。
それが、7月報告延期、しかし「誠実に履行している」と言い続けて 安倍政権との協議を中断しないという、現在の姿勢の背景だと考えるとかなりつじつ まが合う。
この部分についてはまだ、内部から情報は取れていない私の分析であることを明記しておく。
■偽死亡報告など絶対に許さない
ここで、救う会が持っている被害者生存情報について書いておく。
横田めぐみさん、田口八重子さん、有本恵子さんの生存情報はかなり多数ある。
八重子 さんは肝臓の病気で一時重態だったが、今年春以降、病状が好転した。
しかし、完治 はしていないので小康状態といえる。
早く日本で最新医療の治療を受けてもらいたい。
それ以外の被害者についても、具体的な生存情報がある。
したがって、新たに偽遺骨を捏造して死亡情報を通報してきたら、その瞬間に「殺したのだ!、遺 骨を偽造したのだ!」と叫ぶことができる。
その根拠を民間団体である救う会でも 持っているという点を、強調しておく。
救う会は今年4月26日に行われた国民大集会のチラシで以下のごとく、 なぜ生きていると言えるのかを整理した。
このタイミングで北朝鮮が再度、偽死亡報 告をしたら直ぐ暴露されるということを彼らに警告するため、それを引用しておく。
〈なぜ拉致被害者は生きていると言えるのか
(1)北朝鮮が「死亡・未入境」と通報した12人について、客観的証拠が1人もない
北朝鮮から提供された「死亡・未入境の証拠」はすべてでっち上げられたものだった。
その結果、2006年、第1次安倍晋三政権は被害者が全員生存している ことを前提にして全員の安全確保と帰還を求めるという現在まで続く基本方針を打ち 出した。
家族会・救う会だけが生存を主張しているのではなく、政府が全員生存と主張している。
政府がウェブサイトやパンフで生存を主張する根拠は以下の通り。
1.死亡したとされる8名[横田めぐみ、田口八重子、市川修一、増元るみ 子、原敕晁、松木薫、石岡亨、有本恵子]について、死亡を証明する客観的な証拠 が全く提示されていない。
(1)死亡を証明する真正な書類が一切存在しない=「死亡確認書」は日本政府調査団訪問時に急遽作成されたもの。また、交通事故記録には被害者の名前がない。
(2)被害者の遺骨が一切存在しない=亡くなったとされる8人について、北朝鮮は6人の遺骨は豪雨で流出したと説明。
提供された2人分の遺骨とされるもの からは本人らのものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結
果を得ている。
2.8人の被害者の生活状況、「死亡」に至る状況についての北朝鮮側説明には、不自然かつ曖昧な点が多く、また、日本側捜査により判明している事実・帰国 被害者の証言との矛盾も多く、説明全体の信憑性が疑われる。
3.北朝鮮が入境を否定、又は、入境未確認としている4ケース[久米裕、松本京子、田中実、曽我ミヨシ]は、捜査の結果、いずれも北朝鮮の関与が明らか。
北朝鮮が消息を一切承知しないという説明は、そのまま受け入れられない。
(2)確実な生存情報がある
政府は精力的な情報活動を行っており、かなりの情報を蓄積しているはずだ。
たとえば、菅官房長官は「もちろん生存していると私どもは確信しています。 政府の考え方は、すべての拉致被害者の生存を前提に、情報収集、その分析、その他 の取り組みを、今全力を挙げて取組んでいる」(2013年10月9日)と語っている。
救う会も確実な生存情報を持っている。その大部分は非公開だが、以下の情報はすでに公開している。
▼ 北朝鮮が「79年に死亡した」と伝えた市川修一さんは96年まで金正日政治軍事大学から龍城(リョンソン)招待所まで日本語を教えに行っていた。
▼ 北朝鮮が「94年に死亡した」と通報した横田めぐみさんは2001年まで平壌の龍城区域の七宝山(チルボサン)招待所で暮らしていた。
1987年に順安区域招待所に移り、そこで金英男氏と会って同居し、結婚した。
1993年に夫との不和で離婚した。94年4月、義州の49号予防院に入院させられたが、一日後に呼び戻され平壌の49号予防院に入った。94年9月、対日工作員と再婚、96年11月に、男子を出産した。
▼ 北朝鮮が「86年に死亡した」と通報した田口八重子さんは2014年に肝臓の病気で治療を受けていることが分かっている〉
次に、自民党拉致問題対策本部が6月25日に公表した制裁強化案につい て触れておく。
前述の通り安倍総理が4月3日、「拉致問題が解決しないと北朝鮮は未 来を描くことが困難になる」という発言をして、言葉による強い圧力をかけた直後の 4月14日、与党自民党の拉致問題対策本部(古屋圭司本部長)は総会を開いて、総理 の発言を裏打ちするために北朝鮮が拉致問題を解決させない場合に日本が取るべき措 置を検討するチームを作ることを決めた。
実は、その会合に私も呼ばれており、「総理の発言が張り子の虎とみられたら負てしまう、与党として北朝鮮の未来をなくすために何ができるのか検討し て欲しい」と訴えていた。
古屋本部長らと問題意識が一致したということだ。
同本部は各省庁の担当者を集め現行法規の下で圧力を強める方法を具体的に検討した。
私も一回ヒアリングに呼ばれたが、各省庁の担当者が真剣な顔をして 私の話をメモしていた姿を思い出す。
はり、総理が発言するということは重い。
同 チームは約2カ月間、8回の会合を開いて12項目の追加制裁案をまとめ、6月25日安倍 総理に提出した。まず、前文を引用してその中で重要な点を指摘する。
■対北朝鮮措置に関する要請
北朝鮮は、昨年5月26日、ストックホルムにおいて、拉致被害者をはじめ、全ての日本人の調査を我が国に約束した。
同年7月4日、北朝鮮が特別調査委員会 を設置したことに伴い、わが国は、北朝鮮に対する人的往来規制など、一部の制裁を 解除した。
当初、北朝鮮は、特別調査委員会の調査結果の第一回報告を、遅くとも昨年初秋までに行うとしていた。
かし、わが国に対して報告の先送りを一方的に通 告するとともに、その後に至っても報告を行なうことなく、不誠実な対応を取り続け ている。
わが党は、拉致問題に進展がない限り、更なる制裁緩和や支援は一切行わず、制裁強化を含めた断固たる対応をとることを政府に求めてきた。
こうした姿勢は、昨年12月の衆議院議員総選挙に際して、わが党の公約でも明確に打ち出している。
北朝鮮が調査期間の目途とする「1年」を目前に控えた今、拉致被害者等の帰国につながる具体的進展がない場合は、昨年解除した制裁の復活に加え、新たな制裁を科など、北朝鮮に断固とした措置を講ずることを検討すべきであり、この際、政府に対して、以下の対北朝鮮措置の実行を強く要請する〉
いつ、この追加制裁を実施すべきかについて、自民党対策本部は「拉致被害者等の帰国につながる具体的進展がない場合」と明記した。
ここで「進展」という言葉が使われていたので、総理の「拉致問題の解決なければ」という表現との整合性が問われると思い、私は古屋本部長に総会の席で「ここで言われている帰国につながる具体的な進展とは当然、全ての被害者の一括帰国につながる進展という意味ですね。
何人かが先に帰ってきたら進展ではあるがそれがあれば制裁をしないという意味ではないですね」と質問した。
すると古屋本部長は「自分が担当大臣のときに決めた一括帰国を目指すという方針通りだ」と答えた。
■総連への法執行の甘さ認めた与党
それでは一括帰国に向けた進展がない場合に政府は何をすべきなのか。
自民党の提言を引用しよう。13項目ある。
〈一、平成26年7月4日に解除を行った対北朝鮮措置をすべて再開させること。
二、北朝鮮を渡航先とした再入国禁止の対象を、朝鮮総連の中央常任委員会委員及び中央委員会委員、並びに核やミサイルの技術者に拡大すること〉
昨年7月4日以前は、北朝鮮の国会議員(最高人民会議代議員)を兼ねる総連幹部とそれを支える地位にいる総連副議長だけが再入国禁止対象だった。
それが解除されたのだが、ここでは、それに加えて中央の役員全員である中央常任委員会委員17人と地方本部や関連団体の役員数百人まで再入国禁止を広げろとしている。
総連の役員は中央も地方も関連団体も全て北朝鮮との往来が禁止されることになる。
その上、特筆すべきは「核やミサイルの技術者」まで再入国禁止せよと提言していることだ。
これは私達が10年以上前から主張してきたことだ。
与党が関係官庁と協議した上でこれを書いた重みは無視できない。
現行法規で可能だということだ。
〈三、北朝鮮に対する送金は、人道目的での10万円以下の送金を除き、全面禁止すること。
併せて、迂回送金や資産隠し等の規制逃れを防止するため、国際機関及び各国当局との連携により規制対象者を特定するための情報収集を強化すること〉
送金をほぼ全面的に禁止することも含まれた。すでにカナダがこれと同じ制裁を実施しているという。
〈四、北朝鮮に寄港した全ての船舶に対する検査を徹底すること。
五、第三国を経由した北朝鮮との迂回輸出入を防止すべく厳格な法執行を行い、万全の対策を講じること〉
すでに北朝鮮船籍の船舶は入港禁止とされているが、外国船籍でも現行法規では「北朝鮮に寄港した全ての船舶」の入港を禁止することも可能だ。
ここでは、中国や韓国の港に入港した貨物船が北朝鮮にも入ることがあり、それまで禁止すべきではないという意見が役所から出されたようだが、まさに、北朝鮮に貨物船を入港させれば日本には入港できないという状況を作って、中国や韓国などの船舶会社に圧力をかけることも必要なのだ。今後の課題としてもらいたい。
〈六、朝鮮総連に対し厳格な法執行を行うとともに、総連本部建物の継続使用に係る資金の流れを把握し、整理回収機構による債権回収に万全の対策を講じる こと。
七、朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し、公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止を強く指導・助言すること。
併せて、住民への説明を十分に行うよう指導・助言すること〉
この第6項目の持つ意味は大きい。先述のように金正恩は総連を再建することを日朝協議の狙いの一つにしている。
これまで、政府は「厳格な法執行」という言葉を使っていた。その対象を特定することはしなかった。
法の下での平等原則を意識していたのだろう。
しかし、与党自民党は「朝鮮総連に対し厳格な法執行を行う」と明記した。
朝鮮総連への法執行が事実上タブーとなっており、その背景に与党の大物政治家が存在していたことを私達はやはり数十年前から告発してきたが、ついに与党が総連を名指しで「法執行の対象」として明記した。
総連に対する法執行が甘かったことを与党が認めた意味は大きい。
金正恩からすると、安倍政権を怒らせると法執行によって総連が潰されるかもしれないという一定の緊張感を与える効果がある。
だ、これはあくまでも現行法規で行う法執行である。
私は、国際社会とわが国の安全に脅威を与える海外のテロ集団、テロ政権を支援する団体を違法化して解散できる新法を作って、総連の解散を検討すべきだと提唱している。
■朝鮮総連に解散を検討すべし
8月9日、大阪読売テレビが東京圏を除くほぼ全国ネットで地上波で放映した「そこまでいって委員会」という討論番組で私は拉致被害者救出のために新法を作って朝鮮総連を解散させるべきだと提言した。
地上波番組でこのような提言がなされること自体、隔世の感があるが、そもそも、核ミサイル技術や核開発資金を不法にテロ政権に持ち出してきた団体が合法的に存在できる現在の日本の法秩序そのものがおかしいと言うべきだ。
韓国では朝鮮総連は国家保安法に基づく反国家団体に指定され、加盟者は最高死刑とされている。
日本政府は多額の予算を使って北朝鮮の核ミサイルを抑止するためのミサイル防衛システムを整備している。
そのようなわが国に害をなすテロ政権の活動をわが国の中から助けている団体があるのに、できることは幹部に対する再入国許可の禁止だけだという現状はあまりにもおかしいと言うべきだろう。
〈八、政府認定に係る拉致被害者以外で、特定失踪者等拉致の疑いが排除できない事案についても、引き続きその真相究明に取り組むこと。
九、国連人権理事会や国連総会における北朝鮮人権状況決議の採択に引き続きイニシアティブを取り、安全保障理事会による国際刑事裁判所への付託並びに北朝鮮の人権問題を根拠とした制裁決議の採択を目指すこと。
併せて、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)の勧告に基づいて韓国ソウル市に設置されたフォローアップ拠点との連携、活動を強化し、国際社会における北朝鮮の人権問題の早期改善への圧力が更に高まるよう努めること。
十、米国が北朝鮮をテロ支援国家として再指定し、拉致を含む北朝鮮の人権侵害を根拠に大統領令に基づく金融制裁などを発動するように働きかけるとともに、拉致の疑いが濃厚である米国人のデビッド・スネドン氏を含む拉致問題解決に向けた連携を強化すること。
十一、北朝鮮向けの情報発信手段として短波放送の充実を図ること。
十二、朝鮮半島有事等に備え、米国とより一層緊密な連携を図り、拉致被害者を含む邦人の安全確保と保護に全力を尽くすこと。
十三、全ての対北朝鮮措置について厳格な法執行を徹底するとともに、各国当局との規制対象等に係る情報共有及び連携を図り、制裁措置の有効性を確保すること〉
この第12項目、朝鮮半島有事における被害者救出は大きな課題だ。
残念ながら、現在国会で審議されている安保法制が成立しても有事に自衛隊を使って被害者を救出する作戦は事実上、不可能だ。
集団的自衛権などについて議論した安保法制懇談会の報告では、個別的自衛権の範囲として海外での自衛隊による邦人救出を現行憲法でも可能だとしていたが、安倍政権はその解釈をとらなかった。
政治的配慮のためだろうが、中山恭子参議院議員が7月30日、参議院平和安全特別委員会で次のように述べていることに強く共感する。
〈在外で被害に遭ったとき、その被害者を救出するのは母国でございます。
北朝鮮に軟禁されている拉致被害者を救出するのは母国、日本しかありません。
協力をお願いすることはできても、この救出をしっかりと行うのは、日本が行わなければ拉致被害者を救出することはできないと言って過言ではないと思っております。
救出できる体制、法整備を行っておくことは国の責務であります〉
■これまでにない政権基盤の揺らぎ
最後に今後の展望を書いておく。金正恩政権は10月10日労働党創建記念日の前後に、大陸間弾道ミサイルの発射実験を行う準備を進めている。
これも北朝鮮内部から複数伝えられている確実な情報だ。
一方、史上初めて将軍クラスの大物亡命者が2人も出ており、佐官クラスの亡命者は数十人になっている。ま
た、秘密資金を管理している39号室関係者などが少なくとも4人、数百万ドルずつを持ち逃げして亡命している。こ
れまでにないほど政権基盤が揺らいでいる。
先述の拉致被害者を使って日本から獲得したい目標の価値は金正恩の立場からすると一層高く
なってきた。
だから、韓国のメディアが激しく批判している安倍談話についても北朝鮮は安倍総理を罵倒することを控えたおとなしい批判声明を出しただけで日朝協議中断は言わない。
9月3日の中国共産党主催、いわゆる「戦勝記念行事」に金正恩が不参加となれば、脱出口は日本しかなくなる。
ミサイル発射前に、水面下での話し合いで条件を詰めようと焦るのは金正恩の側だ。
わが国は全ての拉致被害者を一括で返せ、それが実現しない限り、自民党が準備した制裁強化と法施行、そして西岡が提案している新法を成立させて総連を 完全に崩壊させ、金正恩政権に強い圧力をかけつづけるという怒りのメッ セージを発するべき時だ。
家族会・救う会・拉致議連・知事の会・地方議連の5団体は今年2回目の国民大集会を9月13日、東京で開。安倍総理にも出席された。
そこまでに金正恩が被害者を返す決断をしていない場合は、政府に対して制裁を断行せよという強いメッセージを送ることになるだろう。
正念場中の正念場だが、中山議員が言うとおり、日本人拉致被害者を救うのは日本国の責務だ。不退転の決意で最終決戦に臨む覚悟だ。(東京基督教大教授)
(採録:松本市 久保田 康文)
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軍を持たない力の無い日本が北朝鮮と交渉をして、拉致された日本人を取り返そうというのだから、相当な気力を持って、経済的な制裁や逆に援助など、いろんなムチと飴を使って、解決に向けて努力しないと、物事が進まないです。