「難民」か「亡命希望者」か「プローフギ」(ある国に到着はしたが、難民認定を受けていない)か。
「移民」か「難民」か、呼び方めぐる悩ましい論争
2015年09月15日 14:51 発信地:パリ/フランス
政ギリシャとマケドニアの国境を目指し草原を歩く移民ら(2015年8月29日撮影)。
【9月15日 AFP】彼らは「移民」なのか「難民」なのか、「密航者」なのか「不法滞在者」なのか。地球上を移動している膨大な数の人々をどう呼ぶべきかという問いは、各国の政府やメディアにとって厄介で政治色の濃い問題だ。
今年に入り、こうした人々の移動がニュースにならなかった日はほとんどない。地中海(Mediterranean)での数千人の死、中東からの大量流入に圧倒されるギリシャの島の当局、英国に不法入国しようと英仏海峡トンネル(Channel Tunnel)に殺到する
記録的な数の人たち……。しかしこの現象をどう言い表すかというのは微妙な問題だ。
英国のデービッド・キャメロン(David Cameron)首相は7月、英仏海峡を越える移民たちを、虫の群れを指すときなどに使われる「スウォーム(swarm)」という単語で表現し苦境に陥った。野党側は「彼らは虫ではない」と糾弾した。
イタリアの政党で移民排斥を掲げている北部同盟(Northern League)のマッテオ・サルビーニ(Matteo Salvini)書記長は「密航者」という響きの悪い呼び方を好み、ポーランド
の国営ポーランド通信(PAP)は、どん底にいる人々を犯罪者扱いするようだとして多くの報道機関が使用を禁止している「不法移民」という言葉をよく使っている。
適切な言葉を選ぶ作業は言語学的、倫理的な地雷原になりうる。中東の衛星テレビ局アルジャジーラ(Al-Jazeera)は8月下旬、全員を「難民」と表現する方針を示した。同局のオンライン編集者バリー・マローン(Barry Malone)氏は「地中海で
起きている恐怖を表現する上で『移民』という包括的な用語はもはや適切ではない。この言葉は辞書の定義から離れ、人間性を奪い距離を置くための道具になってしまったからだ」と記した。
■言葉の線引きで変わる立場
理論上、「移民」とは誰であれ移住する人のことを指す。一方、祖国にとどまれば危険や迫害に直面するという理由で他国へ亡命申請している人々を「亡命希望者」、特別な権利と恩恵が与えられる難民認定を受けた人々を「難民」と呼ぶ。
しかし「難民」という言葉は、亡命を申請したかしないかにかかわらず、戦乱や迫害、自然災害から逃げてきた人を意味するために、より一般的にも使われるので混乱が生じる。
政治家たちは「難民」と呼ぶと救済する義務が生じる可能性を恐れ、この言葉を避けようとすることが多い。8月に英仏の内相が調印した3400語に及ぶ「カレー(Calais)での移民流入管理」に関する合意書では、「難民」については一度も触れられず、一方で「移民」という単語は36回使われた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報担当者アリアン・ルメリー(Ariane
Rummery)氏は「暴力や迫害から逃れようとする人の流れを表現する上で『移民』は正確な言葉ではない。欧州沿岸部に到着している人々の大半は、シリアやアフガニスタン、イラク、エリトリアといった紛争や暴力、迫害が起きている国々から来ている」と語る。
しかし、スイス・ジュネーブ(Geneva)に本部を置く国際移住機関(International
Organization for Migration、IOM)は「経済移民」にも「難民」にも当てはまらない人たちが大勢いると指摘する。親や家族と合流しようとする子どもたちや人身売買の被害者もそうだ。
IOMの広報責任者レナード・ドイル(Leonard Doyle)氏は「あの人々全員を難民と呼んで、故国に送還する必要はないとしてしまう立場は極めて危険だ」と語った。「非常に複雑な動きの中に置かれた人々がいるときに、我々は白黒明確な線を引こうとしている」。IOMでは誰に対しても「移民」という包括的な用語を使うべきだと強く主張している。
一方、キリスト教団体「拷問撤廃のためのキリスト教徒行動(Action by
Christians for the Abolition of Torture)」のイブ・シャハシャハーニー(Eve
Shahshahani)代表は「亡命者」という言葉はどこへ行ったのかと問う。この言葉ならば「経済的理由か政治的理由かにかかわらず」国を出ることを余儀なくされた状況が強調されるという。
裕福な白人の外国人は「国外居住者」と呼ばれるのに、他の人種だと「流入移民」と呼ばれるという問題もある。これは人種差別の片りんだと、ブログ「シリコンアフリカ(SiliconAfrica.com)」を主宰する人権活動家のマウナ・レマルク・コートニン(Mawuna Remarque Koutonin)氏は言う。「白人を他の誰よりも上に置く目的で作ら
れた階層的な言葉は今もまだある。『流入移民』は『劣った人種』に割り当てられた言葉だ」と最近のブログで書いた。
■国ごとの「婉曲表現」
カナダ・ケベック大学モントリオール校(University of Quebec at Montreal)で国境問題などを専門としているエリザベス・バレ(Elisabeth Vallet)氏は、言葉は極右政党にとって特に強力な道具だ
と述べ、フランスの極右政党、国民戦線(National Front、FN)が「移民の危険」という表現を使っていることを例に挙げる。「移民という呼び方は人間性を奪い去る方法で、一人一人の個人について語ることを打ち消してしまう方法だ。ある朝、一人の母親がどうして子どもたちを連れて砂漠を越え、小さな船で荒海を渡り、警察の催涙ガスに立ち向かおうと思ったのか、誰も疑問に思わない。それこそが最初の問いであるべきなのに」
独特の婉曲表現がある国もある。スウェーデンのメディアは「EU移民」という言葉を使うが、これは数多く働きに来ているデンマーク人やフィンランド人のことではなく、広範な差別に直面してきたロマの人々を常に暗に指している。
イタリアでは「難民」と「亡命希望者」に加え、独特な「プローフギ」という第3の言葉が使われている。「プローフギ」とは、ある国に到着はしたが、難民申請をまだ行っていないか、難民認定を受けていない状態の人々を表す。
第2次世界大戦(World War II)以降で最多の人々が移動している状況で、この議論がすぐに決着することはないだろう。(c)AFP/Eric RANDOLPH
http://www.afpbb.com/articles/-/3060278?pid=0
2015年09月15日 14:51 発信地:パリ/フランス
政ギリシャとマケドニアの国境を目指し草原を歩く移民ら(2015年8月29日撮影)。
【9月15日 AFP】彼らは「移民」なのか「難民」なのか、「密航者」なのか「不法滞在者」なのか。地球上を移動している膨大な数の人々をどう呼ぶべきかという問いは、各国の政府やメディアにとって厄介で政治色の濃い問題だ。
今年に入り、こうした人々の移動がニュースにならなかった日はほとんどない。地中海(Mediterranean)での数千人の死、中東からの大量流入に圧倒されるギリシャの島の当局、英国に不法入国しようと英仏海峡トンネル(Channel Tunnel)に殺到する
記録的な数の人たち……。しかしこの現象をどう言い表すかというのは微妙な問題だ。
英国のデービッド・キャメロン(David Cameron)首相は7月、英仏海峡を越える移民たちを、虫の群れを指すときなどに使われる「スウォーム(swarm)」という単語で表現し苦境に陥った。野党側は「彼らは虫ではない」と糾弾した。
イタリアの政党で移民排斥を掲げている北部同盟(Northern League)のマッテオ・サルビーニ(Matteo Salvini)書記長は「密航者」という響きの悪い呼び方を好み、ポーランド
の国営ポーランド通信(PAP)は、どん底にいる人々を犯罪者扱いするようだとして多くの報道機関が使用を禁止している「不法移民」という言葉をよく使っている。
適切な言葉を選ぶ作業は言語学的、倫理的な地雷原になりうる。中東の衛星テレビ局アルジャジーラ(Al-Jazeera)は8月下旬、全員を「難民」と表現する方針を示した。同局のオンライン編集者バリー・マローン(Barry Malone)氏は「地中海で
起きている恐怖を表現する上で『移民』という包括的な用語はもはや適切ではない。この言葉は辞書の定義から離れ、人間性を奪い距離を置くための道具になってしまったからだ」と記した。
■言葉の線引きで変わる立場
理論上、「移民」とは誰であれ移住する人のことを指す。一方、祖国にとどまれば危険や迫害に直面するという理由で他国へ亡命申請している人々を「亡命希望者」、特別な権利と恩恵が与えられる難民認定を受けた人々を「難民」と呼ぶ。
しかし「難民」という言葉は、亡命を申請したかしないかにかかわらず、戦乱や迫害、自然災害から逃げてきた人を意味するために、より一般的にも使われるので混乱が生じる。
政治家たちは「難民」と呼ぶと救済する義務が生じる可能性を恐れ、この言葉を避けようとすることが多い。8月に英仏の内相が調印した3400語に及ぶ「カレー(Calais)での移民流入管理」に関する合意書では、「難民」については一度も触れられず、一方で「移民」という単語は36回使われた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報担当者アリアン・ルメリー(Ariane
Rummery)氏は「暴力や迫害から逃れようとする人の流れを表現する上で『移民』は正確な言葉ではない。欧州沿岸部に到着している人々の大半は、シリアやアフガニスタン、イラク、エリトリアといった紛争や暴力、迫害が起きている国々から来ている」と語る。
しかし、スイス・ジュネーブ(Geneva)に本部を置く国際移住機関(International
Organization for Migration、IOM)は「経済移民」にも「難民」にも当てはまらない人たちが大勢いると指摘する。親や家族と合流しようとする子どもたちや人身売買の被害者もそうだ。
IOMの広報責任者レナード・ドイル(Leonard Doyle)氏は「あの人々全員を難民と呼んで、故国に送還する必要はないとしてしまう立場は極めて危険だ」と語った。「非常に複雑な動きの中に置かれた人々がいるときに、我々は白黒明確な線を引こうとしている」。IOMでは誰に対しても「移民」という包括的な用語を使うべきだと強く主張している。
一方、キリスト教団体「拷問撤廃のためのキリスト教徒行動(Action by
Christians for the Abolition of Torture)」のイブ・シャハシャハーニー(Eve
Shahshahani)代表は「亡命者」という言葉はどこへ行ったのかと問う。この言葉ならば「経済的理由か政治的理由かにかかわらず」国を出ることを余儀なくされた状況が強調されるという。
裕福な白人の外国人は「国外居住者」と呼ばれるのに、他の人種だと「流入移民」と呼ばれるという問題もある。これは人種差別の片りんだと、ブログ「シリコンアフリカ(SiliconAfrica.com)」を主宰する人権活動家のマウナ・レマルク・コートニン(Mawuna Remarque Koutonin)氏は言う。「白人を他の誰よりも上に置く目的で作ら
れた階層的な言葉は今もまだある。『流入移民』は『劣った人種』に割り当てられた言葉だ」と最近のブログで書いた。
■国ごとの「婉曲表現」
カナダ・ケベック大学モントリオール校(University of Quebec at Montreal)で国境問題などを専門としているエリザベス・バレ(Elisabeth Vallet)氏は、言葉は極右政党にとって特に強力な道具だ
と述べ、フランスの極右政党、国民戦線(National Front、FN)が「移民の危険」という表現を使っていることを例に挙げる。「移民という呼び方は人間性を奪い去る方法で、一人一人の個人について語ることを打ち消してしまう方法だ。ある朝、一人の母親がどうして子どもたちを連れて砂漠を越え、小さな船で荒海を渡り、警察の催涙ガスに立ち向かおうと思ったのか、誰も疑問に思わない。それこそが最初の問いであるべきなのに」
独特の婉曲表現がある国もある。スウェーデンのメディアは「EU移民」という言葉を使うが、これは数多く働きに来ているデンマーク人やフィンランド人のことではなく、広範な差別に直面してきたロマの人々を常に暗に指している。
イタリアでは「難民」と「亡命希望者」に加え、独特な「プローフギ」という第3の言葉が使われている。「プローフギ」とは、ある国に到着はしたが、難民申請をまだ行っていないか、難民認定を受けていない状態の人々を表す。
第2次世界大戦(World War II)以降で最多の人々が移動している状況で、この議論がすぐに決着することはないだろう。(c)AFP/Eric RANDOLPH
http://www.afpbb.com/articles/-/3060278?pid=0