ウイグル族と漢族は水と油 | 日本のお姉さん

ウイグル族と漢族は水と油

ウイグル族と漢族は水と油
━━━━━━━━━━━━
平井 修一

近藤大介氏の論考「新疆ウイグル見聞記」(現代ビジネス7/20、7/27)の一部を転載する。

<新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチの地窩堡国際空港に昼過ぎに降り立つと、シシカバブの匂いが、ツンと鼻を突いてきた。
シシカバブは中国では、「羊肉串」(ヤンロウチュア)と呼ぶ。
文字通り羊の串焼肉に、新疆ウイグル独特の七味唐辛子を振りかけた名物料理だ。

地窩堡国際空港は改装して13年になる近代的な建物で、地元観光協会の人と思しき男性が、降り立った人一人ひとりに観光地図を配っていた。
こんなサービスをしてくれる中国の空港は、他にはない。
後に知ったが、観光客激減で、それほど苦労しているのである。

他の空港では無いハプニングにも出くわした。空港の出迎え口で待っていてくれるはずの現地の運転手が、見当たらなかったのである。
というより、300人を搭せた飛行機が北京から到着したばかりで、他にも中国各地からの便が続々と到着しているというのに、出迎える人が皆無なのだ。
(警備上、乗客以外は敷地に入れない)

代りに重武装した武装警察が、銃を構えながら、空港構内をひっきりなしにパトロールしている。

空港建物の出口でも、やはり重武装の武装警察が銃を構えて立っていた。
このような光景を見たのは、1988年のソウル金浦空港以来だ。
当時のソウルは、オリンピック前に大韓航空機爆破事件の犯人・金賢姫が護送されたりして、ものものしい雰囲気だった。

*南北に棲み分ける漢族とウイグル族

新疆ウイグル自治区は、中国の国土の6分の1にあたる166万平方キロメートルという広大な地域だ。
日本の国土のざっと4.5倍。
そこに台湾や北朝鮮と同じ約2300万人が暮らしているが、その内枠は漢族が874万人(流動人口も含めれば1000万人を超えるという説もある)で、ウイグル族が941万人。残りが45の少数民族である。

車がウルムチ市内に入ると、空港に近い北部は、漢族が占めていた。
街は完全に漢字表記で、他の中国の地方都市と何ら変わらない光景が広がっている。
そこでは、あちこちで高層マンションの建設が行われていた。
1平方メートルが1万元(1元≒19.6円)を超す高級マンションも出始めているという。

ウイグル族は高価なものの値段を、羊の値段(1頭≒1000元)で数えるそうなので、それになぞらえれば、1平方メートルで羊10頭分ということになる。
もっとも、マンションの建設ラッシュは市の北側なので、ウイグル族とは無縁だろうが。

車が雅山トンネルを越えて、市の南部に入ったとたんに、風景が一変した。
モスクやウイグル文字が目につき、ウイグル族の居住区であることが分かる。
新疆ウイグル自治区では、ウイグル族は「南疆」(南部地域)に多く住んでいる。

漢族が多く住む「北疆」(北部地域)の中心都市ウルムチでは、人口353万人の75%を漢族が占めている。ウイグル族はまさに少数民族なのである。

実際に目の当たりにして改めて知ったが、漢族とウイグル族は、まるでユダヤ人とパレスチナ人のように、はっきり棲み分けができている。
ウイグル族は敬虔なイスラム教徒で、ウイグル語を話し、ウイグルの習俗に従って生活し、子供はウイグル族の学校に通う。

*「何事にも慣れるものさ」

宿泊する君邦天山飯店は、街のやや南側だが両民族の居住区の境に位置する。
昨年末に改装を終えたばかりだそうで、14階建てのモダンなホテルで、砂漠地帯とは思えない噴水がロビーに流れていた。
一見すると北京にある5つ星ホテルと変わらないが、一つだけ大きく異なる点があった。
それは、ものものしい警備である。

ホテルの隣は武装警察と公安局の拠点になっていて、銃を構えた警官たちが立ち並んでいる。
そしてホテルの敷地内に入る際に、車中の荷物検査と、乗車している人の身体検査が行われる。ただし私は、漢族と思われたようで、身体検査は免除された。

検査にパスしてようやく車寄せに着くと、今度はホテルの建物に入るために、同様の荷物検査と身体検査である。
こちらはズボンのベルトまで外すという本格的なものだ。

厳重な警備について運転手に聞くと、「何事にも慣れるものさ」とそっけない。
ちなみに運転手の男性(推定50代)は、敬虔なイスラム教徒だが、中国語が母国語という回族だった。回族については後述するが(略)、漢族とウイグル族の橋渡し役を担っている。

だが運転手に何を話しかけても、必要最小限の事しか話してくれない。
そこには「イスラム教徒以外はアカの他人」という意識が色濃く感じられた。

*観光客激減で、客よりも警官の方が多いありさま

夕刻に、ウルムチの名高い「国際バザール」に行ってみた。
2003年にオープンした世界最大4万平方メートルのイスラム式ショッピングモールである。
こちらも高い鉄柵に囲まれていて、厳重な手荷物検査と身体検査を経て柵の中に入る。
ショッピングというより、刑務所に面会に来たような気分がしてくる。

ようやく中へ入ると、中央中庭の一角に、黒い金網でできた大きな檻が目についた。
気になったので傍まで寄っていって仰天した。

何と中には、ライフル銃を構えた4人の狙撃兵が、道行く人々に銃口を狙い定めていたのだ。
もしも通行人の誰かが少しでも不審な行動を起こしたら、たちどころに狙撃してしまおうというわけだ。

こうした厳重な警備が始まったのは、2009年7月5日以来だという。
同年6月25日、26日に、広東省韶関市の玩具工場で、二人のウイグル人労働者が殺害され、少なからぬウイグル人労働者が負傷した。
だが地元警察は、漢族による暴行事件をうやむやにしてしまった。

これに不満を持ったウイグル族が7月5日、ウルムチで大規模な抗議デモを挙行。治安部隊との間で全面衝突となった。

中国側は、死者184人で、うち漢族が137人と発表。だが中国の外で新疆ウイグルの独立運動を進める世界ウイグル会議は、ウイグル族の死者は最大で3000人に上ると推定している。

2013年に習近平政権になってからは、さらに両民族の対立が先鋭化している。
昨年4月30日、習近平主席が視察を終えたばかりのウルムチ駅で爆弾テロが起こり、3人が死亡、79人が重軽傷を負った。
続いて昨年5月22日には、ウルムチ市内の市場で爆弾テロが起こり、31人が死亡している。

こうしたことから、新疆ウイグルへの内外からの観光客が激減。
私が訪れた7月中旬は、これに中国株暴落と、海外旅行ブームによる国内旅行衰退が加わり、夏の観光シーズンというのに、閑散としたものだった。
4日間で外国人は欧米人観光客を数人見かけただけで、日本人も韓国人も皆無だった。

そんなわけで、ウルムチ名所の国際バザールは、客よりも警備にあたっている警官の方が多いくらいだった。

*ウイグル族の男女の役割分担

ウイグル族の商売人を見ていると、商売熱心なのは女性で、「肝っ玉母さん」といった感じの小太りの女性たちが、しきりに客に愛嬌を振りまいて商品を勧める。
地下の絨毯売り場で、中国語がそこそこできるオバサンが暇を囲っていたので話しかけたら、次のように語った。

「昨年5月の爆発事件以降、客足がバタッと途絶えたの。
特に夏は一番の観光シーズンだというのに、今年は最悪だわ。外国人はもちろん、中国人だってほとんど来ない。こちらの人間は、どんな仕事をしている人も、不景気に悩んでいるわ」

こうしてオバサンとしゃべっている間も、夫はネクラな表情で、店の奥にグタッと座って呆けている。
客に対しては無視しているが、こちらが何かを聞いた時だけ、ボソッと答えるか、妻の背中を引っ張って代わりに答えさせる。

ウイグル族男性がこのようにぶっきらぼうなのは、最初は漢族(と見られている私)を嫌っているのかと思っていた。ところがいろんな店で接しているうちに、二つの理由があることに気づいた。

一つは、彼らは中国語をほとんどしゃべれないのである。

もう一つは、ウイグル族の伝統として、男女の役割分担が決まっているということだ。
男性は昔から狩猟に出るか戦場に出るかして、食い扶持を持ってくる。
一方、女性は家事と子育てを担う。
家で男性が行うのは、女性が苦手な力仕事だ。
だからそれ以外は、まるで番犬よろしく、「ナイフを腰に下げてじっと見張っているのが仕事」というわけだ。

こうした習慣も、漢族とは相容れない。漢族は一般に「専業主婦」という職業がなく、家庭でも職場でも、男女同権が徹底しているからだ。

*イスラム教徒と"カネ教"徒の対立

百以上の店が軒を連ねる国際バザールで、ごくたまに漢族が経営している店に出くわす。
それらは、高級な玉器を扱う店だ。
本500円のナイフの店はウイグル族が経営し、1個100万円の玉石を売る店は漢族が経営するとい
うわけだ。

ある大型の玉石店の人にウイグル族について聞いたら、「ウイグル族なんかウチの店で雇うわけないだろう」とあからさまに答えた。それはなぜかと畳みかけて聞くと、「?(惰)」(怠惰)、「慢」(とろい)と答えた。

たしかに、ウイグル族と漢族は、性格的にも水と油である。ウイグル族はアラーの神への信仰心が篤く、人間は厳しい自然の一部であり、現世は来世へのステップと考えている。

それに対し漢族は、現世こそすべてという享楽主義。無宗教だが、あえて言えば「カネ教」の信者で、カネこそが命と同様に重要と考えている。
なぜならカネによって、現世で最高の享楽が得られるからだ。

漢族が古代に、西域まで足を伸ばしてシルクロードを開拓したのも、ひと言で言えば金儲けのためだ。そ
のため漢族からすれば、金儲けのために日夜努力せず、非効率なラマダンなどしているウイグル族は理解不能で、蔑視の対象となる。

一方のウイグル族からすれば、朝から晩まで金儲けに血眼になっている漢族は、まるで蜂の群れのようで、精神的に卑しい存在と映る。

こうした価値観の相違は、以前チベット自治区に行った時にも痛感した。
だがチベット仏教が受動的な宗教なのに対し、砂漠地帯で興ったイスラム教は攻撃的な宗教である。そのため、ウイグル族と漢族との諍いが絶えないのである。

その結果、どうなるかと言えば、中国大陸においては常に弱肉強食の世界が展開されてきた。
古代に匈奴が全盛を誇った時代は、いまの山西省まで匈奴が支配し、前漢の武帝期に漢族が盛り返すと、いまのウルムチ近くに西域都護府を置いた。その後も取ったり取られたりで、現在は漢族が強いので新疆ウイグル自治区となっている。

過去2000年以上の歴史を見るに、中原(漢族など)が強固な帝国を築いている時代に、ウイグル族が中原を制したためしはない。
むしろ中原に朝貢することで生存を図ってきた。
中原の帝国も都護府などは置くものの、ウイグル族による一定の自治は認めてきた。

現在は、「北疆」はほぼ漢族が制圧したが、カシュガルやホーテンといった「南疆」はウイグル族の天下だ。
中国政府は「南疆」への漢族の移民を増やしたいのだが、2009年7月の衝突以降、一般の漢族は恐怖に駆られて、カシュガルやホーテンから撤退してしまった。

そのため、人民解放軍や武装警察とウイグル族との対立が続いているというわけだ。
どちらかが圧倒的優位の状態にならない限り、今後とも対立は収まらないだろう。それが砂漠地域の掟である。

*「少数民族というのは、侘しいものですねえ」

(ウルムチの高級ウイグル料理店で)私の隣のテーブルは、上海から来た一家だった。
彼らの話しぶりからすると、奥の席に座った爺さんは、1960年代の文化大革命の時代に、上海から「下放」されて新疆ウイグル自治区で青春時代を過ごした。
その思い出の地に、娘夫婦とその孫娘を連れてきたというわけだった。
最初は爺さんが下放時代の苦労話を滔々と語っていたが、途中から娘婿が、口を尖らせて義父に向かって言った。

「今回初めてウルムチに来ましたが、道路から建物まで、中国政府はよくこれだけ補助金を出して支えていると感心しますよ。それにわれわれは一人っ子政策なのに、ウイグル族は3人まで産んでいい。点数が低くても大学に行かせてくれる。ウイグル族はこれだけ優遇されていて文句を言うとは、一体、何様のつもりなんでしょう」

娘も口を差し挟む。

「ラマダンという旧習は、本当に体に悪そうだわ。早くあんな呪縛からウイグル族の人たちを解放させてあげられないものかしら」

爺さんは、ウンウンと頷きながら聞いている。その間、孫娘はと言えば、iPadのゲームに夢中で、大人の話など聞いていない。

娘婿がもう一つ、興味深い発言をした。

「今回ここへ来て、周りはウイグル族ばかりなので、初めて自分が少数民族になった気分を味わいましたよ。少数民族というのは、侘しいものですねえ」

日本人の私などは、北京に住んでいた時分から、少数民族の気分を味わっていた。
こちらウルムチでは、ただの一人の日本人にも出くわさないのだから、なおさらである。

だが考えてみれば、私には日本国という日本民族の祖国が存在する。
だから北京やウルムチで、いくら少数民族であろうが、気楽なものである。

ところがウイグル族の場合、外に「ウイグル国」という国家は存在しない。
すなわち常に、「漢族に民族浄化されてしまう」という危機感の中で生活しているのである。
そうした危機感が時折、暴発してテロになるというわけだ。

ウイグル族の心情は、理解できるようでできない>(以上)

小生が現役時代はシルクロードツアーは大人気だったが、今はウルムチは航空機の乗り換えのために寄る街になってしまったようだ。外務省は新疆ウイグル自治区に「十分注意してください」と危険情報を発出し、こう注意喚起している。

<新疆ウイグル自治区では,2009年に区都ウルムチ等で発生した暴動により多数の死傷者を出しました。

その後も,同自治区のカシュガル地区やホータン地区で無差別殺傷事件等が発生しており、2014年1月にはアクス地区、4月と5月にはウルムチ市、6月にはカシュガル地区やホータン地区、7月にはカシュガル地区、8月にはホータン市,9月にはバインゴリン・モンゴル自治州でそれぞれ事件が発生していると報じられています。

この内、ウルムチ市の事件は、4月は駅前で、5月は市内の市場付近での無差別殺傷事件であり、特に5月の事件では爆発物による爆発等で39名が死亡しています。

中国政府はこれらの事件の犯人を処刑する等厳罰による対応をしていますが、今後も不測の事態が発生する可能性は排除できないことから,引き続き情勢に注意を払う必要があります>

これでは旅行会社はツアーを設定できない。事故が起きれば「危険を承知しながら金儲けのためにツアーを実施した」などと叩かれるし、損害賠償を求められかねないからだ。

ウイグル自治区の治安の悪化は中共の強圧的な民族浄化政策による。カメラマンの村西とおる氏はこうツイートしていた。

<中国共産党独裁政権とイスラム圏との闘いがくすぶり始めている。
ウイグル自治区で暮らすイスラム教を信仰しているウイグル人800万人が火種だ。
中国政府から文化や宗教活動について厳しい締めつけを受け、漢民族との間での民族対立が深刻化している。トルコで反中デモが続発。
中国が懐に抱える地雷>7/16

小生にはウイグル人の心情は大いに理解できる。彼らにとって中共=漢族は「戦時にあっては敵、平時にあっても敵」なのだ。
中共もウイグル人をそう思っている。和解はない。

評論家の石平太郎氏もこうツイートした。

<世界の癌となった中国共産党政権、それをどうやって潰すのか。
今の時代、外部からの力で彼らを潰すのは無理だ。唯一期待できるのはその内部崩壊。

そして中国共産党政権の内部崩壊の前提条件の一つはすなわち、中国経済の崩壊である。
私自身、今進行中の中国経済の崩壊を喜ぶ唯一の理由はこれである>7/11

世界中がメイドインチャイナを排斥する「チャイナフリー」に徹すれば中共の死期はぐっと早まるだろう。同志諸君、イザ!(2015/7/27)