任天堂の人ー世界の隅々から寄せられる悲しみの声 | 日本のお姉さん

任天堂の人ー世界の隅々から寄せられる悲しみの声

任天堂「岩田聡の死」を世界が深く悲しむ理由
常にファンの目線で語った稀有な経営者
岡本 純子 :コミュニケーションストラテジスト
2015年07月16日
2006年6月、京都本社において、新製品である「Wii」について説明をする岩田聡・元社長。根っからのゲーマーだった(撮影:尾形文繁)

「例えば、あなたがどんなにその会社の製品が好きだったとしても、CEOが亡くなったところで、普通、悲しむことはないだろう。でも、Iwataの死は全く違う」(Metro)

「彼はテクノロジー業界の中で最も尊敬され、最も影響を与えた経営者だ」(The
Huffington Post)

「Iwataは世界の中でも最も思いやりにあふれ、最も思い入れを持ったCEOであり、真に卓越した人格の持ち主だった」(同)

「Satoru Iwataは最も優れたCEO」(The Verge)

「Iwataはエンターテイメントの世界を永遠に変えた」(The Hollywood Reporter)

世界の隅々から寄せられる悲しみの声

今月11日の任天堂・岩田聡社長死去のニュースを受けて、海外メディアやネットは、世界中のジャーナリストやファンからの哀悼の言葉であふれかえっている。驚くのはその多さだけではない。スティーブ・ジョブズとまではいかないまでも、それに近い「カリスマの死」といった受けとめられ方や、まさに世界の隅々から寄せられる悲しみの声は、日本という舞台を超え、グローバルリーダとして稀有な存在感を発揮した彼の功績を示すものと言えるだろう。
一般的には海外メディアに掲載される日本発のニュースの多くが、通信社発の記事のコピペで終わるのだが、多数のテレビや有力紙、ネットメディアの記者が個人的な思い出や追悼の言葉を様々につづっているのも印象的だ。それらの記事を読むと、いかに岩田氏が海外の様々なメディアの記者たちと密にコミュニケーションを重ねていたか、彼らの心にどれだけのインパクトを残したのかが浮かび上がってくる。

「南アフリカの多くのリーダーたちが金儲けのことばかりを考えている。しかし、自分の功績が自らの人生に何を与えたかと考えた時、銀行口座にいくら貯まったかなどといったことは何ら意味のないことだ。あなたの愛することをやり、あなたのすることを愛しなさい。なぜなら、それが人々があなたについて記憶する姿だからだ。それを私はSatoru Iwataから学んだ」(南アのメディ
ア)。

「彼は突拍子もないユーモアや様々な恰好に扮して、たくさんの(パロディーの)ネタを提供してくれ、世界の人々からも大いに敬愛された」(ニュージーランドのメディア)などなど、まさに世界の津々浦々で彼を悼む声がこだましている。

世界で最も愛された経営者だった

盛田昭夫、松下幸之助、本田宗一郎、安藤百福など、世界から尊敬された経営者は日本にも多くいた。しかし、これほど「世界に愛された経営者」はいただろうか。彼を「世界で最も愛された経営者」の一人にしたのは、トップとして、ゲーム開発者としての天才的な資質はもちろん、ゲームに対する深い愛情と献身、優れた人格、そして何よりそのずば抜けたコミュニケーション力だった、といえるだろう。

彼のコミュニケーションがなぜこれほどに多くのファンを生み、その心をとらえ続けたのか。いくつかの視点からスポットを当て、これからの日本のグローバルリーダーに必要なコミュニケーションの資質とは何かを考えてみたい。


2015年3月、DeNAとの提携記者会見における故・岩田社長(撮影:今井康一)
① 情熱と共感

コミュニケーションに最も重要な要素。それは伝えようとする情熱と、共感を呼び起こす力である。日本の経営者にはこの二つが圧倒的に欠けている。そもそも、伝えようという熱い情熱を持った経営者が少ない。冷静であることに価値が置かれているからか、熱く語ることを「かっこ悪い」とか「やりすぎだ」と揶揄する。筆者は、トヨタの豊田章男さんのプレゼンが大好きなのだが、これを経営者に見せると、多くが「日本人には不自然だ」「自分にはできない」と言う。確かに、ジェスチャーなどはぎこちないし、言葉と呼吸が合っていないのでこなれている、とはいいがたいが、何より、「この思いを伝えたい」という息遣い、熱い思いを感じるのだ。

豊田氏と岩田氏の共通点。それは、二人とも、何より自分の作るものに誇りを持ち、無限の愛情を持っていること、そして、常にファンやユーザーの視点に立って語ることだ。豊田氏は「エンジンの音、ガソリンの匂いが何より好きだ」と語り、自らを「自動車会社に勤めるドライバーモリゾウ」と称している。

岩田氏も、「その親しみやすさで知られていた」(The New Yorker)。「私の名刺には社長と書いてありますが、頭の中はゲーム開発者、心はゲーマーです」と言う彼の言葉は、まさに、常にファンの目線で語り、共感を生むコミュニケーションの達人であったことを示している。
ウェブメディアのVoxは岩田氏がコンファレンスで世界の聴衆に語ったこんな言葉を紹介している。「私たち開発者はあなた方と同じ考え方を持っています。我々が世界の異なる場所から来ているとしても、違う言葉をしゃべるとしても、一方がポテトチップを食べて一方がおにぎりを食べたとしても、違うゲームが好きだとしても、ここにいるすべてのみなさんはある一つのことでは全く同じなのです。それは、我々すべてゲーマーの心を持っているということです」。ファンの共感のダムの堰を切るような見事な語り口だ。


2009年4月、東洋経済の会議室で取材に応じる故・岩田社長(撮影:尾形文繁)
② 直接向き合う

これまでのトップは、メディアを通して、間接的にファンやユーザー、生活者などとコミュニケーションをとるのが一般的だった。普段は城壁に囲まれた会社という城の中で執務をし、限られた腹心に指示を伝え、たま~に(株主総会など)、庶民の前に現れて手をふる「お殿様」みたいなものだ。

しかし、ソーシャルメディアがこの習わしを根底から変えつつある。メディアを通さず、動画でトップのメッセージをステークホルダーに届ける動きも広がっているからだ。マイクロソフトの新しいCEOサチャ・ナデラ氏はメディアとのインタビューの代わりに、社内制作のビデオで就任後初のメッセージを世の中に伝えた。大手メディアは「忸怩たる思いを抱きながら」、そのビデオを引用して、記事を書かざるを得なかった。

こうしてトップが直接的にコミュニケーションをとるトレンドを先駆けていたのが岩田氏だった。ウェブ上で、「Iwata Asks」(日本語名では「社長が訊く」)という岩田社長が開発者をイ
ンタビューするという(開発者が、ではない)コンテンツを連載し、英語、スペイン語、フランス語に翻訳して公開した。そのウィットに富んだ、かしこまらない質問やツッコミぶり、そして社員である開発者と対等な視点でものを語り合っている姿が、ファンにとってはたまらないものだった、と多くの海外メディアがその取り組みを絶賛している。

③ 上から目線で語らない

岩田氏の海外メディア評では、その人格をほめたたえるものが非常に多かった。身近にいた人々の岩田氏に対するコメントが、岩田氏への尊敬と感謝であふれていたのも印象的だ。「彼はよく笑い、我々も笑わせてくれた。インタビュアーをリラックスさせるコツを知っていた。常に、面白い話、楽しい話を付け加えようとしてくれた。数えきれないほどの彼の素晴らしさ以上に印象深いのは、全く知らない人までを包み込む彼の暖かさ、懐の深さだ」(Time)。

「知性、クリエイティビティ、好奇心、ユーモア。ただ、我々のように近くで仕事をした人間にとって最も記憶に残るのは、彼の助言力(メンターシップ)、そして、友情だ。(中略)私は彼を上司だと感じたことはない。彼はまさに私を支えてくれる友人のようだった。彼のような人間を私は誰も知らない」(任天堂アメリカCOOレジーフィサメイ氏)といったコメントからも、社内の人間に対しても、ファンに対する姿勢と同じように、対等の目線で語っていたことがうかがえる。

④ 道化をいとわない

岩田氏の遊び心といたずら心、すがすがしいまでにありのままの自分を見せる彼のスタイルがファンを魅了した」(Time)とあるように、岩田氏は自らをネタにしてしまうのをいとわない、究極の「道化師」でもあった。多くの動画にその芸達者ぶりが見て取れるが、ここまで思い切り、道化になり切れる人はなかなかいない。自らを笑いものにしてまで、「とことん、人を楽しませたい」と言う思いは、ゲームへの飽くなき情熱と表裏一体のものなのかもしれない。

⑤ 英語力にこだわらない

以前、安倍首相のアメリカ議会でのスピーチについて解説した記事でも触れたが、グローバルの場面でのコミュニケーションにとって、最も重要なのは英語力ではない。確かに、彼の英語は日本人の平均よりはずっといいが、それでも、決して流ちょうとは言えない。いくつかのメディアも彼の「英語力の問題」に言及していたが、そうしたハンデをものともせず、果敢にグローバルの舞台で、何十回と英語でのプレゼンに挑み、ファンやメディアと深い絆を作っていったことは高く評価された。

岩田氏は時代の一歩も二歩も先を行く、限りなく型破りなリーダーシップのカタチを示してくれた。後に続くリーダーは現れるのか。不世出の天才の空けた穴はとんでもなく大きい。
http://toyokeizai.net/articles/-/77203
「岩田さん、一番好きなゲームって何ですか」
記者が振り返る任天堂・岩田社長の魅力
筑紫 祐二 :東洋経済 編集局記者 2015年07月16日
この著者の記事コメント2「「岩田さん、一番好きなゲームって何ですか」 記者が振り返る任天堂・岩田社長の魅力 | オリジナル - 東洋経済オンライン」をはてなブックマークに追加
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2013年7月のインタビューでの任天堂・岩田聡社長(撮影:ヒラオカスタジオ)
7月11日に任天堂社長の岩田聡さんが急逝した。岩田さんは、その見た目通りに穏やかで、冷静な人だった。記者会見の場などで、どんなに辛辣できつい言葉を浴びせられても、つねに泰然と回答していた。その代わり、ゲームのことになると、情熱がほとばしり出た。1度でも岩田さんに直接、1対1で話したことがある記者は、おそらく例外なく、この"熱い男"の魅力に参ったはずだ。

記者は2012年4月から2014年3月まで関西支社の記者として勤務し、そこで任天堂を担当していた。2013年7月に京都本社でインタビューをしている最中、ふっと唐突に、以前、岩田さんが「名刺上は社長だが、頭はゲーム開発者、心はゲーマー」と語ったという話を思い出した。インタビューの内容とは脈絡がなかったのだが、思わずその質問をぶつけてみたくなった。

いちばん好きなゲームは何ですか?

「心はゲーマーですよね。岩田さんがいちばん好きなソフトって何ですか?」

それに対して、次のように答えてくれた。

いやぁ、難しい質問ですねぇ。自分がモノを作っていましたのでねぇ、自分が作ったモノには特別な愛着があります。「カービィ(星のカービィ)」や「MOTHER2」「スマッシュブラザーズ(大乱闘スマッシュブラザーズ)」には愛着がある……。だから、ひとつだけ上げるっていうのは結構、難しいですよね。
自分が作ったモノは、ある意味、自分の子どもをみる目でみてしまうので、距離が違うというか。ほんと毎日、(徹夜で夜明かしして)朝焼けの富士山がみえるまで作っていまして、そのモノがどうして生まれて、何を考えていて、どの思いはお客さんに届いて、どの思いはお客さんには届かなかった…。開発にはどんなドラマがあってと、そういうすべての思い出とセットになっているので、普通にプレーヤーとして味わうゲームとは、また違う感覚になってしまいます。
簡単には申し上げにくいですよね。私自身、モノを作る人間なので、この商品はどうして多くの人にはやるのか、逆にこれはすっごく面白いのにブレイクしきれなかったのはどうしてだろうと考えてしまう。普通のお客さんのゲームの楽しみ方になっていないかもしれません。仕事になってしまっているのでね。
極端な話、ディズニーランドに行ってアトラクションをみていても、作った人の気持ちから考える癖がついていて(笑)、なんかただのお客さんになれないんですよ(笑)。映画とかをみていても、これって作り手は何を考えていたのかなぁ、なんてつい考えてしまう。私は映像が専門でもないんですけどね。
インタビューをした2013年7月は、「コミットメント発言(営業利益1000億円を目指すことはコミットメントだと発言)」をめぐって揺れていた時期であり、こののんびりとしたやりとりはどこにも収録されることはなかった。だが、岩田さんの人となりに触れることができた言葉として、任天堂の担当を離れた後も心に残った。この人は本当に、社長である前に、ゲームを作るのが好きで、ゲームをするのが好きな人なのである。

最後、立ち去る際に、「好きなゲームねぇ。突然だったのでなかなか思いつかず、すみませんでした。次回、お会いするときまでに考えておきますね」と声を掛けてくれる気の使いよう。しかし、その約半年後に担当が変わったことから、残念ながら、その機会は2度と訪れなかった。

気遣いをする人だった

2013年9月には山内溥・前社長が逝去した。実質的に経営から退き、一切の口出しはしなかったと聞くが、岩田さんの心の拠り所であったことは想像に難くない。岩田さんは「任天堂らしさは時代とともに変わる」と言っていたが、いちばん「任天堂らしさ」にこだわったのも岩田さんだった。それだけに現在の低迷する業績をなんとかしたい、スマートフォン時代にも通用する面白いゲームを早く世に送り出し、みんなに楽しんで欲しい、という強力な責任感があったのだろう。

岩田さんは、記者会見の際にも気遣いをする人だった。大阪証券取引所での決算会見を終えた後、たいがいの社長はぶらさがりを避け、さっさと退散する。特に業績が悪い企業ほど、記者との接触を少なくしようとするのが通例だ。だが、岩田さんは時間が許すかぎり、記者と立ち話をしていた。事務局が「そろそろ出ないと新幹線に間に合いません!」と悲鳴を上げるまで立ち去ることはなかった。

インタビューを受けるときは、「せっかく会うのだから何か新しい話題を」と考えてくれていた。記者を特別扱いしていたわけではなく、根っからサービス精神が旺盛なのだ。

任天堂のホームページに「社長が訊く」という企画がある。会社のホームページ上のことなので、見映えのよいことしか書いてないだろうと思いがちだ。だが、岩田さん本人に会ってみれば、そこに載っていることは脚色なし、本当に岩田さんが素朴に疑問に感じて、感動して漏らした言葉が、かっこ悪いことも含めて、すべて網羅されているだろうことがわかる。いま読み返しても、まるで岩田さんがそこにいるような錯覚に囚われる。

仕事から離れた今、岩田さんは天国で、「大好きなゲーム」を心置きなく楽しんでいるのではないかと思う。いや、岩田さんのことだから、こうすればもっと面白くなると構想を練っているのかも知れない。
http://toyokeizai.net/articles/-/77336

京都の任天堂の本社の前を通ったことがある。
元々は、トランプを印刷して売っている会社だと聞いた。
わたしはゲームはしないけど、みんなが楽しそうにゲームをしているのはずっと観てきた。
ある意味、すごい人だったのだろうね。
日本人っぽくなく、楽しい人だったみたい。
関西の人は、楽しい人が結構多いからね~。
道を歩いていると、どんどん話しかけてくるし、スーパーでも知らないオバチャンが話しかけてくる。関西の人は、スペイン人みたいだなと思う。そんなわたしも、人に話しかけるのは平気な方だ。外国人が駅で困っていると話しかける方だ。でも、駅員さんも普通に英語がしゃべれる人が多くて、びっくりする。