加害者に発達障害の性格特性が関係していることが多い。 | 日本のお姉さん

加害者に発達障害の性格特性が関係していることが多い。

医療関係者の皆様へ 仁和医院 院長 竹川 敦

はじめに・・・・

最近外来に随分と発達障害の患者が増えてきた印象である。昔目立たなかった人々が顕著になってきているだけなのか、実際に数が増えているのかは定かではないが、とにかく外来受診数は昔に比べると格段に多い。ここ一年の当院のデータでも、メンタル初診患者454人中77人に(約17%)何らかの発達障害を認めた。(H22年10月~H23年9月:18歳以下5%含む)

昔は「発達障害と言えば自閉症」という考えが主流であったが、1944年にオーストリアの小児科医であるアスペルガー医師が言語の発育や知能の遅れのない自閉症の一群を見つけ、「アスペルガー症候群」と名付けたが戦時中だった為あまり注目されず、WHOが正式に疾患として認めたのは1992年のことである。その後日本でも精神科医の司馬理英子医師が1997年に「のび太ジャイアン症候群」という書籍でADHDを紹介してから徐々に社会に浸透するようになったが、その歴史はまだまだ浅く、私が学生の頃には授業でほとんど習ったこともないし、精神科の教科書にも非常に少ない文章しか載っていなかった。

そういう現状の中で、患者の口から「発達障害」という言葉が出たとたんに、「専門でないので診れない」「当院では扱っていない」「それは気にしなくていい」と患者を診ようともしない精神科医が多い。そもそも「成人の発達障害」を専門としている精神科医は、日本にほとんどおらず、恐らく全国でも専門の医療機関は10箇所くらいではないだろうか?(ちなみに私も発達障害の専門医ではない)

患者数と医療機関数を考えれば全員を専門医に繋げることは不可能であり、仮に専門の医療機関に繋げたとしても、やることは診断とケースワークだけであり、統合失調症とさほど変わらず、特別な治療法も存在しないのである。(きちんとした診断をつけ、対処的な薬物療法とコーチング、福祉介入やケースワークが治療の主体である。)

以前遠方から来ている患者さんに「広汎性発達障害」の診断で、障害者手帳申請の診断書を書いたところ、市役所の方から「当市ではそのような障害の患者さんはいませんので・・」と連絡が入り、唖然としたこともあった。現在人口の5%(国立大学生の10%、学童の10%)はいると言われているにも関わらず、これだけ世間に浸透していないのは、由々しき問題である。

私はそもそも発達障害を知らずに、うつ病や統合失調症を診断出来ていることに疑問を感じる。患者の数を考えれば、外来で遭遇していないことは絶対に無いし、精神疾患を診断するのに性格障害の有無を知ることは必須である。多くの発達障害の患者が、難治性うつ病や躁鬱病、統合失調症、もしくは人格障害と誤診され、効果の無い高価な薬剤を延々と処方されているのが今の現実なのだ。

是非一人でも多くの医療福祉関係者に興味を持ち、勉強してもらいたいものである。



1.発達障害を診断する前に・・・


発達障害は大まかに以下に上げるような分類がある。
(詳しい内容は患者さんからの?の「発達障害について」参照)


・自閉症(AD)

・アスペルガー症候群(ASP:高次機能自閉症)


・注意欠陥多動性障害(ADHD/ADD)

・学習障害(LD)

・発達性言語障害(言語性LD)

・発達性協調運動障害


以上のように分類されているが、実際外来で遭遇する患者さんのほとんどが、2つ以上の特徴を少しずつ合わせ持っている。さらにASPでも人間関係が非常に良好なケース(奇異反応型ASP)や、ADHDでも自己管理がよく出来るケースも存在する。それゆえ発達障害というのは脳の器質的な障害の場所や、育った生育環境の後天的性格変化、二次障害の有無などでも変わってくるので、実際の臨床では一人一人症状が少しずつ違うと思った方が良い。



病気ではなく、性格の問題である為、治療法としては、対処的な薬物療法と自分の性格を理解し、環境調整を行なうしかない。それゆえその患者の治療や予後のことまで考えると、成人においては、単に「発達障害」や「広汎性発達障害」「自閉症スペクトル」などの大まかな診断で十分であり、細かい発達障害の分類は不要であると私は考えている。

今の生活の中で、どんなことに不都合を感じるのかというのは患者が社会生活を送る中で、自ら分析していくものであり、その症状は性格の問題からくるものとと認識出来るかどうかが重要である。さらに言えば、発達障害であるかどうかよりも、病気のように安静や薬物だけでは治らないと自覚することが大事なのである。職種や環境によってもどのような支障が出るかは人それぞれであり、無理に全ての問題と向き合う必要はないのだ。

ちなみにこの中で成人期まで発見されにくいのは、圧倒的にASPとADHD/ADDである。家族全員に発達障害や知的障害を認めるとか、よほど閉鎖的な環境、例えば小学生の頃からずっと不登校やネグレクトを受けていない限り、ADやLDは就学中に、ほとんど見つかるはずである。(計算障害のLDは成人になっても解らないことが多い)



2.患者の診察態度からの推測


発達障害の患者が病院に来る場合、圧倒的に多いのは、うつや情緒不安定などの「適応障害」をきたした時である。多くは人間関係がうまくいかない、感情のコントロールがつかない、物忘れがひどくなったなど訴え、それが原因で不登校や会社に行けないというケースが多い。基本的には前に述べた病気なのか?性格なのか?(前項本当にうつ病?参照)に準じたうつ病の診察をしていき結果的に「適応障害」の診断に行きつくのだが、その際には患者の態度で以下のことに注意する。


①会話中に圧倒的に瞬目が少ない。表情があまり変わらない。

②服装が年の割りに幼い。もしくは非常にシンプルな服装。

③落ち着き無く、ずっと一方的に早口で喋る。もしくは聞かれたこと以外全く喋らない。

④気にしなくてよい細かいところで、言い直したり、こだわったりする。的外れな質問が多い。

⑤不適切な敬語、時に造語のような言い回しが多い。

⑥診察中にいきなり泣く、怒り出すなど感情のコントロールが出来ない。

⑦時に患者が何を言いたいのか解らなくなる。要点を整理して話すことが出来ない。

⑧しぐさや話し方で何となく違和感を感じる。チック症状を認める。

⑨診察中に携帯電話がかかってきても、普通に座ったまま相手と話し始める。

⑩診察が終わった後に聞き忘れたこと、もしくは言い忘れたことがあると言って急に入ってくる。


上記の症状は発達障害の症状の一部を紹介したものであるが、私の経験だと上記の症状を認めるなら発達障害の可能性が高いと考えている。しかし年齢と共に社会性は学習しているはずなので、(後天性の性格変化によるもの)一つも当てはまらないからといって否定は出来ない。その辺を考慮しながら少しでも怪しいと感じたら、以下の患者の経過を詳しく聞くこと。



3.経過からの推測Ⅰ(親の話から)


発達障害に限ることではないが、精神障害の診断をするのに一番重要なのは、今までの経過である。

性格の問題を診断する時に重要なのは、その性格特性が幼少時、思春期から持続しているということ、

さらに発達障害の場合、一番大事なのは、幼少時(乳児~8歳くらいまで)の性格がどうだったのか?である。


ここで注意するのは、発達障害の患者(特にASP)何が常識で、何が普通なのか解らないということ。それゆえ本人の言う「子供の頃は普通だった」もあまり当てにはならない。そうなると正確な経過を聞く上で重要なのは親の話である。

まずは発達障害になりうる後天的な要素がないか聞くことが重要である。出産時の状況、特に低体重出生児、出生時仮死状態、てんかん発作の有無、脳炎、髄膜炎、頭部外傷の既往などは発達障害の原因となりうるので必ず聞くこと、また被虐待児も発達障害と酷似した症状になるので注意が必要である。

幼少時の一般的な特徴としては、発育が遅い、もしくは早い、すぐに癇癪を起こす、変にこだわりが強い、自分から声をかけて友達を作れない、一人で遊ぶことが多い、落ち着きがなくジッとしていられない、部屋の片づけが出来ない、忘れ物が多い、チック症状があるなどと言われているが、簡単にまとめれば、

・幼稚園や小学校低学年の頃、周囲と比べると少し変わった(違う)子だったか?
(扱いづらい、手がかかる、もしくは全く手がかからない子供だったなど)

・その時のお子さんと、今のお子さんの性格はそんなに変化していないか?


この二つの質問の答えが「イエス」だった場合は、なんらかの性格障害の可能性があると言って良い。

もし「ノー」だった場合まず考えるのは、発達障害は遺伝するということ、ゆえに親も発達障害ということは十分にありうる。発達障害の遺伝率は70%と言われているため、実際はどちらかの親が持っている可能性の方が高いのだ。親もしくは子供が発達障害であれば、その人も発達障害という可能性は高くなるのであるが、そうなると親の話も当てにならないということにもなる。一緒に来ている親の態度にも注意し、発達障害の可能性があると考えたら、もう一人の親の話を聞くことも大事である。

家族歴は非常に診断に有用である。必ず両親や子供、兄弟、祖父母の性格傾向と聞き、本人と似ているかを聞くこと。私の経験では後天的な要素が無い場合、2親等くらいまで調べると、ほぼ100%に、発達障害と思われる(変わった性格の)親族が存在している。最近では自分の子供に発達障害が見つかり、自分も同じ性格傾向に気が付き、受診するというケースが非常に多い。また、どういう訳か発達障害者同士は親和性が高く、夫婦になっているケースが多数見受けられる。(特に男性のASPと女性のADHD)

昔の性格と今の性格が全く違うという回答が返ってきた時には性格障害の可能性が低い。その場合は何らかの精神疾患、特に「統合失調症」と「強迫性障害」を疑うこと。



発達障害は子供の頃から非常に扱いづらく、親は育児に苦労をすることになる。それゆえ厳しく接することが多くなり、そのような環境で育った子供は我慢のしすぎから二次的に「アダルトチルドレン」を合併することが多い。こうなると親に怯えながらも、非常に手のかからない子供に成長し、大学まで問題なく就学するのであるが、本質的な性格は変わっていないので、社会に出てから物凄く生き辛さを感じ、人間関係で悩むことになるのだ。

そういう意味で我慢を学習する前の性格特性が発達障害の診断には非常に大事なのである。

私の経験だと社会適応が良かった発達障害の患者さんは、ほぼ全例にこの「アダルトチルドレン(共依存)」を合併している。このことが日本での発達障害の診断を非常に難しくしていると私は考えている。(参照:アダルトチルドレンの背景にあるもの)合併している場合は、発達障害の治療だけでなく、アダルトチルドレンの治療も開始すべきである。





4.経過からの推測Ⅱ(本人の話から)


親の話が聞けない、もしくは当てにならない場合は本人の話から推測していくしかない。

最近発達障害の診断チェックなるものが出ているが、(自閉症指数AQなど)先にも書いたように発達障害の患者は何が普通で何が異常かも解らず、自分の物差しでしか見れず、自分を客観的に見る事が苦手である。さらに「自分は正常でありたい」と思う心理は誰にでも存在し、客観的には当てはまっていても、本人は認めない患者は多い。ゆえにチェックリストは、あくまで診断の参考として使用すべきであり、それが正常値を示しても、実際は正しく評価できていないことも多いのだ。(PARSなど親がチェックリストに答える場合は別。但し親が発達障害でないことが前提。)

実際私のところに来た患者でも、経過と母親の話からは何らかの発達障害があるのは明白にも関わらず、市で行なった検査では発達障害ではないと言われ、福祉の利用や手帳申請、職業訓練所を利用するのに苦労したケースもあった。特に成人の場合は、診断はチェックでなく総合的な判断で医師が下すべきである。

ちなみに私個人としては、IQ検査(WAIS-Ⅲ)が発達障害の診断には、ある程度有効であると考えている。IQ検査でIQ値自体は正常値を示すことが多いが、言語性IQと動作性IQ、もしくは得意項目と不得意項目で著しく差が出る場合は発達障害の可能性が高い。(例えば、言語の理解、知覚統合、作動記憶、処理速度などに有意差がある。図形合わせは得意なのに、計算が全くダメとか、言語の理解は得意なのに、書き取りが全く出来ないとか、項目ごとのグラフを見ると起伏の激しいものになるので解りやすい)又、検査中、課題に取り組む時の態度も重要で、そこから診断がつくケースも少なくない。

注意)知能検査も診断に絶対的なものではなく、検査結果で異常が出ないからと言って発達障害を否定出来る訳ではない。今までの経過や家族歴などを踏まえ、総合的に判断すること。


一般的に発達障害の症状の基本は「対人コミュニケーションが苦手」ということであるが、具体的な精神症状で幼少時から成人期まで一番多く認めるのは「強迫観念」と「常同思考」である。「強迫観念」はある考えが打ち消せない、「常同思考」というのは何事も同じ思考で考えてしまう、という定義をされているが、患者の訴えのみで両者の区別は非常に難しく、要は小児期から「一つのことにこだわる、一つの考えが続く」というところである。よく臨床で聞くのが、何事もこの順番でないと気がすまない。自分の持ち物の置き場所にこだわるなどで、時に手洗いや戸締りなども認め、強迫性障害と区別がつかないことも多い。

その他の症状は年齢と共に消失もしくは出現していくことが多いので、幼少期~思春期~成人期と経過を追って話を聞いていくこと。発達障害の患者は記憶が曖昧な幼少時でも嫌なことはしっかり覚えていることが多い。先にも書いたが発達障害は各々症状が少しずつ違うので、以下に上げた所見に全て当てはまる人はいないが、半分以上当てはまれば可能性が高い。(太字は比較的発達障害に特異性の高い項目)


①小児期~思春期

長期の不登校の既往(特に小学生高学年~中学生)があった。その不登校はクラス代えや転校をしても続く。嫌な思いを一度するとそのことばかり頭の中に残っている。子供の頃、落ち着きのない子供と言われていた。体を触られるのが嫌い、騒音が嫌い、味覚異常など何らかの知覚過敏症状。子供の頃から自分は何となく変わっているという自覚があった。友情や愛情が理解できない。正義感が異常に強い。小学校の成績で得意科目は優秀なのに不得意な科目は全く出来なかった。国語の文章問題を解くのが苦手だった。興味のない本を最後まで読み通すのが出来なかった。忘れ物が多かった。部屋の片付けが出来ない(途中で別のことを始める)。班行動が苦手だった。


②青年期~大人

人の顔色や場の雰囲気が読めない。もしくは周囲からそう言われる。同時に2つ以上のことが出来ない。優先順位がつけられない。人に言われたことを全て真に受ける。難しい嘘がつけない。金銭管理や部屋の掃除が出来ない。仕事をいくつか頼まれても最後のほうは忘れている。チームで動くことが出来ない。部下に指示が出せない。冗談や慣用句が理解できない。気を利かせる、自分の判断で動くことが出来ず、予期せぬ出来事が起きた時にパニックになる。一つのことに集中すると周りが目に入らなくなる。行き当たりばったりの行動が多い(海外を放浪するなど)



5.何故成人期まで解らなかったのか?(職歴からの推測)


患者が社会に出てからどのような職歴を持っているか聞き、長続きした仕事としなかった仕事の内容を詳しく聞き、彼らの周囲にどのような人間が居たのか聞くことは診断をする上で非常に大事なことである。

発達障害の多くは就学し、勉強についていけない、社会性が乏しく孤立するなどで小学生の頃に発覚することが多い。しかし知能に問題がないADHDやASPの場合は勉強が出来る為、無事に進学し、大学まで進む人も少なくない。そのような場合は社会に出ると同時に症状が顕著になることが多いが、中には選んだ仕事によって問題なく社会に溶け込む人もいるのだ。

私の経験だと発達障害が社会適応できていた業種としてはシステムエンジニアが圧倒的に多い。ビルゲイツが非常に良い例であるが(彼も発達障害である)、稀薄な人間関係の中でずっとPCに向かうという仕事は彼らの性格特性に非常に適しており、その類い稀な集中力を生かし、一般人よりも優秀な業務をこなしている人も少なくない。

その他に比較的多いのが、自衛隊や公務員、事務職、土木関係などの、規則正しい業務、いわゆるルーチンワークを主としている仕事や、研究職、学者、医者、自営業など、マイペースに特殊能力を生かす仕事なども彼らには適しているし、それで大成功している人も沢山いるのだ。(エジソン、坂本竜馬、スピルバーグ、ウォルトディズニーなど、ノーベル賞を受賞した学者の多くは発達障害と言われている)

以上のような一般の仕事をして問題なく社会適応している発達障害の患者の影には、必ずといってよい程、「良き理解者」が存在する。他のところでも書いたが発達障害の患者は真面目で素直であり、人を利用したり、騙すことが出来ず、人としては非常に魅力がある。そこを上司もしくは同僚が気づき理解出来れば、多少変わっていて、場の雰囲気が読めず、コミュニケーションが苦手であっても、うまく彼らのフォローに回ることができ、本人もマイペースで業務に就き、その能力を存分に生かすことができるのだ。

今まで社会に支障が無かった発達障害の患者が「適応障害」を起こす一番の原因は、環境の変化、「良き理解者」の消失である。職場が変わる、上司が変わる、もしくはフォローしてくれる同僚が居なくなる、部下が付くなどの理由で急に一人立ちしなくてはいかなくなるとパニックに陥る。特に場の雰囲気やチームプレイを重んじる上司がついたり、常識や一般にとらわれる上司が上につくと、たちまち適応障害をきたすのである。主婦の場合は、結婚して理解のない旦那と一緒に生活を始めると症状が目立ってくる方が圧倒的に多い。

このような理由で発達障害には不向きな仕事も多く存在する。接客業や、営業職、中間管理職、教職などチームで動く仕事や、臨機応変に対応しなければいけない仕事は苦手であり、多くの場合、不適応を起こし、長続きしないことが多い。先にも書いたように近くに「良き理解者」がいれば別だが、居ない場合は周囲に合わせようとすればするほど空回りし、次第に抑うつ感や、身体症状を認めるようになり、いわゆる二次障害(適応障害)をきたすのだ。


6.発達障害の治療


発達障害に限らず、BPD(境界型人格障害)やAC(アダルトチルドレン)など、性格に問題があるケースは、本人が自分で治そうという気持ちにならなければ決して良くならない。

特に発達障害の場合はきちんと診断を本人に伝え、他人とは根本的に違うということを納得させないと治療は始まらない。逆にそのことを納得させられれば、治療の半分は終わっていると言っても過言ではない。


ここで大事なのは発達障害は「障害」という名称はついているが、決して劣っているとか、ハンディキャップがあるということではないということ。単に性格的な個性が強い、そういう考え方の人が少ないというだけで、決して稀な障害ではない。物凄い集中力や記憶力を持つ人も多く、総知能指数(IQ)は一般人の平均より高い人の方が多いのだ。一般人が苦手なことで、彼らに得意なことは沢山あること、真面目で素直であり人間的には非常に魅力があることを理解していただくことが大事である。

無理をして周囲の人と同じように作業をしようとしたり、周囲の価値観や常識ルールに合わせるのではなく、マイペースに自分独自のやり方をあみ出すこと、自分の性格傾向を周囲に伝え、先に書いた「良き理解者」を作る、職場環境を整えてもらうことが一番の治療である。

私は患者には自分で調べた短所長所、得意不得意の性格傾向のリストを作り、自分で上司や産業医に説明するように勧めているが、それが出来ない患者には積極的に家族や会社の上司を病院に呼ぶようにしている。そこで患者の性格傾向を理解してもらい、障害者手帳を申請し雇用形態を障害者枠に変えてもらったり、休職のブランクが長くなっていれば、発達障害者用のリワークの利用を勧めている。

とにかく本人の考え方を変えるよりも、その患者の周囲の環境を変える方がよほど容易いことなのである。後は自分が生きていく社会環境の中で、失敗を繰り返しつつ自分でやり方を見出していくしかないのだ。病気を完全に否定し、安静や薬物では治らないこと、人生を諦めて、引き籠っていても何も変わらないことを自覚していただくことが非常に大事である。(家族にも同様の自覚が必要である)


今さらであるが、発達障害は脳の器質的な異常であるため、うつ病や統合失調症のように薬物療法で治るものではない。しかしながら薬物の投与によって精神症状(二次障害)を軽くすることは可能である。

以下に私が勧める薬物を挙げておく。

①ストラテラ、精神賦活剤(リタリン、モディオダール、ベタナミン)
不注意や多動、眠気が目立つADHDの性格傾向に対して効果がある。どの薬もNRIと呼ばれ、脳内のノルアドレナリン系や、ドーパミン系を活性化する働きがある。ストラテラは今まで18歳未満で使用されていた治療薬で、H24年8月より成人に対しての保険適応が認められた。(わが国では成人のADHDに対して唯一の治療薬である)小児に限らず成人のケースでも感情の起伏や不注意に対して非常に効果がある。長期的に服用することで徐々に効果が発現するが、成人の維持量まで増量すると、かなり薬価が高いのが難点である。

精神賦活剤は18歳以下であればコンサータという薬品名で保険適応があるが、成人の場合は日中眠気が酷いナルコレプシーの治療薬としてのみ保険適応がある。(ベタナミンはうつ病にも適応あり)いわゆる覚せい剤と成分が似ている為、即効性があり、人によっては効果覿面であるが、耐性依存形成も非常に早いため、私は基本頓服使用に留め、連日服用しないように勧めている。


②気分安定剤(ラミクタール、リーマス、デパケン、テグレトール)
躁うつ病の治療薬で気分の変動、イライラ、暴言、落ち込みに関して非常に効果がある。特にラミクタールは、100~200mgでBPDや知的障害、発達障害などの性格障害の気分変動に非常に良く効く。(皮膚症状の副作用が出やすいため25mgから徐々に増量する。デパケンとの相乗効果あり)。リーマスは過剰投与で致命的な腎障害がある為、性格障害にはあまり推奨出来ない。


③SSRI(ルボックス、パキシル、ジェイゾフト、レクサプロ)
発達障害の場合、抑うつ効果は期待できないが、不安感、衝動性や強迫観念に対して多少効果がある。しかしながら強迫観念に対して効果があるのは高用量であり、パキシルなら40mg以上、ルボックス、デプロメールなら200mg以上は必要。その他のSSRIは日本の保険内投与量だと、今一つ効果不十分な印象である。(NaSSAや抗精神病薬との併用が良い。)副作用で嘔気という訴えが多く、パキシルには若年者で急性錯乱状態(activation syndrome)の報告もある為、発達障害の患者さんにはSNRI、NRIと比べて今一つ使いにくい印象である。


④SNRI(サインバルタ、トレドミン)
新しいSNRIであるサインバルタは発達障害全般、特に多動が目立ち注意力が持続しないADHDや、身体症状(自律神経症状、過敏性腸炎)が目立つケースには非常に効果がある。特にサインバルタはストラテラ(NRI)に非常に近い薬理作用があり、さらにSSRIの効果も併せ持っているため、私はADHDの要素がある患者には積極的に投与している。ストラテラやリフレックス(NaSSA)の併用で効果は増強する。(ちなみにサインバルタが他の抗うつ剤よりもうつ病の寛解率が高いこと、全般性不安障害に効果があることなども、潜在性の発達障害の患者に効果があるせいと私は考えている)


⑤抗精神病薬(リスパダール、エビリファイ、セロクエル、ジプレキサなど)
反応性の幻覚、妄想、興奮、暴力などを認める場合は積極的に処方する。どういう訳か、発達障害の患者は一般的に、手の震え、固縮、パーキンソンニズム、アカシジア、過鎮静などの副作用が格段に出現しやすい。その為、統合失調症に使用する量の、1/4~1/8の量から徐々に調節することが望ましい。強迫観念に対しても、抗うつ剤で効果が得られない場合、併用すると効果ある場合もある。
ADHDの患者さんが反応性の幻覚、妄想などから統合失調症と誤診されているケースに日常では非常に多く遭遇する。そのような患者さんが大量の抗精神病薬を処方されると、アカシジア、過鎮静などの副作用が顕著に表れ、不注意、多動などの発達障害の症状が悪化する。さらに抗精神病薬を減量すると幻覚妄想が一時的に再燃し、その後の薬物の調整が非常に困難になることが多い。


⑥抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤:デパス、リーゼ、レキソタンなど)
その場の不安や緊張、自律神経症状に関しては、どんな疾患でも、とにかく有効である。性格障害の反応性抑うつ症状や無気力に対しては、抗うつ剤よりも非常によく効く。しかし効果は頭打ちであり、長期に内服すれば依存の問題から、その効果も減弱していく。私は基本頓服での服用を勧めている。

7.他の精神疾患との相違と合併について

発達障害は元々脳の構造の異常による性格の問題である為、他の精神疾患を発症することも多い。精神科で診断をつける場合は多軸診断というのが推奨されており、この場合以下にあげるような精神疾患が1軸であり、発達障害、知的障害、AC、BPDなどの性格傾向は2軸、身体疾患が3軸、環境因が4軸、機能の評価が5軸である。その中で患者の予後を決めるのは2軸(性格傾向)と言われており、どんな精神疾患に関わらず、発達障害の合併の有無を調べるのは非常に大事なことなのである。


①統合失調症

幻覚、妄想、思路障害、自閉などを主とする内因性の精神疾患の代表、発達障害との合併は非常に多い。統合失調症は基本的に思春期以降に発症する精神疾患で、性格障害とは根本的に違うものであるが、私の個人的な見解だと、若年発症(16歳以下)のケース、残遺状態で、疎通不良、認知障害を認めるケースや、分裂感情障害(昔でいう非定型精神病)と診断されたケースにかなり高率で発達障害が合併しているような印象である。

彼らは元々疎通不良や気分の変動を認めているため、統合失調症によって急速に人格が荒廃している残遺状態のようにも見える。きちんと内服をしているにも関わらず、容易にストレス反応性に再発し、最終的には大量の抗精神病薬を処方されることになる。通常の統合失調症のケースと比べると格段に予後が悪いので、ベースに発達の問題があるかどうかを、きちんと親の話や成育歴を聞き、診断をつけるべきと考えている。
(統合失調症に発達障害が合併している場合は抗精神病薬を増量するのではなく、気分安定剤や抗うつ剤を併用した方が効果がある)


②躁うつ病

発達障害に関わらず、知的障害、境界型人格障害やACなどの性格障害は1か月くらいの周期で抑うつ感や軽躁状態を繰り返すことが多く、躁うつ病(双極性感情障害、気分循環性障害など)と診断されているケースも少なくない。症状が重篤にならないことと短期間(数時間~数日)で症状が変動する、安定期が短いのが躁うつ病との違いであるが、生物学的に考えれば、脳の脆弱性というところは共通している為、両者の合併は十分に考えられる。私は躁うつ病でも性格障害でも気分変動を認めれば、積極的に気分安定剤の内服を勧めている。(ラミクタール、デパケンなど)


③強迫性障害(患者さんからの?「強迫観念とは?」参照)

発達障害の多くに強迫観念、確認行為を認め、症状だけで考えると強迫性障害と区別がつかないことが多い。両者の違いは症状の出現時期で、発達障害は幼少時、物心ついた頃から症状を認めているのに対し、思春期以降にストレスがきっかけで発症するのが強迫性障害ということ、発達障害はSSRIの反応が強迫性障害と比べると悪いということくらいである。(発達障害でもSSRIは多少効果がある)ちなみに私の経験では、性格障害の患者にSSRIの抗うつ効果はあまり期待できないが、こだわりや衝動性を少なくするという効果があるため、気分安定剤と同様に発達障害の患者には積極的に処方している。(ちなみに性格障害の抑うつ症状に一番効くのは抗不安薬である。)


④うつ状態、適応障害(「本当にうつ病?うつ病と適応障害の違い」参照)

環境の変化から抑うつ感や無気力、情緒障害を訴える発達障害の患者さんは非常に多い。うつ病と違い、薬物の反応が悪いことと、2~3日で抑うつ症状が変動する、自分の興味のあることは問題なく行動できる、などが特徴である。発達障害の場合は、本人には原因が解らなくて急に数日会社に行けないとか、上司や同僚の何気ない一言で行けない、昔の嫌なことを思い出して行けない、風邪などの病欠の後に行けなくなるパターンが多い。休職をさせても復帰の時に容易に悪化するので、きちんと自分の性格だと理解し、積極的な職場の移動や、最終的にはリワーク(職業訓練)の利用が必要になるケースが多い。


⑤依存症(物質関連障害)

比較的社会適応が良い発達障害はACを合併していることが非常に多い。(逆にACを合併しないと就学や就労で必ず不適応を起こしているはずである)その共依存的な思考から、アルコール依存症や薬物依存症となることも多く、この場合はアルコール多飲や薬物摂取に対して罪悪感はあまり存在せず、指導や教育も出来ないな為、通常の依存症よりも格段に予後が悪い。私の経験だと30歳台でアルコール性肝硬変となるくらい飲酒したり、刑務所に何度も出入りしている薬物依存症患者など、全く是正不能なケースに高率に発達障害がある印象である。ちなみに発達障害にACが合併している場合でも、グリーフワークやカウンセリングは有効であり、時に話をしただけで、突然生まれ変わったように改善することもある。

またADHDは元々脳内のドーパミンが少ないことから、自ら脳に刺激を求める行動を取ることが多い。その思考と行動からギャンブル依存やアルコール薬物依存になることも多く、私の経験で圧倒的に多いのがパチンコ依存である。金銭管理が出来ないことも助長し、生活が破綻するまでやり続けるが、本人はあまり自覚しておらず、家族のみが相談に来るケースが多い。ADHDの要素が強いケースに対しては、ストラテラ(NRI)やサインバルタ(SNRI)を服用することによって依存症を軽減させることは可能である。


8.見逃された発達障害者の予後


最近、路上生活者の70%に軽度の知的障害や発達障害を認めたというデータが発表された。実際私のところにも、市に保護された路上生活者が受診し発達障害が発覚するケースが非常に多い。現代の福祉大国日本で、普通に両親が居て、戸籍や住民票があれば、自己破産や生活保護などのシステムもある訳だから、よほどのことがない限り路上生活にはならないはずである。何故このようなケースが多いのだろうか?

路上生活者になった発達障害の多くは義務教育中の不登校から始まり、中には成人になるまで家の中で引きこもり、社会性を学べばない環境で育つことが多い。家がある程度の資産家であれば、両親の生きている間は生活していけるのだが、両親が亡くなったり、失踪したりすると無理やりに社会適応しなければならなくなるのだ。未成年の場合は児童福祉施設などに預けられ、運が良ければそこで発達障害を見つけ、職業訓練所などに繋げることが出来るのだが、成人(特に男性)の場合はそうはいかない。

今まで経験したことのない社会に放り出され、コミュニケーション能力や学歴も経験も無い為、まずは皿洗いや清掃員、接客業などの簡単なアルバイトに就くことが多いが、先にも書いた彼らの性格特性を生かした仕事に就けず、良き理解者がいない環境では、人間関係がうまくいかず、仕事でもミスばかり繰り返し、劣等感だけが大きくなるのだ。

それでも何とか周囲とうまくやろうと、必死に職を探し転々とするも年を重ねるごとに再就職が難しくなり、結局最後には職に就けなくなり、生活保護を申請することが多い。そういう中には福祉や社会の仕組みを知らずに簡単に人に騙されたり、身を滅ぼすギャンブルに嵌ったり、社会に対する怒りや感情の起伏から暴力団に入り犯罪に走ったり、自己管理が出来ずに路上生活を余儀なくされているケースが非常に多いのだ。

先にも書いたが元々発達障害の患者は生真面目で素直で言われたことを真に受け、人間としては非常に魅力がある。一方周囲からは変わり者と見られており、場の雰囲気も読めず、人を疑わず、柔軟な考え方を持てず、後先考えない頑固者であるため、困った時にも助けを呼ぶことが出来ない。この思考は成人になって年齢を重ねるごとに固執し、どんどん融通が利かなくなって行き、福祉を介入しようとしても本人が拒否をしてしまうのである。

可能であれば大人になる前、社会に出る前、不登校や引きこもりをしている幼少期、思春期の頃に医療や福祉が彼らの特性を見逃さず「発達障害」を見抜くことが非常に大事である。彼らに合った教育と社会適応の仕方を提供できれば、一般人と競う必要もなく、彼らなりの社会適応の仕方を見出し、場合によっては障害者手帳を取得し、職業訓練所の利用や障害者枠での就労も可能なのである。

現在の社会問題と言われるもの、例えば会社での不適応、モラハラ、パワハラや、学校での不登校やいじめ問題、モンスターペアレント、家庭での児童虐待やDV、これらの加害者に(場合によっては被害者側にも)発達障害の性格特性が関係していることが多い。また少年犯罪や繰り返される傷害事件や性犯罪、ストーカー行為、薬物依存症にも発達障害者が関与している可能性は高いと私は感じている。

出来るだけ早い時期に、彼らが自立出来る方法を見つけることが出来きれば、可哀相な路上生活者や生活保護者、引き籠り、自殺者を格段に減らすことに繋がり、また数々の社会問題を未然に防ぎ、犯罪を減らすことに繋がる・・・将に今の日本の社会を救うことにもなると、私は信じている。

彼らをいわゆる「社会不適合者」にせずに、救うことが出来るのは我々医療、福祉関係者だけなのだ。(米国の刑務所に入っている囚人の75%が発達障害を持っているというデータもある)

その為には医療関係者だけでなく、一人でも多くの人に「発達障害」に対する正しい知識と理解が広まることを願って止まない。

追記

平成25年現在、私の所には月に200人以上の発達障害の患者さんが通院しております。
彼らの多くは他院で「難治性うつ病」や「躁うつ病」「統合失調症」などと診断され、色々な薬剤を長期間大量に処方されても治らなかった方々です。

今まで10年以上病院を転々とし、誤診をされ続けた結果、転職を繰り返し、社会から孤立していき自分は社会不適合者であると、人生を諦めてしまっていた方も少なくありません。


彼らの成育歴を詳しく聞き、「病気ではなく性格、脳の構造の問題である」この一言を伝え、発達障害のことを教えるだけで、

「今まで自分に感じていた違和感の謎が解けた」
「何故自分は仕事(家事)が出来ないのか解った」
「(ご両親より)私達のしつけや育て方が悪いのではなかった」
「自分はだらしない、ダメな人間では無かった」

と涙を流して納得される方を沢山見てきました。
そんな涙を見る度に「もっと早くに出会いたかった」と悔しい気持ちで一杯になります。

是非一人でも多くの人に「大人の発達障害」を知っていただき、皆さんの周りでも仕事や家事、育児に苦しんでいる方を見かけたら病院受診を勧めてみて下さい。


注)受診の際には必ずお読み下さい↓クリック
発達障害関連で受診希望の患者様へ

付)発達障害お勧め本

「図解 よくわかる大人の発達障害」「図解よくわかる大人のアスペルガー症候群」ナツメ社
「大人のアスペルガー症候群」梅永雄二著 「大人のADHD」田中康雄著
「高校生の発達障害」「思春期のアスペルガー症候群」佐々木正美著

「よくわかる大人のADHD」「のび太ジャイアン症候群」司馬恵理子著
「わかっているのにできない脳」ダニエル・エイメン著
「知って良かったアダルトADHD」「依存症の真相」星野仁彦著
「片付けられない女たち」サリソルデン著
「自閉症的感覚ー隠れた能力を引き出す方法」テンプルグランディン著

http://www.geocities.jp/niwaiin/todrad.html