どうなる米中攻防 注目のアジア安全保障会議 | 日本のお姉さん

どうなる米中攻防 注目のアジア安全保障会議

2015年5月29日(金)
どうなる米中攻防 注目のアジア安全保障会議
29日からシンガポールで開かれる「アジア安全保障会議」に注目が集まっている。アジア太平洋地域各国の国防責任者が一堂に会するこの会議、今年は南シナ海をめぐって緊張を高めているアメリカと中国が激しくぶつかり合うのではないかと見られているのだ。会議を前に、米中のせめぎ合いも際立っている。今月、アメリカは、中国が埋め立てを進める南沙諸島周辺に最新鋭の艦船を派遣。さらに同空域での偵察活動の映像も公開して中国をけん制した。一方、中国は今週発表した国防白書でアメリカを非難。「領土主権を断固守りぬく」として、いっさい妥協しない姿勢を明確にした。各国が固唾をのんで見守る中で、米中はどんな主張を展開するのか。会議の行方と今後の米中関係を展望する。
出演:禰津博人(ワシントン支局記者)
戸川武(中国総局記者)
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有馬
「こちら、NHKが新たに入手した映像です。」
藤田
「南シナ海の南沙諸島、英語名・スプラトリー諸島で、中国が浅瀬の埋め立てを拡大させている様子が捉えられています。
今月(5月)上旬から中旬にかけて撮影されたもので、建設中の高層の建物、クレーンなどが確認できます。
こちら、画面右側に見える光。
撮影している船に向けて警告弾のようなものを打ち上げています。」
有馬
「こうした中国の動きに最近、特に警戒を強めているのがアメリカです。
2つの大国・米中の緊張が高まる中、世界が注目する会議が先ほどシンガポールで始まりました。
『アジア安全保障会議』です。」
「シャングリラ会議」とも呼ばれるこの会議。
毎年、各国の防衛担当の閣僚や軍の代表らが一堂に会し、アジア太平洋地域の安全保障についてそれぞれ講演を行い、意見を交わします。
今年(2015年)は3日間の日程で開かれます。
今年はとりわけ、アメリカと中国がどのような主張を展開するのか注目されています。
シンガポール リー・シェンロン首相
「アメリカと中国はアジア太平洋地域におけるキープレーヤーだ。
アジア太平洋地域で、米中は緊張を高めずに問題を平和的に解決できるはずだ。」
有馬
「注目が集まる、南シナ海をめぐる米中の応酬。
今回の会議を前に、一気に激しさを増しました。」
緊張高まる米中 アジア安保会議
今月16日、アメリカのケリー国務長官が中国に対し埋め立てを自制するよう、くぎを刺しました。
アメリカ ケリー国務長官
「他国と協力して、緊張を緩和するよう中国に促した。」
これに対し、王毅外相は…。
中国 王毅外相
「南沙諸島での建設は中国の主権の範囲内のこと。
中国の主権や領土を守る意志は固く、疑いを差しはさむ余地はない。」
この翌週、アメリカは中国をけん制します。
最新鋭の哨戒機が南沙諸島の周辺で偵察活動を行う様子を公開。
「これが滑走路です。
ここ数か月で数百メートル建設されています。」
さらに、バイデン副大統領は、偵察活動を強化する必要性を主張します。
アメリカ バイデン副大統領
「公平で平和的な紛争解決と航行の自由を守るためには、アメリカは臆することなく立ち上がる。」
けん制を強めるアメリカに対し、中国は反発します。
中国外務省 華春瑩報道官
「アメリカに誤りを正して理性を保ち、無責任な言動をいっさいやめるよう求める。」
さらに、翌日発表した国防白書では、「海上の軍事闘争の準備を最優先し、領土主権を断固守り抜く」として、領有権争いでいっさい妥協しない姿勢を明確にしました。
これに対し、アメリカは…。
27日、新しい太平洋軍司令官に就任したハリス司令官が、厳しい口調で中国を非難。
アメリカ太平洋軍 ハリス司令官
「中国は南シナ海をめぐり、非常識な主張をして埋め立て活動を行うなど多くの課題がある。」
さらに、カーター国防長官も…。
アメリカ カーター国防長官
「我々が望むのは(南シナ海での)平和的解決だ。
埋め立て活動を即座に中止するよう求める。」
南シナ海をめぐる米中の対立は、過熱の一途をたどっています。
アメリカの出方は
有馬
「米中の応酬はこれまでになくストレート、加熱しているわけですけれども、今回のアジア安全保障会議に、それぞれどのように臨むのでしょうか。
会議が開かれているシンガポールに、ワシントン支局の禰津記者、中国総局の戸川記者がいます。
まずはアメリカ側について禰津さんに聞きます。
アメリカは中国に対して、かなりけん制を強めているわけですけれども、今回の会議、アメリカはどう出るのでしょうか?」
禰津記者
「カーター国防長官ですが、ここシンガポールに向かう途中も記者団に対して、『アメリカの南シナ海での哨戒活動は以前から行っている任務であり、中国の埋め立て活動こそが新たな動きだ』などと発言し、けん制しました。
アメリカ側からは中国をけん制する発言が相次いでいますが、一方で、中国の埋め立て活動を止める有効な対策も見つかっていないのが現状です。
アメリカは、中国が2017年から2018年の間には埋め立て地に飛行場を完成させるとみており、海だけでなく空でも影響力を強めようとしていると警戒しています。」
米中関係の専門家 アレクサンダー・サリバン氏
「中国は東シナ海だけでなく、南シナ海の上空にも防空識別圏を設定する可能性がある。
埋め立てが進み、中国空軍が演習を行うようになれば、防空識別圏の設定がより容易になるだろう。」
禰津記者
「最近アメリカは、中国の活動は『航行の自由』という国際的な秩序に違反するものだと繰り返し強調しています。
ここシャングリラの会議でも、こうした主張を展開すると共に、中国の海洋活動が周辺国との緊張を拡大させているとして、中国に自制を促すものとみられます。」
中国側の出方は
藤田
「続いて、中国総局・戸川記者に聞きます。
周辺国やアメリカから厳しい目が向けられている中国ですが、今回の会議、どういった姿勢で臨むのでしょうか?」
戸川記者
「中国代表団のトップ、人民解放軍の孫副総参謀長は先ほど報道陣に対し、『アメリカはとやかく言うな』と述べて、さっそくアメリカを強くけん制しました。
また、中国は会議が始まるのを前に、ニュージーランドやスリランカなどと相次いで個別の会談を行い、南シナ海の問題ではいっさい妥協しない立場を主張しています。
会場では、会談を終えるたびに中国国防省の報道官がメディアの前に現れていまして、会談した国に対し、中国の主張に理解を求めたとアピールしています。」
中国国防省 楊宇軍報道官
「ニュージーランドに対して南シナ海問題における中国の立場を説明し、客観的で公正な立場を果たしてほしいと伝えた。」
戸川記者
「中国としては、周辺国を含めた各国をなんとか取り込んで、対立するアメリカに対抗していこうという思惑も透けて見えます。」
緊張 いつまで続く?
有馬
「中国は、積極的に各国に働きかけて仲間を増やそうという作戦ということですが、今の状態で緊張の緩和には向かうんでしょうか?」
戸川記者
「アメリカとの対立は深まっていますが、中国としては、実際に軍事的な衝突にまで発展することは望んでいません。
今年9月には習近平国家主席の訪米を予定している中、専門家の間からは、中国が決して譲れないとしている南シナ海の問題であっても、米中関係の安定を崩す事態にまで発展させることはないと説明しています。」
中国南シナ海研究院 葉強研究員
「米中両国は訪問に向けた良い雰囲気を作り出していくはずで、南シナ海問題を含め、具体的な問題において両国が態度を軟化させることもありえるだろう。」
戸川記者
「中国としては、アメリカとは個別に意見の交換も行って直接的な衝突を避け、そのうえで南シナ海での埋め立て作業も進め、みずからが主張する領有権を既成事実化しようというしたたかなねらいがあるものとみられます。」
中国との衝突 どうなる
有馬
「中国はみずからの主張は通す、しかしアメリカとの衝突は避けたいということなんですけれども、アメリカはこの中国のスタンス、どう考えているんでしょうか?」
禰津記者
「アメリカも、中国との本格的な衝突は避けたいと考えています。
南シナ海では去年(2014年)も、アメリカ軍の哨戒機と中国の戦闘機が異常接近する事態になりました。
仮に偶発的な衝突が起これば、米中の間で軍事的な緊張が一気に高まることが必至です。
アメリカとしては同盟国との連携をいっそう強化することで、中国の自制を促そうという考えです。
日本とは、日米防衛協力の指針、ガイドラインを改定し、今後、自衛隊が南シナ海まで監視活動を広げることに期待をにじませています。
また、オーストラリアには、新たにアメリカ空軍の偵察機を駐留させることを検討しているんです。
アメリカは明日、日本、オーストラリアとの3か国の防衛相会談も行う予定で、同盟国との連携によってアジアでの軍事的な存在感を高め、海洋進出を強める中国への圧力をかけていくものと見られます。」
http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2015/05/0529.html