マグロウヒル社の教科書-友だちから『贈り物だって。すげえな』といわれショックだった
◎米学者、慰安婦問題に「ぶれ」 異なる見解の声明に同一人物署名
修正応じない出版社主張との食い違い浮き彫りに
マグロウヒル社は「歴史的事実をめぐって、米歴史学者たちがぶれることはない」と断言する。だが、歴史学者らの「ぶれ」はすでに表面化しており、教科書の出版元への批判も一層強まりそうだ。
「日本軍は売春宿で働かせるために20万人にもおよぶ14歳から20歳までの女性を強制的に募集し、徴収し、制圧した」。慰安婦問題について、マグロウヒル社の高校世界史の教科書にはこうした記述を含め、公的な資料に基づかない記述が随所にみられる。
日本政府が同社に対し、不適切な記述を是正するよう申し入れると、米歴史学者19人(後に1人増え20人)は学術・研究に対する政治の介入を印象づけるように、これを拒む声明を出した。
ところが、その後発表された、戦後70年談話の発表をひかえる安倍晋三首相に「偏見のない(過去の)清算を残そう」とする日本研究者ら187人による声明は、「『慰安婦』の正確な数について、歴史学者の意見は分かれていますが、おそらく、永久に正確な数字が確定されることはないでしょう」としている。
「19人の声明」に署名した歴史学者のうち10人前後が、「187人の声明」にも署名しており、学者の「ぶれ」は明らかだ。学者らは「数の問題ではない。女性の尊厳が奪われたことが問題だ」と主張する。
だが、産経新聞の取材に応じたマグロウヒル社の教科書で学んでいるカリフォルニア州の生徒によれば、「日本軍が強制連行した慰安婦は何人」などとテストに出る可能性もあり、教科書の「20万人」という数字をおぼえるという。
この教科書には「日本軍は慰安婦を天皇からの贈り物として軍隊にささげた」との表記もある。こうした「非礼な表現」を歴史的事実として教科書に載せるのであれば、その出典や根拠を明記する必要がある。授業でそう教えられた日本人生徒は「友だちから『贈り物だって。すげえな』といわれショックだった」とも証言している。
マグロウヒル社は「執筆者の著述や研究、発表を明確に支持する側に立つ」としているが、生徒らへの教育上の対応としては、ずさんといわざるを得ない。
こうした点を3月に指摘した日本の歴史学者19人の訂正申し入れにも、マグロウヒル社はいまだに応えられないでいる。(ロサンゼルス 中村将)
【産経ニュース】2015.5.16 〔情報収録 - 坂元 誠〕
◎「過去の過ち清算」せよと叱責する「日本研究者」の正体
米国の日本研究者とは一体なんなのか。日本の国のあり方や国民の心の持
ち方を高所から指示する役割を自任する人たちなのか。5月上旬に出され
た米国の日本研究者ら「187人の声明」を読んで感じる疑問である。
この一文は「日本の歴史家を支持する声明」とされていたが、「日本の歴
史家」が誰かは不明、日本政府や国民への一方的な説教めいた内容だった。
声明は日本の民主主義や政治的寛容など自明の現実をことさら称賛しなが
らも、慰安婦問題などを取りあげて「過去の過ちの偏見なき清算」をせ
よ、と叱責する。安倍晋三首相に対しては「過去に日本が他国に与えた苦
痛を直視することを促す」と指示する。
英語と日本語の両方で出た同声明は原語の「促す(urge)」という言
葉を日本語版では「期待する」などと薄めているが、核心は自分たちの思
考の日本側への押しつけである。この点では連合国軍総司令部(GHQ)
もどきの思想警察までを連想させる。
だが発信者とされる187人には「米国の日本研究者」とは異なるような人
物たちも多い。安倍政権非難の活動に熱心な日本在住のアイルランド人フ
リー記者や性転換者の権利主張の運動に専念する在米の日本人活動家、作
家、映画監督らも名を連ねる。中国系、韓国系そして日本と、アジア系の
名も40ほどに達する。
そんな多様性も米国学界の特徴かもしれないが、同声明が米国全体からみ
れば極端な政治傾向の人物たちの主導で発せられた点も銘記すべきである。
声明作成の中心となったコネティカット大学教授のアレクシス・ダデン氏
は日本の尖閣や竹島の領有権主張を膨張主義と非難し、安倍首相を「軍国
主義者」とか「裸の王様」とののしってきた。
マサチューセッツ工科大学名誉教授のジョン・ダワー氏は日本の天皇制を
批判し、日米同盟の強化も危険だと断じてきた。コロンビア大学教授の
キャロル・グラック氏は朝日新聞が過ちだと認めた慰安婦問題記事の筆者
の植村隆氏の米国での弁解宣伝を全面支援している。
要するにこれら「米国の日本研究者」たちは米国の多数派の対日認識を含
む政治傾向や歴代政権の日本への政策や態度よりもはるかに左の端に立つ
過激派なのである。
だが今回の声明の実質部分で最も注視すべきなのは、これら米側研究者た
ちが慰安婦問題での年来の虚構の主張をほぼ全面的に撤回した点だった。
「日本軍の組織的な強制連行による20万人女性の性的奴隷化」という年来
の糾弾用語がみな消えてしまったのだ。
同声明は日本軍の慰安婦への関与の度合いは諸見解があるとして、「強制
連行」という言葉を使っていない。慰安婦の人数も諸説あるとして、「20
万人」という数字も記していない。「性奴隷」との言葉も出てこないのだ。
声明は慰安婦問題について具体的な事実よりも女性たちが自己の意思に反
する行為をさせられたという「広い文脈」をみろともいう。このへんは朝
日新聞のすり替えと酷似している。やはり日本側からの事実の指摘がつい
に効果をあげ始めたといえようか。(古森義久 ワシントン駐在客員特派
員)【産経ニュース】【あめりかノート】 2015.5.17
〔情報収録 - 坂元 誠〕