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日本政府に売る気が無ければ売れない

「至宝の技術」と呼ばれる日本の潜水艦、豪受注で独仏と激突
2015.05.08
日本、ドイツ、フランスによる最大500億豪ドル(約4兆6千億円)規模のオーストラリア次期潜水艦受注競争が本格化する。「クラウンジュエル(至宝の技術)」と呼ばれる日本の潜水艦技術とは-。
《クラウンジュエル》
直訳は王冠の宝石。企業買収で買収者が狙う、対象企業の重要な事業や資産を指す。防衛の世界でも敵のレーダー網に見つかりにくい米国のステルス技術など、他国にまねできない技術や製品がそう呼ばれる。
4兆円規模、豪州の次期潜水艦受注競争
中国に対抗、潜水艦調達へ
豪州は、海洋進出を急ぐ中国の脅威に対抗し、年内にも次期潜水艦の調達先を決め、10年後をめどに配備する計画。総額500億豪ドル(約4兆6千億円)と過去最大規模の国防プロジェクトで、最大12隻を調達する。
豪潜水艦受注「日本内定」覆り独仏と激突 日本の“消極的”に懸念
日独仏の中から発注先を選ぶ

豪潜水艦受注「日本内定」覆り独仏と激突 日本の“消極的”に懸念
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2015.5.8 09:30
【経済インサイド】
最大500億豪ドル(約4兆6400億円)規模のオーストラリアの次期潜水艦受注競争が本格化する。6日行われた日豪防衛相による電話会談で日本は豪潜水艦発注手続きへの参加を検討する方針を表明。これを受け、豪州は年内に日独仏3カ国の中から発注先を選ぶ見通しだ。昨年、安全保障強化や防衛産業の基盤維持などを狙いに「武器輸出三原則」に代わり制定された「防衛装備移転三原則」の下で日本が防衛装備の海外移転にどう取り組むかを海外に示す初の大型案件となるだけに、関係者の間には日本が敗れた場合の影響を懸念する声が出ている。
安倍-アボット会談で合意
豪州は2009年の防衛白書で現役のコリンズ級(通常動力型、潜水時排水量3300トン)6隻の更新計画を発表して以来、5年以上にわたり検討を続けてきた。海洋進出を急ぐ中国の脅威に対抗し、年内にも次期潜水艦8~12隻の調達先を決め、10年後をめどに配備する計画だ。
当初はコリンズ級を設計したスウェーデンを含め欧州製を軸に調達先を模索してきたが、昨年7月に安倍晋三首相とアボット豪首相との間で行われた首脳会談で安全保障関係強化などで合意したことを機に、日本が一躍、最有力候補に躍り出た。
三菱重工業、川崎重工業が開発し、現在も年に1隻のペースで建造されている日本のそうりゅう級(潜水時排水量約4200トン)は、原子力潜水艦(原潜)を運用していない日本で独自の進化を遂げた高性能の通常動力型潜水艦で、同様に原潜の運用が困難な豪州にとっても最適の装備といえる。以前は日本の「武器輸出三原則」が調達に向けての壁となっていたが、同盟国などへの装備品移転の規制を緩和する防衛装備移転三原則が首脳会談の3カ月前に制定されたことによって道が開けた。
両国は新三原則に基づく防衛装備移転の協定も締結。同10月の日豪防衛相会談では豪州の次期潜水艦について技術協力の可能性を探ることで正式合意し、そうりゅう級導入がほぼ既定路線化したとみられていた。
豪州で国内生産を求める動き
ところがその後、豪州の造船業界を中心に産業保護や雇用拡大に向け、潜水艦の国内生産を求める動きが活発化し始めた。とりわけ、外国製潜水艦の代名詞となったそうりゅう級に対しては「『性能が不足している』といった根拠のない報道がまかり通っている」(現地情勢に詳しい日本の関係者)など風当たりが急速に強まったという。
こうした中、アンドリュース豪国防相は2月下旬、日独仏の3カ国の条件を比較した上で調達先を決める方針を表明した。日本への“内定”が覆った形だ。アボット首相によるそうりゅう級の支持は「ボスの選択」と呼ばれるほど強いものだったが、選定作業を見守るとみられる。議会でも国内建造に向け超党派の合意形成を目指す動きが活発化しており、日本への支持を続ければ、政治的基盤を脅かされかねないためだ。
日独仏の潜水艦を性能面で比較した場合、そうりゅう級が圧倒的に有利とみられている。
豪州は日本や独仏に具体的な要求性能を伝えていない。しかし、国内の基地から南シナ海やインド洋まで往復できる航続力に加え、中国沿岸部の基地を攻撃できる巡航ミサイルを搭載するため潜水時排水
日本の技術は「至宝の技術」
もともと、通常動力の大型潜水艦の建造実績は世界的にも日本以外にほとんどない。このため、それぞれドイツは輸出用小型艦「214型」(潜水時排水量2000トン)を基に大型艦「216型」(同4000トン)を新たに設計・建造、フランスは「バラクーダ型」原潜(同5300トン)の推進機関を通常型に換装するという苦肉の策で豪州の要求に応えようとしている。
新規開発や大がかりな設計変更には開発失敗のリスクがあるのに対し、そうりゅう級はすでに海上自衛隊で運用実績がある点が大きな強みだ。大型艦ながら相手に探知されにくい「ステルス潜水艦」を実現した静音技術は「クラウンジュエル(至宝の技術)」(防衛省幹部)と呼ばれるほど希少性が高い。
一般に通常動力型潜水艦は、潜水したまま活動できる時間の長さや搭載できるソナーなど装備の数で原子力潜水艦の戦闘能力には及ばないものの、そうりゅう級の場合は「原潜の8割程度」(元海上自衛隊幹部)に迫ったとされる。ステルス性では原潜を凌駕するなどそうりゅう級は世界最高水準といえる。
一方、豪州は日独仏のどの国が受注しても、次期潜水艦には共同作戦を行う可能性が高い同盟国の米国製戦闘指揮システムを搭載する方針だ。米国製システムは日本との共用が可能だが、「欧州製との互換性は低い」(防衛省幹部)とされ、システム面でもそうりゅう級は有利とみられている。
アジア・オセアニア諸国は中国の海洋進出に合わせ潜水艦の増強を急いでおり、太平洋は2030年時点で全世界の過半数が集中する“潜水艦の海”になるとされる。そうりゅう級のような高性能潜水艦の引き合いは強まるばかりだ。
スタートラインについていない日本
受注の目が出てきた独仏両国は、豪州国内での建造に弾力的に対応する姿勢を強調することにより、技術・性能面でのそうりゅう級の優位性を突き崩す戦略をとるとみられている。豪州政府は、潜水艦の性能評価に加え、豪州国内で建造するという条件に3カ国がどれだけ柔軟に応じられるかの2点に的を絞り選定作業を進めているからだ。
とくにドイツはこれまでも官民を挙げ潜水艦の売り込みに力を入れていた。独誌シュピーゲル(電子版)によると、メルケル首相は昨年11月の豪独首脳で対中関係が悪化している日本製より、中立的なドイツ製の方が中国を刺激する心配が小さいと強調したという。
これに対し、日本はこれまで静観の構えを取っており、「100メートル競争にたとえれば、独仏はすでに25メートル走ったが、日本はスタートラインにすらついていない」(関係者)。防衛省によると、「技術協力の可能性について豪州政府と定期的に協議している」(経理装備局の三島茂徳艦船武器課長)ものの、積極的な売り込みは行わないとしていた。
また、3月中旬には第1弾の選考会ともいえる会議が豪州造船業界の拠点である南部の都市アデレードで開かれたが、ここでも日本は欧州勢と対照的な姿勢を見せ、海外の関係者を驚かせた。独仏政府やメーカーは同会議で豪州の政府や海軍関係者らに積極的な売り込みを図ったのに対し、日本の防衛省や三菱重工、川崎重工は参加せず、米メディアは「鍵を握る2社が欠席」とセンセーショナルに伝えた。2社や防衛省は「招待を受けたという認識はない」と説明するが、日本の関係者は「会議の主催者に対し、在豪日本大使館を通じて、日本政府に参加を要請するようアドバイスしたのだが…」と首をかしげる。
こうした日本の消極姿勢にはいくつか理由がある。日本が潜水艦を輸出することには「関連産業の製造・技術基盤の維持に貢献できる」(同)との利点があるものの、政府や関連産業は防衛装備の海外移転によって利益を挙げることを自己規制している。当然のこととして利潤を追求する欧米メーカーとの違いの一つはここにある。
リーダーシップ欠如
さらに重要な要因として、政府部内のリーダーシップ欠如を指摘する声も出ている。潜水艦を輸出したり、関連技術を移転したりする場合には防衛省のほか、外務省、装備品輸出の管理や振興を行う経済産業省、造船業界を主管する国土交通省の4省が関わるが、このうち、「多少なりとも積極的なのは経産省だけで、旗振り役がいない」(関係者)というのだ。
今後、官邸を含め関係省庁による一体的な取り組みが求められる。
別の関係者は「豪州向け潜水艦の受注に失敗すれば今後、日本から海外への装備移転は望めなくなる」と指摘する。
実は、今回の案件はさまざまなハードルをクリアしなければ実現しない新三原則の下で、まれに見る好条件に恵まれている。例えば、移転先が純同盟国の豪州であり、すでに装備移転の協定も締結。装備の性能面でも他国を引き離し、圧倒的な優位にある。こうした状況にもかかわらず移転を実現できないとなれば「日本は海外から『装備の国際協力を進める熱意がない』とみなされ、相手にされなくなる」というわけだ。
国家安全保障会議(NSC)顧問やジャパン・マリン・ユナイテッド顧問を務める元海上自衛隊司令官の香田洋二氏はアデレードでの潜水艦の会議に個人として参加した。香田氏は「現地の関係者の話を聞く中で、日本は、より積極的な対応を求められていることをひしひしと感じた」と話した。(佐藤健二)
■そうりゅう級 1番艦が2009年に竣工して以来、ほぼ毎年1隻のペースで三菱重工業と川崎重工業が交互に建造。防衛省は最終的に16~22隻の建造を予定している。1隻当たりの費用は当初600億円だったが、今年3月に竣工した「こくりゅう」では約520億円程度に低下した。ネームシップの艦名は旧日本帝国海軍の航空母艦「蒼龍」に続く3代目。
http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/150508/ecn15050809300001-n1.html
量4000トン以上の大型艦を求めているといわれる。また、豪州は中国が潜水艦探知能力を高める中でコリンズ級の騒音の大きさに悩まされており、静粛性も重視している。
豪州は、年内に日独仏3カ国の中から発注先を選ぶ見通し。性能や費用、地元企業の参画などについて3カ国を比較する「競争評価」方式で選定する。
豪潜水艦受注「日本内定」覆り独仏と激突 日本の“消極的”に懸念
日本は最有力候補だが…反発も
豪政府は、日本が製造する「そうりゅう型」導入に意欲を示してきたが、「中国を刺激する」との一部世論や、国内産業の保護を求める豪防衛企業が反発。一方、日本同様に受注獲得を目指す独仏は、豪州内での建造計画を示し攻勢を強めている。
豪次期潜水艦、日独仏を発注先候補に指名 日本には絞られず
《そうりゅう級》
1番艦が2009年に竣工して以来、ほぼ毎年1隻のペースで三菱重工業と川崎重工業が交互に建造。防衛省は最終的に16~22隻の建造を予定している。1隻当たりの費用は当初600億円だったが、今年3月に竣工した「こくりゅう」では約520億円程度に低下した。