怪しすぎる里親、“猫詐欺”の狙いは「虐待」か-大阪府枚方市の30代男性
2014.2.21 08:00
【衝撃事件の核心】5匹の猫はどこへ消えた…怪しすぎる里親、“猫詐欺”の狙いは「虐待」か
「慰謝料なんていらない。ただ、猫を返してほしかった」。捨て猫の新しい飼い主を探すボランティア活動をしている兵庫県や大阪府の女性5人が、飼う意思がないのに里親になると申し出て猫をだまし取ったとして、大阪府枚方市の30代男性に猫5匹の返還と約550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は男性に計約63万円の支払いを命じた。
ただ、猫の返還請求は却下。
男性は法廷に一切姿を見せず、猫がどこへ姿を消したのか、生死自体も分からずじまいだ。
「男性は何を隠しているのか」。怒りが収まらない原告側は、高裁で引き続き真相を追及する方針だ。
■すぐ「脱走」「死んだ」
判決などによると、5人は捨て猫を保護し、里親を捜すボランティア活動に従事。インターネット上の猫の里親募集サイトや地域情報紙を通じ、それぞれ捨て猫の里親を募っていた。いずれも男性が電話やメールで連絡を寄こし、里親候補に名乗りを上げたという。
原告の1人が最初、男性に猫を譲り渡したのは平成22年11月。猫を適切に飼育できるか確かめるため、男性の自宅を直接訪れた。当時、自宅に他の猫は見当たらなかった。そこで、責任を持って終生飼育する▽無断で第三者に譲渡しない▽飼育できなければ原告に連絡する-などの条件で譲渡契約書まで交わした上で引き渡した。
続いて2人目の原告が猫を託したのが翌23年1月。1人目と同様、男性が適切に飼育できるか自宅を訪れて確かめ、譲り渡すことにした。他に猫の姿はなく、男性は「以前、友人の猫を預かっていたが、自分の猫として飼うのは初めて」と話したという。そして翌2月、「(猫が)死んだ」とのメールが届いた。
3~5人目も同年の2月から10月にかけ、「一人暮らしで猫はいない」「自分の猫として飼うのは初めて」と話す男性にそれぞれ猫を託した。そのうち2匹は「脱走した」「逃亡した」とのメールが返ってきた。男性は原告が託した5匹以外に、少なくとも5匹を引き取っていたという。
■“欠席裁判”のまま
「枚方に猫をだまし取っている人がいる」
24年1月、原告の1人があるブログでこんな記述を見つけた。男性から「脱走した」とのメールを受け、それを信じていたこの原告は「もしかして男性のことか…」と疑い、里親募集サイトなどを通じて情報提供を求めた。
その結果、「どうも(男性が)怪しい」として集まったのが5人だった。男性に猫の返還を求めたが、男性は「不注意で逃げた」「死んだ」などと応じなかった。5人は昨年4月、「男性に猫をだまし取られた」として、猫の返還と計約550万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。
ところが、男性は地裁に「だまし取ってない」と争う意向を書面で伝えただけで、法廷に姿を見せることは一度もなかった。代理人をつけることもなく、男性側の“欠席裁判”のまま今年1月、男性に約63万円の賠償を命じる判決が出た。
判決では「男性は猫を終生飼育する意思があるとうそを告げ、5人をだまして猫を贈与させた。猫を幸せにしてやりたいという思いを踏みにじった」と指摘。一方で、「性別や毛色、写真で猫を特定するのは困難」として、猫の返還請求は不適法と判断した。
■「何か隠している」
判決後、原告側は記者会見した。勝訴したはずの原告女性らからは、落胆の声や判決への批判が相次いだ。
「命を諦めろという結論。これだけの数を『逃してしまった』というのは不自然だ。裁判所にもっと追及してほしかった」「慰謝料より何より猫を返してほしかった。(裁判所に)猫の命をもう少し認めてもらえるよう、引き続き取り組んでいく」
原告代理人で「THEペット法塾」代表の植田勝博弁護士も「これだけ短期間に次々と猫が消えたのに、どこに行ったのか分からないままの判決。これでは納得できない」と語気を強め、その場で控訴する方針を明らかにした。
会見の終盤、原告らは一向に姿を見せない男性に矛先を向けた。「(男性が)法廷に出てこないのが腹立たしい。出てこないのは裏に隠していることがあるからだ」と、怒りを抑えきれない様子だった。
■厳しいペナルティーを
猫は一体、どこへ消えたのか。過去にも今回と同様の訴訟があったほか、里親として譲り受けた猫をストレス発散のために虐待する事件も起きている。
平成16年、大阪市内の女性が猫の里親募集サイトを通じ、数十匹の猫を譲り受けたが、次々に失踪。猫の返還を求めて愛猫家らが翌17年、女性を相手取り提訴した。大阪高裁は賠償とともに猫の返還も命じたが、結局、猫の行方は分からず返還もかなわなかった。
また、神奈川県警が23年11月に動物愛護法違反容疑で逮捕した40代の男は、猫の里親募集サイトを通じて譲り受けた猫を次々に虐待、殺傷していた。男は「ストレス発散のため、虐待できる猫がほしかった」と供述していたという。
判決によると、男はサイトを通じて知り合った愛猫家3人から「愛情を持って育てていきます」と記された誓約書に署名し、虐待目的を隠して猫5匹を詐取。直後に猫を壁にたたきつけたり、川に投げ捨てたりするなどして殺傷していた。
実は原告らも24年7月、大阪府警に詐欺と動物愛護法違反の罪で男性を告訴。昨年3月に不起訴となったが、それでも納得できず、昨年12月に検察審査会に審査を申し立てた。捜査の手を借り、何とか猫の行方の手がかりをつかみたいという執念を見せる。
動物愛護法のペット殺傷の罰則はこれまで懲役1年以下または罰金100万円以下だったが、昨年9月の改正で懲役2年以下または罰金200万円以下になった。給餌(きゅうじ)しないなどの虐待行為も罰金50万円以下から罰金100万円以下に強化された。それでも、猫の里親を装った“猫詐欺”は全国で後を絶たないという。
植田弁護士は訴える。
「今回の猫も何らかの形で処分されてしまったのかもしれない。殺傷や虐待だけでなく、だまし取る行為にも厳しいペナルティーを与えるような社会にならないと、同種の犯罪は決してなくならない」
子猫“殺させぬ”…去勢手術、罰金、法改正、簡単に捨てる飼い主は「許さない」
老齢などを理由にほうり出されたり、増えすぎたばかりに疎まれて虐待されたり…。年間20万匹近くの犬と猫が全国の保健所で殺処分されている。無責任な飼い主の存在は昔から指摘されているが、状況はなかなか改善されていない。こうした現状に昨年、動物愛護法が改正されて悪質ペット業者の規制が強化され、大阪府泉佐野市は飼い主のモラル向上のため、ふんの放置の罰金額を5倍増にした。大阪市は、市民ボランティアらが野良猫に不妊・去勢手術を施すことで「殺処分される運命の子猫」を産ませない活動に取り組んでいる。「健康な体にメスを入れることへの抵抗感はある。でも、虐待や殺処分のほうがよほど酷じゃないでしょうか」。悲しみを抱えながらのボランティア活動は、少しずつ成果を出し始めているという。
■野良猫の消えた公園
大阪市西区の靱公園。日差しに温まった落ち葉の上で、野良猫たちは気持ちよさそうに目を細めていた。野良猫たちの面倒をみているのはボランティアグループ「うつぼ公園ねこの会」のメンバー、岡崎千恵子さん(62)。岡崎さんは「この子たちは子供を産めなくなった『一代限りの命』。天寿を全うさせてあげたい」と話す。岡崎さんが言っているのは、自分たちが実践している「TNR活動」のことだ。
大阪市では、野良猫が増えるのを防ぐために平成22年から同活動を行っている。TNRとは「捕獲して(Trap)、不妊・去勢手術を施し(Neuter)、元いた場所に戻す(Return)」活動。増えすぎた野良猫を自然に減少させることを目的に、数十年前に海外で始まったとされ、世界的に広がっているという。
市内では現在、約160人のボランティアが市から活動許可を得て、「公園猫適正管理推進サポーター」として野良猫の世話をしている。具体的な活動は、野良猫に(1)不妊・去勢手術を受けさせる(2)周辺のゴミをあさらないために餌やりをする(3)公園掃除-といったものだ。
手術費用は数千円から3万~4万円かかるが、市に申請すれば1匹あたり5千円の自己負担で済む。だが、市の予算枠は年間300万円しかなくすぐに埋まってしまうため、多くのボランティアは手術代を自費でまかなっているのが実情だ。岡崎さんは「みんな猫が好きだからやっているんですよ」と笑顔を見せるが、ボランティアの負担は決して小さくない。
市によると、TNR活動によって、24年度は市内の公園45カ所で、野良猫計51匹が減少。活動を始めてから昨年までに、5公園で野良猫が姿を消したという。
■殺処分の半分は「子供」
かつては日本でも野犬が町中を徘徊(はいかい)していたことがあった。しかし、狂犬病による犬や人の死亡事故が社会問題となり、昭和25年、狂犬病予防法が施行。飼い犬の登録、予防注射、野犬の捕獲と処分が徹底されるようになった。
環境省によると、49年度の犬や猫の殺処分は約120万匹。野犬の駆逐とともに殺処分の総数は年々減少していったが、その内容が変わっていった。飼い主に捨てられた元ペットや、飼い主自らが「不要になった」と保健所に持ち込んだりした犬や猫が、相対的に増えていった。
飼い主が責任を持って飼い続ければ、殺処分の必要のなかった命。平成23年度には約17万匹にまで減少したが、その半数以上を子犬や子猫が占めていた。こうした状況を受け、TNR活動を推進している公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)の佐上邦久理事長(53)は「子供が生まれることを抑制すれば、殺処分数は大幅に減る」と指摘する。
保健所に持ち込まれた動物は原則、3日間で殺処分される。炭酸ガスによって窒息死させるのと、薬物注射で心停止させる方法があるが、近年、窒息死は残酷だという批判が高まり、薬物注射が増えつつあるという。だが佐上理事長は「1匹1匹、獣医師がその手で注射を打たなければならない。それは絶えられない苦痛だ」と明かす。
動物愛護の仕事に反する行為に、現場の葛藤(かっとう)は計り知れない。「殺処分を減らすことは動物のため、そして処分に携る人たちの解放でもあると思う」。佐上理事長は訴える。
■適切な飼育、法に明記
小さな命を救うためにどうすればよいのか。言うまでもないが、もっとも求められるのは飼い主のモラル向上であり、国や自治体は近年、“実力行使”に乗り出している。
大阪府泉佐野市は平成18年、ペットのふんを放置することを禁じる条例を施行した。年間約30件の苦情が寄せられていたといい、飼い主に生き物を飼う責任感とモラルを持ってもらおうという狙いだ。市はこれを発展させ、24年1月には違反者への過料を千円と定めた。
しかし、実際に徴収されることのない「名ばかり条例」で、改善はみられなかったという。そこで昨年7月、市は府警OB2人を環境巡視員として採用。同10月には過料を、それまでの5倍となる5千円に引き上げた。市の本気度を見せつけた格好で、反発も想定されたが、抗議や苦情はわずかだったという。
市は現在、次なる一手として、飼い犬1匹ごとに税金を課す「犬税」の導入も検討している。無計画な多頭飼いや繁殖への抑止効果が期待されるという。
一方、昨年9月には改正動物愛護法が施行された。ペット販売業者が売れ残った動物を保健所に持ち込んだり、飼い主が病気などを理由に引き取りを求めたりした場合、自治体がそれを拒否できるとした内容だ。
なぜこんなことが必要なのか。近年、保健所に収容される中で目立つのは、高齢で介護が必要になったり病気になったりして飼い主に疎まれ、飼育を放棄されたペットだった。また、ペットショップでは子犬や子猫は売れるものの、ある程度成長してしまうと買い手が付かず、売れ残りがペットショップやブリーダーから持ち込まれるケースも問題となっていたという。
同法には「飼い主の責務」という条文があり、「周囲に迷惑をかけない」や「感染症予防をする」などと記載されている。今回の改正では、これに「動物がその命を終えるまで適切に飼養することに努めなければならない」との文言が付け加えられた。犬や猫をきちんと飼育することは、もはやモラルの問題ではなく、怠れば“法律違反”になることを、肝に銘じるべきだろう。