上司が無理な職場環境を作り出す⇒人が辞める⇒残った人の残業が増える⇒また辞める
ベンチャー企業経営者も「社畜」に警戒感 放置すると会社が「次のステージ」に行けなくなる
2014.9.3 キャリコネ編集部
英雄は、強大な敵に立ち向かうが……
米国のストーリー共有サイト「Medium」に、ある男性プログラマーが書いた「ワーカホリック体験記」とも言えるエントリーが話題になっている。
この男性は、深夜残業や週末労働で「自分がやらなければ」という使命感にかられ、目標を達成したときに「自分は会社の英雄だ」と思った。しかし、次第に他人にも「全時間」を仕事につぎ込むよう要求し始め、それが組織に大きな弊害を生むに至ってしまったという。
私生活への悪影響は「会社にも及ぶ」と指摘
部下に求める仕事量が増えると、チームは深夜や週末も稼働することになる。しかし深夜の仕事は質が保てないことが多く、このプログラマーもコードのエラーが頻発し、結局メンバーが何日もかけてバグの修正や検証をするハメになった。
週末に緊急の呼び出しが来ることも、メンバーの精神面に最悪な事態を招く。パーティーやデートを緊急の仕事でキャンセルする事態が連続すると、やがて「燃え尽き」の状態になる。実際、この筆者もそうした状況を経験したそうだ。
「私生活への妨害と緊急呼び出しの多い、長時間労働が根付いた会社文化に対する懸念が強まりました。私生活に悪影響が出れば、あなた自身、そして会社に対しても悪影響が及ぶのです」
本来、頼りになる「英雄」が、いつしか組織全体に「負の影響を生んでいる習慣」を根付かせてしまうということだ。ここで言われる英雄とは、会社に人生のすべてをつぎ込む「社畜」と日本的に言い換えてもいいかもしれない。
このエントリーは、日本のWebメディアのライフハッカーが「『会社の英雄』になってどうするの?」という記事に翻訳し、多くのビジネスパーソンたちがツイッターやNewspicksなどでコメントをあげている。
記事の文脈から「これは身につまされる」「自戒を込めてシェア」など働きすぎを諌める声も多いが、意外に多いのは一時的にでも「英雄」「社畜」になることを肯定する意見だ。
「こういう経験も必要だと思います。自分の限界に挑戦するというか、終わった時の達成感もなかなかいいもので(笑)」
「ある時期に『認められたい』と思ってハチャメチャに働くことも大事だと思いますよ」
経営者「残業しない奴が悪みたいな風土は変えたい」
しかし経営者や株主からは、「英雄」や「社畜」の働き方は、中長期的な組織の成長につながりにくいという意見もある。ベンチャーキャピタル勤務のNewspicksユーザーは、
「企業側から見れば、従業員が定着しない企業となるため、一定規模までは大きくなれるが、その次のステージに上がることが非常に困難となる」
と指摘する。働く本人の気分がいくらよくても、ワーカホリックの放置は成長阻害要因になりかねないということだ。とはいえ、エネルギッシュに仕事をする人のパワーなくして、会社は成長しない。nanapi創業者の「けんすう」こと古川健介氏は、
「仕事がきつすぎるのは問題。本気で働きたい、成長したい人はサブの仕事を持つほうが全体最適になるんじゃないかと最近考えてる」
とユニークな提案をする。ひとつの会社でエネルギーがあり余る人は、別の仕事を持ってその力を注ぎ込めば弊害が減るという考え方だ。他の経営者からも、
「残業が偉いとか残業しない奴が悪みたいな風土は変えたいところ。普段は残業否定しているのに自分が残業止む無くなると、先に帰る社員を許せなくなる根性も」(ベンチャー企業・ファウンダー)
「時間をかけないとできない仕事を請け負ってしまっている時点で、マネジメントが機能していない証拠」(ITベンチャー・取締役)
など、「暴走する英雄」への警戒感を示すコメントがあがっている。
マネジメント領域でのイノベーションに期待
古いタイプの経営者からすれば、仕事を丸投げできる「英雄」は重宝する存在だ。自分が叶えたい夢が、どんどん実行されていくからだ。
いま若者たちから「ブラック企業の代表」と批判されるワタミやゼンショー、不二ビューティ(たかの友梨)の創業者も、人一倍努力して会社を大きくし、部下たちにも同じ努力を求め、それに耐えられない人たちを排除してきたに違いない。
しかしいまどきのベンチャーの経営者は、そのような無闇なハードワーカーに頼る企業風土や組織運営手法には、変革の余地があると思っているようだ。イノベーションがIT技術だけでなく、マネジメントの分野にも及んできたのだとすれば歓迎したい。
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職場環境は「上司の考え方」で変わる 無理を通せば悪循環が止まらない
2014.11.29 ユズモト
ホテルは24時間365日、休みなく動く業界ですが、社員全員が常に休みなく働いているわけではありません。二交代もしくは三交代のシフト制で勤務しています。
とはいえ、事業所は24時間常に開いており、誰かしら働いている環境なので、残業をしようと思えばいくらでもできる職場環境です。そのため、支配人がどのような人かによって、労働環境が大きく変わってきます。(文:ユズモト)
最初の支配人は「さっさと帰ろう!」が口癖
私が入社後に配属された最初の事業所から、別の事業所に転勤したときのこと。新しく赴任したホテルの労働環境が、前の職場とあまりにも違いすぎて衝撃を受けました。
以前いた事業所は残業のほとんどないところで、支配人は「さっさと帰ろう!」というのが口癖でした。定時になると、いそいそと次のシフトの人に引き継ぎを始め、帰る用意を始めます。残って仕事をしていると、
「それ明日でいいよ!」「他の人に引き継いで帰りな!」
と声をかけてくれたので、常に割とすんなり帰れました。社員やアルバイトのシフトの希望を尊重し、どうしても休みたい日には休ませてくれました。
(イラスト:ユズモト)
そんな職場で働いていた私は、「うちのホテルはとても働きやすいな」と思っていました。しかし転勤が決まり、別の事業所で働き始めたとき、それは全ての事業所にあてはまることではないということを思い知らされたのです。
転勤先の支配人は「私生活よりも仕事を優先させて当然」という考えを持つ人でした。始業時間より早く来て、終業時間より遅く帰るのは当たり前。社員が仕事を済ませて定時に帰ろうとすると、「え、もう帰るの?」と小言を言います。
ずっと前から希望休を出していても、「人が足りていないから」という理由でその日に容赦なくシフトに入れられる。社員だけでなく、パートやアルバイトにも希望しない日の勤務をさせたり、残業させたりしている光景もしばしば見られました。
ダラダラ残業強いる上司が招いた「悪循環」
こんな職場に転勤してしまってからは、その日の仕事が終わっていても「何だか帰りにくいなあ…」と、何となく事務所に居座るのが日課になりました。転勤前とは室数も従業員数もほぼ同じホテルでしたが、残業時間だけが大幅に増えたのです。
それでも職場の全員がそんな感じで働いていたので、残業を嫌がる私が甘いのかなと思っていたある時、パートさんが何名か立て続けに退職することになったのです。
理由はそれぞれ「家庭の事情」など当たり障りのないものでしたが、本当のところは「帰りにくい環境が嫌だったんじゃないかな」と私は思っています。これをきっかけに、そのホテルの労働環境はどんどん悪化していきました。
「(1) 上司が無理な職場環境を作り出す→(2)嫌気がさしたパート・アルバイトが辞める→(3)社員の負担が増える→(4)残業が増える→(5)それでも手の届かないことが発生し、パート・アルバイトに負担がかかる→(6)また辞める→…」
という負の連鎖ができあがっていきました。そして、最初は「何となくダラダラ残業をしていた」のが、いつの間にか「残業をしないと回らないから残業する」という状況になってしまったのです。
その後、状況が改善する前に、私はこの事業所を離れることになったので、この事業所がどうなったのかはよく知りません。ただ、職場を離れられることになったときは、心から「良かった…」と思ってしまったのでした。
いまでは自分も「早く帰ってね!」が口癖に
この2つの対照的な職場での勤務経験を経て、私は「職場の環境というのは、同じ会社の中であっても、上の人の考え方次第でガラリと変わるものだ」ということを実感したのでした。そして「無意味に残業をしていても、いいことがない」ということも。
また、この経験から「自分も後輩をさっさと帰らせてあげられる先輩になろう」と決意した私は、いまでは会社の後輩から「『早く帰ってね』が口癖ですよね!」といじられるほど、退社時間を気にする人になっています。
https://news.careerconnection.jp/?p=4716