ファーストクラスに乗る人の「極上の気遣い」
手荷物の少なさや読む本やメモする習慣、靴の手入れと揃え方。何もかも一流ですな!
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超一流の習慣「手荷物はカバンひとつ。機内は貴重な読書タイム」
ファーストクラスに乗る人の「極上の気遣い」【3】
PRESIDENT 2013年4月29日号
著者
文=戌亥真美 コメンテーター=CA-STYLE主宰 美月あきこ 撮影=荒井孝治
ファーストクラス──。そこは、搭乗者のうちたった3%の人間しか立ち入ることのできない“知られざる世界”である。そんな特別な空間で、真のビジネスエリートたちが見せる素顔とは……。そして彼らにとってはごくごくあたり前の習慣、「気遣い」とは……。
長年CAとして勤務していると、ファーストクラスの搭乗者であっても、機内に持ち込む手荷物の量で“超一流”かそうでないかがひと目でわかるようだ。
「とにかくファーストクラスに乗り慣れた常連のお客様は、手荷物が少ないのが特徴です。身のまわりがコンパクトでシンプルなのです。もちろん、チェックイン時に荷物をお預けになっていたり、秘書の方が別のクラスに搭乗されたりするので、持ち込む必要がないのかもしれませんが」
男性ならビジネスバッグひとつ。女性でもハンドバッグひとつが定番だ。たまに大きな手荷物を持って搭乗してくると、すぐにビジネスクラスからの「アップグレード客」だとわかるのだそうだ。
「“超一流”の方々は、身のまわりのものを選択し、要不要の仕分けができる人が多いのです。ビジネスクラスの方々はとかく大きなバッグを持ち込みがち。機内では絶対必要なものさえあれば十分なのですが、なぜかPCはじめ、あれこれとビジネス関連書類などを大量に持ち込まれ、フライト中も常に“超多忙”のご様子が見て取れます……」
ビジネスクラスでは約7割の乗客が機内で仕事をしているそうだ。しかし、ファーストクラスの乗客も同じビジネスマンである以上、忙しいのは同じ。だが、ファーストクラスで仕事をしている人は、ほぼゼロだという。
「多くの方が会話を楽しんだり、読書をしたり、シートを倒して休んだりと、リラックスした時間を過ごされます。みなさん機内ではビジネスモードをオフにして、日常を切り離していらっしゃるご様子でした」
リラックス&リフレッシュモードのファーストクラスの乗客には、機内での時間を読書タイムに充てている人も少なくないという。とくに最近では、ファーストクラスは完全プライベートブースが多く、十数時間をゆったり過ごせる快適な仕様となっている。
「手荷物はシンプルですが、みなさん必ずと言っていいほど、本を携帯されます。多い方で、10冊以上の本をお読みになる方もいらっしゃいました。そういった方は紙袋に本をどっさり入れて機内に持ち込まれます。ファーストクラスのお客様にとって、フライト時間のほとんどが読書タイム。とにかくみなさん熱心に本を読まれていました」
社会的地位がある人でも、マーカーで印を付けたり、気になる個所に付箋を貼ったりしているという。彼らにとって読書は単なる趣味ではなく、人生や仕事をより向上させるためのヒントを探す、ある意味“投資”。蓄積した情報をアウトプットする必要のない機内では、新たな情報をインプットする時間に充てているのだ。
ただし、彼らが読んでいるのは難しいビジネス書ではない。歴史小説や伝記といったジャンルが目についたという。
読書家の乗客の中には、一冊一冊読み終えるごとに書評をメモにまとめたり、その本の読みどころを書き出すこともあるようだ。
「到着後、『悪いけれど、本を処分しておいて』と頼まれるのですが、その際、本と一緒にご自分の書評を渡してくださるのです。わたしたちCAは、その書評を拝見し参考にしながら、読みたい本を分け合うこともありました」
ファーストクラスの常連たちの手荷物が“シンプル”で“コンパクト”であるそのわけは、リフレッシュに不要なものは機内に持ち込まないからである。必要最低限の身のまわり品、そしてフライト時間を有意義に過ごすための本があれば十分なのだ。
CA-STYLE主宰 美月あきこ(みづき・あきこ)
日系、外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント(CA)として活躍後、女性の転職・就職を支援する会社CA-STYLEを立ち上げる。人財育成コンサルタントとして、現在も全国各地で講演・研修を行う。著書に、12万部のベストセラー『ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣』などがある。
http://president.jp/articles/-/13569
ファーストクラスに乗る人が機上で読む本リスト
PRESIDENT 2013年9月30日号
著者
美月 あきこ みづき・あきこ
CA-STYLE主宰/人財育成コンサルタント
日系・外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント(CA)として勤務後、女性の転職・就職を支援する会社CASTYLEを立ち上げ、全国各地で研修や講演を行う。
ファーストクラスに乗る人が機上で読む本リスト
2013年9月25日
CA-STYLE主宰/人財育成コンサルタント 美月あきこ 構成=戌亥真美 撮影=早川智哉
将棋の本が愛読されていた
ファーストクラスというエリアは、想像される以上に、特別な空間といえます。ハイクラスの方々が一堂に集まるのはもちろん、仕事モードから離れた機内は、お客様にとってある意味プライベートに近い空間。担当するCAは、一流の方々の、普段見ることのない一面を拝見する機会が多いのです。
私が長年ファーストクラス担当の客室乗務員として勤務した中で特に印象的だったのが、ファーストクラスを利用される常連の方々は、共通して「読書家である」こと。1度の搭乗の際に、多い方では10冊以上の文庫や新書を持ち込まれ、機内での時間のほとんどを読書に費やす方もいらっしゃいました。そんな姿を目にすればするほど、超一流のビジネスエリートでもある彼らがどんなジャンルの本を好むのか、私自身とても興味が湧いたものです。
読んでいる本の内容によっては、「何か悩みがあるのでは」と感じることもありました。本は読み手の“心の状態”を表すことがあるのです。
ファーストクラスのお客様は、機内ではビジネス書よりも歴史や文学、考え方のヒントとなるような本を好むことがわかりました。さらに興味深かったのが、「将棋」の本を愛読されている方が多かったこと。この傾向は、現在のファーストクラスのお客様にも共通しているようです。
ご存じのように「将棋」は相手の王将の捕獲をめざす、盤上の「静かなる闘争」。相手の出方を読むという意味では、将棋は経営者の方々に親和しており、人気が高いのかもしれません。
歴史小説では、やはり司馬遼太郎さんは手堅く、ほとんどの方が読まれていました。
フィクションのジャンルでは、浅田次郎さん、池波正太郎さんの小説が目立ちました。また、ハードボイルドを好む方もいて、当時人気だったアメリカの推理作家、ロバート・B・パーカーの探偵小説『スペンサー・シリーズ』を愛読している方が多かったのを覚えています。こうしたフィクション小説は、オフモードの機内でリラックスするための必需品なのかもしれません。
仕事のヒントとなるような本の場合には、気になるページに折り目をつけたり、ラインを引いたり、熱心に本の内容を紙にまとめられたりする姿がとても印象に残っています。
到着時に「本を処分して」と、お願いされることも多いのですが、その際「ここの部分が君たちの仕事に役立つよ」といったアドバイスや、要約したメモとともに紙袋にどっさり入った本を渡されたことが何度もありました。要約を読めばその本がどんな内容なのかひと目でわかり、興味のある本をみんなで分けて持ち帰り、勉強したものです。
私がお客様から頂戴した本の中でも、特に記憶に残っているものがいくつかあります。池波正太郎さんの『男の作法』は、日常のさまざまな場面において「男はこうあるべき」が描かれていますが、女性にも「なるほど」と通じる部分も。今でも時折ページを開くほど、大切にしている1冊です。
また、外食企業のオーナーであるお客様からいただいた食通本『美味礼讃』は、“芸術としての料理”が語られており、単にグルメを楽しむだけでなく、ビジネスのヒントにされていたのではないかと思います。
読む」「書く」で知識をストック
元官僚で経済学者の榊原英資さんの著書、『君たちは何のために学ぶのか』という若者向けに書かれた本の中に、「得た知識は、鮮度が劣化しないうちにアウトプットすること」という記述があります。機内でも多くの方が榊原さんの著書を読まれていましたが、「知識のアウトプット」は、まさにファーストクラスに乗るビジネスエリートたちが実践していることそのものです。
本の内容を要約される方は特定の方ですが、ファーストクラスの常連のお客様の多くが、どんなささいなことでもメモを取る習慣が身についています。CAとの何気ない会話でも、ご自身が気になったことはすぐに書き留めます。そのため、常にペンとメモをセットでワイシャツのポケットに用意されているほど。こうしたメモをはじめとする一流の人たちの習慣をコツコツ実践することで、私自身、起業できたといっても過言ではありません。
私の講演を聴きにきてくださる経営者の方々も、どんな話にも真剣に耳を傾けてくださいます。しかも、みなさん費やした時間分だけは何かしら持って帰ろうというアグレッシブさを持ち合わせているので、ものすごい勢いでメモを取られます。あるとき、「なぜメモされるのですか」と質問したところ、「メモを取るのはビジネスの基本中の基本でしょう?」と。それを聞き経営者のみなさんの時間を無駄にしない姿勢、そして情報が目や耳から入った瞬間の感動や輝きを“フリーズドライ”することの重要性を改めて認識しました。
書名は思い出せないのですが、以前読んだ何かの本の中にも、「書く能力と話す能力は一流の仕事には欠かせない」とありました。
おもしろいことに、アップグレードでビジネスクラスからファーストクラスに搭乗したりする“非常連”の方々に共通するのは、機内で「読書をしない」こと。ファーストクラスのサービスを満喫されるのに夢中で、読書をする余裕がないのかもしれません。
「ゲーム」をしたり、「映画」を鑑賞し尽くされたり、またファーストクラスに搭載している「ワイン」を片っ端から堪能されたりと、明らかに常連の方々とは違う行動が目立ったのです。
常連のビジネスエリートの方々は、機内での時間はオフタイムに切り替えていますが、ゲームやアルコール過多でオフの時間を無駄にすることはありません。彼らのオフタイムは、知識や情報をインプットし、脳にストックする貴重な時間であり、それが「読書」につながっているのだと思います。
機内で読む本としてビジネス書があまり好まれないのは、仕事に直結する直接的なものよりも、伝記や小説をメンター(良き指導者)として、効果的なヒントを求めているからなのかもしれませんね。
■著者リスト
【小説】浅田次郎/池波正太郎/堺屋太一/ロバート・B・パーカー
【歴史小説】司馬遼太郎
【将棋】大山康晴名人/中原 誠名人/その他名人本
【精神医学書】小田 晋
【趣味】釣り関連
■書籍の例
『男の作法』 池波正太郎著(新潮文庫)
『君たちは何のために学ぶのか』 榊原英資著(文春文庫)
『美味礼讃』上・下巻 ブリア・サヴァラン著(岩波文庫)
『スペンサー・シリーズ』 (『初秋』ほか多数) ロバート・B・パーカー著(ハヤカワ・ミステリ文庫)
CA-STYLE主宰/人財育成コンサルタント
美月あきこ
日系・外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント(CA)として勤務後、女性の転職・就職を支援する会社CASTYLEを立ち上げ、全国各地で研修や講演を行う。
http://president.jp/articles/-/10667
超一流の習慣「財布は“二つ折り”、靴は揃える」
ファーストクラスに乗る人の「極上の気遣い」【2】
PRESIDENT 2013年4月29日号
著者
文=戌亥真美 コメンテーター=CA-STYLE主宰 美月あきこ 撮影=荒井孝治
ファーストクラス──。そこは、搭乗者のうちたった3%の人間しか立ち入ることのできない“知られざる世界”である。そんな特別な空間で、真のビジネスエリートたちが見せる素顔とは……。そして彼らにとってはごくごくあたり前の習慣、「気遣い」とは……。
よく、「お金持ちは、高級ブランドの長財布を使う」と言われているが、日系、外資系航空会社のCA(キャビンアテンダント)として、ファーストクラスで数多くのVIP客へのサービスを担当してきた美月あきこ氏はこれには疑問を感じるという。
超一流の身だしなみポイント
「ファーストクラスの常連であるビジネスエリートの方々が多く使っていたのは、二つ折りのシンプルな財布です。特定のブランドにこだわっている様子はなく、使いやすさ、スーツの内ポケットにスマートに入る大きさを重視しているようでした。もちろん、財布がお札やカード類でパンパンになっていることはありませんでした」
財布がスッキリ薄いのは、現金を必要以上に持ち歩かず、カードで支払うスタイルが定着していることもあるだろうが、ちまたに広がる「二つ折り財布(お金を折る)では、金持ちになれない」というジンクス(?)は、ファーストクラスに乗る超一流ビジネスエリートたちには当てはまらないようである。
「ビジネスクラスやエコノミークラスほど、ブランドロゴが全面に刻まれた財布をお持ちの方が多いですね」
ビジネスクラスではとくに「頑張っている自分」を主張したがるビジネスマンが多いのだろうか。
使い切れないほどの機能がついたシステム手帳、分厚いブランド財布を持ち歩き、つい「仕事ができるオレ」「経済的にも余裕があるオレ」をアピールしてしまうように思える。
仕事における酸いも甘いも経験し、ファーストクラスを利用するに至っている超一流のビジネスエリートたちにとっては、もはや「人からどう見られるか、どう見せるか」よりも、「自分がどうなのか」にこだわりがあるのである。
美月氏によると、ファーストクラスの顧客がこだわりを見せるのは、むしろ財布よりも“靴”だと語る。
「靴は、いつもピカピカに磨かれています。リペアされ大事に使用されているのもわかります。搭乗後、みなさんプリセットされているスリッパに履き替えられますが、脱いだ靴の置き方に見事に共通点がありました」
ビジネスエリートたちは、脱いだ靴をキレイに揃え、邪魔にならないよう、人目につかないよう通路から遠い位置に置くのだそうだ。
「揃えて置くのは、日本人として躾けられたなら当然だ」と、思う人もいるだろう。しかし、このマナーができていないビジネスマンは案外多いのも事実だ。
居酒屋の宴会場の上がり口に、くたびれたビジネスシューズが散乱している光景に見覚えのある人もいるだろう。現にエコノミークラスでは、脱いだ靴が通路に転がっていることも多いという。
「ある高級旅館の女将にお聞きした話ですが、靴の脱ぎ方、上がり方でその人の人となりがわかるのだそう。やはりビジネスでトップに上りつめた方々は、脱ぎ方もきちんとされているそうです。ファーストクラスの方々も例外なく、きちんと脱がれ、しかも靴の中が見えないように、あらかじめスリッパと一緒にご用意しているミニ靴ベラやシューズクロスでわざわざ隠してから、奥に置かれます」
足の裏は汗腺が集中している部分でもある。目に見えずとも汗や脂で汚れているのは当然だ。その汚れを他人に晒すのは失礼と思う感覚さえも、ビジネスエリートたちに共通しているのだ。
「足元を見られる」とはよくいったもの。靴の状態や扱いいかんでその人物の印象が左右されるのだ。
「コートや上着も座席の背もたれにはかけず、CAがハンガーにかけやすいようにと、わざわざ向きを変えて持っていてくださったり、渡してくださいます。クルーへの気配り同様、ご自身の衣類を大事になさる姿勢にいつも感心させられました」
日頃使用するモノへの愛着とこだわり、そして丁寧な扱いは、ビジネスエリートの証しのようだ。
CA-STYLE主宰 美月あきこ(みづき・あきこ)
日系、外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント(CA)として活躍後、女性の転職・就職を支援する会社CA-STYLEを立ち上げる。人財育成コンサルタントとして、現在も全国各地で講演・研修を行う。著書に、12万部のベストセラー『ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣』などがある。
http://president.jp/articles/-/13529