どうなっちゃってんだ?
岐阜の廃車工場のエアバッグ暴発、タカタリコール拡大を示唆
Bloomberg 12月2日(火)15時51分配信
12月2日(ブルームバーグ):岐阜市近郊の山あいにある自動車スクラップ工場。工場長の若山明広さん(43)は先月、廃車処分される車のエアバッグを膨らませる火薬を爆発処理する作業にあたっていた。点火ボタンを押した瞬間、耳をつんざく爆音が鳴り響き、破裂したエアバッグの衝撃で車のフロントガラスが粉々に砕けた。金属片が車内に飛散しシートの一部などを焦がしていた。
「なんなんだ、これは」。若山さんは予期せぬ規模の爆発力を目の当りにして驚いたと取材に話した。処理をしたトヨタ自動車の「WiLLサイファ」の型番は、当局から配布された過去のタカタ製エアバッグに関連するリコール対象車のリストに含まれていないことを事前に確認していたからだ。正常なエアバッグなら衝撃ははるかに小さい。リコール対象になっていれば爆発処理は禁じられ、取り外して回収することが求められている。
若山さんは安全なはずの車のエアバッグが暴発する事態を受け、「これから何をみて仕事をやっていけばいいかわからない」と話す。当局から配布されるリストは「あてにならない」とし、従業員にはたとえリストにない車両でも暴発の恐れはあると注意しながら作業にあたるよう指示しているという。
タカタ製のエアバッグをめぐっては、世界で1000万台を超える車がリコールされ、米国とマレーシアでは死亡事故も起きた。若山さんが体験した暴発の様態はこれまでの一連の不具合事象と類似しているが、国土交通省によるとこの車両はリコール対象に含まれていなかった。危険がないとされてきた車での新たな異常事象の発生は、今後、リコールの範囲がいっそう拡大するリスクを示唆している。
3度目の暴発
高木証券の勇崎聡投資情報部長は、タカタのリコール問題がどこに向かっているのかはっきり見えず、終息にはまだ時間がかかるとの見方を示した。
この廃車工場を経営する廃車ドットコム岐阜の近松伸浩氏は、過去にも2度、タカタ製エアバッグの廃車処分時に暴発があったと話す。最初は2010年、日産自動車「キューブ」の処理中に発生した。このときは大規模リコールが表面化する前で、すべてのエアバッグを爆発処理していたが暴発して金属片が車外に飛散し、工場の金属屋根を貫通した。
12年8月にはホンダ「フィット」で同様の事象が発生。前回の教訓で車の窓に厚い布団でカバーをしていたため、金属片が飛び出すことはなかったが、フロントガラスが割れ、シートなどを焦がした。近松氏は自動車関連のリサイクル業務を管理する自動車再資源化協力機構(自再協)に報告。ホンダは約8カ月後の13年4月にタカタ製エアバッグのインフレータ(膨張装置)の不具合でフィットなど世界で113万5000台のリコールを発表した。
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他県の廃車工場でも
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当時はトヨタ、日産、マツダも同日にタカタ製エアバッグインフレータの不具合でそれぞれリコールを発表。4社合計の対象台数は世界で300万台規模に達した。国交省自動車局リコール監理室の木内信仁専門官によると、国内での廃車工場での暴発事案は12年6月から8月にかけてホンダのフィットで4件(山口、千葉、鳥取、岐阜県)、トヨタカローラ2件(愛媛、沖縄県)の計6件が確認されており、翌年の各社のリコールにつながったという。
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近松氏によると、先月の事象に関しても直ちに報告。11月12日に自再協やトヨタの関係者と会い、このWiLLサイファの車歴がディーラーに保管され、フロント部分に事故歴があったと報告を受けた。
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エアバッグは車両への衝撃をセンサーで感知し、乗員を守るために火薬が入ったインフレータに点火し、発生するガスで袋を開く仕組み。近松氏は衝撃の大きさ次第では、運転中に暴発が起きていた可能性もあると指摘。記録に残るフロント部分の事故はエアバッグが開かない程度の軽微なものだったのではないかと推測し、「車の所有者はものすごくラッキーだったと思う」と述べた。
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近松氏によると、同社では1日平均30-40台、年間では約1万台の廃車のエアバッグを処理している。タカタ製品はそのうちの一部だが、10年以降の約4年半で、リコールされていない車両でのエアバッグ暴発が3度起きていることになる。
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過小資本
一方、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は11月26日、タカタに対して、従来は米南部を中心とする多湿地域に限定されていたリコールの範囲を米国全土に拡大するよう正式に要請。運転席側エアバッグについて12月2日までにリコールを実施しない場合は、NHTSAによる強制リコールや1台あたり7000ドル(約83万円)の罰金を科す可能性があるとした。
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タカタ広報担当の高井規久子氏は、リコールによって関係者に心配と迷惑をかけていることについて申し訳なく思っているとした上で、「原因究明は最優先課題として日々取り組んでいる」と話した。
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野村証券の新村進太郎アナリストはこれに先立つ11月25日付のリポートで、全米リコールが強制された場合、対象台数は従来の434万台から5倍超の2248万台に拡大すると試算。費用の全額をタカタが負担するとの前提で同社に求められる追加引当金は1088億円とし、同社の純資産や潜在的な訴訟リスク、今後の事業再編費用などを考慮すると「過小資本とも言える水準」まで落ち込むと指摘している。
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米当局へ回答
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一方、タカタは一連のエアバッグ不具合に関連する自動車リコールについて、米当局が求めていた質問への回答を提出した。広報担当の菱川豊裕氏が電話取材に明らかにした。NHTSAはタカタに対してエアバッグ不具合に伴うリコールに関し、米国東部標準時間1日までに複数の質問に答えるよう命じ、応じない場合は最高3500万ドル(約41億円)の罰金を科すとしていた。
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この質問項目には工場の品質管理や、汚染もしくは不適切に調合された火薬成分の使用、死亡者と負傷者の正確な数の把握などに関するものが含まれていた。菱川氏は提出方法や回答の中身について、現時点では把握していないとした。米下院エネルギー・商業委員会は3日に開く公聴会でタカタの品質保証本部シニアバイスプレジデントの清水博氏に証言を求めている。
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2日のタカタ株は前日比で上昇して取引を開始。午後には廃車工場での暴発事案の詳細報道後、上昇幅を急速に縮小した。その後、米当局へのリコール関連質問の回答を提出したとの報道があり、再び上昇した。終値は前日比3.1%高の1337円だった。
新たなリコールも
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国交省は岐阜の廃車工場での異常展開事案に関して、同型のエアバッグ搭載車両が現在も使用されている可能性はあり、新たにリコールするべきか、今後の検討材料として注視。太田昭宏国交相は先月28日の閣議後会見で、ものづくり日本を揺るがす懸念があり万全の体制で臨む必要があると述べており、今後の問題の広がり方次第では、厳しさを増すタカタの財務にいっそうの負担となってのしかかる可能性もある。
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廃車工場で暴発を体験した若山さんは、一連のリコール問題について「情報の後出しが多く、後から後から問題が出てくる。いつ終息するかわからない」との印象が拭えないと指摘。現場はそうした状況に不安を感じており、タカタや自動車メーカーは少しでも「早く原因を追究してほしい」と話した。
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