尖閣の教訓は小笠原・サンゴ密漁対策に生かせるのか? | 日本のお姉さん

尖閣の教訓は小笠原・サンゴ密漁対策に生かせるのか?

◎【外交・安保取材の現場から】盗聴を利用して外務省が打った一芝居
尖閣の教訓は小笠原・サンゴ密漁対策に生かせるのか?
産経ニュース 2014.11.19
<http://www.sankei.com/premium/photos/141119/prm1411190003-p1.html>
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日本が領有権を持つ小さな島に中国漁船約200隻が押し寄せた。中には、領海侵犯を繰り返す船も出た。中国政府に必要な措置を求めても、らちが明かない。緊迫した状況の中で、中国・北京の日本大使館では大使と公使の2人が抜き差しならぬ会話を交わしていた。
「こうなったら自衛艦の出動を要請するのもやむを得ないな…」
「私もそう思います…」
現実問題として自衛艦を投入することは難しいが、中国当局は日本大使館を盗聴しているはず。それを見越した日本の外交官が一芝居を打ったのだ。やり取りを盗聴していた中国政府は事態を深刻に受け止め、中国漁船は何の前触れもなく引き上げていった-。
これは、中国漁船のサンゴ密漁問題で揺れる東京・小笠原諸島、伊豆諸島沖の話ではない。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域で起きた昭和53年4月の出来事だった。
当時、外務省中国課で尖閣問題担当を務めていた杉本信行・元上海総領事が著書『大地の咆哮』(PHP研究所)の中で、このエピソードを明かしている。(本人はすでに逝去:主宰者注)
このときは園田外相による日中平和友好条約の締結交渉が大詰めを迎えており、自民党内で尖閣の帰属を明確にするよう求める声が上がっていた。
これを受け、「中国側の強硬派が動いて、尖閣の領有権を主張する勢力を束ねた」というのが杉本氏の見立てだ。約200隻の漁船には、中国本土の海軍基地2カ所から無線で指示が下されていたという。
小笠原諸島に中国漁船が集まりだした9月中旬は、今月10日に北京で開催された日中首脳会談の実現に向け、両政府が水面下の調整を行っていた時期だ。今回も対日強硬派が背後で動き、中国漁船の出港を後押ししたと推測することは可能だろうか。
もちろん、昭和53年と平成26年の状況を同一視することはできない。
中国は小笠原諸島の領有権を主張してはいないので、尖閣周辺での漁船活動とは位相を異にする。昭和53年の中国漁船は軽機関銃で武装していた船もあったが、今回の小笠原諸島ではそうした船は発見されていない。200隻の漁船の中に海洋データを採取する中国公船が紛れている可能性もあるが、「現在のところ、そうした事実は確認できない」(防衛省関係者)という。
とはいえ、中国政府の取り締まりが徹底していれば、中国漁船が大挙して小笠原諸島周辺に集まることは難しい。昭和53年のように中国本土から無線指示があるかどうかはともかく、中国当局が約200隻の出港を黙認していることは否定できない。
ならば、もう一度「自衛艦の出動」を検討する芝居を打ってみたら、どうなるであろうか。その答えを探るに当たり考慮に入れなければならないのは、中国海軍の姿が様変わりした点だ。
昭和53年当時の中国海軍は沿岸海域での活動を主とする「ブラウンウオーー・ネービー」(沿岸海軍)だったのに対し、現在の中国海軍は沿岸から1500カイリ以上の遠方海域を制圧可能な「ブルーウオーター・ネービー」(外洋海軍)の建設を進めている。
「法執行機関(海上保安庁の船)の数が足りない、能力がない場合は軍が対応するが、相手側の国の軍を呼び込んでしまうという事情にもつながりかねない。難しい対応を迫られている」
ある防衛省幹部はこう語り、小笠原諸島周辺海域への自衛艦投入が逆効果になりかねないという懸念を示す。
中国は、対米防衛ラインの第1列島線(九州~沖縄~台湾)内の制海権を確保した上で、伊豆諸島からグアム、サイパン、パプアニューギニア付近を結ぶ第2列島線まで勢力拡大を狙う。芝居とはいえ、日本政府関係者が「自衛艦投入」を検討する会話を中国当局が傍受すれば、中国海軍が第2列島線上に艦艇を派遣するための「自国民保護」という大義名分を与えかねない。
江渡聡徳(えと・あきのり)防衛相は、今回の中国漁船問題について、現時点での自衛隊投入は否定しつつも、「防衛省、自衛隊としては今後ともこの状況
を十二分に注視したい」と繰り返している。防衛省・自衛隊が注視しているのは、単なる漁船の動きだけではなく、その背後にある中国政府の意図も含まれている。(政治部 杉本康士)
(情報収録:久保田 康文)