駅前騒然…顔写真ばらまき、ネット拡散で「撮り鉄」に下った“私刑”
駅前騒然…顔写真ばらまき、ネット拡散で「撮り鉄」に下った“私刑”
産経新聞 10月16日(木)12時5分配信
同じ男性の顔写真数百枚がばらまかれたJR大阪駅ビル前の広場(写真:産経新聞)
ビル10階の広場に立った少年2人は夜空に向け、数百枚の写真を思いっきり投げ捨てた-。大阪市北区のJR大阪駅ビルで9月、大量の写真が突然、空から舞い散る騒動があった。写真はいずれも同じ男性が撮影されたもの。「誰が、何のために」と通行人らを気味悪がらせたが、“犯人”は鉄道撮影が趣味という「撮り鉄」の少年2人で、「撮影現場で割り込みをしたやつへの嫌がらせ」が動機だった。都会のど真ん中で写真がばらまかれるという衝撃の事件に、ネット空間は沸騰。ばらまいた少年や撮影された男性、果ては「撮り鉄」全体もやり玉に挙げられる事態となった。
■顔のアップから全身まで
9月19日夜、人通りの多いJR大阪駅前で通行人の足を止めさせたのは、頭上から突然舞い落ちてきた数百枚の写真だった。写っていたのは、短髪の若い男性。顔がはっきりと分かるアップもあれば、首から一眼レフをかけて電車の優先席に座り、携帯電話を操作している全身の写真もあった。
「一体、誰がなんのために…」
だれもが思ったに違いない疑問に対する答えは、まもなく明らかになった。当時現場近くにいた16、17歳の少年2人が、大阪府警曽根崎署の任意聴取に、あっさりと「自分たちがやった」と白状したのだ。
動機は「電車の撮影現場でいつも割り込んでくる悪いやつがいて、面白半分、嫌がらせ半分でばらまいた」というもの。ビルの上から写真をばらまくという派手な“演出”の割に、撮り鉄同士の些細(ささい)なトラブルの延長だった。
■「助けて、死にたい」
居合わせた通行人らが気味悪がったこの奇妙な出来事は、ツイッターで投稿され始めると、一気に拡大した。
「梅田で誰かの写真が大量にふってるなう」
「めっちゃ写真何百枚ってまかれてた!」
中には、画像を修正したりせず、男性の顔がはっきりと分かるまま投稿したものもあり、「誰だよ」「氏名もじきに分かるだろう」といったツイートも登場した。
男性の顔写真は瞬時に拡散。ネット上には、少年らの軽はずみな行動を批判する声があふれたが、同時に、被害者である男性に対しても、写真をみた印象から「確かにマナー悪い。優先席にえらそうに座ってるからなぁ。こいつ何様って感じ」と攻撃的な書き込みがなされた。そうした結果、被害者とみられる男性は、こう書き込んだ。
「俺の写真が大阪駅にばらまかれてる。助けて、死にたい」
「撮り鉄やめよかな、辛い、病んでます」
■マナーの悪さ指摘する声も
今回の騒動がここまで過熱したのは、登場人物が「撮り鉄」だったことも影響しているかもしれない。実際一連のツイートの中には、「また撮り鉄か。ホント迷惑なやつらだわ」などとする投稿もあった。「撮り鉄」がらみのトラブルが時折、話題になったりするのが背景にあるのだろう。
「おい、邪魔だ! 下がれよ、こらあ!」
「手出してるやつ死ね!」
今年3月、寝台特急「あけぼの」のラストランを迎えたJR大宮駅(埼玉県)のホームでは、撮り鉄たちの怒号が飛び交っていた。その様子が動画投稿サイトにアップされているが、記録されているのは押し合いへし合いする撮り鉄たちと、耳をふさぎたくなるような罵声(ばせい)。殺気立った雰囲気が伝わってくる。
10月には同じ埼玉県のJR上尾駅で、臨時列車を撮影しようとした撮り鉄が興奮し、転落防止のためにホームに進入禁止のロープを張った駅員らに詰め寄る場面があった。同様に動画がアップされたが、「撮り鉄が駅員に暴行して逮捕された」という誤った情報も流れた。
「撮り鉄」のマナーの悪さなどを批判する声はたびたび聞かれる。だが、「撮り鉄」を自称する大阪市内の男性会社員(29)は「非常識な行動をするのは、自分勝手な一部の人。その人たちのせいで、同じ趣味を持つ自分たちまで悪く思われるのは、勘弁してほしい」と話す。
■「ゆがんだ正義感の発露」
スマートフォンが一般に浸透し、ツイッターやLINEといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は生活の一部となりつつある。
だが、ネット問題に詳しい神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「多くの人はそうしたツールを使いこなしているように見えるが、実はそうではない。安易に写真や情報を投稿することの怖さを分かっていない」と警鐘を鳴らす。
ネット上には、他人の顔写真や個人情報を勝手にネットに投稿する「晒(さら)し」行為が蔓延(まんえん)している。
万引犯を盗撮して晒したり、他人のツイッターから未成年の飲酒写真を引っ張ってきて晒したり…。
何も悪いことをしていなくても、気付かないうちに晒されることだってあるかもしれない。
いつどこで、自分のどんな情報が晒されているか、分かったものではない時代だ。
森井教授は晒す行為を「悪いことをした人に制裁を加えようとする、ゆがんだ正義感に裏付けられている」と指摘する。
ひとたび晒されれば、それを見た人たちがあっという間に個人を特定し、ネット上で悪口を言い、ときには学校に通報したり、自宅に嫌がらせの電話をかけたりして追い詰める。
「私刑」と揶揄(やゆ)されることもある。森井教授は「正義だと思って、その場のノリでやっているだけなので、当人は罪悪感が薄い」と語る。
大都会で写真をばらまくという、ど派手な行動が注目を集めた今回の騒動。問題の根っこにあるのは、陰湿な晒しを好物とする現代の世相なのだろうか。
2014.9.23 11:35
消せない「タトゥー」 写真ばらまきは拡散が狙い
《写真ばらまき騒動 ネット拡散狙い“演出”…消せない「デジタルタトゥー」》
「写真が空から降ってきた」「全部同じ男の子の写真。不気味すぎ…」。19日夜、JR大阪駅ビルから少年の写真がばらまかれた騒動は22日、知人の少年2人がばらまいたことを認めた。個人情報をネットに掲載する「晒(さら)し」が蔓延(まんえん)する中、都会のど真ん中の“犯行”は「より話題になる演出」(専門家)とみられ、実際に居合わせた多くの人々がインターネットに投稿、わずか3日間で一気に拡散した。顔写真が晒された少年の被害回復は容易ではなく、陰湿化が止まらないネットの一断面を浮き彫りにした。
大阪府警曽根崎署や同駅ビル運営会社によると、写真は数種類計約400枚あった。防犯カメラの映像などから、駅ビル10階のスペースからばらまかれたとみられる。現場に目立った混乱はなかったというが、都心で突然大量の写真がばらまかれた事態にネットは騒然となり、ツイッターなどで拡散した。
同署によると、ばらまいたとみられる少年2人は事情聴取に「いつも割り込みをしてくる悪いやつを撮った」と供述。ネット上のトラブルに詳しい佛教大の原清治教授(教育社会学)は、「個人情報を不特定の目に晒すことを目的にしている。そんな陰湿なやり方がネット社会の拡大とともに増えている」と話す。
だが、このように現実の世界で騒ぎを起こして、不特定多数にネット投稿させるような手口は珍しい。新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「最近はネットでの晒し行為が増え、単に投稿するだけでは目立たなくなった」と指摘。「より話題になる方法として、ビルの上階からばらまくという、ドラマのような“演出”をしたのではないか」と推測する。
ネットに晒された写真や情報は転載、拡散され、半永久的に消せないことから、入れ墨に例えて「デジタルタトゥー」と呼ばれる。だが、軽はずみな行為は後を絶たない。
神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「スマートフォンの普及で誰でもすぐに写真を撮って投稿できるようになったが、その怖さを分かっていない人が多い」と警鐘を鳴らす。投稿した側も「悪質な行為」と判断されると、ネット上で特定され、矛先が向かってくる可能性があるからだ。
現実的な代償を伴う可能性もある。ネット被害に詳しい石井邦尚弁護士(第二東京弁護士会)は「晒し」行為は「肖像権の侵害にあたる」と指摘。誹謗(ひぼう)中傷などの言葉を書き加えて掲載すれば「名誉毀損(きそん)で損害賠償請求できる可能性もある」と警告している。