頂門の一針ー「核」が日中開戦を抑止する(64)平井 修一
「核」が日中開戦を抑止する(64)
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平井 修一
かのよしのり氏は1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年定年退官。著書はサイエンス・アイ新書『重火器の科学』『銃の科学』『狙撃の科学』など多数。
氏の論考「なぜ『大砲は戦場の神』といわれるのか?」は島嶼防衛のあり方を示唆している(SBクリエイティブOnline 2014/7/24)。以下要約。
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「大砲は戦場の神である」という言葉があります。陸上戦闘においては「砲兵火力の優劣が、勝敗を決する決定的要素」ということです。ところが自衛隊は大砲をどんどん削減しています。戦車も削減されています。
大砲や戦車を削減してよい理由などなにもないのですが、GDPの1%にも満たない防衛費のなかでイージス艦を買い、パトリオットミサイルを買い、F-35を導入するということになると、なにかを切り捨てねばなりません。
そこで「日本は島だから、まず海空の守りを最優先にしなければならない」というわけで、砲兵部隊(自衛隊では特科部隊といいます)や戦車部隊が削減されているのです。
ところがいま、沖縄方面には1門の大砲も1両の戦車も配備されていません。懸案の島嶼防衛において、大砲も戦車も不可欠な存在なのですが。
*軍艦はうかつに砲兵隊が守る島に近づけない
第二次大戦における南の島の戦いでは、圧倒的な米軍の火力の前に、島を守る日本軍は壊滅的打撃を受けました。それはなんといっても大砲の火力の差に原因があります。当時、陸軍の大砲は馬で牽くことを前提に設計されていたため口径75mmのものが主力で、それを支援するために少数の105mmや155mmの大砲が装備されていました。
それに対して海から攻める米軍は、戦艦や重巡洋艦の大砲を使うことができました。戦艦の主砲ならば口径40cm、弾1発の重量が1トン、射程は30kmを超え、守る側の陸軍の大砲の射程外から、どんな堅固な陣地でも破壊できるような巨弾を送り込めたわけです。
ですが、現代ではそのあたりの事情が異なります。大きな大砲を乗せた戦艦や重巡洋艦は、現代の海軍に存在しません。日本の「あたご」型でもアメリカの「アーレイバーク」型でも、イージス艦に搭載されている大砲は127mmですが、それが欧米の軍艦に搭載されている最大の艦砲です。ロシアやヨーロッパでは100mm砲が主流です。「チャイナ・イージス」と呼ばれる中国の「蘭州」型も100mm砲搭載です。
それに対し、いまや陸軍の野戦砲の主力は155mm砲が普通です。それを支援する重砲は203mmです。第二次大戦のころとは陸と海の火力が逆転しているのです(陸が海を上回る)。
さらに海上にある軍艦は遠くからでもよく見えますが(つまり狙いやすい)、陸軍の大砲というのはどこにいるのか見付けることからして困難です。ですから、現代では陸軍の砲兵隊が守っている島に対して、軍艦はうかつに近付けないのです。
*軍艦の対艦(対地)ミサイルでは砲兵隊を倒せない
軍艦には対艦ミサイルが装備されています。これは射程が100km前後もあり大砲よりも長射程なのですが、対艦ミサイルというものは水面の上でレーダーを反射したり、エンジンの排気熱をだしたりするものに向かって飛んでいく兵器であって、陸上目標を撃てるようにはできていません。
もちろん一部の対艦ミサイルには、示されたGPS座標に向かって飛んでいく陸上目標攻撃機能をもつものもありますし、その機能がないミサイルでもそれができるように改良することは難しいことではないでしょう。
ですが、そのようなミサイルが撃てるのは、位置がわかっている目標だけです。島のどこにいるかわからない大砲は狙えません。人工衛星から地上の写真を撮れる時代とはいえ、草をかぶって隠れている大砲を見つけるのは容易ではなく、偽物をたくさん配置して、敵の偵察の目を欺くことも行われます。
こうなると1隻の軍艦に6発とか8発しか乗せていない貴重な対艦ミサイルを撃ち尽くしても、どれだけの戦果を上げられるのか疑わしいものです。海軍の軍人としては敵の水上艦艇が出現する可能性がある以上、対艦ミサイルを浪費することはためらうでしょう。
野戦砲は、敵が占領している島を奪還するための上陸作戦でも重要な役目を果たします。第二次大戦のサイパンでの戦例ですが、米陸軍砲兵隊は、サイパン島の南西約5kmにあるテニアン島に大砲を上げ、そこからサイパン島を砲撃しました。
「目的の島に上陸するまで陸軍の大砲は活躍できない」ということはないのです。目標の島を射程内に捉えられる小さな岩礁でもあれば、そこに砲を揚げて敵の島を砲撃し、上陸部隊を支援してやれます。「端から端まで10kmもない小さな島の戦いに、射程30kmの大砲はいらない」ということはないのです。
*小さな島でも戦車の威力は絶大
戦車にしてもそうです。「戦車なんか日本のどこで使うのか。日本には戦車戦をやるような場所はない」などという人がいますがとんでもない間違いです。朝鮮戦争のとき、米韓軍は日本よりよほど山がちでロクな道路もなかった朝鮮半島で、ロシア製T-34戦車を先頭に押し寄せてくる北朝鮮軍に押しまくられ、あと一歩で釜山から海へ突き落されるところでした。
戦車は日本や朝鮮半島どころかサイパンのような小さな島でさえ、決定的ともいえるほど重要な役目を果たしています。日本軍の戦車隊は上陸してきた米軍に対し逆襲を行い、あと一歩で米軍を海へ突き落すところまでいきました。
この逆襲が成功しなかったのは、日本軍に歩兵部隊用の装甲車がなかったからです。敵の艦砲射撃のもとでも、戦車は直撃されなければ破壊されません。ところが歩兵は敵の砲弾が降ってくれば動けないので、攻撃開始位置に戦車隊は来ているのに歩兵が来るのが遅れ、逆襲のタイミングが遅れてしまったのです。歩兵が装甲化されていれば予定の時間に間に合って逆襲は成功し、米軍上陸部隊を海へ突き落せたでしょう。
「日本に大きな戦車はいらない」などという人もいます。しかし日本本土どころか太平洋の南の島で、47mm砲を装備した15トンの日本戦車は、75mm砲を装備した40トンの米戦車にひどい目にあっています。島が大きかろうと小さかろうとそんなことは関係なく大きい戦車が勝つのです。
このように戦車や大砲は、日本本土防衛どころか小さな島の戦いでさえ決定的な役割を果たすのです。「日本は島国だから大きな大砲や戦車はいらない」などということはないのです。
*軍事費を増やしても経済成長は阻害されない
「そうはいうが、では、その予算をどうするのか?」という声もあります。しかし、そもそも日本の防衛費はなぜGDPの1%なのでしょうか? GDPの3%や4%を国防費に使うのは世界の常識です。世界
の常識レベルの3分の1~4分の1の努力しかしないで「予算がない」などというほうがおかしいのです。
「軍事費に巨額のお金を注ぎ込めば、経済発展の足を引っ張る」という人がいます。また「戦後日本が経済発展できたのは軍備にお金をかけなかったからだ」という人もいます。
しかし、いまベトナムは中国の脅威を感じ、GDPの6%を国防費に使っていますが経済発展しています。韓国や台湾も、かつてはGDPの7%を国防費に使いながら、同時に高度経済成長を実現しました。
東西冷戦時代の西ドイツは、もし戦争があれば西ドイツ単独でソ連軍の半分くらいは食い止められるほどのヨーロッパ最強陸軍をつくりながら経済成長しました。「軍備にお金をかけると経済成長を阻害する」などというのは大きな間違いです。
軍備も一種の公共事業であり、へたにダムや高速道路をつくるよりは空母や飛行機でもつくるほうが、よほど景気刺激の効果は高いのです。景気をよくするためにも世界の常識レベルの国防費を使うべきです。
そもそも、これは生きるか死ぬかの問題なのです。子供が死にかかっているとき、「収入の1%以上の医療費は払えません」などという親がいるでしょうか? ですから「予算がない」などということは、
大砲や戦車を削減する理由にはなりません。むしろ逆です。大砲や戦車を増やしたほうがお金は回り、お金が回れば景気は良くなり、景気がよくなれば税収も増えるのです。
「大砲は戦場の神」です。神を軽んじて社稷(国家)の安泰はありません。しかるべく国防の神殿に供物を捧げ、国の安全と子孫の繁栄を図るべきです。(以上)
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小生を含めて日本人のほとんどは軍事に疎い。ド素人だ。GHQと手先のアカに洗脳され、池田教のように平和を「南妙法蓮華経」と唱えていれば平和が得られると信じ込んでいるから、真剣に軍事を考えない。バカタ大学の見本、東大のようにアカと手打ちして「軍事研究はしない」と決めたところもある。
軍事、国防に反対し、それを駆逐することが正義だと思っている朝日、岩波、NHK、共同などの言論を未だに拝聴している暗愚が実に多い。情けないことだ。
尖閣危機の先覚者は10人分、20人分の大声で「中共が攻めてくる、備えよ!」と叫ばなければならない。その声がやがて日本中、アジア中に浸透することを願って、これからも文字の銃弾、砲弾を撃ち続けよう。一日一弾。(2014/8/12)