五島列島「尖閣よりもひどい状態」 根こそぎ魚を取っていく中国漁船
2014.7.24 11:08
五島列島、押し寄せる中国からの密航者…「自衛隊基地を作って」
【島が危ない】第3部 五島列島 かすむ国境(下)
長崎県・五島列島には、本土と直接の交通の便で結ばれていない「二次離島」と呼ばれる島が多い。船や航空機で本土と結ばれている福江島(五島市)など以上に過疎化が進み、無人化も懸念されている。五島市の久保実市長公室長(53)は、外国の船や人がそうした島々に入ってくることを心配する。
久保公室長が実際にその危険性を感じたのは平成元年のことだった。福江島北部の港に木造船に乗った外国人が大挙して押し寄せてきた。最初はベトナム難民だと思ったが、調べてみると、中国からの密航者だったという。
「船1隻に100人ぐらいがすし詰めの状態。あの年だけで3回やってきて2回は上陸した。夜通しで監視したり、消毒したりと、大変な騒ぎになった。二次離島や無人島なら、対応できなかったのではないか」
五島市の島々の人口は昨年3月現在で、福江島3万6949人▽久賀島379人▽椛(かば)島154人▽黄島50人▽赤島19人▽蕨小島11人▽黒島3人▽島山島25人▽嵯峨島187人▽奈留島2642人▽前島33人-となっている。久賀島の場合だとピーク時には約4千人いたという。
黒島は今、昨年3月時点より1人減って、94歳の女性とその娘の2人が住むだけだ。最近、島を訪れた地元紙「五島新報」(廃刊)元社長の永冶克行さん(65)によると、福江島との船便は週1往復だけ。「2人とも、病院に行きたくても通院できない状態だ」
椛島では、唯一の商店だった雑貨店が最近閉店となった。島民は知り合いに頼んで、生活必需品などを船便で送ってもらっているという。
五島市では、二次離島の無人化を防ぐために、さまざまな方策を打ち出している。その一つが再生可能エネルギーを用いた島の活性化だ。
椛島の沖合には、すでに浮体式の洋上風力発電施設1基を設けた。現在、実証段階だが、1800世帯の消費電力をまかなえる能力があるという。将来的には他の島も含め計100基を設置する計画だ。
さらに、田浦瀬戸や奈留瀬戸といった狭い海峡では、潮流発電の施設をつくる計画が進んでいる。五島市議会の荒尾正登議長(52)は「風力発電は風が吹かなくなるとお手上げだが、潮流発電は1日2回の潮の満ち引きがあるから計算できる。ここの瀬戸は狭くて潮の流れが速いから最適」と自信を見せる。
久保公室長もその効果に期待を寄せている。「電気を売るだけでなく、研究者など人の交流も盛んになる。雇用にもつながる」
二次離島への自衛隊配備を訴えるのは、五島市防衛協会会長で福江商工会議所の前会頭、才津為夫さん(87)だ。「抑止力を高める自衛隊の基地を離島に配置すべきだ。離島で訓練すれば十分な抑止力になる。そこに家族が来てくれれば、人口が増えて経済効果もある。一石二鳥だ」
五島市の中尾郁子前市長(79)は、離島の国境監視機能という安全保障の面から、国の支援の必要性を訴える。「自衛隊を増やすのも一つの方法だし、漁師を見張り役に任命して、釣りをしながら監視させることも一つの方法。海の好きな若者に防人の役割を職業としてやらせるのもいい。今までの日本のシステムで考えないで、現場の事情に沿った新しい策を作っていただきたい」
福江青年会議所の前理事長、土岐達也さん(35)は「国境離島は人が住み続けることが大切」と警鐘を鳴らす。そして「構造的に問題を改善するのは税制だと思う。法人税をなくすとか。そこまで踏み込んでいかないと、根本的な領土・領海の防衛や離島の人口減少問題は解決しない」と訴えた。 (編集委員 宮本雅史)]
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/140724/plt14072411080013-n1.html
2014.7.22 09:40
五島列島に迫る中国の触手 過疎化につけ込み…瀬戸際で買収回避
【島が危ない】第3部 五島列島 かすむ国境(上)-(1)
長崎県・五島列島は、古くは遣唐使の寄港地として栄え、大陸との交流の窓口だった。幕末期に、黒船来航に備えて福江島に築かれた石田城はまさに国防の城で、四方のうち三方が海に突き出す「海城」だった。現代も、国境を守るためのこの島々の重要性に変わりはない。そんな五島列島に今、中国からの波が押し寄せている。その現状を報告する。(編集委員 宮本雅史)
平成22年夏、福江島・福江港の沖に浮かぶ無人島の包丁島が突然、インターネット上で売りに出された。福江島民が燃料用木材の切り出しに利用していた島で、売買価格は約1500万円だった。
「中国資本が購入に乗り出してくるという話があった」。福江島の五島市役所で久保実市長公室長が振り返った。「最終的には地権者が売却をやめたことで一件落着したが…」。五島市は、五島列島最大の島の福江島など11の有人島と52の無人島を抱える。
同じ福江島の沖合にある別の無人島、姫島にも中国資本が一時、触手を伸ばしたことがあった。以前姫島で御影石を採掘していた福江島の石材店の社長、有川一徳さん(57)が証言する。「本土のブローカーの仲介で、中国資本が地権者に接触してきた。その後、なぜか、立ち消えになった」
中国資本がビジネスの話を持ちかけてきたこともある。地元紙「五島新報」(廃刊)の元社長、永冶克行さん(65)らによると、21年、上海の投資顧問会社が福江島に現地法人を設立。五島市に対し、木材の買い付けやナマコの養殖、魚のすり身加工、別荘地開発などを提案した。
市長時代に対応した中尾郁子前市長(79)によると、中国側は「商売のチャンスじゃないか」「この商機を逃していいのか」と強気で押してきたという。中尾前市長は「中国が日本の水源を買おうとしているという話が飛び交っていたので、こちらは慎重に対応した」と説明する。
市は地元の森林組合を紹介したが、中国側が現行の伐採量の10倍以上の買い付けを希望したことなどから契約は成立しなかった。すると、中国側は山林そのものの買収に動き出し、所有者と直接交渉を始めたという。この話は、市が所有者らに呼びかけて阻止した。中尾前市長は「山林の所有者にすれば魅力的な話で、安易に受け入れてしまいかねなかった。そこで、みんなで情報を共有して山を守ろうとした」。
五島列島では、長崎県の対馬のように、外国資本による大規模な不動産買収が現実になったケースはまだない。ただ、中国資本の影はことあるごとに浮かんでくる。背景には、他の国境の島と同様、高齢化と過疎化、そして地域経済の悪化がある。
今年5月8日、有識者らによる政策発信組織「日本創成会議」人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)が2040(平成52)年時点の「消滅可能性都市」を発表した。そこには、五島列島の自治体の衝撃的な数字が並んだ。
試算によると五島市の場合、若年女性(20~30代)が2010(平成22)年に比べて75・9%減り、全体の人口は4万622人から1万9201人に減少。従来の他の推計より厳しい数字が示された。新上五島町も若年女性が80・45%減少し人口は2万2074人から8549人になるという。九州・沖縄ブロックで1位と2位の減少率だ。
現時点でも人口減少は激しい。国勢調査によると、五島市の人口は昭和30年に9万1978人だったが、平成22年には4万622人に減少。6・2%だった65歳以上の割合は33・4%に増え、逆に40・4%を占めていた15歳未満は、11・8%にまで減った。
五島市の久保市長公室長は「市には高校が4校あり、毎年300~400人が卒業するが、95%程度は島外に出てしまい、戻ってこない」と嘆く。空き家も増え続け、市内に約3900軒あるという。
高齢化と過疎化は、主要産業の漁業も直撃している。五島漁協の草野正組合長(64)は「平成10年ごろは組合員が千人いたが、今は496人。跡取りがいなくなってきた。平均年齢は60歳代で、80歳代が何人かいる。10年前に年間30億円余りあった水揚げが、今は20億円ぐらいまで減った」と窮状を訴えた。
【用語解説】五島列島
福江島、中通島、若松島、奈留島、久賀島など大小合わせて140余りの島々が連なる列島。五島市、佐世保市、北松浦郡小値賀町、南松浦郡新上五島町の4つの行政区分に分かれる。人口は約7万人。最も大きい福江島を抱える五島市は平成16年、福江市と南松浦郡富江町、玉之浦町など1市5町が合併して誕生した。
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/140722/plt14072209400005-n1.html
2014.7.22 11:14
五島列島「尖閣よりもひどい状態」 根こそぎ魚を取っていく中国漁船
【島が危ない】第3部 五島列島 かすむ国境(上)-(2)
高齢化と後継者不足に悩む五島列島の漁業に追い打ちをかけているのが、中国だ。福江島から西に約120キロ進むと、日中漁業協定によって両国の漁船が自由に操業できる中間水域に入る。ここでは数年前から、中国漁船が巨大な網で一気に大量の魚を取る虎網漁が猛威をふるっている。この水域で取り締まれるのは双方ともに自国の漁船だけで、違法行為があったとしても摘発はできない。
「日本側は、水産資源を維持するために細かく規制しているが、中国は無制限。根こそぎ魚を取っている」。五島漁協の草野組合長は憤る。
中間水域の南には、日中漁業協定に基づく日中漁業共同委員会で双方の漁獲量などを決める暫定措置水域も広がる。そして、その内容についても日本の漁業者は不満を募らせている。昨年8月の協議によると、水域で操業できる漁船について、日本側が年間800隻、中国側を1万8089隻と取り決めた。漁獲量の上限も、日本が10万9250トンなのに対し、中国側は169万4645トンだ。
水産庁によると、日中のこの差は過去の実績に基づくものだというが、草野組合長は「あまりに一方的。政治的に負けているのではないか」と話す。
中国漁船との間ではトラブルも起きている。草野組合長によると、中間水域内で中国側から石を投げられた日本漁船もあるという。「ベトナムでは中国の漁船がぶつかってくる事件が起きているが、人ごとではない」。草野組合長は現役漁師だったころ、海の異変を海上保安庁などに通報するボランティア組織「海守(うみもり)」のメンバーだった。それだけに危機感は強い。
同様に安全保障上の問題として懸念するのは、五島市議会の荒尾正登議長(52)だ。「漁船は単に漁業を行うだけではなく、国境の海の異変を察知する役割も担っているが、わが物顔の中国漁船がいる海には近づけない」
国が人を撤退させてしまった島もある。福江島の南西約72キロ。男女群島の女島には海上保安庁が管理する灯台が設置されているが、平成18年から常駐の職員を置かないようになった。今は3カ月に1度、職員が点検などに訪れるだけだ。
五島市の久保市長公室長は「男女群島の灯台が無人化して以降、周辺で中国漁船が急激に増えた。それに伴って、五島の漁船が行きにくくなった」と心配する。五島市防衛協会会長で福江商工会議所の前会頭、才津為夫さん(87)も「無人島になった男女群島が外国船に占領されてしまう危険性が高い」と危惧する。
男女群島の問題は、人口減少が進む五島列島全体にも通じる。「沖縄県の尖閣諸島のように、五島に人がいなくなる時代がくるかもしれない。そうなれば、中国の船はもっと押し寄せてくる。国境は人が住むことで維持できる」。荒尾議長はこう危機感を募らせている。
地域の力を弱める過疎、そこにつけ込むかのような中国の経済的進出や圧力。「ある意味、尖閣よりもひどい状態」。五島列島を取り巻く環境をこう憂慮するのは、玉之浦町(福江市などと合併して現在は五島市)の鶴田広太郎・元町長(66)だ。「尖閣の場合は『領海に入るな』『絶対に上陸させるな』という日本政府の明確なメッセージがある。五島は、近くに中国漁船がいることが当たり前になってしまっている」
【用語解説】五島列島
福江島、中通島、若松島、奈留島、久賀島など大小合わせて140余りの島々が連なる列島。五島市、佐世保市、北松浦郡小値賀町、南松浦郡新上五島町の4つの行政区分に分かれる。人口は約7万人。最も大きい福江島を抱える五島市は平成16年、福江市と南松浦郡富江町、玉之浦町など1市5町が合併して誕生した。
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/140722/plt14072211140008-n1.html
2014.7.23 11:34
五島列島、「簡単には行けない」交通事情…遠のく本土、近づく中韓
【島が危ない】第3部 五島列島 かすむ国境(中)
長崎県・五島列島での生活は他の離島と同様、不便さを伴う。
運転免許を取得するには本土の長崎県大村市に行かなければならない。「同じ長崎県民なのに、なぜ、高い運賃を支払って大村まで行かないといけないのか」。福江青年会議所の前理事長、土岐達也さん(35)は納得がいかないという。
土岐さんによると、苦労は他にもたくさんある。「大学入試センター試験だって、福江島(五島市)で受けられるようになったのは平成21年から。それまでは、船に乗って長崎大(長崎市)まで受けに行った。天候の問題があるから、4、5日前に行くわけですよ。受験生の負担は大きかった」
五島ふくえ漁協の熊川長吉組合長(61)も「われわれは生まれたときから離島というハンディを背負って生きている」と話す。
五島にとって本土は年々遠い存在になっている。象徴的なのが、交通事情の悪化だ。
五島列島最大の福江島と本土を結ぶ空路は、福江-福岡の1日4便と福江-長崎の1日4便だけだ。伊丹(大阪)などと結ばれていた時期もあったが、搭乗率の低さなどから廃止になった。
料金も高い。福岡までの場合で正規料金は1万8800円、島民向けの割引料金でも1万2850円だ。五島市の荒尾正登市議会議長(52)は「早割料金だと福岡から東京に行くのとそんなに変わらない。これでは、いくら観光客を呼んでも来てもらえない。議会でも国に是正を要望し続けているが、いい答えは返ってこない」と嘆く。
海の便も島民の期待に十分には応えられていない。こちらも福江と福岡、長崎を結ぶフェリーなどの航路があるが、燃料費の高騰で値上がりが続き、今では長崎への便で1万円を超えた。「同じ県内の長崎市にさえ、簡単には行けない」と荒尾議長は話す。
地元紙「五島新報」(廃刊)の元社長、永冶克行さん(65)によると、フェリーの無料化は島民たちの長年の願いだという。「国や県に補助を要望しているが、受け入れられない。過疎化が進み、この国境の島に人がいなくなったら、結局、日本全体の安全が脅かされる事態になることを分かってほしい」
島内での移動でも本土より条件が悪い。土岐さんは「五島は日本で一番ガソリンが高い」と話す。
「五島では車なしで生きていけないのに、どんどん値上がりして、1リットル200円ぐらいだったこともある。本土で160円になったというようなニュースを聞くと、何年前の話なんだと思う」
本土から遠のくに従って、独自に生き延びる策を模索しなければならない。五島市などが目をつけたのが韓国、中国からの観光客の誘致だ。
五島列島は、西海国立公園に代表される自然景観や遣唐使の寄港地だった歴史、世界遺産登録を目指している「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を構成するカトリック教会など、観光資源が少なくない。
その一方で観光客は減り続けている。五島市の観光客は平成17年に年間22万人だったのに、24年には19万5000人と20万人を切った。観光によって消費される金額も年間71億円から67億円にしぼんだ。
荒尾議長によると、復活のために参考にしているのは長崎県・対馬だ。対馬市には、年間で人口の6倍にあたる18万人もの韓国人観光客が押し寄せている。五島市は昨年4月から、国際交流員に韓国人を採用、精力的に観光客誘致作戦を展開している。
対馬では、韓国との接近の結果、観光客の増加の一方で、韓国資本に不動産を次々に買われるという深刻な問題も起きているが、荒尾議長は期待のほうが大きいという。「世界遺産登録を目指しているのは追い風。韓国はカトリック教徒がかなりいる。観光業者だけでなく、神父さんもツアーを組んでいるらしい。先日も韓国人観光客が30人ほどきていた。これからは中国や韓国が狙い目だ」(編集委員 宮本雅史)
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/140723/plt14072311340012-n1.html