ベトナムとは、「コネ社会」「教育力」「交渉上手」「カカア天下」 | 日本のお姉さん

ベトナムとは、「コネ社会」「教育力」「交渉上手」「カカア天下」

中国も白旗? ベトナムの「じらし戦法」
東洋経済オンライン 2014/7/23 08:00 中村 繁夫
ベトナムの「じらし戦法」には、どの国もかなわない?(安倍首相と握手するベトナムのチュオン・タン・サン国家主席、AP/アフロ)
前回のコラムでは、ベトナムが「中国に対していかに負けない国か」、ということを書いた。なんと、その後中国は南シナ海で行っていた掘削作業を終了、撤収を始めたではないか。「米国の圧力が機能した」という説がある一方、中国側からは「作業が予定より早く終了した」との声が聞こえてきたが、いずれにしても、ベトナムの「面目躍如」かもしれない。 さて、本題に入ろう。「ベトナムに学ぶことも多いが、ベトナム人とビジネスをするのはまた別の話でなかなか難しい」というのが、今回のコラムのテーマだ。
■ いったん決まっても、再交渉も? 交渉がうまいベトナム
私は、中国にもベトナムにも会社を設立したことがある。その私に言わせてもらえるなら中国よりも、ベトナムの方がはるかにしたたかだ。
なぜしたたかなのか。これは、歴史家などがよく指摘することだが、細長い半島国家であることが影響している、という。ベトナムは、昔から、北からも南からも攻められやすく、完全独立を維持することは至難の技だった。それでも各国からの侵略をしのぎ、長期では植民地にならないように外交力を蓄えてきた。南北のどちらかが侵略されても常に対立極を持ち、外圧を利用しながら一方的に支配されないようにしてきた歴史がある。
実は、ビジネスの世界においても同じだ。常に競争原理を持ち出しながら、「漁夫の利」を得る戦略が身についているように見える。だから、ベトナムとの交渉ごとでいったん決定しても、後で見直しを主張したり、じらしながら再交渉が発生するのだ。その意味ではベトナムは交渉ごとでは、常に二枚腰で来るから注意が必要だ。
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■ 待たされ、焦らされ、前金まで要求されるケースも
日本企業がベトナムに進出する場合、現地の制度上の問題から合弁事業とするケースが多い。特に、製造メーカーとして経営をする場合は、ありとあらゆる種類の、現地での許認可を取る必要があるので、ベトナム側のコネを頼ることになる。一方、独資(自己資本100%)のケースでは、すべての決定メカニズムは自分で決められるから、一般論としては、誰にも相談することなく、うまく運営できる可能性がある。
なまじ合弁会社になると、相手のあることだから、話はややこしい。まだ読者の記憶に新しいと思うが、2010年、中国がレアアースの輸出を停止した事件が起こったときのことだ。中国からの安定供給が期待できないので、当社(AMJ)はベトナム企業からの誘いでレアアース資源の開発を検討したことがある。
「ある民間企業が、ベトナム政府から開発権を受託した」というので、共同でレアアース開発できるかもしれない、と興味を持った。だが、実際には「話ばかり」で具体的な契約は、すべて先送りになった。なんのことはない、レアアース資源の多様化を進めようとする、われわれの足元を見透かすように、ベトナム側に有利な条件ばかりを押し付けてきた。
日本側としては、中国からのレアアースが入ってこないので急いでプロジェクトを進めたいのだが、「政府との直接交渉は、特定の政治家の援助が必要だ」という理由で、常に待たされ、焦らされた。まだ何も始まっていないにもかかわらず、鉱区の開発申請のために前金を要求されたりもした。少しでも弱みを見せると、そこに付け込んでくるのがベトナム流で、「くせ者」と言わざるを得ない。
このほか、ベトナム企業と日本の大手商社の一角が、レアアース資源の開発を進めたが、この一大プロジェクトも基本的に当社の民間プロジェクトと同じように、暗礁に乗り上げたようだった。開発に関わる権利と義務の関係がハッキリしないために、うまくいかないのである。
初めてベトナムに行くと、ベトナム人のもてなしは良い。全般的に対日感情も良いので何事もスムーズに進むように感じる。だが、いざ金銭勘定に移ると「船頭が多くて」話がまとまりにくいのである。交渉相手はコロコロ代わるし、意思決定権者が誰なのかはっきりしないのだ。全ての損得勘定が、裏政治で決まっているようにも感じる瞬間があった。
一方、中国ではどうか。中国でも、合弁経営になると中国側の権利を優先するために簡単には物事は進まない。だが、ベトナムほどは、難しくはない。人に自慢するほどの経験をしたわけではないが、交渉の成り行きを見る限り、中国のケースよりもベトナムのほうが交渉では、役者は上だ。
 実は、当社はパートナーと協力して、2年前の2012年、ハノイの郊外に2.3万平方メートルの工場用地を購入した。ところがある事情で、自社工場の設立を断念せざるを得なくなった。そこでその土地を利用して、レンタル工場を経営することになった。
 このレンタル工場に、多くの日本人経営者の方々が中国からの移転を目的に訪問してきた。中国で合弁事業をしている日本の経営者が、中国における反日デモや人件費の高騰から中国の工場を畳んで、ベトナムに移転することを検討しているのだ。どの経営者も中国では大変な思いをされていると聞くが、一般的には中国に比べるとベトナムの方が親日的で評価が高いと信じて来るようだ。確かにその通りなのだが、それは私の7年前くらいの「ベトナム初心者時代」の印象であり、ベトナムとの交渉を何度も経験してからは、ベトナムの方がことが簡単に進むとは、とても思えなくなっていた。
 率直に言わせてもらえば、中国でうまく行かない企業が、ベトナムなら必ず成功すると考えること自体が大きな誤解である。商売気がなくて叱られるが、当社ではベトナムに移転する前にもう一度、「中国の合弁会社の再建を考慮されてはどうか」とお客様にアドバイスもしている。
■ ベトナム社会の4Kとは? 
 それでもベトナムで成功したければ、以下の4つの点に注意すれば、ベトナムのビジネスが理解できるだろう。私にまとめさせていただければ、ベトナムとのビジネスを通じてベトナム人の特徴を、日本流に「4K」で読み解くことができる。
 4Kとは「コネ社会」「教育力」「交渉上手」「カカア天下」である。まず1番目は、コネ社会(血縁)である。ベトナム社会は、やはりコネがなければ何事も進まない。いくら優秀な人材で一流大学を卒業しても、残念ながらコネがなければベトナムでは、まず出世はできない。
 ベトナム人のコネ社会とは、血縁や地縁が影響する。例えば北のハノイでは、南のホーチミンの人脈は通用しないといってもよい。ビジネスが大きければ大きいほど、北ベトナムで成功しようと思えば北の人脈が物を言う。南では南の地縁と血縁が大事になってくる。私の場合は、ここらへんを会得するのに、7年はかかった。
第2番目は「教育力」である。ベトナムの識字率は2009年時点で94%以上。発展途上国の中では高い水準だ。しかもベトナムの現在の平均年齢は約27歳程度と若い。中国の平均年齢は約35歳で日本は約45歳だ。また、ベトナムの出生率は2010年の国際統計で1.82人であるから、成長はこれからが本番である。
 第3番目の特徴は「交渉上手」である。日本人はベトナム人と交渉すると大変ねちっこくて「焦らし戦法」にやられる。ベトナム人の文化というか、持って生まれた彼らの性格だが時間をあまり気にせず相手が根負けするまで交渉してくる。日本人はすぐに手の内を明かしてしまうが、ベトナム人は手の内はそう簡単には見せない。日本人とベトナム人では思考論理が異なり、特に「時は金なり」という認識が欠如しているように思うことすらある。
■ カカア天下のベトナム
 さらに、第4番目が「カカア天下」である。これまで取引をした民間の企業では、経営者の一角に必ず奥さんの存在があった。契約や交渉ごとの意思決定権は、奥さんが握っているケースが少なくないのだ。初めは理解できなかったが、ベトナムの男はあまり働かない人もいて、人は悪くはないものの、影でコソコソ遊んでいる連中も多い。
 例えば、私が共同開発を依頼されたあるレアアースの会社のケースでいうと、その社長との関係は良好だった。だが、信用状の到着が一日遅れただけで契約をキャンセルされたことがあった。信用状の開設は余裕を持って行ったはずだったが、たった一日だけ信用状の原本の到着が遅れたのだという。
 「余裕をもって送ったはずだ、おかしいではないか? 」と電話で理由を問い詰めたら、結局のところ、社長は「申し訳ないが、妻が高く買ってくれる別の客に売ってしまった。勘弁して欲しい」と言ってきた。それほど信頼関係が持てないなら、これ以上取引関係は無理だと判断し、それ以来取引はお断りした。その後の噂では、他社とも同様のトラブルを起こしていると聞いた。
 「南沙諸島と西南沙諸島を巡るベトナムと中国の戦い」は再び激しくなることも予想される。両国はある意味で、似ている部分があるからこそ、近親憎悪の関係に陥りやすいのかもしれない。われわれ日本人の視点から言うと、その「似て非なる」部分が見えてくれば、ベトナムとの取り組みから、逆に中国が透けて見えることもある。つまり、中国の悪いところもあるが、ベトナムとの取引を通じて、逆に中国の良さが見えてくる場合も少なくないのだ。
 折しも7月末には、岸田外相がベトナムやインドネシアを歴訪するという。東アジアにおける日本の役割とは何かを、いまいちど考えてみたい。
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20140723-00043375-toyo-nb&ref=rank&p=1