日本を貶める新聞広告を出したチュウゴクの富豪
2014.7.7 08:00
【海外事件簿】中国“成金”慈善家にNYホームレス激怒 バラマキ約束も取り止め
突拍子もない行動で知られる中国の富豪で慈善活動家、陳光標氏が米国で怒りと失笑にさらされている。ホームレス250人に高級レストランで昼食を振る舞い、一人300ドル(約3万円)の現金の手渡しを約束していたが、土壇場でバラマキのみを取りやめた。現金が麻薬購入に使われることを考慮したようだが、突然の前言撤回に出席者は激怒。昼食会の“成功”を祝って米国発のチャリティーソング「ウィー・アー・ザ・ワールド」を熱唱する陳氏に対し、出席者からは「金はどこだ」「嘘つき野郎」と怒号が浴びせられたという。
イベントを詳報した27日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(国際版)や大衆紙ニューヨーク・デイリーニューズ(電子版)、AP通信などによると、昼食会は6月25日、ニューヨーク市内のセントラルパーク内にある高級レストラン「ローブ・ボートハウス」で開かれた。
陳氏が16日付のニューヨーク・タイムズで、昼食会と現金300ドルのバラマキを広告し、メディアも取り上げたため応募者が殺到し、当日は250人が正式なゲストとして招かれた。
前菜には表面にゴマをちりばめたマグロとアジア野菜のサラダ、メーンに牛フィレ肉のホースラディッシュソース添えとローストポテト、デザートには季節の果物とクリームが振る舞われ、出席者もホクホク顔で舌鼓を打ったという。
レストランに設置されたバスケットには札束の山が積まれ、ときおり陳氏が振りかざしていたとも報じられており、出席者にとっては格別の時間を過ごしていたようだ。
ところが、しばらくすると出席者の間に不穏な噂が流れ始め、場内がざわつき始めた。「陳氏は現金のバラマキをしない」。臨時収入を待ちわびていた出席者に困惑が広がったという。
実のところ、バラマキ中止は、昼食会の開催前から決まっていたというのが、ニューヨーク・タイムズの見方だ。報道によると、陳氏はニューヨークのホームレス支援団体に昼食会開催に協力を要請し、現金のバラマキをしない条件で了承を取り付けていたという。
支援団体側は、ホームレスに麻薬やアルコールの中毒者が多いことから、現金を渡せばそのまま購入資金に回ってしまうことを懸念し、バラマキ資金の9万ドルを団体に寄付することを要請。陳氏側も了承し、双方が契約を結んだ。
ところが、前菜が終わったころに陳氏が一転、会場で「きょうお越しのみなさん全員に300ドルを渡します」とぶち上げた。慌てた慈善団体側は、出席者4人を壇上に招き、陳氏の顔も立てる「シンボル」として300ドルを手渡す折衷案を提案。テレビカメラを前に100ドル札の束が渡されたが、撮影後に現金は回収されたという。
だが、それで不満が収まるはずはない。出席者の口からは「いますぐ現金がほしい」と批判が飛び出し、あっという間に「現金はどこだ、現金はどこだ」の大合唱が始まった。
それでも陳氏は「最も重要なのは他人に喜びと幸せを運ぶことだ」と満足げに語り、「ウィー・アー・ザ・ワールド」を高らかに歌い上げたというが、会場には「欺瞞(ぎまん)だ」「嘘つき」と怒号が飛んだ。
参加者の一人はニューヨーク・デイリーニューズに「メシはイマイチだったし、金ももらえなかった。食い物にするなら他を当たってほしい。よりによって、なぜホームレスなんだ」と吐き捨てたという。
名刺に「中国一のカリスマ博愛主義者」
何かとお騒がせイメージの強い陳氏だが、建設資材や家庭廃棄物を扱うリサイクル企業を起業し、推定総資産7億5000万ドル(約746億円)を一代で築き上げた中国有数の実業家だ。
AP通信などによると、年齢は46歳。あふれんばかりの“自己愛”と自己主張が持ち味で、自らの名刺には「中国で最も影響力の強い人物」「中国のモラルリーダー」「中国人の手本として、最も著名で愛されている」「中国一のカリスマ博愛主義者」と書き連ねている。
ただ、まじめな慈善家の一面もあり、米経済誌フォーブスが選ぶ「アジアの慈善家」にも選出されている。2008年の四川大地震では、被災者救助に参加。約1600万ドル(約16億円)を寄付しており、CNNテレビ(電子版)のインタビューに「手を動かすのが好きなんだ。言葉だけなら何とでも言える」と行動哲学を語っている。
一方で、大仰な「売名行為」(英紙インディペンデント)とも取られかねない行動も目立ち、大気汚染が深刻な北京で缶詰入りの「きれいな空気」を配ったり、被災地で住民に100元(約1600円)を配り歩いたりと、奇行にも事欠かない。今年1月にはニューヨーク・タイムズの買収を勝手にぶち上げ、同社側から拒絶されたこともあった。
どこにいようと、強気の姿勢も不変なのだろう。陳氏は今回の昼食会も「大成功だった」と自画自賛し、出席者から噴出した不満は「西洋と東洋の文化の違いだ」と一蹴し、次回はアフリカで“慈善事業”をやると語ったというから、そのずぶとさは相当なものだ。
意見広告で「尖閣は中国の領土」
一方、日本にとって気がかりな言動もある。陳氏は2012年8月31日付のニューヨーク・タイムズに掲載した意見広告で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)は「中国の領土。もし日本がハワイは日本の領土だと表明したら、米国民はどう感じ、米国はどう行動するだろうか」と主張。13年8月11日付の意見広告でも「安倍首相は靖国神社への参拝を慎むべきだ」と主張した。
陳氏本人はこれまでの経歴で「(中国)高官から支援を得たことはない」と一匹おおかみを強調しているが、地縁血縁が重視され、共産党や軍高官の賄賂事件も後を絶たない一党支配の中国で、後ろ盾なしに中国の富豪400人にランクされるまでの財産を築けるのかには大きな疑問がある。
陳氏は強く否定しており、真偽は不明だが、米国の中国系メディアなどからは、陳氏が中国共産党の中央宣伝部とつながっているとの指摘も出始めている。
今回の“慈善活動”は失敗に終わった印象が強いが、慰安婦問題や尖閣の領有権で国際的な宣伝工作を繰り広げる中国が、米国の失業者にまで支援を広げる活動を始めていたとしたら…。一連の騒動を「成金趣味」と笑ってばかりもいられなさそうな状況だ。
http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/140707/wor14070708000003-n1.html