「移民解禁」は拙速だ少子高齢化を食い止めよ | 日本のお姉さん

「移民解禁」は拙速だ少子高齢化を食い止めよ

「移民解禁」は拙速だ少子高齢化を食い止めよ
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佐藤 鴻全
●日本の直面する内政最大の中長期的課題は少子高齢化であり、これが経
済、年金財政を蝕み続け日本を縮小衰退させて行く。
●一部分野での俄かな人手不足に対する経済界の意向を受け「移民解禁」
を図る動きがあるが、安易な移民政策はドイツ等での失敗のように社会に
亀裂と混乱をもたらす。
●「社会保障改革」など意味が無い。消費税を上げ、年金保険料を上げ、
年金受給年齢を引き上げ、受給額を減らす。数年置きに大騒ぎしてこのバ
カのサイクルを繰り返しているに過ぎない。
●このような絆創膏貼りの対処療法を止め、先ず老人も若者も女性も国民
全般が相応の待遇で働く機会を得られるようにする「日本社会の改造」
「労働構造の改造」が必要だ。
深夜に及ぶサービス残業で社畜化している正社員と低賃金・不安定雇用の
非正規雇用者間で仕事と報酬を再分配すれば、内需拡大・経済活性化が図
られ、進んでは出生率の増加、年金財政の改善にも繋がるだろう。
◆安倍政権の拙速◆
安倍政権は、俄かなアベノミクスの奏功、東京五輪への建設ラッシュ、東
日本大震災復興による建設、飲食産業、介護等の一部分野での人手不足に
よる業界・経済界の意向を受け、外国人労働者受入れの拡大、進んでは少
子高齢化対策として所謂「移民解禁」を検討している。
筆者は、これらについて必ずしも反対はしないが、先ず国内対策でやるべ
き事をやり、「移民解禁」はそれを補う形でなければならないと考える。
移民受け入れについては、ドイツで労働者不足による建設業界の要請でト
ルコ人労働者の大量受け入れをした事例が有名だ。
その後、トルコ人労働者とその家族は、イスラムの風習からドイツ社会に
馴染めず、所謂ゲットーを作り、失業率の高止まりからドイツ人からの反
感が生じ、ネオナチの若者が彼らを襲う等、深刻な社会の亀裂と混乱をも
たらした。
所謂「移民」受け入れは、受入れ職種、受入れ資格、滞在期間をどのよう
に制限するか等が問題と言われているが、より大きな問題は先ず自国民が
相応の待遇で職に就く機会があるかだ。
その体制が出来た上でなら、労働者が足りない分野について条件付きで受
け入れる事は検討に値する。
しかし、今の「移民解禁」議論は業界、経済界、竹中平蔵氏に代表される
米国の意向を受けた新自由主義者の学者等の主張に安倍政権が引き摺られ
る形で行われている。
彼らは、当然ながら自らの利益を主張するが、部分最適を見て社会全体を
見ない。また長期的視野が欠落している。
◆日本社会の改造、百年の計◆
先ず日本人全体が、意欲と能力があれば相応の待遇で働く機会が得られる
事。この体制が無ければ、上述のように移民は社会に大きな亀裂と混乱を
もたらす。
では、それをどのように実現するか。
日本の社会構造で最大の問題は、単純化し図式化すると深夜に及ぶサービ
ス残業で社畜化している正社員と、低賃金・不安定雇用の非正規雇用者が
二極分化している事だ。
社畜化した正社員は、消費をする時間が無い。また結婚により家庭を持つ
機会も制限される。
一方の非正規雇用者は、低賃金で不安定雇用の状態にあり、そもそも消費
する金が無い。当然ながら家庭を作り維持する事にも躊躇する。
この両者の間で仕事と報酬を再分配すれば、高所得者よりも中所得者の方
が消費性向が高いため内需拡大・経済活性化が図られ、進んでは出生率の
増加、年金財政の改善にも繋がる。
そのためには、賃金の残業割増率を欧米並みに引き上げる事、労働当局の
監督強化、同一労働同一賃金化の徹底、給付付き税額控除の導入等が考え
られる。
そうは言っても、サービス残業禁止の監督は形だけだし、「名ばかり管理
職」等で抜け穴があり、中小零細企業は残業割増率の負担に耐えられな
く、同一労働同一賃金は「同一労働」をどう定義するかで幾らでも骨抜き
が可能であり、給付付き税額控除は税負担も増し不正も発生する等々の問
題がある。
しかし、要は政府が「国家百年の計」をどう見るかだ。
首相自ら経済界を巻き込む形で、経団連会長に国家百年の計を説き、サー
ビス残業禁止の大企業からの再徹底、残業割増率の増加、中小零細企業に
はそのための直接補助金支出、同一賃金同一労働化、給付付き税額控除の
制度設計について国民的議論を喚起し導入すれば、これらには相乗作用が
起こり得る。
また、これらにより正社員と非正規雇用者間で仕事と報酬の再分配が行わ
れれば、必然的に労働市場の流動化が起こる。
現在の日本の労働市場は、世界的な商品過剰の中、ビジネスの多様化加速
に伴って必要となる適材適所化が図られておらず、国際競争に打ち勝つ体
制が築けていない。
また、東電に代表される強固な終身雇用制依存・身分死守による無責任体
制・事勿れ主義に陥り、日本人全体がチャレンジを避け精神的に委縮して
いる。
しかし、一方で竹中氏や八代尚宏氏のような学者、コンサルタントの城繁
幸氏のようなその取り巻きが唱える行き成りの解雇自由化は、雇用の需給
バランスとその推移の視点を欠いており巷に失業者を溢れさせる結果となる。
安倍政権に限らないが、政府は正社員の雇用を増やすという一方、解雇自
由も検討するという雇用を流動化したいのかしたくないのか、分裂症を
患ったかのような対応をしている。
先ず、正社員と非正規雇用者の間で仕事と報酬を再分配する。
筆者は、それにより自然な形で「善き労働力の流動化」を実現する事が、
直面する諸問題を解決する日本社会の目指すべき方向、即ち王道への第一
歩であると考える。
安倍首相に、日本社会の在るべき姿を問う。