国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.181 | 日本のお姉さん

国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.181

国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.181
by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)
平成26年4月28日
対日威嚇を世界に拡げる中華三代目
外交儀礼を守るかどうかで、その国の指導者が何を言いたいのかが分かる。オバマ米大統領は、さしたる理由もなしに夫人を同伴しなかったとか、割り込んできた韓国に日程を割いて、国賓恒例の国会演説などを省いたという事実が指摘されている。
しかし、なんといっても非礼の最たるものは、中国首脳の意図的な儀礼無視ないし挑発というべき行動である。
3月下旬、習近平・国家主席はオランダで開催された核サミットに合わせて、ベルギー、ドイツ、フランスの4ヵ国を訪問したが、オランダとベルギーでそれぞれ国王がもてなした歓迎晩餐会に、わざわざ黒い人民服を着て現れた。
この行動は、前々主席の江沢民が、日本を国賓として訪問した際に、やって見せた究極の非礼を踏襲したものだった。
公式晩餐会は、世界的に「礼服」か「準礼服」と決まっている。
日本では「準」が普通で、男性はブラックタイ(タキシード)、女性は相当のドレスと指定される。お国柄を表す固有の民族服も許容される。日本女性は着物が多い。
ホワイトハウスの最高儀礼ではホワイトタイ(燕尾服)もあるようだ。軍人は軍礼装となる。
江沢民主席は1998年11月、天皇陛下が催された歓迎晩餐会にわざと人民服で臨み、陛下の歓迎のお言葉を完全に無視し、「日本軍国主義」がもたらした被害を強調して答礼の辞とした。
実はこの訪日の3ヵ月前、江主席は共産党と政府の高級幹部に対し、重大な対日政策の大転換を通告していたのである。それは「日本はもはや一流国ではない」「日本に対しては歴史認識で責め続けるべきだ」「中日関係は、中米、中露より重要でない」という3つの原則を根幹に据えている。(拙著『よむ地球きる世界』参照、2006年)
つまり江沢民は、自分の出した通達を自ら実践して見せたのである。
次の胡錦濤の時代になって、この公式文書が「江沢民文選」に所載されていることが分かり、この三原則が中国の対日「国是」であることが明らかになった。
さらに時系列でいうと、2009年10月、当時副主席だった習近平がドイツを訪れた際、メルケル首相に「江沢民文選」をプレゼントして話題になった。中国では批判的な見方も報道された。
それは当然で、「私は前主席の後継者です」と宣言したに等しい行為だからだ。副主席として仕えた上司の胡錦濤主席を全否定したことになる。
外交儀礼としても非常識な贈答品であり、ましてや格下の副主席が首相に読めとばかりに持ってくるのは、相手をなんだと思っているのか首をかしげてしまう。
今回の訪欧は中国のトップとして、改めて江沢民の後継者であることをダメ押しし、それを内外に示すために、あえて君主制のオランダとベルギーを選び、国王の隣で「人民服」姿を誇示して見せたわけである。
日本のメディアは、このように江から1人飛んで習に受け継がれた強硬路線が、首尾一貫していることに、まだ十分な関心を払っていないようだ。

わずかに産経紙上の石平(せき・へい)氏コラムが、習主席が欧州の先進性を否定し優越感すら強くにじませた、と警告している(4/17)。
同氏は、日本に帰化した元中国人だ。
外交儀礼が、単なる儀礼の問題でないことが分かるだろう。ちなみに、江と習に挟まれた胡錦濤主席は、10年の任期中、日本を含む外国での公式晩餐会では、普通の地味な背広を着用していた。
習近平は、おそらく歴史上の自分の役割、位置づけを早くから意識してきたのだろうと推測される。東西冷戦がソ連の完敗で終わったとき、中国共産党は生き残りのため、歴史的「中華」に自ら脱皮した。その自覚は充分にあるだろう。
そうだとすれば、共産党王朝の初代皇帝はいうまでもなく毛沢東であり、二代は?小平に決まっている。三代目はまだ確定していない。
習近平は、江沢民と自分とで、合わせて三代目になると考えているのではないだろうか。あえて胡錦濤は無視する。中華世界の指導者としてふさわしくなかったと見ているに違いない。
そういう目で見ると、胡主席時代に「格下の日本に尖閣諸島国有化を許してしまった」と映るはずだから、その事実を歴史から抹殺することが自分の歴史的位置づけに繋がる、と考えている可能性が強い。
オバマは米大統領として初めて、「尖閣は日米安保の適用対象だ」と明言したが、中国はその安保条約自体が冷戦時代のものだから意味ない、と一蹴した。つまり、共産党王朝にはそんな時代遅れの秩序は適用できない、と言っているのである。
この自己認識こそが、問題の核心である。
が、オバマがどこまで分かっているのか心許ない。安倍総理は分かっているだろうが、ひとに分からせようというコミュニケーションに進歩が見られない。
政権復帰当初の主張も、今は言い訳に後退してきた。
米中韓は「主張する文化」、日本は「言い訳する文化」とハッキリ分かれてしまっている。
(おおいそ・まさよし 2014/04/28)
「国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.181」より
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/5562/column/latest181.html