頂門の一針ー成否問われるオバマ外交(小雲 規生)
成否問われるオバマ外交
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小雲 規生
国際社会に平和と協調を訴え続けてきたバラク・オバマ米大統領(52)の外交手法の成否が問われている。
オバマ氏はロシアがウクライナ南部クリミア自治共和国の併合を強行するなか、十分な力を発揮できず、軍事力行使を「封印」するオバマ外交の消極性が国際情勢の混乱を招いているとの批判が勢いを増している。
ただし現在の米国は軍事力を背景にした積極外交に転じる余力がないのも事実。オバマ氏は国際社会が一致してロシアに経済的な圧力をかけることに勝機を見いだし、オバマ外交の正しさを証明しようとしている。
■平和・協調と真逆の動き
「世界はいつだって混沌(こんとん)としている」。オバマ氏は3月25日、核安全保障サミットが開かれたオランダのハーグでの記者会見で、思うにまかせない国際情勢への心情を吐露した。疲れのみえる表情は諦観も感じさせた。
親露政権の崩壊でウクライナの混乱が加速するなか、オバマ氏は「軍事介入には代償が伴う」「ロシアの行動は国際法違反」と繰り返し、ウクライナの領土の一体性を守ろうとしてきた。
しかしクリミアには「自警団」を名乗る部隊が展開され、住民投票では圧倒的多数がロシアへの編入を支持。ロシアはやすやすとクリミア併合を実現した。
オバマ氏の言葉に耳を貸さないのはロシアだけではない。中国の習近平国家主席(60)は3月24日のオバマ氏との会談で、ロシアへの経済制裁への協力に応じず、北朝鮮は中距離弾道ミサイル発射などの挑発を連発し、シリア内戦ではすでに14万人以上が犠牲となっている。
さらに北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコでも3月に入り、エルドアン政権が「ツイッター」や「ユーチューブ」の接続を遮断して言論を弾圧。
エジプトでは暫定政権のもとでムハンマド・モルシ前大統領(62)の支持者529人に死刑判決が下った。オバマ氏が地域安定の要と位置付ける国々でも、平和と協調とは真逆の動きが進んでいるかたちだ。
■軍事介入の余力なし
こうした混乱の背景には、オバマ氏の軍事介入への明確な消極姿勢があるとの指摘がある。オバマ氏は3月25日も「米国自身の自衛が関わらない場合は、軍事的な行動はとらない」と発言。共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員(77)らは消極外交が「米国を弱くみせた」ことが国際情勢を混乱させたと批判する。
また有力政治評論家のチャールズ・クラウトハマー氏は、ベトナム戦争後の厭戦(えんせん)気分のなかで消極外交をとったカーター政権が1979年の旧ソ連のアフガン侵攻後、軍事費拡大などの積極外交に転じたことを評価。ロシアのウクライナへの介入で「オバマ氏は目を覚ますのか」と問いかけ、NATOとしての軍事的な対応でロシアの動きを抑止するよう訴える。
しかしオバマ氏の消極外交は米国の現実に基づいた対応という側面もある。ブッシュ前政権が2003年に開戦に踏み切ったイラク戦争では、開戦理由だったフセイン政権の大量破壊兵器保有が確認されず、「大義なき戦争だった」との見解が浸透し、米国民に厭戦気分を広げた。
また巨額の戦費は金融危機対応とあいまって財政を圧迫し、現在の米国には軍事介入や治安維持活動の余力はない。
■引き出せるか露の妥協
このためオバマ氏は「米国が継続的にできることは国際社会を結集させることだ」として、経済制裁強化に事態打開の期待をつなぐ。ハーグで開かれた先進7カ国(G7)首脳会合では、ロシアが事態を悪化させれば、一致してロシアの基幹産業を標的にした強力な経済制裁を行うことで合意。ロシアからの対抗措置で先進国経済が打撃を受けることを承知のうえで、ロシアに代償を支払わせる意志を示した。
オバマ氏はこうした制裁をてこにして、プーチン氏に「クリミアをウクライナの一部としたうえで、自治権を拡大させる」といった案をのませることを想定しているもようだ。
プーチン氏は妥協のそぶりをみせていないが、冷戦時代とは異なり、ロシアと世界経済のつながりが深まるなか、今後の展望があるわけでもない。
ロシアはクリミアを得たものの、ウクライナの親露政権を失い、先進国との経済関係も失いかねないのが現状で、制裁によるロシア経済の落ち込みはプーチン氏の政権基盤を危うくする。
オバマ氏がプーチン氏から妥協を引き出せれば、大きな成果を上げることになる。しかし対立を深める結果に終われば、消極外交がクリミア併合を抑止できなかった結果だとの批判は免れず、オバマ外交は正念場を迎えている。(ワシントン支局)産経新聞 4月6日(日)9時39分配信