何をもって独立なの? | 日本のお姉さん

何をもって独立なの?

「クリミア問題」何をもって独立なの? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
THE PAGE 3月17日(月)11時0分配信
ウクライナ南部にあるクリミア自治共和国で16日、ロシア連邦に編入するかどうかを決める住民投票が行われ、暫定結果で編入賛成が95%超と圧倒的多数で承認される見通しとなりました。それに先立って、議会でもウクライナからの独立を圧倒的多数で決めています。ただこれは純粋な独立宣言というよりはロシア編入の是非をめぐる住民投票の下ごしらえだったのでしょう。独立国が自主的に他国への編入を求めたという形ならば国際法違反といった批判をかわせそうだと。当然、ウクライナ側は「違憲だ」と反発しています。アメリカのオバマ大統領も「憲法には領土問題を『ウクライナ全土での国民投票で決める』とある」として同調しました。
「独立国家」の定義は?
本来ならば突然ある国の一個所が、その地域だけの意見で「独立する」といっても認められません。「独立とは何か」という明確な定義はなく、ドイツの政治学者イエネリックが提唱したように、領土と国民がいて統治する仕組み(主権者の明確化など)があれば国家を名乗っていいのですが、現実問題として国際社会が認めなければ機能しないでしょう。
先ほど「本来であれば」と前置きました。というのも「クリミア独立」は所属するウクライナ自体が本来の状態でないからです。同国の親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が国民のデモに立ち往生して逃げ出した後、議会が解任決議をし、暫定政権が発足したばかり。憲法を持ち出すならばウクライナ大統領は国民の直接投票で選ばなければならず、議会が弾劾するにせよ十分な手続きが必要です。ゆえにヤヌコビッチ氏は今でも正統な大統領と主張しているし、それはそれで一理あります。暫定政権は親欧米派で、欧州やアメリカは歓迎しています。好きだからクーデター紛いでも認める半面、嫌いだから憲法違反というのも結構適当です。
「クリミア独立」問題の背景
この問題は簡単にみえて複雑な歴史的背景があります。まず「ウクライナ」とは何かです。欧州とロシアの中間に位置して欧州に隣する西部が比較的親欧州で、東部が親ロシアとされています。ただどちらに近づくにせよ独立国家でいたいという強い思いは人口の8割近いウクライナ人共通の願いでしょう。
というのもこの地域は18世紀頃からロシアの支配下に組み込まれ、ロシア帝国が革命で崩壊した1917年を期に一度は独立を宣言しました。しかし革命によって成立した共産勢力に敗北し、共産党の操り人形政権で形ばかりの独立を果たした後、1922年にロシアら他の3か国(原同盟国)とともにソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)結成に至りました。「連邦」とは名ばかりで実際にはロシアへの従属です。
時が流れて1991年8月、ソ連大統領が軟禁され、保守派がクーデターを起こそうとして失敗しました。ウクライナは時を逸せずに独立宣言し、12月のベロベージュ会議で「原同盟国がその意思をなくした」との形で正式にソ連崩壊となりました。以後現(カット。データが消えた。)
ロシアの軍事的拠点
クリミアはウクライナ東端で、北部をウクライナ、東部をロシアと接する半島です。ウクライナと違って1877年から翌年までの露土戦争でオスマン・トルコから奪取して以来、ロシアの軍事的要となってきました。特に半島南部のセバストポリはロシア-ソ連-ロシアと続く黒海艦隊の母港でロシア最大級の軍事的拠点です。
「セバストポリ」という言葉は英仏などと1853年から56年まで戦ったクリミア戦争での大激戦地であり、1941年からのドイツ軍との一大攻防戦を演じた場所で、いわば「ロシア人の琴線」です。セバストポリは自治共和国とは別の特別市でウクライナの管轄。したがって冒頭に述べたクリミア独立は正確にいうと「クリミア自治共和国とセバストポリ市の独立宣言」です。
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なぜウクライナ帰属に?
それほど大切な半島がなぜロシアでなくウクライナ帰属になっていたかというと1954年にソ連のフルシチョフ党第1書記(当時)がウクライナ領に変更したから。出自から「ウクライナ出身」といってもいい彼は当時独裁者スターリン死後のソ連共産党権力闘争のまっただなかで、故郷に恩を売っておこうという腹づもりがあったのでしょう。当時のウクライナはソ連の一部にすぎなかったので安全保障面に気を使う必要もありませんでした。ただ親ロシア感情の強いクリミアの人々は憤激し、かといってソ連の強権体制下では直接モノも言えないのでアクネドート(小話)の形で地下に広がりました。
「フルシチョフはバカだ。フルシチョフはバカだ」。男はすぐに捕らえられ、懲役20年の刑に処せられた。その1年分は最高指導者を侮辱した罪、19年分は国家の機密を漏らした罪……
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ソ連崩壊で問題化
バカだと叫んだ男の予想通り91年のソ連崩壊とウクライナ独立で大問題へと発展します。ウクライナがそう出るならばクリミアも独立だという宣言は以前にもありました。そこでウクライナとロシアが折り合って
・ロシアはクリミアをウクライナ領と認める
・クリミアは国家とほぼ同等の権限(議会や政府の設置など)を持つ自治共和国とウクライナ憲法が保障する
・セバストポリはロシアが借り受ける
と妥協します。
「琴線」のセバストポリはもちろん、ここを足だまりにする黒海艦隊を失ったらロシアの面目丸つぶれ。黒海にはロシアからの独立運動やロシアへの帰属活動が盛んで紛争が起きやすい南カフカス地域が面しており、地中海に通じるボスポラス海峡にも接しているので。
したがって欧米寄りのウクライナ暫定政府の誕生でロシアが一番不安なのはここへの艦隊駐留権の喪失です。そこにクリミアのロシアへの帰属感情が合わさって独立宣言となったのでしょう。
今後の「落とし所」は?
したがって、その利権が守られると保障されればロシア側から「クリミア編入」を強硬に主張しなさそうです。ただクリミア側が「編入して下さい」と言ってきたら意外と困るかも。反対にウクライナが「この際セバストポリをよこせ」と突っぱねたら両国の紛争になりそう。
国際法に抵触しているかいないかは微妙です。冒頭に書いたような絵を認めるかどうか。おそらく当面アメリカは認めないでしょう。国際司法裁判所に持ち込むのも手ですが、ここでの判断は当事国が付託に賛成しなければなりません。となるとウクライナは明らかな当事国として、クリミア自治共和国とロシアはどういう扱いになるのかという入口論でもめそう。国連安全保障理事会はまったくアテになりません。理事国15のうち14が「認めない」としても常任理事国のロシアが拒否権を行使すれば終わり。反対に「認める」だとアメリカがやはり拒否権を行使するでしょう。
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フランスやドイツといった今のところアメリカと共同歩調を取っている欧州諸国の多くもロシアの天然ガスをパイプラインで供給されているので本心はどこまで反対できるか。といって親ロシアに傾くとパイプラインが通る主要なウクライナルートを今度はウクライナ自身が止めかねません。
現実的には歴史的にクリミア半島がほぼロシアへ帰属していたので、アメリカやロシアがことを大げさにして「火遊び」に走るようなことさえなければ、しばらくワーワー言い合いながら終息していきそうです。それにしてもフルシチョフは……
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■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】(http://www.wasedajuku.com/)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140317-00000004-wordleaf-int&p=1
在まで独立を継続中。