アメリカにいたずらに従属せずに、自立の度合いを高め
「加瀬英明のコラム」メールマガジン
オバマ大統領の支持率低下が日米関係に落とす「影」
昨年暮れにワシントンに戻って、12月22日に帰京した。半年ぶりだった。
オバマ大統領はまだ任期が3年もあるというのに、支持率が急落して、ウォーターゲート事件後のニクソン大統領のところまで、堕ちている。
8月にシリアが毒ガス兵器を使用したといって、制裁攻撃を加えると見得を切ったのに、どの世論調査も国外の紛争に介入することに反対したために、議会に承認を求めたが、否決される見込みが高く立往生したところを、ロシアに救われ、優柔不断なことを露呈した。
その後、議会が政府支出の上限をあげることをめぐって紛糾し、政府機関の一部が一時閉鎖された。それに加えて、オバマ政権が目玉としてきた国民皆医療保険のオバマケアに重大な欠陥が続出したために、仕切り直しを強いられ、大きく躓いた。
オバマ大統領は就任当時の魔法が、すっかり解けている。そのために、アメリカの対外戦略の方向が定まらず、舵を失っている。大統領がリーダーシップを回復するのは難しい。
ワシントンはまるで蛻(もぬけ)の殻のようだ。アメリカはいまだに世界最強の軍事大国だが、意志力が萎えてしまっている。2017年に新しい大統領が登場するまで、眠れる巨人のような状態が続くのではないか。
今年は、中東がさらに大きく揺れよう。アメリカは中東への対応に追われて、オバマ政権が1期目末に打ち出した、「エイシアン・ピポット」(アジアに軸足を移す)戦略も、口だけのものになるのではないか。
アメリカが不在ということになると、日本は戦後、アメリカを大黒柱としてひたすら頼ってきたから、心もとない。
といっても、アメリカを活用しなければならない。「日米同盟の深化」に努めるべきだが、アメリカにいたずらに従属せずに、自立の度合いを高めていって、できるだけ対等な同盟関係に近づけるようにはかりたい。
歴史は移(うつろ)いやすいことを、教えている。私たちは勇気をもって戦後のしがらみから脱して、新しい環境に適応しなければならない。
このところ、ワシントンで日本の存在感が薄くなっている。中国がこれからも興隆を続けてゆくかたわら、日本が力を衰えさせてゆくと、信じられている。
中国に見入られているために、日本が中国を刺激して波風を立てることを、嫌っている。日韓の不協和音にも、焦ら立っている。
12月に中国が、尖閣諸島のうえに傍若無人に防空識別圏(ADIZ)をかぶせた時に、アメリカは「受け取れられない」といっていちおう反発して、グアム島から爆撃機を発進させてADIZ内を飛行させたものの、それだけのことだった。
台湾の李登輝総統が1996年に総統選挙を戦った際に、中国が台湾海峡にミサイルを撃ち込んで台湾に威嚇を加えた時に、アメリカ議会が公聴会を催したが、今回はそのような動きはまったくなかった。台湾に対する関心も、失われている。
12月26日に、安倍首相が靖国神社を参拝したのを、日本国民の大多数が支持した。
ところが、首相が詣でたのに対して、在日アメリカ大使館の報道官が「アメリカ政府が失望した」と、述べた。小泉首相が在任中に、靖国神社を6回にわたって参拝したが、ブッシュ政権はひと言も不満を表明しなかった。僅か5年のうちに、日米関係が変わった。
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