読んだ方がいい本3冊 | 日本のお姉さん

読んだ方がいい本3冊

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
━━━━━━━━━━━━━━━━━
○奉祝 天皇誕生日
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年12月23日(月曜日)
通巻第4096号
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(書評特集)
福島香織『中国 複合汚染の正体』(扶桑社)
近藤大介『日中「再」逆転』(講談社)
浅野和生・編著『台湾民主化のかたち』(展転社)
◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ◎BOOKREVIEW
中国が進める「社会主義」と「市場経済」は水と油の関係、両立しない
もはや矛盾を抑え込めず、国民の不満のマグマは大噴火寸前となった
近藤大介『日中「再」逆転』(講談社)
@@@@@@@@@@@@@@@@
大連の『ダボス会議』は火が消えたようになって、中国への期待は劇的に 縮小していた。会議に参加した全世界の実業家、政治家らの中国への関心 が突然消え去って、むしろ日本への期待が急激に
膨らんでいる。
安倍首相の唱える「アベノミクス」の評判は究めて良好、それが大連のダ ボス会議に7回連続で出席し取材した著者の最初の言葉である。ちなみに 安倍首相はスイスの本場で開催されるダボス会議
(2014年1月)には出席 の意向だ。
いつもながら近藤さんの現場報告はいきいきと躍動感に満ちていて、一気 に読ませる筆力と、その筆運びの巧みさは臨場感をいやがうえにも盛り上 げる。
いまの中国は習近平という極左アナクロと李克強という極右改革派の激突 が繰り返されており、収拾がつかない状態である、と北京の激烈な雰囲気 を伝える描写にも迫力がある。
習近平の綱紀粛正は北京を混乱に陥れて、レストラン、ホテルなどの倒産 も相次ぎ、サービス業から怨嗟の声が谺しているという。
「リコノミスク」(李克強首相の経済政策)への期待も殆ど聞かれない。
それにしても現状維持が目的といわれた習近平は恩人である筈の江沢民一 派に挑戦し、権力固めのために石油派をコーナーに追い込んでいるが、江 沢民派からの反撃があまり見られなくなった。
いま、習近平が弱体政権ゆえに、中国は大混乱に陥っているという。
「中南海の激烈な権力闘争と超・軽量級政権、人件費高騰などで苦況に 陥った製造業、深刻な人手不足、5000万人のフリーター、脆弱な民営企 業、全国民に蔓延する腐敗、毒食品にニセ商品、大気 汚染、水不足と水質 汚濁、多発する天変地異、20兆元に上る地方債、株価低迷、エネルギー 難、少子高齢化、続発する暴動。。。。すでに『ひび割れた巨竜』は満身 創痍 と言っても過言ではない」
つまり、この状態を産んだのは「『社会主義市場経済』というシステム疲 労」にあると近藤さんは分析している。
しかも「2013年3月以降の中国社会は、言ってみれば一本の太い綱を、 『本物の皇帝』(習近平主席)が左に引っ張り、『皇帝気取り』(李克強 首相)が右に引っ張っている。そして13憶の中国人 は、その張り詰めた網 の上に乗っかって大揺れなのだ。何と緊張感にあふれ、かつ不安定な社会 だろうか」という。
習近平を「超軽量級」というのも、わかりやすい比喩であろう。
さるにても習近平は父親を地獄においやった仇敵が毛沢東である。にもか かわらず習近平が尊敬し「娘には毛沢東から一字もらって習姪沢と名付け たし、国家主席となって現在でも、その演説に必 ずといってよいほど、 『毛沢東語録』を挟み込む」のはいったい何故か?
近藤氏はこういう。
「習近平は青春時代の最も多感な時期に『毛沢東思想』で徹底的に洗脳さ れたことで、その洗脳状態がいまも続いているのではなかろうか」
だが、国民は毛沢東なんぞ「糞食らえ!」である。だから市場は敏感に反 応し、習が主席就任以来、『中国の夢』などと発言するたびに株価は暴落 を繰り返した。じつに上海株式指数は5回も暴落
している。
結論的な予測は「2014年に中国のバブルは完全に崩壊する」という。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ◎BOOKREVIEW◆
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大気汚染ばかりではない、国中がひどく汚染され水も飲めず空気も吸えず
こんなひどい複合汚染が嘗ての世界の歴史に存在しただろうか?
福島香織『中国 複合汚染の正体』(扶桑社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
ともかく壮絶にして凄絶なのである。北京のPM2・5など、裏側の真実 を知れば被害は軽いほうである。
汚染、大気汚染、水質汚染、奇病、ガン村、エイズ村、鳥インフルエン ザ。果てしなき汚職と小役人どもの保身と出世願望により、実態は巧妙に 伏せられる。取材は徹底して妨害される。男性記者
なら殴られたりする。 カメラは壊される。
取材に協力した村人は拷問されるとか、村から追放される。ひどい話であ る。これがGDP世界第2位とかの大法螺を獅子吼する大国の実態、報じ られることが滅多にない中国の暗黒の部分であ
る。
それにしても女性一人、福島さんは今日も突撃取材のため中国の辺境、奥 地、貧困な村々の現場に飛ぶ。こんな勇敢な記者は日本人女性では希有の 存在であろう。
これを支えるのは記者魂だが、体力と信念の強さである。
ここでちょっと脱線。評者(宮崎)はついに2013年は中国へ行かなかっ た。疲れたから? 違います。中国はもう終わりなのです。エキサイティ ングなことは急減し、何
処へ行ってもそこそこ面白いけど、もはや取材対 象としての中国への関心は薄らぎ、もっとエキサイティングなことが起き ているのはアセアン、南アジア、そして中東産油国でしょ
う。
というわけで中国の奥地の出来事のレポートは福島さんと河添惠子さんに 任せて、評者はアジアばかりをまわりました。書評と関係ないことをもう すこし続けますと、安倍首相のアセアン10ケ国歴
訪に先んじて、老生は フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ラオス、カンボジア、ベ トナム、ブルネイ、シンガポール、ミャンマーを七回に分けて廻り、さら に
ネパールとスリランカを取材し、師走にはドバイとアブダビ、年が明け て一月には六回目のインド取材、そのあとモンゴルと豪州を予定しており ます。閑話休題。
福島香織さんの凄いところは、まったく物怖じをしないで突っ込み取材を 重ねることだ。
それも日本のメディアが殆ど伝えない河川汚染地域に点在するガン村、奇 病の蔓延する地方について、中国のネットで告発がでたりした情報から地 名を覚え、また過去の友人関係や噂から仕入れた
地名へ飛んでいく。
デビュー作『中国の女』も冒頭は河南省エイズ村への進入突撃取材だった。
北京の特派員生活8年の福島さんでも北京の大気汚染では気管支炎にか かった由。また汚染現場への取材では日本からタミフルを持参したほど覚 悟を決めての中国行きだった。そうそう、タミフル は評者(宮崎)の友人 が手配した。
もちろん中国には福島さんに多くの取材協力者もいるが、目に見えない圧 力がかかって、協力を約束した知人でも途中で怖じ気づき、降りてしまう ことも屡々ある。
ある時は公安の車両が空いているというので、彼らのアルバイト稼ぎにそ れを白タクとしてチャーターし、またある時は奥地のタクシーを乗り換え ながら、それでも尾行され、役所に連れて行か
れ、フィルムを抜かれそう になったり、結局「この村には汚染はない、病人はいない、誰もガンには かかっていない」等と嘘ばかりを役人に言われ、夕食を誘われるが、それ
は嘘を吐いて断り、こんどは尾行をまいて、違うルートから汚染の現場へ 近づく。
ところで当該村の書記のオフィスの隣室には、なぜかダブルベッドが置か れていたことも、鋭く観察している。
河はひどく汚染され、工場は夜中に廃液を流す。市場では畸形の魚を売っ ている。動物も畸形が多く、しかし地元の人は汚染された川の水を飲み、 畸形の動物を食べる。仰天である。
ガンが異常に発生している村々ではよそ者を監視するシステムが出来上 がっている。とくに新聞記者の出入りを厳格に見張っている。
そしてあることに気がついた。
取材した奥地では地元のタクシーの多くが、汚染を告発してくれと、取材 に協力的なことである。反面、村の書記の子分らがどこかで見張っていて 汚染工場の写真を撮影したりするとどこからとも なく現れる不気味さ。
「そこで何をしている」と突然目に前に黒服サングラスの男らが現れる恐 怖。『パスポートを見せろ、取った写真を見せろ』
日本にもたしかに水俣病や川崎市や四日市の公害があった。経済成長期に かならずあり、いずれ公害対策に本気で取り組めば解決するだろうという 楽観論は、しかし中国ではまったく通用しない。
「複合汚染」の原因は公共意識、公益という概念が中国人に乏しいことが 最悪の原因であろうと福島さんは言う。
「こんな複雑怪奇な複合汚染を経験した国はほかにどこにもない。単なる 環境技術の移転や法律規範の厳格化では決して克服できないだろう。まし てや中国政府が面子のために打ち出す汚染防止行
動計画で13憶人口が吐き 出す汚染などコントロール仕切れるわけがない。
汚染問題は国民一人ひとりが主体となって『社会のため』という公の意識 をもって立ち向かわなければ克服どころか緩和もできまい」。
拡がるのは絶望の近未来である。だから幹部はカネをもって海外へ逃げ出 したのだ。そのうち国庫は空っぽになるゾ!

◆書評 ◇しょひょう
李登輝前総統の「余はなぜキリスト教徒となりしか」
台湾民主化25年のプロセスを克明に追求した労作群
浅野和生・編著『台湾民主化のかたち』(展転社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
副題が示すように「李登輝総統から馬英九総統まで」の25年の台湾民主化 プロセスを丹念に追う。台湾は民主化されたが、なお政治の歪みが随所に 存在している理由はなにか、編者の浅野教授以下
6人の学者が問う。
台湾の選挙の仕組みや選挙戦の実態など克明な考察があって台湾ファンな ら是非知っておきたい事項が並んでいる。
評者(宮崎)が注目したのは、以前から知りたいと思っていたこと。すな わち李登輝総統は「いかにしてキリスト教徒となりしか」である。
なぜなら李登輝閣下が編んだ『武士道解題』は、およそ評者が理解する武 士道とは異なり世界のコモンセンスに立脚したキリスト教的解釈が演繹さ れているからだ。
下記の分析を読んで、なるほどと了解できたのである。
李登輝は「台湾大学在学中はマルクス主義に関わる学生組織の結成にまで 到った」が、結婚して米国へ留学したあたりから、マルクス主義と絶縁した。
「終戦後、台湾に戻ると、戦後の混乱と食糧難に直面し、それまでの唯心 論的な考え方から一転して唯物論にのめりこんだ。『マルクス主義に10年 ほど染まった』が、心は満たされず、『そこで初め
て神を意識した』(中 略)帰国後5年間、妻とともに教会を廻り講話を聞き、神の存在を考え続 けた」(李登輝『最高指導者の条件』)。私はまさに信仰を必要としてい た」
そして李登輝総統が「思想遍歴の果てに直面したニヒリズムと228事件後 の中国国民党による白色テロの時代を生き抜けたのは妻のお陰であった。 (中略)李登輝は強すぎるパッションを克服すべく
自己修練や読書に取り 組んだ」。
その結果、「弁証法、全否定から全肯定への積極主義、実践躬行という思 想に辿りついた」のである。
このキリスト教への帰依が、新渡戸稲造に結びついたのだった。