"中国はアメリカとの完全な対等関係"を狙っており、それはほぼ実現しつつある | 日本のお姉さん

"中国はアメリカとの完全な対等関係"を狙っており、それはほぼ実現しつつある

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信 ┃ http://www.realist.jp
├ 2013年12月26日 中国とアメリカの「新しい大国関係」

おくやまです。

すでに私のブログのほうには掲載しましたが、
人民日報が自国(中国)の元大使のコメントを引用しながら、
今年の半ばにアメリカのカリフォルニア州で行った
米中首脳会談の前後に出てきた「新しい大国関係」という用語と、
その課題について社説(英語)で説明しておりました。

今回はその社説の要約と、それについての私のコメントを。

(引用開始)===

「新しい大国関係」の構築のために中国がすべき4つの課題
by人民日報社説

●米中、中露関係というのは、中国が「新しい大国関係」を
構築する上でカギとなる二つの国だ。

●エジプトやレバノン、それにチュニジアで中国大使
を務めたアン・フイホウ氏は、先週の月曜日に北京で
開催された2013年度の「中国と世界フォーラム」の席上で、
中国がこれから行っていく4つの主要なカギを提案した。

1,国内の安定と総合的な国力の増強

2,アメリカとのポジティブな戦略交流と、健全な二国間関係

3,互いの核心的利益を侵害せず、互いの戦略の結末を脅かさないこと

4,国際社会における戦略的支援の拡大

●アン氏は、ロシアとの外交関係の強化や、
ヨーロッパ連合との協調的発展戦略、それにそれ以外の
発展途上国との協力関係の深化などの必要性を表明した。

●中国は大国として台頭しており、アメリカとの二国間関係が
極度に注目されるテーマになってきている。
アン氏は、中国が提案した「新しい大国関係」という概念は、
中国がアメリカとの紛争に突入することを意味するわけではないし、
覇権に挑戦するということでもないと考えているという。

●中国は相互的な敬意、つまり平等な関係と相互利益を期待しており、
これこそが、互いの平和と発展への偽りのない願いを表しているという。

●われわれの働きかけは、必ずしもアメリカの対中政策の変更を
意味するわけではないが、少なくとも新しい大国関係が
提案されたという事実は残る。

●アン氏は現在の状況がここ数十年間の米中関係とは
決定的に異なる点が3つあるという。

●第一が、国際的な状況が変化して、
米中が平和的に発展できる時代に入ったということ。
第二が、米中の利害、やりとり、そしてそれらの一体化が進んだということ。

●第三が、中国は核兵器だけでなくそれ以外の先端軍事技術を
持った部隊を持つようになり、海外の国からの攻撃にも
対処できるようになったということだ。

●アン氏が強調したのは、「台頭する大国の既存の大国との間の、
新たな紛争は避けるべきだ」という点だ。
彼は戦略的な相互信頼に焦点を当てることで、
互いの思い違いを防ぐことができると提案していた。

●危機制御および紛争管理は暴発を防ぐことになるかもしれない。
さらに重要なのは、相手国が中国を軍事的な手段で制限しようとする場合に、
そのコストが利益を上回ることを明確に理解させるということなのだ。

(引用おわり)===

いかがだったでしょうか。

とくに前半の4つの原則の最初に掲げられた「国内の安定」
というところは彼らの不安感を表している興味深いところでしょう。

ただし私がこの短い社説を読んで思ったことは、
「アメ通」で何度も書いているように、
"中国はアメリカとの完全な対等関係"を狙っており、
それはほぼ実現しつつある、
ということです。

読者の皆さんは、
「は?中国とアメリカが対等?寝言は寝てから言え!」
と言いたいところかもしれません。

ですが、

国際政治を視る視点として考えないといけないのは、
客観的な事実、つまり"実際どうなのか"という
「科学的な証拠」よりも、

「それが国家のリーダーたちにどのように感じられて受け取られるのか」

という点と、

「それが内外のメディアにどのように報道されるか?」

という点がより重要視されるということです。

例えば、中国とアメリカの軍事力を比較した場合、
客観的にはやはりアメリカのほうが予算的にも装備的にも、
そして兵士の練度的にもはるかに上であることは間違いありません。

ところが、このような「客観的に計測できそうな数値」というものが
全く意味をなさないことが、実際に数多くあるわけです。

国際政治の領域では、感情や「イメージ」、
そして、「世界観」といったものに動かされることのほうが多く、

これはつまり、

政治というものは「科学」ではなくて、「芸術(アート)」である。

ということを如実に示しているわけです。

もちろん「政治」はあくまでも「科学的」に
研究されるべきでありますし、私もその点については
何ら異議を差し挟むつもりはありません。

しかし震災後の原発関連の動きでもわかるように、
政治というのはきわめて感情やイメージの支配するところなのであり、
ここでは合理性や科学的データというものが
全く意味をなさなくなることがしばしばです。

現実に起っていることを観てみると、中国が勝手に設定した防空識別圏には、「物言い」はついていますが、国際的にはフライトプランを出す航空会社が多く
やがて事実上の「中国の領空」として刷り込まれていく可能性が高いのです。

ちなみに、アメリカの航空会社は、ほぼ”国策会社”である日本と違いその成り立ちから民間色が強く、何か問題が起こった際には、「自己責任」で自らがその咎を背負うために、政府の意向云々よりも、乗客のこと、経営のリスク等を考える、フライトプランを出すのです。

中国の「新しい大国関係」に話を戻しますと、
北京政府のこの「米国との対等認識」というのは、
客観的に見ると、
「それは、中国の思いあがりなんじゃないですか?」
という感覚があります。

しかし、ここで本当に重要なのは、
このような客観的な意見よりも、
当の本人たち(この場合は北京政府上層部)がそういう風に思い込んでいて、実際にそのような報道がされると、それが自己実現化していく、という点です。

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結論としては、今回のこの社説で見えてくるのは、

1,中国はもうアメリカ(とロシア)との関係は対等だとみなしており、

2,しかもその自信は自らの軍事力によって担保されており、

3,互いに相手の国のことに手出しできないような状況に持って行こうとしている、

ということです。

われわれは少なくとも北京上層部がこのような認識をベースにして国際政治に対処しようとしているという「事実」だけは認識しておかなければなりません。

現在大きな話題となっている防空識別圏の問題についても、
日本国内の一部言論などでは、
「中国の戦略的敗北」といった論調や、
「B52出動による習近平のメンツ倒れ-日米の勝利」
などの、日本人にとって耳障りのよい話もありますが、
結果としては逆で、実際のところは、"中国がまた地域覇権国のポジションに近づいた"ということです。

「地政学講座CD」でも説明しましたが、
古代より、中国の歴代王朝は、
ずっと北方の異民族からの脅威がありました。

しかし、現在、北は内モンゴル、ウイグル、チベットと、
現代の王朝である、中国共産党は
既に勝手に自治区として支配してしまっています。
そして、大国とはいえ、ロシアもかつてほどの勢力はありません。
もはや中国は北方の防衛にウェイトを掛ける必要がないのです。

恐ろしいことに、歴史上はじめて
中国は海洋に自由に進出できる状況が生まれてしまいました。

日本にとっては、非常に厳しい状況になりました。
この「現実」を重く受け止める必要があるのです。

( おくやま )

▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

勃興する中国、混迷を続ける欧州、
そして、冷戦終結後の世界で覇権を握ったかと思いきや、
ここに来て、衰退の兆しも見え始めた米国。

その米国が、東アジアから撤退する可能性すら囁かれている現在、
これを読んでいるあなたは、
日本が大変な岐路に立っている、大変な状況に置かれている。
と言われれば、必ず納得するはずです。

では、そんな厳しい現状で、私たち日本人は何をすべきなのでしょうか?
それは・・・
古今東西、国際政治の底流に脈々と流れ続ける、
学問・学派としての「リアリズム」を真摯に学ぶことです。

しかし・・・
日本国内で一般的に言われているような、
ともすれば、"世俗主義"的な意味合いで語られる
いわゆる<現実主義>ではない、本当の意味での「リアリズム」を
しっかり学べる素材があまりにも少ない・・・
そんな想いの元に、今回のCDを企画・制作しました。

▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

最近、日本のメディアで「地政学」という言葉をよく目にします。

この言葉の本当の意味は何なのでしょうか?
そして、そもそも「地政学」とはどういうものなのでしょうか?

「地政学」は一過性のブームなどには全く関係なく、
国家が国際社会の中で生き抜くためのツールとして、
日本以外の国々では
意識的/無意識的に活用され続けている学問です。

そして、昨今の日本周辺の混沌とした
国際関係の状況を冷静に分析する上で、
非常に役立つものなのです。

地政学とは、グローバル化した時代に、
国家が生き残っていくためのツールであり、
同時に国家の成功戦略のヒントとして
役立つものなのです。

しかし、日本では「地政学」は勉強できません。
「地政学」を専攻できる大学はありません。

そこで、英国にて「地政学」を学んだ奥山真司が
"禁断の学問"地政学を復活させるつもりで、語り尽くします。

▼「奥山真司の地政学講座」
http://www.realist.jp/geopolitics.html

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