アジア太平洋の環境激変に対応できる国防体制構築へ
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年12月19日(木曜日)
通巻第4091号 <前日発行>
アジア太平洋の環境激変に対応できる国防体制構築へ
オスプレィ十七機、イージス鑑八隻、水陸両方戦車など装備向上の「防衛大綱」
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▼日本の遅すぎた対応の前段階は「日本アセアン首脳会議」での合意だった
12月13日、14日と東京迎賓館で開催された「日本アセアン特別首脳会議」に関して、日本での報道があまりに少なく、且つ記事内容があまりにも貧弱だったことに筆者は驚いてしまった。
これは大袈裟に言えば昭和十五年の大東亜会議に匹敵するほどの画期的な集まりで、政治混乱のため出席を見合わせたタイのインラック首相をのぞいて、アセアン加盟すべての首脳が東京に一堂に会し、しかも「航空路の安全」など中国牽制の文言を共同声明に盛り込んでいるのである。
日本アセアン首脳会議それ自体は1977年から開始され、東京での「特別会議」は2003年についで二度目だが、従来は経済協力のレベルにとどまり、政治論議とりわけ安全保障問題でも討議もなければ、合意されたこともなかった。
安倍首相は就任以来、じつに意欲的にアセアン諸国を歴訪した。
2013年一月にベトナム、タイ、インドネシア、五月にミャンマー、七月にマレーシア、シンガポール、フィリピンを歴訪し、十月にブルネイ、十一月にラオス、カンボジアと僅か十一ヶ月の間にアセアン十カ国すべてを巡回し、さらにこの間には欧米ならびに産油国とトルコ、モンゴルを歴訪し、事実上の中国包囲網外交を確立した。来年にはアフリカ訪問が外交日程にのぼっている。
これほど猛烈なスピードと熱意をこめた外交には安倍首相の思い入れも深くこめられている。
アセアン歴訪では行く先々で経済援助、インフラ建設協力、円借款という既存の援助外交にプラスして、第一に文化交流の深化を謳った特別チーム(ビートたけしらも加わり座長は山内昌之前東大教授)を設立して事前に各国に派遣し、さらには東京で日本アセアン音楽祭も開催した。
第二に軍事面での協力を謳い、航行の安全(つまり中国の海洋覇権への牽制)に合意を取り付け(カンボジア、ラオスをのぞく)、さらにベトナム、フィリピンとの間では安全保障の分野でもっと踏み込んだ協力関係を打ち立てた。ついでに言えば台風災禍のフィリピンへは災害融資枠の五倍増、自衛隊1180名という大規模な派遣を実現し、日本なりのトモダチ作戦を展開したことは記憶に新しい。
第三に日本の防衛力整備に関して、どの国からも反論はなく、いなインドネシア、フィリピン、ベトナムからは歓迎の旨が伝えられた。
▼アセアン十カ国首脳が東京に勢揃いした
このような背景と環境変化のもと、協力四十周年を記念する名目で「日本アセアン特別首脳会議」は12月12日に実質的に開始された。
開催の二日前に安倍首相は迎賓館を下見するほどの熱の入れようであり、13日に首相官邸で開かれた歓迎の宴ではユネスコ文化遺産にもなった和食を参加者にふるまっての「おもてなし」を印象づける演出までした。
本会議に前後して、安倍首相は個別会談を次々とこなした。
12日にはナジブ(マレーシア首相)と会談して「海上保安当局間の協力」を確認し、13日にはボルギア(ブルネイ国王)と省エネ技術協力で合意し、フィリピンのアキノ大統領とは年初来懸案だった巡視船十隻供与を決定したうえ、災害融資五倍を決めた。
同日、ユドヨノ(インドネシア大統領)とは、外務・防衛閣僚級協議の検討を確認し、鉄道などへの円借款620億円供与をまとめた。同日、リー・シェンロン(シンガポール首相)との会談では外貨融通枠30億円の合意を歓迎するとしたうえ、14年5月にシンガポールで開催される安全保障会議への出席に前向きの姿勢をしめす。
14日は本会議である。
この席で安倍首相は中国の防空識別圏に言及し「力ではなく法が支配し、努力した者が報われる繁栄した経済社会をつくりたい」と強調した。名指しこそしていないが、明らかに中国をつよく牽制したのだ。
翌日の15日にはトンシン(ラオス首相)と会談し、「外務防衛当局間の安保対話調整で一致したほか、空港拡張工事に100億円のODA供与で合意した。
ティン・セイン(ミャンマー大統領)とは五月の歴訪時に表明した円借款に多少の増額を表明し、ティン・セイン大統領は日本が造成するティラワ工業団地の受け入れ環境の整備などを約束した。
ズン(ベトナム首相)とはフィリピンに引き続く巡視船供与、原発建設での協力の他、ハイウェイ建設に960億円の円借款供与を決めた。
フンセン(カンボジア首相)とも防衛当局間の連携を確認し、130億円の円借款供与を表明した。
インラック首相に代わって参加したタイのニワットタムロン副首相の表敬訪問を受けた。
とりわけ中国の東シナ海上空に一方的に設定した「防空識別圏」について、「力により一方的に現状を変更しようとする試みは受け入れられない」とする日本の立場を表明した。
▼かくして防衛大綱は改定された
そして政府は「防衛大綱」を纏めるのである。
アジア太平洋の軍事上の激変と、政治環境の激変に対応するため、2010年に策定された防衛大綱を三年で改訂したのは異例のことである。
この新しい防衛大綱には「中国は軍の艦艇や航空機による太平洋への進出を常態化させ」「力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応」と表現して「中国の軍事動向は強く懸念している」とした。
そのうえで、日本は対応能力の向上を総合的になすことを基本の方針に据えた。
具体的には陸海空の総合的一体運用を目指し、護衛艦54隻体制、戦闘機280機、機動戦闘車99両、オスプレィ17機、水陸両用車52両、AWACS4機、空中給油機3機、F35が28機などの装備充足が並んだ。
ただし「集団的自衛権」への言及は今回もなかった。さきに安倍政権は「国家安全保障会議」を設立しており、「積極的平和主義」という比喩を用いつつ、今後十年の対応を策定する。
他方、日本政府は米国に対して日米防衛協定に見直しも打診したが、米国側は賛同しなかった。
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◆書評 ◇しょひょう 戦後体制(ガラパゴス)に残る病理をえぐり出した保守の新人論客が登場
テレビと新聞はなぜ売国奴の道を選んだのか?
古屋経衡『反日メディアの正体』(総和社)
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戦後の日本のマスコミは左翼が乗っ取っており、その売国的変更報道ぶりは、いまも変わらない。だから著者は、戦後マスコミを「ガラパゴス」と揶揄する。日本を貶めることに狂奔する新聞は恐竜のように、やがて死滅するしかないだろうが、読者のほうも感度の劣化によってまだ朝日新聞などは辛うじて生き延びている。しかし影響力は激減しており、まっとうな新聞は産経新聞しかなくなった。
売国的メディアがいまも闊歩するのは何故なのだろう?
基本的に情報とは古今東西、操作されるものである。だから独裁者は情報をコントロールする。猿の惑星のように人民は奴隷である。
プーチンのロシアでは強権政治が復活しており、プーチンに批判的なジャーナリストは二百数十名が殺害されている。
スターリンが政治宣伝を目的に創設したイズベスチアは共産党の宣伝一色、カルトの経典を繰り返し唱えて嘘を真実と国民に思わせる洗脳機関の武器でもあった。中国共産主義礼賛、党の行うことが全て正しいと政治宣伝の道具として活用される中国の「人民日報」もしかり、新華社も環球時報もしかり。
これらを鵜呑みにして、他国の政治宣伝を批判なく伝えるのが日本のマスコミだった。国民は情報操作に或る意味で洗脳され続けた。GHQの占領政策の延長線上に、マスコミは阿諛追従し、日教組の極左路線を礼賛し、こうした反日マスコミの論調に国益の追求は無かった。いやそればかりか他国の国益を追求した。
1996年あたりに出現したインターネットは急速に発展し、マスコミの一方的情報操作に反発してきた個人が意見を述べるツールを得た。
以後、偏向新聞は俄然として部数を減らした。
ネットによるブログ、ネットマガジン、ツィッター、フェイスブックはまたたくまに世界を席巻し、ついには共産圏、一党独裁の強権政治体制の下でも、迅速に普及した結果、アラブでは政変が連続し、中国では反政府勢力が拡大した。
翻って独裁政治とは無縁の民主国家にあってさえ、情報は操作されている。
日本では政界・官界・業界の記者クラブ制度の弊害も手伝って、情報操作が四六時行われている。
政府はTPPが国益に繋がると主張し、財務省は消費税が財政健全化に繋がると言い、国土交通省はリニア新幹線、列島強靭化は震災予防と景気浮揚に繋がると獅子吼し、それぞれが省益を述べるために不利な情報を隠蔽しつつ、記者クラブを通じて情報が公表されると、それはマスコミを通じて全国に普及する。
もとより政府、官庁が発する情報を批判するのが在野の精神であり、ジャーナリストの原点である。しかるに日本には使命感をおびたジャーナリストが稀になり、権力に媚びることに恥じらいを覚えなくなる。
もう一つの問題は日本人の情報への感覚が麻痺していることである。
情報とはインフォメーションではない。それは『消息』と中国語が的確に表現するようにインフォメーションを超えて、『情報』は「諜報」「防諜」「謀略」「逆宣伝」「偽情報」「威嚇宣伝」などを含むインテリジェンスである。
ついでいえばPRとは「宣伝」ではなく広く社会へのイメージ作りであり、企業広報部など「広報」という語彙を超えて「弘報」と表されるべきである。
というようなことを考えながら本書をよむと、現在の日本のマスコミの情報操作の劣化がよく飲み込める。
『真の敵は国内にいる』という鋭角的指摘はまさに正鵠を得ている。
◇
(読者の声1)貴誌前号で書評されたジェフリー・レコード著 渡辺惣樹訳・解説『アメリカはいかにして日本を追い詰めたか』(草思社)について感想です。
日米戦争の原因見直し:戦後半世紀もたっているのに、この重大な戦争原因がなぜ見直されていないのか疑問でした。ウェデマイヤー将軍によると、第1次大戦の責任論は戦後10年もするとドイツ単独責任論に疑問が出されて自由に検討されていたそうです。
戦争責任:占領中ヘレン・ミアーズ女史は、「アメリカの鏡日本」を著し「戦前の外交記録を読めば米国が日本を圧迫し、日本が必死に戦争を回避しようとしたことは明白」と記しています。
米国のアジア政策の狙いと失敗:米国の狙いは、ジョンヘイの支那門戸開放機会均等宣言で明らかなように支那満洲への進出です。遅れてきた米国の白人植民地主義(帝国主義)でした。1920年代のワシントン体制も米国は支那の保全をうたいましたが、別に支那が頼んだわけでもなく、米国が自分で支那を取ろうとしただけでした。そして日本を邪魔者として敵視しました。
マクマレの建白:そこで1935年古参外交官のマクマレは「このままでは戦争になる、日本を滅ぼしてもソ連が南下する。蒋介石は米国を利用しているだけだから、極東は米国の自由にならない。米国は支那に介入するな。日米戦争は両国にとって大損害になる」と建白しましたがホーンベック極東部長は採用しませんでした。
しかし戦後全て的中しました。
真珠湾事件非難の勘違い:真珠湾事件は明らかな日本の反撃でした。暗号解読と駐日グルー大使の警報でルーズベルトは攻撃を知っていましたが、浅海用航空魚雷を知らず想定外の大損害となりました。そこでうろたえたルーズベルトは「卑怯なだまし討ち」と非難しましたが、これは戦争とスポーツを取り違えた詭弁です。戦争にはルールはありません。米国の被害は単なる油断です。それなのに日本人までルーズベルトに騙されて反省しているのはいかがなものかと思います。
大体、真珠湾事件は米軍の偽装義勇空軍フライングタイガーの無通告対日攻撃に対する反撃なので宣戦布告は必要なかったのです。
ソ連の米国浸透:これはルーズベルトの大油断でした。
大統領特別補佐官アルジャー・ヒスまでソ連スパイでした。これはあろうことかルーズベルトはスターリンに魅せられ、たぶらかされたのです。スターリンはルーズベルトの半身不随にもかかわらず権力欲の強い心理的な不安定性を見抜いて巧みに操りました。最後は世界最強の筈の米国大統領が遠く寒いソ連のヤルタまで呼びつけられたのです。
理性の光:米国側の新しい歴史分析は日米戦争の日本犯人論にようやく冷静な歴史の光が差してきたということでしょうか。
東京裁判でパル博士はその判決文の最後を次の言葉で結んでいます。
「時が、熱狂と偏見をやわらげたあかつきには、また理性が、虚偽からその仮面を剥ぎとったあかつきには、そのときこそ、正義の女神はその秤を平衡に保ちながら、過去の賞罰の多くにその所を変えることを要求するであろう」
(東海子)
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(読者の声2)東京都知事問題ですが、はやばやと猪瀬直樹現知事の辞任が政治日程に入り、次の候補がマスコミを騒がせています。ですが、舛添、東国原、小池、連坊とか。コメディアンにテレビタレントばかり、宮崎さんの見通しは?
(JJセブン)
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(宮崎正弘のコメント)どれも代わり映えしないレベルの自称候補ものばかりですが、この中で強いてマキャベリズムが分かる人といえば、小池百合子さんあたり? しかし自ら売り込みを図る人より、本当 に出て欲しい辣腕家は払底しているのでしょうかねぇ。
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