最終プレゼンが勝因=IOC委員の評価―2020年五輪招致 | 日本のお姉さん

最終プレゼンが勝因=IOC委員の評価―2020年五輪招致

<20年東京五輪>マドリードに“おごり”、票逃げる
毎日新聞 9月9日(月)9時34分配信
IOCの第125回総会に出席したスペインのフェリペ皇太子(左)と皇太子妃(右)=AP
「Madrid makes sense(マドリード開催に意義がある)」。最有力のライバルだったマドリードが最終演説で繰り返した表現だ。最初に登壇したのはIOC委員のサマランチ・ジュニア氏。IOC内に権力を行使した前会長の父、フアン・アントニオ・サマランチ氏の写真が背景に浮かび、ジュニア氏は「我々は五輪に貢献してきた。マドリード開催に意義がある」と語りかけた。最後に登壇したフェリペ皇太子まで必ず、この表現で締めくくった。
その言葉には「当然」「もっとも」というニュアンスもあり、押し付けも感じられる。4年前、2016年リオデジャネイロ五輪招致に一役買った英国人の招致アドバイザーは落胆して会場を去るマドリードを見て毎日新聞に「彼らは自信を持ちすぎた。あのときのシカゴと同じだ」と言った。シカゴはオバマ米大統領を最終演説に投入しながら1回目で落選。似たように「勝てる」と浮足立った雰囲気がマドリードにあった。
IOC委員は、おごりを嫌う。東京招致委員会でロビー活動の前線に立っていた幹部も最終盤にマドリード支持が崩れていくのを感じたという。きっかけは4日付のスペインのエルムンド紙の報道。顔写真付きでIOC委員の投票先を分析し、「1回目で40票以上を獲得。過半数もある」と強気に予想した。
東京招致委の幹部は「あれに怒ってマドリードから離れたIOC委員を数人知っている」と振り返る。マドリードの1回目の得票は26票。基礎票といわれた30票台も割り込んだ。イスタンブールはIOC委員のホテルに関係者を大量動員する強引な手法で終盤に巻き返していたが、票を伸ばすには限界があった。
東京招致委にとっては「うれしい誤算」だった。別の幹部は最終演説前夜に票読みをした。確実に投票してくれるIOC委員に「◎」をつけ、可能性が高い委員の「○」を加えると、東京は1回目で30票台後半。2回目が勝負となる接戦を覚悟した。態度を決めていない浮動票を取り込むため、好意的なIOC委員から「最終演説が大切」と助言されていた。
結果的に1回目42票、イスタンブールとの決選投票では60票を獲得する圧勝だった。東京招致委の幹部は「マドリード票もかなりもらった。想定した中では意外な結果だったが、積み重ねてきた活動がやっと報われた」と振り返る。たとえ「◎」がつけられなくても、2度目の投票になれば入れてくれるかもしれない。英国人の招致アドバイザーは「(ロビー活動を)東京はよくやっていた」と評価する。地道にIOC委員に働きかけた誠実さが最後に電子投票のボタンを押させた。【小坂大】
最終プレゼンが勝因=IOC委員の評価―2020年五輪招致
時事通信 9月8日(日)12時10分配信
東京が開催を決めた20年夏季五輪招致で、国際オリンピック委員会(IOC)委員の多くが東京の最終プレゼンを勝因の一つに挙げた。懸念された東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題に対する安倍晋三首相の明確な説明も評価された。
最終プレゼンでの質疑応答で汚染水問題について質問したハイベルク委員(ノルウェー)は「風評が耳に入っており、誰かが聞かなくてはならなかった。首相は問題をきちんと理解し、答えは的確で、危険がないことが伝わった」と話した。
コーツ理事(オーストラリア)も汚染水問題に対する説明に納得し、「マドリードは経済危機、イスタンブールには政情不安がある。IOCは安心して開催できる都市を選んだ」と分析した。
パウンド委員(カナダ)は「東京が1回目の投票で勝つとさえ思っていたから驚きはないが、(60票を取った2回目の)大差にはびっくりした」と言う。また、失敗した16年五輪招致と比較し、「厳しい質問にも明確な英語で返していたし、あれほど感情に訴えた日本のプレゼンを見るのは初めてだった。勝利に値する」と、前回からの成長ぶりをたたえた。
次期会長選の有力候補になっているバッハ副会長(ドイツ)は「東京は開催の提案を実現できることをきちんと示した」と評価した。
<20年東京五輪>歓迎の一方、疑問の声も…震災被災地
毎日新聞 9月9日(月)11時6分配信
 東日本大震災からの復興をテーマに掲げる2020年東京五輪。被災地では開催を歓迎する声が上がる一方、本当に復興に役立つのか、疑問視する声も少なくない。
 ◇福島
 福島第1原発事故の影響で双葉町から避難し、福島市の仮設住宅に住む無職の鈴木トクさん(79)は「五輪が開かれれば、外国からも人が来て盛り上がるから良い。経済効果が東北や被災地にまで及んでくれれば」と語った。いわき市小浜町で、放射性物質検査のためアワビやウニなどを水揚げした漁業の丹野信一さん(77)も「素直に歓迎すべきだ」と話したが「汚染水問題が解決するか分からず、漁業の復興は道半ば。福島へ支援の手が届くのか心配になる」と表情を曇らせた。
 富岡町で被災し、三春町の仮設住宅に家族5人で避難する派遣社員の萩原光代さん(45)も「復興のアピールばかりで被災地をなおざりにしてもらっては困る」とくぎを刺した。浪江町から避難し、福島市の仮設住宅で暮らす無職の岡和田温(あつし)さん(40)は「五輪は被災地の復興には役立たない。汚染水対策を国が前面に出てやると言ったのだって五輪のためだろう。避難者の生活や原発事故の収束を第一にやってほしい」と訴えた。【田原翔一、五十嵐和大、猪飼健史】
 ◇岩手
 津波で自宅が流され、親族宅で生活を送りながら、がれきの分別の仕事をする大槌(おおつち)町の小松力(つとむ)さん(59)は「元気になるので気持ちの面では復興に役立つと感じた。しかしお金もかかること。2020年を迎えた時、五輪施設は完成したのに、被災地復興は道半ばとならないよう願う」と話した。
 津波で事業所や車両を失い、仮設事務所で運送業を営む釜石市の舟本常雄さん(67)は「五輪に向けて東京の魚市場が活気づき、三陸の浜から魚の運送も増えることに期待したい」。自宅を流され、同市内の中古住宅で独居している釜石市の無職、大久保桂子さん(72)は「復興工事で不足している人手と資材が、五輪の工事に取られてしまわないだろうか」と漏らした。盛岡市の教員、伊勢美和さん(37)も「安倍(晋三)首相は『復興した姿を見せる』と世界に約束したのだから、有言実行してほしい」と求めた。【高尾具成、藤河匠、宮崎隆】
 ◇宮城
 「なにか他の国の話のような感じがする」。津波で自宅を失い、気仙沼市の仮設店舗で金物屋を営む鈴木敦雄さん(53)は東京五輪開催に首をかしげる。「開催したことのないトルコ(イスタンブール)に譲ってもよかったんじゃないかとさえ思う。日本は、もっと他に力を注ぐべきことがあるのでは。震災復興を誘致の材料にしたんだったら、それを本当に加速させてほしい」と注文を付けた。
 名取市の自宅兼店舗が全壊し、仮設商店街で写真館を再開した斎藤正善さん(61)は「安倍晋三首相は原発問題に責任をもって取り組むと言ったが、福島、宮城、岩手の再生・復興にも取り組んでほしい」と注文を付けたうえで「7年後、関東は盛り上がるのだろうが、被災地が取り残されることは許されない。もっと被災地で競技をしてくれれば盛り上がれる」と話した。
 東京五輪が決定した8日、仙台市内で開かれたジャズのイベントに来ていた大学生、山下愛さん(21)は、同市若林区にあった自宅を津波で流された。「ロンドン五輪は見ていてわくわくしたので、東京開催は素直にうれしい。もうチケット入手の話をしている友人もいる。7年後は、世界はもちろん、日本でも被災地を忘れている人が多いと思う。五輪が、そんな人たちが被災地に来てくれたりするきっかけになってほしい」と期待していた。【井田純、三浦研吾】
.最終更新:9月9日(月)14時55分