金融システムに破綻がみえてきたチュウゴク
金融システムに破綻がみえてきた
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年9月5日(木曜日)貳
通巻第4014号
まだ中国経済が成長し続けるという妄説
事実上、金融システムに破綻がみえてきた
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中国の国有銀行はまもなく不良債権処理という別の大波に襲われるだろ
う、と英誌エコノミストが書いている(同誌、2013年8月31日号)。
四大銀行(中国工商銀行、建設銀行、農業銀行、中国銀行)が空前の利益を上げているという報告は「誰も信じていない」。そもそも「中国の銀行は厳密には銀行ではない」(CLSAのアンドリュー・ロスマン)
「勝手な法律によって国有銀行は保護されており、自由な競争のない世界。幹部は党から派遣され、銀行総裁かとおもいきや次は銀行監視委員会の責任者になったりする。しかし特権にあぐらをかいてきた四大銀行も、国有企業への貸し出しが思ううように出来なくなった」(同エコノミスト誌)。
中国工商銀行は世界一の時価発行を誇るが、昨年の利益が500億ド ルと報
告された。資本金が1610億ドルで、500億ドル??
中国工商銀行と中国農業銀行はそれぞれが40万人の行員を抱えてい る。
中国建設銀行は中国全土に14,000店舗が展開している。従業員 40万人といえば、ドイツのフォルクスワーゲンと同規模になる。
四大銀行に「交通銀行」をくわえて五大銀行と総括しても良いが、いずれも上海、香港に上場しながらも大半の株式は国家が保有している。
jpモルガン銀行は「中国銀行の不良債権率は10%前後あり、貸し出 しの17%が製造業に向けられているが、不況に陥った現在、回収が難しくなっている」とする報告をだしている。
1990年代に中国がしたように、不良債権の爆発が起きれば、資産回収 機構の帳簿に移し替えて、またまた身軽になることが出来る。国有銀行がおこなえる手品である。
「しかも企業向け貸しだしの市場が縮んで、個人向けローンなどにビジネス傾向がかわっており、銀行預金金利も勝手に決めるという競争なき状態がいつまでつづくとは考えにくい」と業界の観測が強くあがっている。
格付け機関は一斉に中国企業の社債レートを格下げしたが、銀行に関してはまだ発表がない。もし財務内容を西側の基準に合わせて評価すればAAどころかCCCあたりが適当であり、「次の貳年間に中国の銀行界全体は500億ドルから1000億ドルの資金手当が必要である。5年以内 に3000億ドルが必要となるだろう」(同英誌エコノミスト)。
つまり札びらを刷って、銀行を「増資」させるという手品をまたもや行使するだろう。だから人民元は暴落の可能性が強くなるのだ。
「中国経済はまだまだ成長し続ける」という妄説は金融システムに破綻という現実を前にして、理論的にも成り立たなくなった。
◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ■ BOOKREVIEW
尖閣諸島奪取と台湾攻撃はセット。日台は中国脅威論を共有
日本にとって台湾ほど大切な国があろうか、諄々とユーモラスに説諭
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加瀬英明『日本と台湾――なぜ、両国は運命共同体なのか』(祥伝社新書)
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台湾が中国の一部でないことは火を見るよりも明らかである。事実上、台湾は一個の独立国家である。しかし世界的に孤立し、国際社会ではあたかも存在しないように扱われている。中国の政治謀略が成功した例である。
日本のとった台湾への仕打ちは忘恩的で冷酷だった。
田中角栄外交の大失敗は日本の外交史に汚点を残した。米国はニクソン訪中後もすぐに北京とは国交を回復してはおらず、ようやくカーター政権になって、「台湾関係法」を制定したうえで、北京と結んだ。
このため台湾は中国の魔手に直接脅かされることになる。
著者の加瀬英明氏は台湾へ渡航すること50回、大の台湾贔屓だが、観 察は冷静かつ客観的である。そのうえ外交論文でも、ユーモラスな文章を駆使されるので、深刻な事案もときに滑稽に、あるいはなぁんだ、そんなことか、と思うほどに輻輳した事情が簡潔に解きほぐされる。
日本と台湾が『運命共同体』というのが本書の肯綮だが、理由を次のように列挙している。
第一に尖閣を中国に軍事的に脅かされる日本と、軍事的に飲み込まれようとしている台湾の安全保障上の危機が連動していること。
第二にお互いが『占領憲法』をいただきながら国内の売国奴らによって妨害され自主憲法の制定がすすまない境遇も似ている。日本の占領憲法はGHQがおしつけたが、台湾の現行憲法は外来政権がもたらし、ともに国家の前途を暗くしている。
第三は軍隊の存在がアメリカの補完部隊という位置づけが共通している。
しかし台湾のほうに日本精神が高く残っており、独立精神は旺盛である。日本はまだ去勢された中性男子のように、日本は中国の属国に甘んじたほうが幸せというアホがなんと駐北京大使となる体たらくだった。
しかし庶民は異なる反応を示し、民間交流は盛んである。姉妹都市も増え、台湾からの旅行者は中国より多い(人口13億と2300万の国で、 台湾からの観光客のほうが多いということは、ひとりあたりに直すと数百 倍の親日度になるだろう)。
個人的なことを付け加えると評者(宮崎)と著者は四十数年の交友関係、加瀬さんは兄貴分である。最初にふたりで台湾へ取材に行ったのは1973年、雑誌『浪曼』で、「日華断交一年の悔恨」という特集号のた めだった。以後、台北のホテルで、居酒屋でばったりという体験が2回ほどある。
ともにお世話になった『美しい日本語を台湾に残す運動』の友愛グループも、最初の訪問時、藤島泰輔氏から紹介を受けた陳燦暉氏との出会いからで、そのことも本書では語られている。
台湾独立運動のカリスマ膨明敏の台湾脱出については、台湾で当時かかわったアメリカ人の回想がでたので、加瀬氏は、それに準拠されているが、パスポート写真の張り替えのため台湾へ潜り込んだ日本人を「K」とされている。
おそらく、アメリカ人の原書がまだ匿名だからであろう。し かし日本ではとうに宗像隆幸氏らの著作で本名がでており、しかも数年前 に、そのすりかえの役を果たした日本人が訪台して当該膨明敏とにっこり 会見、その模様も実名入りで大きな写真とともに自由時報が報道した。
あまりにも身近で郷愁の強い台湾を独特のタッチで描いた本ゆえに精神的安堵を覚える箇所も多く、すらすらと読めた。台湾が大好きな人、李登輝総統ファン、必読である。