太田述正コラム | 日本のお姉さん

太田述正コラム

太田述正コラム#6202(2013.5.12)
<日進月歩の人間科学(続x30)>(2013.8.27公開)
1 始めに
本日のディスカッションで予告したコラムです。
どうして私が精神障害に強い関心を抱いているかというと、留学先のスタン
フォード大学の政治学科のセミナーで精神障害本を読まされた時にまで遡 るわ
けで、心理分析・・中共・韓国の反抗期的反日感情!・・や精神分析的・・金正
恩の妄想症!・・手法で国内政治や国際政治に係る個人、或いは集 団の言動を解明するのが有効な場合があることと、(今にして思えばろ過され浄化された環境であったところの、)役所を飛び出してからは、娑婆には (とりわけ太田コ
ラムの読者やその関係者に)精神障害者ないしはその疑いのある人がたくさんいることに気付き、精神障害のことをある程度知らない と、この自分の第二の人生をまっとうには生きていけないと思い知るに至ったことがその理由です。
2 精神病は存在するのか
「英国の臨床心理学者(clinical psychologist)達を代表する指導的団体に
よれば、統合失調症や双極性障害といった精神医学的(psychiatric)診断が正
しくかつ有用 であるかどうかについて、科学的証拠はない。・・・
この声明は、精神的苦悩(mental distress)に係る精神医学における主とし
て生物医学的(biomedical)モデル・・医者が薬品を使って治療することが可能
な病気に人々が苦 しめられているとの観念・・に効果的に疑問を投げかけ
た。・・・
人々が精神的におかしくなる(break down)のは、近親との死別や近親の喪
失、貧困や差別、トラウマや虐待といった社会的、心理的諸事情の複雑な組み合わせの結果であることについて、圧倒 的証拠がある<、というのだ>。」
http://www.guardian.co.uk/society/2013/may/12/psychiatrists-under-fire-
mental-health
「13の研究で、統合失調症者の半分超は、子供の時に虐待で苦しめられている
<ことが明らかにされている。>。
これと違うところの、23の研究を検証した結果によれば、統合失調症者は、非
統合失調症者に比べて、少なくとも3倍多くの虐待を受けている。
<すなわち、>虐待が精神異常(psychosis)の主たる原因であることが次第
に明らかになりつつある。
医学的(medical)モデルが破産した(bust)こともまた余りにも明白だ。・・・
我々のDNAに関する11年にわたる注意深い研究は、その差異は精神病(mental illness)を、全くもって説明できない、ということを示している。
兄弟姉妹のうちの一人が不安になったり鬱になったしたけれどもう一人はそう
ならなかった場合、一方がそうで一方がそうでない理由のせいぜい 1~5%し
か、DNAの差異では説明できない。・・・
対照的に、我々の幼児の頃の経験がその後の逆境(adversity)ともあいまっ
たことが、極めて多くを説明できることに関しては証拠が山ほ どある。・・・
<また、>6つ以上の個人的債務を負っている人は、その社会階級に関わら
ず、債務のない人に比べて精神病に罹る度合いは6倍だ。
つまり、債務が大きくなればなるほどリスクは大きくなるのだ。・・・
<それなのに、現在の治療は、>薬品に依存しており、それによってすぐに苦
しめられ、服用すればするほど悪化し、あなたの成人としての感情的苦 悩とい
うリスクは大きくなる<、というのが実情だ>。・・・
<そもそも、>英国人と米国人は、大陸欧州の西部の人々に比べてちょうど倍
の精神病罹患率<であり、これが製薬会社の陰謀かどうかはともかく、 英米で
は精神障害者を濫造していると言われても仕方ないの>だ。(23%対11.5%)
<こういうわけで、英米では、まことに多くの人々が不必要な薬品を服用させ
られているわけだ。>」
一見、以上の話とは逆の話も、同じガーディアンに載っていました。
「<故意による>殺人者達の脳は、その前頭前野皮質・・脳の「役員的機能」
<を司る>・・の発達度が、制御集団(control group)に比べて顕著に劣るこ
とが示された。・・・
<その結果、>怒りや憤怒といった原始的(primal)諸感情を生み出すところ
の、大脳辺縁系(limbic system)に対する制御が減衰し、リスク中毒度が増
し、自己制御が減退し、問題解決の諸技(skill)が不得手となり、これらの特
徴がその人を暴力 に狩り立てる可能性がある。・・・
<このようなことを主張している学者は、>「神経刑事学
(neurocriminology)」という学問<を唱えているが、この学問が、>頭 蓋骨
の形が証拠であるところの欠陥ある脳組織から刑法に触れる行いが由来するとの
信条を抱いたところの、19世紀の骨相学 (phrenology)を連想させることか
ら、いまだに色眼鏡付で見られている学者がいる。・・・
<かかる背景の下、>戦後、犯罪は、生物学ではなく、経済的ないし政治的諸
要素、或いは、心理的諸障害(disturbance)に起因するも のとされるに至っ
た。・・・
→精神障害とは真逆の状況なのが面白いですね。(太田)
もしあなたが特定の遺伝子群一式を持っていたとすると、あなたがこれらの遺
伝子群を欠いていた場合に比べて粗暴犯罪を犯す可能性は4倍にもな る。
また、窃盗を犯す可能性は3倍に、加重暴行(aggravated assault)を犯す可
能性は5倍に、殺人で逮捕される可能性は8倍に、そして性的攻撃で逮捕される可能性は13倍になる。
囚人の圧倒的多数がこれらの遺伝子群を持っているし、死刑囚の98.1%が持っ
ているのだ・・。・・・
<また、>人材派遣会社の雇用者達の間で精神病質者(psychopath)が異常に多い・・・<のは>驚くことではない・・。
「精神病質者はどこかに落ち着くことができず、動き回る必要があり、新しい
刺激を求める<からだ。>」・・・

爆弾処理専門家、企業の役員、或いはジャーナリスト<の世界>にもこれらの
「精神病質的」特徴を持った個人が惹きつけられがちだ。・・・
大脳辺縁系の一部である前帯状回(anterior cingulate)の機能が出獄前に通
常より低下していると、その後3年以内に有罪判決を受ける可能性が2倍にな
る。・・・
もう一つの研究では、出獄した囚人がアーモンドの形をした脳の一部で記憶と
感情を処理するために枢要であるところの扁桃体(amygdala) が顕著に小さい
分量であると、その人物は再び罪を犯す可能性が3倍になる。」
3 終わりに
最後の記事で紹介されている神経刑事学者自身、殺人犯と同じ脳の特徴を持っているにもかかわらず、殺人どころか、何の犯罪も犯していない(上掲 記事)
ことが示しているように、生物医学的モデルは、特定の人の傾向性を教えてくれ
るだけで、そのような傾向性を持った人が、実際に、ある種の精 神障害を発症
したり、ある種の犯罪を犯したりするかどうかは、心理的・社会的要因いかんで
ある、ということなのでしょう。
そうだとすれば、精神障害発症者の治療や犯罪者への対処、とりわけ精神障害発症者の治療は、(将来的には遺伝子の組み換えによる傾向性の除去が できるようになるのでしょうが、それまでの間は、)対症療法に過ぎず、当然のことながら副作用のある投薬よりも、主としてカウンセリングを通じ て、心理的・社会的要因を突き止めることによって、本人自ら治癒させることが望ましい、と言
えそうですね。
いずれにせよ、問題なのは、社会自身が、歪んでいたり精神障害者的な人に甘
すぎたりして、社会生活が表見上営めているために、精神障害者として 認定さ
れず、何の治療も受けていない人がこの世の中には多数いることと、明らかに社会生活が営めないにもかかわらず、独裁者であるが故に、関係者 の誰もこの独裁者が精神障害者である可能性が高いことを指摘できない・・例えばヒットラーや金正恩のことです。
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