9億人の人口が都市に住むにはあと2億5千万人が農村を棄てる計算 | 日本のお姉さん

9億人の人口が都市に住むにはあと2億5千万人が農村を棄てる計算

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年6月17日(月曜日)
通巻第3965号


2025年までに中国の都市化が目標だそうです
9億人の人口が都市に住むにはあと二億五千万人が農村を棄てる計算
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都市かを急ぎすぎて失敗した例はあまたあるが、とりわけ悲惨な結果はインド、メキシコ、ブラジルである。
都市へ強制移動させられても、農民出身者にはエンジニア系の職業がなく、移転に伴う補償金を食いつぶせば、いくら住宅が廉価だったとはいえ、水道光熱費は支払い続けなければならない。

まして農村に残った人々は若くても40代から50代、都会の職業といえば、ビルの夜警くらいしかない。
農民戸籍では年金ももらえないので餓死するしかないが。

本来ならば今年三月の全人代が、この都市化計画は提案され承認が得られる筈だったが、地方政府の厖大な借金、銀行の不良債権対策に追われ、都市化計画(2025年までにあと2億五千万人を都市へ強制移動)は提案が遅れた。
つまり地方政府にとっては、もはや低所得者住宅を建設する余力がなく、計画は計画、実行するには予算がないというわけだ。

そのうえ農民の不満が噴出し、各地で暴動が起きている。暴動件数、いまや年間20万件、手の施しようがなくなった。

「あと12年間に二億五千万人の農民を都市へ移動させるなどというのは、米国の全人口がほかへ異動すると同義語である。1980年代の農民人口は80%だった。現在の中国の其れは47%だが、ほかに17%が都市へ流民となって流れ込んだ。政府の計画通りに2025年までに都市人口が9億人とするには毎年6000億ドルの資金が必要となる」(ニューヨークタイムズ、2013年6月15日付け)。

他方、不動産投機によるマンションの空き屋状況はますます悪化しており、中国全土の空き屋および空き室は最低みつもっても8500万戸、最悪一億戸を超えている。これらは投機、投資のために金持ちが購入したもので、低所得者が住むわけには行かず、いずれコンクリートの腐食が始まって廃屋となる危険性が高い。小誌でもたびたび問題視してきたように、各地に鬼城(ゴーストタウン)が出現している。

ちなみに日本は投機による空き部屋は殆ど無いが、都市化により地方の過疎化、駅前のシャッター通り化により、全国で「放置された空き屋は756万軒。東京では75万戸の空き屋および空き室があり、うち92・2%がマンションやアパアートの共同住宅」であるという。
そして「東京都都市整備局によれば、2011年時点で都内のマンションの総数は133188棟、約301万戸。2040年になると約半数が築年数50年を超える」(『文藝春秋』、13年7月号)。

こちらのほうも、大きな問題である。つまり日本も都市化現象が、総合的に社会の衰滅をもたらしているのである。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 921】
――「喧噪と臭気との他弁別し難い様な人の波だ」(小林の9)
「杭州」「満州の印象」他(小林秀雄『世界紀行文学全集』修道社 昭和46年)


確かに小林が憤るように「材料の不足は、支那人も日本人も同じ事」だろうし、日本人経営の「虹口の食い物屋などは、てんで商売というものをしていない」かも知れない。
だが、そこが中国であり商売をしているのが中国人であることを忘れてはいけない。だから、必ずしも「材料の不足は、支那人も日本人も同じ事」ではないだろう。

加えて彼らの商法では、二重帳簿に三重帳簿、裏帳簿のそのまた裏帳簿は常識中の常識ではないか。

サッカーでいうなら、アウェー中のアウェーでの商戦なのだ。「倭寇再来の意気」なんぞを鼻の先で笑い飛ばしてしまう商売が展開されていたに違いない。
おそらく「いやあ『倭寇再来の意気』には、とてもとても敵いませんよ」などと籾手でニヤケながら。ところが「汚い背広にゴム長靴、銜え煙草で」そっくり返っているから、見事に足元を掬われる。

やはり小林も日本人だった。
その慧眼を以ってしても、「倭寇再来の意気」だけでは突破できそうにない商売のカラクリを見抜くことは至難だったようだ。「倭寇再来の意気」も虚しいばかりにカラ回りしていたように思えて仕方がない。

当時の日本が掲げた「東亜新秩序」や「東洋平和」という崇高な理念を否定する心算は全くない。いや寧ろ高く称揚したい。
だが、その結末を顧みた時、そこに「倭寇再来の意気」を重ね合わせることはできないだろうか。ルーズヴェルト、スターリン、チャーチル、?介石に毛沢東・・・とどのつまり日本人の常識では到底思いつきそうにないカラクリに、日本と日本人は翻弄されてしまった。

そうに違いない。そうとでも看做さない限り、あの戦争の「起」から「承」「転」を経て「結」へと導かれた全過程は、到底考えられない。

小林は「南京行きはあまり気が進まなかった」。それというのも、「いろいろ話を聞いて、僕の見たいと思っているものが無さそうに感じたからだ」が、「行って見ると果たしてそうだった」。
上海から「南京までは汽車だと十二時間」。もちろん現在は高速鉄道を使えばアットいう間だ。経済至上社会は上海と南京の間を大幅に縮めたものではある。もっとも安全は保障できませんが。

「こちらに来てから時間の観念がまるで違って了った。こうも早く頭というものは順応するものかと呆れ」、新聞も読まず、「時々日を忘れているのに気が付く」ようになった小林は、長時間の汽車旅行でも「ぼんやり外を眺めてさえいれば少しも苦にならぬ」ようになっていた。「僕はどこまでも続く平凡な緑の平野を飽かず眺め」る。「クリークがあるらしく、白帆の行列が畠のなかを行く、水牛に乗った子供が行く」。

だが、ぼんやりしながらも考え続ける。
「行って見なければ、支那の広いのはわからぬと人に言われて、来てみて成る程広いとは思ったが、一体広い事が解るとはどういう意味なのか解らない」。
そこで「麗かな陽を浴び、小じんまりと静まり返った長崎」から船に乗り、揚子江に入った時の情景を思い出す。

「小雨の降る下を果てしなく広がり白く泡を吹いた泥の海を眺め、ははあ、これが揚子江という奴か、成る程なあ、と思ったが、何が成る程なのか解らなかった」。「どうも広い事が実地に解るということは、ただ何となくぼんやりすることに外ならないらしい、言葉を代えれば、理解を一時中止することに帰着するらしい」。

昭和13(1938)年4月、小林は南京に到着する。
かの「大虐殺事件」の発生からさほどの時間は経っていない。南京には「所謂難民区という特別の区劃は既にな」かった。
《QED》

(読者の声1)貴誌3958号「一読者氏」が書かれた(読者の声1)「日本の株式市場の乱高下に関しての対応策について」
の憂国の情が行間に溢れる論評を読ませていただきました。
このたびの日本の株式市場乱高下で欧米の機関投資家が大もうけをして日本の投資家が損をしていることをお嘆きです。
実際には欧米の機関投資家で日本株の取引で損をしたものもあり、日本人投資家で得をした人もいることであろう。
ではどうするかという観点からすると、二つのアプローチがある。
これは自由市場経済では当然のことでありほっとけばよいという考え方と、日本は金融投機を含む金融サービスの分野でのGDP 拡大を目指すべきであるという考えである。
後者のアプローチをとる場合、以下の二つのやり方がある。
1.日本の金融市場を封鎖して外国人および外国の金融機関の参入を排除したうえで国内の金融市場の拡大を図る。

2.現行の金融市場のシステムをほぼそのままにして日本は金融投機を含む金融サービスの分野でのGDP拡大を目指す。

前者の実行は不可能ではないがほぼ不可能である。どうやってやったらよいか私には見当もつかないから論じない。
後者を目指すなら、日本の機関投資および日本人の投機家が得をする投機を行うように技術水準を高めることが必要になる。
ただし「日本の機関投資」が何を指すかは定かではない。本社が日本にあることか、株主の日本人の割合が高いことか、従業員に日本人が多いことか、これは難しい問題である。
それはさておき、ではどうするのか、国立大学に金融工学の講座を開設し、私立大学には補助金を出して金融工学の講座を開設させて優秀な投機家を養成するのが一案である。
しかし、どうやってそこでの教育の質を担保するのか。優れたカリキュラムを作り上げ優秀な教師を確保することが必要になる。さらに卒業生が外国で就職したり、外資系の会社に就職しないようにするのかという選択がある。
日本人が外国で就職して金を稼いでも、日本人が稼ぐのなら国家が投資しても意義があるという考え方もある。留学生を受け入れるのかという問題もある。
これを国家プロジェクトやるには、予め以上のことを精査して結論をださなくてはならない。
さらに、リーマショック後、リーマンブラザーズの海外部門を高額で買収するような馬鹿な経営者が出てこないくなる方策も必要である。つまり優秀な金融投機会社の経営者の存在を担保することである。
一読者氏は「大企業から中堅の優良企業までが欧米金融筋の支配下に置かれる結果と相成り、今日に至っています。その代表格が『ソニー』でしょう」と書かれたが、ソニー株は今から50以上前から外国の投資家が約半分の株式を保有している。
「89年の暴騰から90年以降の暴落」とは関係ありません。近年のソニー株の暴落では外国人投資家も大損しています。
私が一番重要だと思うのは、国民全体が金融市場、投機、相場と政治・社会情勢との関係等を十分に理解して、個々の国民が馬鹿な投資をしないだけでなく、国の施策も正確に判断することができるようにすることである。そのためには、中学校、高等学校の教育課程にこれらを取り込むことが有効です。
日本人および日本国がだまし取られなくなればよいのであって、英国やアイスランドのように金融サービスとくに投機性の高い金融サービスがGDPの大きな割合になることは、そもそも日本の国柄に反すると考えます。
(ST生、千葉)


(宮崎正弘のコメント)まさに後節で説かれるように「日本の国柄に反する」のです。
日本の株式、債権ならびに外為市場が、外国人機関投資家とヘッジファンドの思うさま稼げるような仕組みになったのは、橋本政権下「ビッグバン」の受け入り以後ですが、その後、インサイダー取引規制強化、空売りへの厳重な規制など若干の規制強化がおこなわれても、外為レートと金利を攻められて、さらに日経平均先物取引での鞘稼ぎなど、ありとあらゆる隙を突いて、格好の博打場と化けてしまった。

いまの相場は米国の長期金利に為替が敏感に反応し、すなわち米国の長気金利上昇が円高にブレ、それが株安へ繋がるという乱高下、日本の急激な株安はアベノミクスの失敗ではないのです。
日本の市場を日本の証券会社や相場師がリードできないという状況は、まさに外交と防衛を日本独自で決断できない「半主権体制」と似ていませんか。

アベノミクスは次ぎに挑むのは、産業分野における成長ですが、あの諮問委員会にあつまった竹中、三木谷などの顔ぶれをみると、「国柄」を守る立場とは、正反対の立場の人ばかりですね。



(読者の声2)「世界ウイグル会議・ラビア・カーディル総裁来日」「「日本・ウイグル 自由のための連帯フォーラム」のお知らせです。
ウイグル人の身に何が起きているのか?
私たちは、メディアを通じて東トルキスタン地域(現・中国の新疆ウイグル自治区)の情報に接しています。最近も、事件のニュースが伝えられました。しかし、現地で何が起きているのか、事件の背景はどういうことか、をどれほど知っていると言えるでしょうか?
いわゆる「ウイグル問題」を話題にする人々であっても、いま、まさにウイグル人の身に何が起きているか、よく知っているとは言い難いのではないでしょうか。
そこで、当実行委員会は、世界ウイグル会議(WUC)の総裁で、「ウイグルの母」と呼ばれる人権活動家ラビア・カーディルさんと、同会議のリーダーの皆さんをお招きし、日本の5都市(東京・札幌・大阪・名古屋・那覇)にて、講演とセッションを行ない、多くの人々に直接、ウイグルの現状について知っていただく場を企画いたしました。この機会にぜひとも、当事者の生の声に耳を傾け、ウイグル問題について共に考えてみませんか。
記憶
「世界ウイグル会議・ラビア・カーディル総裁来日 「日本・ウイグル 自由のための連帯フォーラム」in 東京」
とき 6月21日(金)11時00分 開場
第一部12時00分~14時00分
第二部14時30分~16時30分
ところ 星陵会館ホール(東京都千代田区永田町2-16-2)

内容 <特別講演>ウイグルの母 ラビア・カーディルが語る
「いまこそ日本人に知ってほしいウイグルの苦難と慟哭、望む未来」
<セッション>世界ウイグル会議のリーダーと日本の論客が語り合う
日本とウイグル、自由のため、いかに連携するか?

国会議員の先生方も多数登壇予定です。平沼赳夫(衆議院議員)、西村眞悟(衆議院議員)、渡辺 周(衆議院議員)、三宅 博(衆議院議員)、山田賢司(衆議院議員)ほか
入場料 当日券 1,500円、前売券 1,300円(前売り券ご希望の方は、下記フォームよりお申し込みください。日本・ウイグル 自由のための連帯フォーラム 実行委員会事務局(日本ウイグル協会内)


主催:日本・ウイグル 自由のための連帯フォーラム実行委員会(日本ウイグル協会内)





(読者の声3)貴誌の投書欄で、「ちゅん氏」と「菊千代氏」が、佐藤守元空将の2000年に中国社会科学院で行われた「日中安保対話」の初会合での一喝、「大東亜戦争で日本は中国に負けていない。そこまで言うならもう一度戦争をして決着をつけるか!」を称賛される所論に私も痛快さを覚えます。
しかし、同時に危うさを感じざるをえません。
その発言自体に対してではなく、この発言を一人歩きさせることに対してです。以前、ある日本の大学に研究員として来ていた中国人社会学者の講演を聴きに行ったとき、講演の最初に当日の演題とは全く関係がないにも関わらず、「正しい歴史認識を持つことが大切である」といったので、「あなたも学者なら中国政府の言う正しい歴史認識が事実に基づかないことを知っているであろう」
といいました。
その中国人社会学者は、即話題を変え当日の演題の講演をはじめた。正しい歴史認識が日本人に対して話すときの枕詞として言っただけだったのでしょう。講演の主催者も聴衆の多くも多少左がかった人たちであったが、そのまま平穏にすすんでいきました。
それに反して、数年前反日デモが盛んに行われたころ中国で、日本と戦争をしたらどうなるかという議論が路上で始まったときそのうちの一人が日本が勝つといったところ袋叩き似合って撲殺されたというニュースがありました。
退役空将であり著名な軍事評論家である佐藤氏を日中安保対話の参加者が撲殺するはずはありません。
そんなことを中国政府が許容するはずがないと佐藤元空将をはじめ参加者はみんな知っていたはずです。
こういう安全地帯での議論を、日本人旅行者や着任したばかりの商社マン(ウーマン)が相手をわきまえずに行ったら、大きな危険性があります。さらに駐北京日本大使や外務大臣や防衛大臣がおこなったら別の意味で大変危険です。
こういう状況判断力を多くの国民、就中、宮崎さんのメルマガの読者がもつことは重要です。私が思い付くのは、日清戦争後の講和会議のことです。
当時、日本政府首脳は領土割譲を求めないつもりでしたが、新聞が国民を煽りにあおったため、領土割譲がなければ、暴動が起きかねない情勢であったので、ついに遼東半島の割譲を求め、その結果が三国干渉となり、旅順にロシアの軍事基地ができました。
旅順にロシアの軍事基地がなかったら、日露戦争は日本の楽勝で、何万人もの日本人将兵の命を失わずに済んだはずです。日本政府が当初領土割譲を求めない方針であった理由は簡単です。
(1)日本領とすれば、日本政府に治安維持の責任があり、そのためには莫大な費用を要する。
(2)領土割譲を得たとしても、儲かるような土地は割譲してくれない。伊藤博文に杉山茂丸が領土割譲を求めないように談判したところ、そのように答えたそうです。
こういった的確な判断力をひろく一般大衆がもつことが、議会制民主主義国では必須です。
(ST生、千葉)



(読者の声4)「アベノミクス第3の矢 成長戦略の論点整理 -目的明確化と本質論議を図れ」
政府は14日、アベノミクス第3の矢となる「成長戦略」と経済財政運営の方向性を示す「骨太方針」を併せて閣議決定した。
◆ヘッジファンドの売り浴びせ◆
先月末から、これまでのアベノミクスへの肯定的評価に対し逆転現象が続いていたマーケットは、規制改革を主な内容とした成長戦略の第3弾を発表した5日には更なる日本株売り浴びせと円高で「祝福」し、14日時点で戻していない。
国際経済にも影響され、また外国人投資家が先導する言わば鉄火場であるマーケットの動きに一喜一憂する必要はないが、政府が7月の参院選を前に利益団体の票欲しさに、小出し・曖昧・先送り戦略を取ったところを、ヘッジファンドに狙い撃ちされた形だ。
規制改革の内容は、医薬品のネット販売の原則解禁や、投資減税、国家戦略特区を創設し、国際的なビジネス環境を整備するといったものだ。
(〔情報BOX〕日本再興戦略の主なポイント2013年06月14日 09:44 JST ロイター http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0EP2RB20130614

5日の首相のスピーチでは、その筆頭が医薬品のネット販売の原則解禁であったが、元よりこれにより消費者が2倍薬を飲むわけではなく、これが目玉として取り上げられた事自体、他の規制緩和策が具体性に欠ける証左となった。
また労働規制の緩和として金銭補償による解雇、医療分野では混合診療の原則解禁、農業では株式会社の農地取得、税制では法人実効税率引き下げ等が見送られた。
秋には法案化に向け、投資減税の中身や規制緩和の具体策を詰めるという事で、それに備え早くもマスコミにより「既得権益者 VS 規制緩和派」の戦い図式が作られつつある。恐らく、ヘッジファンドは次の大勝負を参院選終了後と見込み、その時に強烈な売り浴びせで安倍政権に規制緩和の積み増しを要求してくるだろう。
それにビックリした安倍政権が、竹中平蔵氏等の主導で規制緩和を一気に進めるシナリオになりそうである。
しかし規制緩和は必要であるが、単純に規制撤廃をしたり、逆に既得権益者と妥協し足して2で割る方法では真の経済成長には結びつかない。

◆規制緩和の条件◆
前述のように、「解雇の金銭解決ルール」については、サラリーマンには刺激が強過ぎるのか盛り込まれなかった。
労働政策の改革は、衰退分野から成長分野への労働力のスムーズな移動が真の目的で在るべきである。もし単に雇用者側が首切りをし易くするのを目的とするなら、却ってサラリーマンを委縮させ消費を冷え込ませるだけに終わるだろう。
これまでの日本の終身雇用制に対し解雇規制緩和の北風を吹かせるのであれば、その前に(少なくとも同時に)太陽として単に職業訓練の充実等の従来政策の延長に留まらず、雇用拡大に向けドラスティックに「同一労働同一賃金」、「給付付き税額控除」、「恒久的雇用減税」等の導入でカウンターを打ちながら徐々に雇用流動化を図るべきである。
減税政策について、外国人投資家や海外メディアが、分かり易い法人実効税率引き下げを要求してくるのは、ある意味当然だ。
しかし、最も景気浮揚効果があるのは、法人実効税率引き下げでもなく、投資減税でもなく、恒久的雇用減税である。

一定条件下で比較的低賃金でも沢山雇っていた方が税金が安ければ、企業はその方向に動き、中低所得者は高所得者より消費性向が高く、雇用のパイが広がれば国内消費に資するだろう。


なお、そうすれば運用次第で如何様にもなりかねない新設の「限定正社員」制度や、一部の超大企業社員や公務員以外は恩恵に預かれそうもない浮世離れした「3年間抱っこし放題」の育児休暇のような事は、そもそも不要になる。

若者、老人、女性の就業率と再就職の機会が高まれば、生活保護、年金、子育て、少子化等多くの問題が改善され、財政赤字を圧縮するだろう。
医療分野の改革として、混合診療の原則解禁も盛り込まれなかった。
患者にとって、混合診療により治療の選択肢が増える事は、元より望ましい事である。
一方、それにより公的健康保険制度が骨抜きになる事が懸念され、医師会等も反対している。しかし、これは一定の新治療方法が健康保険対象に迅速にかつ強制的に取り入れられる仕組み等があれば、解決する話だ。
これらの具体的要件や手続きを透明に決める仕組みを、中央社会保険医療協議会の中あるいは外に作るべきである。

株式会社による農地所有も盛り込まれなかった。
投機や安易な撤退を生まないのであれば、株式会社が農地所有をする事に本質的な問題はない。弊害を防ぐ規制やペナルティー或いは国籍条項を具体化し、是非を問うべきである。
また、本来の目的は、株式会社が農業経営に意欲を持って大規模に安定的に参画出来る事なのであるから、もし本当に機能するのであれば、政府が5月に発表した公的管理組合による農地の集約貸借でも不足はないが、それを担保する仕組みが必要である。

上記のように、規制緩和を行うに当たっての原則は大凡以下のようでなければならないだろう。
●規制緩和の目的と効果を明確にする事
●規制緩和のデメリットやインパクトに対し、それを防ぐカウンターの政策を打つ事
●これらにより、規制墨守でも、単純規制撤廃でも、足して2で割る中途半端なものでもなく、人体における交感神経と副交感神経の様に、互いに牽制し合いながら機能する構造的仕組みを作り上げる事
●既得権者が退場する代わりに、「新既得権者」を発生させない工夫
●国民生活のナショナル・ミニマムの確保

◆官民ファンドの条件◆
一方、規制緩和と並んで、特定の成長分野に国が手助けを行う「ターゲティングポリシー」がある。
その端的な形は、特定分野推進への国家意思と民間の目利き能力を融合させた官民ファンドである。
しかし、各省庁は早くも官民ファンドを乱立させ、天下りの隠れ蓑や隠し金庫に使おうという意図も見え隠れする。

官民ファンドについては、下記の事が原則でなければならない。
●官の出資は49%以下とし、民の主体性・目利き能力が優先されなければならない。
●民間を等分出資とせず、筆頭出資社を幹事社として、リーダーシップを取らせる事
●官民ファンド毎の予算・決算の国会報告・承認事項化による透明性の確保

戦略とは、勝つための、差別化され体系化された、実行への決然とした意志を伴う、包括的シナリオ・概略作戦書である。
それに照らせば、アベノミクスの成長戦略は、戦略になり切っていない。
成長戦略が体をなしていなければ、第1の矢である「黒田バズーカ砲」の金融緩和で溢れた金は行き場を失い年率2%インフレを起こさず投機に回る。
そして、ヘッジファンドに蹂躙され株式と円は乱高下し、日本人の金が吸い取られるだけに終わるだろう。
それを防ぎ真の日本再興を成し遂げるのは、突き詰めて言えば私心を去った政治家の志と、物事の本質を見抜き虚妄に惑わされずに発せられる国民の声以外にはない。
(佐藤鴻全、千葉)
本日の三島由紀夫研究会「公開講座」
三島由紀夫研究会、「公開講座」は今晩です!
日時: 6月17日(月)午後六時半 (18:00開場)
場所: アルカディア市ヶ谷
http://www.jstc.jp/map/kenshu-mapARCADIA.html
講師: 門田隆将氏(かどたりゅうしょう、ジャーナリスト)
http://kadotaryusho.com/profile/index.html
演題: 「命がけで闘った日本人」
会費: 会員 1千円(一般 2千円)
なお修了後、講師を囲んでの懇親会を予定しております。

(講師プロフィール)昭和33年生まれ。高知県出身。中央大法学部政治学科卒。新潮社勤務を経てジャーナリストとして活躍中。主な著作 「裁判官が日本を亡ぼす」(新潮社)、なぜ君は絶望と闘えたのかー本村洋の3300日」(新潮社)、「この命、義に捧ぐー台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」(集英社)、「蒼海に消ゆー祖国アメリカに特攻した海軍少尉『松藤大治』の生涯(集英社)、「太平洋戦争 最後の証言」第1部~第3部(小学館)その他多数。
宮崎正弘の最新刊
『2013年後期の中国を予測する 習近平の断末魔の叫びが聞こえる』
(石平氏との対談 ワック 940円)
http://www.amazon.co.jp/dp/489831676X/
『中国の「反日」で日本はよくなる』(徳間書店、1000円 税込み)
http://www.amazon.co.jp/dp/419863579X/
『世界は金本位制に向かっている』(扶桑社新書 720円+税)
http://www.amazon.co.jp/dp/4594067778/
♪♪
『中国を動かす百人』(双葉社 1575円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4575304875/
『習近平が仕掛ける尖閣戦争』(並木書房、232p、並製。定価1575円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4890632999/

<宮崎正弘のロングセラーズ>
『現代中国 国盗り物語―――かくして反日は続く』(小学館101新書、定価756円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4098251450/
『中国権力闘争 共産党三大派閥抗争のいま』(文芸社、1680円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4286127214/
『中国が世界経済を破綻させる』(清流出版、1680円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4860293851/
『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4103290617/

<宮崎正弘の対談シリーズ>
『2013年の中国を予測する』(石平氏との対談第三弾 ワック、980円)
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)
『増長し無限に乱れる欲望大国、中国のいま』(石平氏との第二弾 ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談シリーズ第壱弾。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
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