【湯浅博の世界読解】「強者の恫喝」印と回避 中国、瀬戸際外交の極意 | 日本のお姉さん

【湯浅博の世界読解】「強者の恫喝」印と回避 中国、瀬戸際外交の極意

【湯浅博の世界読解】
「強者の恫喝」印と回避 中国、瀬戸際外交の極意

2013.5.22 12:09 (1/3ページ)[中国]

北朝鮮が国際社会からカネやコメをせしめる唯一の方法は、おなじみ瀬戸際外交である。初めに緊張を高めて、その緩和を代償として目的のものをいただく手法だ。

もっとも、瀬戸際外交の極意は北に限らず、全体主義の父である旧ソ連があみだし、北の兄貴分たる中国も実はいまもやっている。

違いは北が「弱者の恫喝(どうかつ)」であるのに、中国のそれは「強者の恫喝」であるから始末が悪い。


中国が南シナ海と東シナ海の島嶼(とうしょ)分捕りでも、瀬戸際の脅しを繰り返すことをわれら日本人は知っている。

尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺でも領海侵犯し、背後に海軍艦船を控えさせる。

ところが、中国は早くから陸の国境でも同じようなことをやってきた。


チベット地域やウイグル地域を分捕り、「核心的利益」との名目を掲げた。


ニューデリー政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授が米紙ウォールストリート・ジャーナルに寄せた論稿によると、首脳が訪印するたびに、強硬策をとってまず、緊張を高めるところから始まるという。


胡錦濤国家主席が2006年に訪印する前には、アルナチャルプラデシュ州に対する領土要求が出され、温家宝首相の2010年の訪印前には、カシミールでインドの主権が脅かされた。

今回の李克強首相のインド訪問前の4月中旬、中国軍が突如、実効支配線からインド側に10キロ以上も侵入した。

身勝手で野卑な恫喝外交である。


ところが、現在のシン政権は政治基盤が弱いうえに、危機対応が甘い。
チェラニー教授によると、インドは3年前から国境警備を軍から警察に移し、国境を守る意思の低下というスキを中国に与えていた。

教授は「インド政府は兵力を増強せず、侵略者に報償を与えてしまった」と嘆く。


李首相の訪問を前に、インドは中国軍の撤退の見返りに監視所を撤去し、塹壕(ざんごう)など防御要塞を破壊することに合意してしまった。

大坂冬の陣(1614年)後に、徳川方が大坂城の内堀を埋めたようなものだ。

当面の危機回避のために、中国軍がいつでも攻撃できる状態にしてしまった。


シン首相が李首相を迎えた20日の会談で、中国軍の越境行為に不満を述べても後の祭りであった。

李首相がカシミール地方での国境防衛協力協定への調印を持ちかけ、シン首相は議題から外すのが精いっぱいだった。

中国は圧力をかけた相手国がひるみ、国際社会が反応を示さなければ、なお理不尽なやり方で自国の利益を拡大しようとする。
19世紀帝国主義の行動様式に一致する。


日本にとり重要なのは、北のロシアと南のインドという大陸国家との提携である。

この10年、中国が心おきなく海軍力を増強してこられたのは、これら南北の大陸国家からの脅威が減ってきたからである。

安倍晋三首相が、ロシアのプーチン大統領との間で外相と防衛相による「2プラス2」会議を創設し、インドとも現在の次官級「2プラス2」を閣僚級に昇格すれば、中国は3正面の敵対国と向き合わなければならなくなる。


国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)が21日に発表した、インドのビベカナンダ国際財団との共同研究報告「日印の戦略的パートナーシップと協力の枠組み」は、膨張する中国を前に、日印が防衛協力に踏み出すように叱咤(しった)している。

特に、両国が米国や他のアジア諸国と協力して「アジア協調」体制を築くべきだとの提唱は、対中政策のためには必須である。

日本が尖閣諸島を守ることができなければ、沖縄の領有までもが危うくなる。(東京特派員)http://sankei.jp.msn.com/world/news/130522/chn13052212130001-n1.htm