もし鉄道会社から賠償請求されたら、
鉄道の「人身事故」で賠償請求 遺族が取りうる対応策とは?
2013年4月13日(土) 15時30分
首都圏のどこかの鉄道で、毎日のように起きている鉄道自殺による「人身事故」。乗客にとっては電車遅延をひきおこす困った出来事ともいえるが、亡くなった人の家族にしてみれば、肉親を突然失う悲しみは計り知れないだろう。しかし、現実には悲しんでばかりもいられない。関係先への連絡や葬儀の手配に追われるだけでなく、鉄道会社から損害賠償を請求される可能性があるからだ。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、子どもが電車にはねられて亡くなった後に、鉄道会社から損害賠償を請求された母親の相談が寄せられている。会社からの請求額は90万。「とても払えない」と伝えたところ、50万に減額されたというが、精神的なショックがさめやらぬなか、戸惑いを隠し切れない様子だ。
このように、もし万が一、家族の誰かが鉄道で自殺をはかった結果、鉄道会社から損害賠償を請求された場合、何かとりうる対応策はあるのだろうか。佐藤健宗弁護士に聞いた。
●鉄道会社からの賠償請求は常に行われるわけではない
「人身事故とは、正しくは『鉄道人身障害事故』と言い、省令である鉄道事故等報告規則に定めがあります」
このように述べたうえで、佐藤弁護士は、次のように説明する。
「人身事故のほとんどは自殺(最近は自死という表現もよく見るようになりました)ですが、自殺以外でも、誤って駅のホームから転落して列車と接触して死傷したものも含まれます」
では、人身事故が起きると、どうなるのだろう。
「実際に人身事故が発生した場合、鉄道会社から被害の賠償請求が行われることがあります。その内容は、列車の修繕費、振替代替輸送の費用、遅延により払い戻された特急料金、職員への手当などです。
鉄道会社の被害額がどの程度になるかは人身事故が与えた影響によりかなり差が出てくると思います。
ただし鉄道会社からの賠償請求は常に行われているとは限りません。また民事訴訟になることはほとんどないようです(かつてメディアにも協力してもらって、大きな裁判所の民事訟廷の受付で調べてみたことがあります)」
●対応策として考えられる「相続放棄」
もし鉄道会社から賠償請求されたら、何か対応策はあるのだろうか。
「鉄道会社から賠償請求があった場合、対応策として相続放棄が考えられます」
相続放棄とは、家庭裁判所に申請することで、すべての借金や財産の相続を放棄する手続きのことだ。もし賠償額が資産を上回るような場合には「相続放棄」したほうがいいことになるが、相続開始および自分が相続人になったことを知ったときから、「3か月以内」に手続きを行わないといけないので、注意が必要だ。
さらに、佐藤弁護士よると、「人身事故で亡くなった方の名義の不動産などがある場合など、相続放棄ができない場合もあります」ということだ。「その際には、鉄道会社と誠意をもって交渉する必要があります」。
自分の家族が人身事故の当事者になる可能性なんて、あらかじめ想像したくもないはずだ。ここでは「もし万が一」ということで対応策を考えてみたが、根本的には、そのような事故が極力起こらないような方策が求められているといえるだろう。
佐藤健宗(さとう・たけむね)弁護士…関西大学社会安全学部客員教授、TASK(鉄道安全推進会議)事務局長、国土交通省運輸安全委員会業務改善有識者会議委員
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/13/106316.html
道ばたに捨てられた「中古家具」や「電気製品」 勝手に持ち帰っても大丈夫か
2013年4月16日(火) 07時30分
道ばたや空き地に捨てられた中古家具や電気製品の中には、まだまだ長く使えるものがあるかもしれない。そんな「粗大ごみ」を地元住民がマッピングして、ほかの人が回収できるようにするサイトを、カナダの会社が開設した。
このサイト「Trashswag」は、人々がゴミを有効に活用するための情報共有システムだ。サイトには、カナダ最大の都市・トロントの地図が設置され、道ばたやゴミ置き場に捨てられた家具や木材の情報が写真つきで表示されている。このような粗大ゴミのほとんどは、持ち主が所有権を放棄していると言えるだろう。拾って利用しても問題にならない気もするし、エコという点で望ましいと思われる。
日本でも、資源ごみの日に回収場所に置いてあったマンガを持ち帰ったなんて話も耳にする。では、日本で、道ばたや空き地に捨てられている家電製品や中古家具を勝手に持ち帰った場合、法的に問題はないのだろうか。また、持ち帰ったあとに、元の持ち主から「返せ」と言われたらどうなるのだろうか。梶山正三弁護士に聞いた。
●所有者が「所有権を放棄」した物は、「無主物」となる
「海に棲む魚など、本来所有者が存在しない物や、もともと所有者がいたが、その所有者が所有権を放棄した物は、『無主物』と呼ばれます。このような無主物は、誰かが所有の意思を持ってそれを自己の占有(支配)の下におけば、所有権を取得することができます(民法239条1項)」
では、道ばたに長期間放置されていた家具や家電製品、または、町内のゴミ捨て場に長期間放置されていた自転車などは『無主物』として、第三者が持ち去っても問題ないのだろうか。
「放置自転車については、過去に占有離脱物横領(刑法254条)として送検された事例があります。つまり、無主物と認められない場合があるということです。
また、一見、所有権が放棄されたように見えるが、所有者の意思としては『放棄していなかった』という場合、所有者からの返還請求に応じなければなりません。
ただ、仮に所有者がそういう意思だったとしても、客観的な状況から所有権放棄と信じることに合理的な理由があれば、占有離脱物横領の故意がないとして犯罪にはなりません」
●市町村のゴミ収集場に置かれた粗大ゴミはどうか?
このように、道ばたに放置されているからといって、必ずしも「無主物」とは言い切れないようだ。では、自治体のゴミ収集場に置かれた粗大ゴミはどうだろう。
「市町村が、空き缶・空き瓶・古紙などをリサイクル目的で分別収集場所を特定して集めている場合は、市町村が占有している状況が明らかです。したがって、そこから無断で持ち出した物については、民事的には市町村に対する返還義務があります。また、刑事的には窃盗罪(刑法235条)になります」
梶山 正三(かじやま・しょうぞう)弁護士…東京都公害研究所職員から転身。関弁連公害環境委員会の委員長を6年。宇都宮大、滋賀大、東大、埼玉大等の非常勤講師。2000年~現在、ゴミ弁連(闘う住民と共にゴミ問題の解決を目指す弁護士連絡会)会長。
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/16/106420.html
「出生前診断」で染色体異常が発見されたら? 人工中絶は法的に問題ないか
2013年4月16日(火) 06時30分
妊婦の血液を調べることで、胎児に染色体異常があるかどうかを知ることができる新型「出生前診断」が、今年4月1日より昭和大学病院などではじまった。この新しい診断方法は、従来行われてきた羊水検査よりも、妊婦の身体に負担が少ないというメリットがあるという。一方で、「人工妊娠中絶の増加につながるのではないか」という反対の声もあがっている。
染色体異常の一つとして、ダウン症が知られているが、その発症確率は、妊娠した母親の年齢との相関関係があると言われ、女性の年齢とともにリスクも上がるという。そのため、高齢出産に不安を感じる女性を中心に、新しい診断方法が広がっていくとみられているが、異常が見つかった場合には、妊婦が人工中絶を選択することもありうるのが現実だ。
では、そもそも、人工妊娠中絶は法的にどう解釈されているのだろうか。刑法には「堕胎罪」についての規定(212条)があり、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する」と書かれている。はたして、「染色体に異常があった胎児」を法的に中絶してよいという根拠はあるのだろうか。東川昇弁護士に聞いた。
●母体保護法の拡張的運用で「人工中絶」が広がった
まず、東川弁護士が言及したのは、人工妊娠中絶の条件を定めた母体保護法だ。
「母体保護法14条1項1号は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある』場合には、指定医師が、『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』と定めています。これが拡張的に運用されてきたために、人工妊娠中絶の件数は飛躍的に増加してきたといえます」
このように述べたうえで、次のように続ける。
「この条文の定める要件の有無の判断は、人工妊娠中絶をなしうる指定医師に委ねられています。そのため、堕胎罪の取締りは実際にはほとんど行われないようになり、その結果、現在のわが国では、堕胎罪は事実上『非犯罪』化されたともいいうる状況にあります」
つまり、母体保護法の拡張的な運用により、刑法の「堕胎罪」は有名無実化しているといえるのだ。
「このような状況において、ダウン症胎児の堕胎が、法的承認なく、当たり前のように行われてきました。そこに今回の『新出生前診断』が登場したということです」
●「新出生前診断」にもとづく人工中絶に対する懸念
日本産科婦人科学会は3月9日、妊婦の血液で胎児のダウン症など3種類の染色体異常を高い精度で調べる新しい出生前診断『母体血胎児染色体検査』の実施指針を理事会で決定。4月1日から、昭和大学病院などで診断が始まった。
このような動きについて、東川弁護士は「強く異議を唱えたい」と口にする。「ダウン症児などは、この世に貢献できない悪しき存在として、その生命を抹殺してもよいというのでしょうか。健常者のおごり高ぶった姿勢の現れといえるでしょう」
出生前診断にもとづく人工妊娠中絶は「生命の選別」につながるのではないかと、倫理的に懸念する声があがっているが、法的な観点からも疑念があるといえるだろう。そもそも人工中絶をどのように評価すべきなのか、立ち止まって議論すべき時期にきているのかもしれない。
東川昇(ひがしかわ・のぼる)弁護士…生まれも育ちも大阪下町のど根性!で、トラブル解決に向けて体当たりします。
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/16/106417.html
2013年4月13日(土) 15時30分
首都圏のどこかの鉄道で、毎日のように起きている鉄道自殺による「人身事故」。乗客にとっては電車遅延をひきおこす困った出来事ともいえるが、亡くなった人の家族にしてみれば、肉親を突然失う悲しみは計り知れないだろう。しかし、現実には悲しんでばかりもいられない。関係先への連絡や葬儀の手配に追われるだけでなく、鉄道会社から損害賠償を請求される可能性があるからだ。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には、子どもが電車にはねられて亡くなった後に、鉄道会社から損害賠償を請求された母親の相談が寄せられている。会社からの請求額は90万。「とても払えない」と伝えたところ、50万に減額されたというが、精神的なショックがさめやらぬなか、戸惑いを隠し切れない様子だ。
このように、もし万が一、家族の誰かが鉄道で自殺をはかった結果、鉄道会社から損害賠償を請求された場合、何かとりうる対応策はあるのだろうか。佐藤健宗弁護士に聞いた。
●鉄道会社からの賠償請求は常に行われるわけではない
「人身事故とは、正しくは『鉄道人身障害事故』と言い、省令である鉄道事故等報告規則に定めがあります」
このように述べたうえで、佐藤弁護士は、次のように説明する。
「人身事故のほとんどは自殺(最近は自死という表現もよく見るようになりました)ですが、自殺以外でも、誤って駅のホームから転落して列車と接触して死傷したものも含まれます」
では、人身事故が起きると、どうなるのだろう。
「実際に人身事故が発生した場合、鉄道会社から被害の賠償請求が行われることがあります。その内容は、列車の修繕費、振替代替輸送の費用、遅延により払い戻された特急料金、職員への手当などです。
鉄道会社の被害額がどの程度になるかは人身事故が与えた影響によりかなり差が出てくると思います。
ただし鉄道会社からの賠償請求は常に行われているとは限りません。また民事訴訟になることはほとんどないようです(かつてメディアにも協力してもらって、大きな裁判所の民事訟廷の受付で調べてみたことがあります)」
●対応策として考えられる「相続放棄」
もし鉄道会社から賠償請求されたら、何か対応策はあるのだろうか。
「鉄道会社から賠償請求があった場合、対応策として相続放棄が考えられます」
相続放棄とは、家庭裁判所に申請することで、すべての借金や財産の相続を放棄する手続きのことだ。もし賠償額が資産を上回るような場合には「相続放棄」したほうがいいことになるが、相続開始および自分が相続人になったことを知ったときから、「3か月以内」に手続きを行わないといけないので、注意が必要だ。
さらに、佐藤弁護士よると、「人身事故で亡くなった方の名義の不動産などがある場合など、相続放棄ができない場合もあります」ということだ。「その際には、鉄道会社と誠意をもって交渉する必要があります」。
自分の家族が人身事故の当事者になる可能性なんて、あらかじめ想像したくもないはずだ。ここでは「もし万が一」ということで対応策を考えてみたが、根本的には、そのような事故が極力起こらないような方策が求められているといえるだろう。
佐藤健宗(さとう・たけむね)弁護士…関西大学社会安全学部客員教授、TASK(鉄道安全推進会議)事務局長、国土交通省運輸安全委員会業務改善有識者会議委員
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/13/106316.html
道ばたに捨てられた「中古家具」や「電気製品」 勝手に持ち帰っても大丈夫か
2013年4月16日(火) 07時30分
道ばたや空き地に捨てられた中古家具や電気製品の中には、まだまだ長く使えるものがあるかもしれない。そんな「粗大ごみ」を地元住民がマッピングして、ほかの人が回収できるようにするサイトを、カナダの会社が開設した。
このサイト「Trashswag」は、人々がゴミを有効に活用するための情報共有システムだ。サイトには、カナダ最大の都市・トロントの地図が設置され、道ばたやゴミ置き場に捨てられた家具や木材の情報が写真つきで表示されている。このような粗大ゴミのほとんどは、持ち主が所有権を放棄していると言えるだろう。拾って利用しても問題にならない気もするし、エコという点で望ましいと思われる。
日本でも、資源ごみの日に回収場所に置いてあったマンガを持ち帰ったなんて話も耳にする。では、日本で、道ばたや空き地に捨てられている家電製品や中古家具を勝手に持ち帰った場合、法的に問題はないのだろうか。また、持ち帰ったあとに、元の持ち主から「返せ」と言われたらどうなるのだろうか。梶山正三弁護士に聞いた。
●所有者が「所有権を放棄」した物は、「無主物」となる
「海に棲む魚など、本来所有者が存在しない物や、もともと所有者がいたが、その所有者が所有権を放棄した物は、『無主物』と呼ばれます。このような無主物は、誰かが所有の意思を持ってそれを自己の占有(支配)の下におけば、所有権を取得することができます(民法239条1項)」
では、道ばたに長期間放置されていた家具や家電製品、または、町内のゴミ捨て場に長期間放置されていた自転車などは『無主物』として、第三者が持ち去っても問題ないのだろうか。
「放置自転車については、過去に占有離脱物横領(刑法254条)として送検された事例があります。つまり、無主物と認められない場合があるということです。
また、一見、所有権が放棄されたように見えるが、所有者の意思としては『放棄していなかった』という場合、所有者からの返還請求に応じなければなりません。
ただ、仮に所有者がそういう意思だったとしても、客観的な状況から所有権放棄と信じることに合理的な理由があれば、占有離脱物横領の故意がないとして犯罪にはなりません」
●市町村のゴミ収集場に置かれた粗大ゴミはどうか?
このように、道ばたに放置されているからといって、必ずしも「無主物」とは言い切れないようだ。では、自治体のゴミ収集場に置かれた粗大ゴミはどうだろう。
「市町村が、空き缶・空き瓶・古紙などをリサイクル目的で分別収集場所を特定して集めている場合は、市町村が占有している状況が明らかです。したがって、そこから無断で持ち出した物については、民事的には市町村に対する返還義務があります。また、刑事的には窃盗罪(刑法235条)になります」
梶山 正三(かじやま・しょうぞう)弁護士…東京都公害研究所職員から転身。関弁連公害環境委員会の委員長を6年。宇都宮大、滋賀大、東大、埼玉大等の非常勤講師。2000年~現在、ゴミ弁連(闘う住民と共にゴミ問題の解決を目指す弁護士連絡会)会長。
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/16/106420.html
「出生前診断」で染色体異常が発見されたら? 人工中絶は法的に問題ないか
2013年4月16日(火) 06時30分
妊婦の血液を調べることで、胎児に染色体異常があるかどうかを知ることができる新型「出生前診断」が、今年4月1日より昭和大学病院などではじまった。この新しい診断方法は、従来行われてきた羊水検査よりも、妊婦の身体に負担が少ないというメリットがあるという。一方で、「人工妊娠中絶の増加につながるのではないか」という反対の声もあがっている。
染色体異常の一つとして、ダウン症が知られているが、その発症確率は、妊娠した母親の年齢との相関関係があると言われ、女性の年齢とともにリスクも上がるという。そのため、高齢出産に不安を感じる女性を中心に、新しい診断方法が広がっていくとみられているが、異常が見つかった場合には、妊婦が人工中絶を選択することもありうるのが現実だ。
では、そもそも、人工妊娠中絶は法的にどう解釈されているのだろうか。刑法には「堕胎罪」についての規定(212条)があり、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する」と書かれている。はたして、「染色体に異常があった胎児」を法的に中絶してよいという根拠はあるのだろうか。東川昇弁護士に聞いた。
●母体保護法の拡張的運用で「人工中絶」が広がった
まず、東川弁護士が言及したのは、人工妊娠中絶の条件を定めた母体保護法だ。
「母体保護法14条1項1号は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある』場合には、指定医師が、『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』と定めています。これが拡張的に運用されてきたために、人工妊娠中絶の件数は飛躍的に増加してきたといえます」
このように述べたうえで、次のように続ける。
「この条文の定める要件の有無の判断は、人工妊娠中絶をなしうる指定医師に委ねられています。そのため、堕胎罪の取締りは実際にはほとんど行われないようになり、その結果、現在のわが国では、堕胎罪は事実上『非犯罪』化されたともいいうる状況にあります」
つまり、母体保護法の拡張的な運用により、刑法の「堕胎罪」は有名無実化しているといえるのだ。
「このような状況において、ダウン症胎児の堕胎が、法的承認なく、当たり前のように行われてきました。そこに今回の『新出生前診断』が登場したということです」
●「新出生前診断」にもとづく人工中絶に対する懸念
日本産科婦人科学会は3月9日、妊婦の血液で胎児のダウン症など3種類の染色体異常を高い精度で調べる新しい出生前診断『母体血胎児染色体検査』の実施指針を理事会で決定。4月1日から、昭和大学病院などで診断が始まった。
このような動きについて、東川弁護士は「強く異議を唱えたい」と口にする。「ダウン症児などは、この世に貢献できない悪しき存在として、その生命を抹殺してもよいというのでしょうか。健常者のおごり高ぶった姿勢の現れといえるでしょう」
出生前診断にもとづく人工妊娠中絶は「生命の選別」につながるのではないかと、倫理的に懸念する声があがっているが、法的な観点からも疑念があるといえるだろう。そもそも人工中絶をどのように評価すべきなのか、立ち止まって議論すべき時期にきているのかもしれない。
東川昇(ひがしかわ・のぼる)弁護士…生まれも育ちも大阪下町のど根性!で、トラブル解決に向けて体当たりします。
《弁護士ドットコム トピックス編集部
http://www.rbbtoday.com/article/2013/04/16/106417.html