投資家が円のポジションを維持すると
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25年(2013)4月16日(火曜日)
通巻第3925号
平成25年(2013)4月16日(火曜日)
通巻第3925号
ソロスの「円安は雪崩となる」という予言をどう読むか?
円安 → 金利高 → 株安の流れが形成される可能性
***************************
円安 → 金利高 → 株安の流れが形成される可能性
***************************
ジョージ・ソロスが連続的に円安への警告発言を続けている。
4月10日、中国海南島で開催されたボーアオ経済会議で講演したソロスは、日銀の「異次元」的なデフレ克服、インフレターゲット2%という日本の大胆な金融緩和に言及し、「リスクの高い実践だ」と批判した。
安倍政権発足直後には円安にぶれると予測してドル投機をおこない、およそ940億円の荒稼ぎをしたばかりだが、こんどはおもむきが違う。
「日本政府は量的緩和の賭けにでたが、流動性の高い通貨供給でインフレが誘発されるだろう。金利は押し上げられ、国債の発行コストがかかり、持続不可能なレベルに陥没の懼れがある」と問題点を指摘した。
投資家が円のポジションを維持すると「通貨安により価値が下がるため円からのキャピタル・フライトが起こるだろう」とし、日本国債の暴落の可能性も指摘した。
つまり従来の構造、黒田日銀総裁前までは「金融緩和―円安―株高」という図式が描けたが、これからは投機筋が円安を仕掛けると、「円安―長期金利高―株安」となり、さらに秋からの消費税増税が加わると、現在の好況は続かない。
「英国も金融緩和を実践しており、この影響はユーロに波及するだろう」とソロスは述べた。
その前日にソロスはフランクフルトで講演しており、「ユーロ圏の金融当局が必要な刺激策をとらないためドイツは九月までに景気後退になる」と予測した。同時に「日本の円安により、ドイツは打撃を受けるからだ」。
▼ドイツは九月から景気後退に入る?!
ソロスの持論はユーロの共通債発行である。しかしドイツでは「反ユーロ同盟」が新党を結成し、つぎの選挙に臨むことになったため政治的運動として注目を集めている。ソロスの演説は、この新党結成前である。
「米国はシェール瓦斯開発により、ドルが最強通貨となっている」と視点を移し替え、「中国の輸出志向経済はあと二年もつかもしれないが、ハードランディングの危険性がある」と並み居る中国人幹部の前でソロスは演説を終えた。
しからばボーアオ会議が開催された中国のメディアは円安をどう見ているのか?
「日銀の量的緩和は副作用が深刻な懸念であり、警戒が必要」というのは人民日報(日本語版、3月21日付け)。
かく続ける。
「円安が世界的な為替操作戦争を引き起こすか、円安が中国の輸出に与える直接的影響は小規模に留まる。中国の対日輸出は全体の7・5%しかなく、対欧、対米はそれぞれ17%だから、問題は深刻ではないが。。。。。。」
これが世界最大の為替操作をしている国(中国は対ドル固定制)の言い分である。
♪
樋泉克夫のコラム
@@@@@@@@
【知道中国 891】
――「惶惑と戒厳と混乱との中に在る・・・」(与謝野の下続)
「金州以北の旅」(与謝野晶子 『世界紀行文学全集』修道社 昭和46年)
▽
往路でのこと。奉天の次に立ち寄った四平街で稲作が盛んな様子を目にした与謝野は、「低濕の広い土地が多いのを利用して、この二十余年来、朝鮮の移民の水田経営が盛に行われ、その有利であることを知って、支那人の稲作が勃興している」と綴っている。
四平街でも彼らは、その特徴である貪欲さとセコさとを存分に発揮し稲作に乗り出すのだ。
ハルピンには5日間留まったが、「支那の軍閥に威張られている哈爾賓」と見ているところからして、やはり日本人は劣勢だったということか。
「今日の行政長官張煥相の露骨な排外思想は隅隅に行亘り、焦点の看板の露西亜文字までが漢字に改まっている」。「大小の百貨店は、猶主として露人の経営に属し、支那商店が其れに続いている。
健気に踏み止まっている日本の百貨店も一軒あるが、日本人は此処でも露支両商に挾撃せられて競争に堪えないらしい。その理由の一つは、大正七年以来久しく北満市場唯一の信用通貨である日本金円を、近年張長官が軍権と警察権の暴力を以て通用を禁止し、奉天軍閥の資金捻出を目的に濫発を重ねた不換紙幣『哈爾賓大洋』の訓令相場を内外の取引に共生している為めである」とする。昭和3(1928)年の時点で「支那の軍閥に威張られている哈爾賓」だったわけだ。
ハルピンですら「支那の軍閥に威張られている」のである。ここにも満州国建国に突き進んだ一半の要因があったのではなかろうか。だが一方で、一連の排日の動きを、「支那復興の機運」とも看做す。
ハルピンの日本領事館で食事に招待され、「近年支那の排外思想が最も抵抗力のない、最も世界の耳目を惹かない此地で、日露両国は勿論、列国の既得権と未来の経済的進出とを蹂躙している時に、この食卓にいられる人達の裏面の苦心と画策とを想像しながら、私は窃に邦人の満蒙経済が露支両国の幸福と矛盾する所のない解決を如何にしたら得られるのかの問題に思い惑うのであった」。
そして「南方ばかりでなく、此の北辺の地にまで、青年支那人の教育ある者が自主権の回復に目覚めている。帝国主義的な見方からは恐ろしい事ながら、人道上からは支那人のために慶賀せねばならない。支那軍閥の小さな嬌児である行政長官張煥相の如きをして、その不法な排外行為を敢えてせしめるのは、その背景を為す支那復興の機運である事を思わずにはいられない」と綴り、食事会に同席した数名の日本の武官に対して「私は此の席にいられる武官達が時代の大勢を観て善処して頂きたいと思うのであった」と“注文”をつけるのであった。
満州における排日・侮日の動きに対する与謝野のような考えは、当時の日本で、どの程度に支持されていたものなのか、いずれにせよ昭和17(1942)年に没した彼女が、満州国の最期も、在満日本人が辿らざるをえなかった道も見届けることはなかったわけだが。
帰路、張作霖爆死後の混乱した奉天市内に足を運び、「奉天支那街の小三越である吉順糸房の屋上から」市内を展望しているが、この店の「支那店員の接客術の上手な事は日本人の及ばない所がある。日本語の流暢な店員がいるのにも感心した。在留邦人の商店で、各地とも此の程度に正しく鄭寧な支那語の出来る店員は稀である。出先で支那人と支那語とを軽視する風を改めなければ、日支の親善の日貨の普及も心細く思われる」(「日支の親善の」は「日支の親善も」では?)と綴り、また別の場所では「満洲に在住する日本の女子達が支那語を学ぶことに冷淡なのを遺憾に思」ってもいる。
「北京に行かない以上は早く東京へ帰りたい」と与謝野は、帰宅を急いだ。
《QED》
◎ BOOKREVIEW ◆書評 ◇しょひょう ♪
黄文雄『学校では絶対に教えない植民地の真実』(ビジネス社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
歴史学者としての黄さんは、『植民地』と奴隷を歴史、文明に照らして比較研究した。集中的に本書では『植民地』の在り方、その百八十度異なる日本の遣り方を比較する。
ロシアの植民地、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガル、そして英国の植民地は現地民を虐殺、虐待、少数民族の分断による分割支配というスタイルで、徹底的に搾り取るシステムだった。
ところが文明を比較しても、歴史開闢以来、日本が行ったことは理想の国家建設であった。
台湾は近代化し、朝鮮はハングルと教育が普及し、日本が力点をおいた満州は、毎年百万人の漢族と朝鮮からの入植があってにぎわった。搾取ではなく、まさに日本の持ち出し、日本の犠牲のもとに行われた。鉄道を敷き、各地に学校、病院を建設し、巨大なダムを建設した。瀋陽の前身、奉天は未曾有の発展を遂げ、新京(いまの長春)には大々的な都が造営された。
ちなみに満州国で発行された通貨は日本の敗戦から二年も命脈を保った。ほかの通貨より、満州国崩壊後にも満州通貨は通用した。
背景にあるのは日本への限りない信頼である。心理的な側面も経済活動のうえでは大きいと言える。
当時、満州を視察したフィリピン外相が言った。
「フィリピンはスペインの植民地として350年、アメリカの支配下で40年が経過している。だが、住民の生活向上に役立つものは一つも作っていない。満州は建国わずか10年にしてこのような建設をしたのか」と驚嘆したのだ。
▽
(読者の声1)貴誌3924号にすこし記述のあったベトナムです。
ベトナムの国土は、日本から九州を差し引いた大きさで、国土の東側は海岸線で3260キロと長くなっています。これだけみれば日本と似ているじゃないかという声もあるかもしれませんが、日本と大きく違うのは、国土がシナ、ラオス、カンボジアと陸地で接していることです。
そのため、日本と違って「密貿易」が巨大です。下図はベトナムのCPI前年同月比推移。2011年夏に23%を記録したときは、シナ商人がベトナムの豚肉を買い占めたことが豚肉価格上昇の一因だったといわれています(コアCPIではありません)。
昨年もシナ人はベトナム南部で水産物を買い取る契約をしてお金を不払いという複数の事件があったりと評判は最悪です。ハノイ郊外の国境ラオカイは友誼関を越えて中国側は片側2車線の綺麗な高速道路ですが、ベトナム側の舗装状況は悪くなっています。
これについて、ベトナムは軍事的理由からわざと国境からハノイまでの道路状況を悪くさせているとも言われています。ベトナムの対シナ赤字104億米ドル分は、対米黒字がほぼ同規模で埋め合わせています。TPPでガーメント・製靴・エビなど水産品、木材でさらに輸出先の米市場依存が強化されると思われます。
なお、貿易収支統計は年初3ヵ月では輸出が前年同期比19.7%増の297億米ドル、輸入が同17.0%増の292億米ドルと、4.8億米ドルの黒字を維持しています。
ベトナムのシナからの輸入品は、発電機などの機械、部品など。まだベトナムの裾野産業は十分に発展していません(最近、サムスン電子、ノキアなど携帯メーカーが大型をはじめていますが)。
発電機などすぐ壊れるシナ製よりも30年持つ日本製を買えばいいのにと思うのですが、すくなくとも先日の円高時までは日本製なんて高くて手がでなかったのです。
仮にシナが禁輸措置を採ってもベトナムは多少のインフレになるだけ(この程度の苦難はベトナム人にはきかないと思います、本当に「しぶとい」「タフ」な人たちです)で日本の中古品の輸入でもはじめるのではと思っています。昨年はシナからダンピング的な鉄鋼製品(鉄建材)などが流れ込んでベトナムの鉄鋼企業は価格低下に苦しんでいるニュースもありました。
対シナデモはハノイのホアンキエム周辺のシナ大使館近くで行われましたが、通常すぐに解散命令がでるのが一日目二日目は何もしないという状況です。
3日目くらいから、当局は政府批判につながるのを恐れて解散命令をだします。
内閣に法案提出権がないことは重大でしょうか?
わたしとしては内閣のなかには国会議員が多数いるということが予定されているだけのことと解釈します。また主権にも色々な意味があるのは法学部学生にとっては一般常識です。
しかし、現行憲法が嘘のかたまりであることには同意します。
96条改正による新憲法は伊藤真など法曹界が反対していますが、それならば一種のクーデターを起こしてでも現行憲法を廃止すべきだと思います。渡辺昇一先生の仰るとおり、現行憲法は国民の総意じゃないから無効の議決を国会ですれば良い。
そして続いて新憲法承認の議決をすれば良いのです。
(R生、ベトナム)
(宮崎正弘のコメント)ベトナム最新情報有り難う御座いました。小生も月末から一週間ほどベトナム各地を回ります。
♪
(読者の声2)貴誌三九二四号にてヒラリー・クリントンの後継者となったジョン・ケリー国務長官に関する記事を拝読。
二〇〇四年にブッシュ・ジュニアと大統領選挙で争った同氏はケネディー以来のカソリック教徒の大統領を目指していた。同時に米国名門エール大学のエリート学生結社のメンバーだそうだが二つは両立しえるのかと考えていたら或る事を思い出した。
今日、共通通貨を持つEU(欧州連合)は一九九二年統合時にはEC(欧州共同体)と呼ばれていた。その頃に何冊か欧州統合に関する本を書かれていた(私は歴史学者と思い込んでいた)経済学者の故篠田雄次郎・上智大学教授に当時既に絶版になっていた著書『聖堂騎士団』を実費で御譲りして貰えないか旨厚かましい手紙を差し上げた事があった。
ところが私が手紙を出した同じ年の一九九二年に六十歳過ぎという若さで篠原教授はお亡くなりになられていた。悲しみの中だったのだろうが奥様から御丁寧な御手紙と御本を御送り頂いた。代金は無用との事で封筒の中には篠原氏が上智大学で西洋の騎士団をモデルに創った学生倶楽部の説明などがあり楽しく読ませて頂いた記憶が有る。
さて、話は戻るが現在米国名門大学などに有る秘密倶楽部は今日どれほどの影響力を持っているのだろう。
また何故人々は開かれた米国社会で閉鎖的な集団を創り維持するのか。それらが国益など公共に反する場合はどうなのか。現に同組織のメンバーは二〇〇四年にブッシュでもケリーでもどちらでも良かったと言う。そんな馬鹿な事が有るか。
日本の松下政経塾出身者が民主党政権で日本を混乱に陥れたが同塾出身者が自民でも維新でも民主でも政経塾ОBが政権内で影響力を持てば良いなどと言ったらそれはおかしい。
明治維新で松下村塾出身者が日本の中枢で活躍したが、それはあくまで日本の為に松下村塾出身者が在ったから出来たのであって、松下村塾出身者が一私塾関係者や山口県の地域エゴの為に在ったならば日本国はとんでもない不幸な指導者を持った事だろう。
松下政経塾は建塾の理念はともかく実体は松下村塾とは違う。民主党の日の丸を切り刻んだ党旗を見て何も怒りを感じず平然とする政治家を輩出してしまった責任は大きい。
もしも松下政経塾が松下村塾の様に国家の為の指導者を養成する事を目的として創設されたならば即刻廃校にすべきだ。実際に日本国民の誰も松下政経塾を必要としていない。逆に松下村塾は吉田松陰死後に亡くなったが、人々は未だ忘れず跡地を訪れる人は絶えない。
(道楽Q)
♪
(読者の声3)金サンの桜吹雪ならぬ桜の風情を台無しに散らすミサイル喧しい昨今、我が国の真心の発露たる祭事が東京にて開催される様子です。
下記に御案内申し上げる行事が我が国のメディアで採り上げられるか否か、期待せず監視ならぬ生温かく見守って止みません。欧米でも類似の行事は相当に以前から催されているやに伝え聞いております。
外交とは別に、或いは外交上の保険として盛大にチベットへの関心を維持発展させることは戦略上重要と愚考いたします。直接の関係者ではございませんけれども、主催者の御教示をもちまして謹んで御案内差し上げる次第です。
TIBET FESTIVAL TOKYO 2013
チベットフェスティバル トウキョウ
http://www.tibethouse.jp/tibetfes/index.html
4月10日、中国海南島で開催されたボーアオ経済会議で講演したソロスは、日銀の「異次元」的なデフレ克服、インフレターゲット2%という日本の大胆な金融緩和に言及し、「リスクの高い実践だ」と批判した。
安倍政権発足直後には円安にぶれると予測してドル投機をおこない、およそ940億円の荒稼ぎをしたばかりだが、こんどはおもむきが違う。
「日本政府は量的緩和の賭けにでたが、流動性の高い通貨供給でインフレが誘発されるだろう。金利は押し上げられ、国債の発行コストがかかり、持続不可能なレベルに陥没の懼れがある」と問題点を指摘した。
投資家が円のポジションを維持すると「通貨安により価値が下がるため円からのキャピタル・フライトが起こるだろう」とし、日本国債の暴落の可能性も指摘した。
つまり従来の構造、黒田日銀総裁前までは「金融緩和―円安―株高」という図式が描けたが、これからは投機筋が円安を仕掛けると、「円安―長期金利高―株安」となり、さらに秋からの消費税増税が加わると、現在の好況は続かない。
「英国も金融緩和を実践しており、この影響はユーロに波及するだろう」とソロスは述べた。
その前日にソロスはフランクフルトで講演しており、「ユーロ圏の金融当局が必要な刺激策をとらないためドイツは九月までに景気後退になる」と予測した。同時に「日本の円安により、ドイツは打撃を受けるからだ」。
▼ドイツは九月から景気後退に入る?!
ソロスの持論はユーロの共通債発行である。しかしドイツでは「反ユーロ同盟」が新党を結成し、つぎの選挙に臨むことになったため政治的運動として注目を集めている。ソロスの演説は、この新党結成前である。
「米国はシェール瓦斯開発により、ドルが最強通貨となっている」と視点を移し替え、「中国の輸出志向経済はあと二年もつかもしれないが、ハードランディングの危険性がある」と並み居る中国人幹部の前でソロスは演説を終えた。
しからばボーアオ会議が開催された中国のメディアは円安をどう見ているのか?
「日銀の量的緩和は副作用が深刻な懸念であり、警戒が必要」というのは人民日報(日本語版、3月21日付け)。
かく続ける。
「円安が世界的な為替操作戦争を引き起こすか、円安が中国の輸出に与える直接的影響は小規模に留まる。中国の対日輸出は全体の7・5%しかなく、対欧、対米はそれぞれ17%だから、問題は深刻ではないが。。。。。。」
これが世界最大の為替操作をしている国(中国は対ドル固定制)の言い分である。
♪
樋泉克夫のコラム
@@@@@@@@
【知道中国 891】
――「惶惑と戒厳と混乱との中に在る・・・」(与謝野の下続)
「金州以北の旅」(与謝野晶子 『世界紀行文学全集』修道社 昭和46年)
▽
往路でのこと。奉天の次に立ち寄った四平街で稲作が盛んな様子を目にした与謝野は、「低濕の広い土地が多いのを利用して、この二十余年来、朝鮮の移民の水田経営が盛に行われ、その有利であることを知って、支那人の稲作が勃興している」と綴っている。
四平街でも彼らは、その特徴である貪欲さとセコさとを存分に発揮し稲作に乗り出すのだ。
ハルピンには5日間留まったが、「支那の軍閥に威張られている哈爾賓」と見ているところからして、やはり日本人は劣勢だったということか。
「今日の行政長官張煥相の露骨な排外思想は隅隅に行亘り、焦点の看板の露西亜文字までが漢字に改まっている」。「大小の百貨店は、猶主として露人の経営に属し、支那商店が其れに続いている。
健気に踏み止まっている日本の百貨店も一軒あるが、日本人は此処でも露支両商に挾撃せられて競争に堪えないらしい。その理由の一つは、大正七年以来久しく北満市場唯一の信用通貨である日本金円を、近年張長官が軍権と警察権の暴力を以て通用を禁止し、奉天軍閥の資金捻出を目的に濫発を重ねた不換紙幣『哈爾賓大洋』の訓令相場を内外の取引に共生している為めである」とする。昭和3(1928)年の時点で「支那の軍閥に威張られている哈爾賓」だったわけだ。
ハルピンですら「支那の軍閥に威張られている」のである。ここにも満州国建国に突き進んだ一半の要因があったのではなかろうか。だが一方で、一連の排日の動きを、「支那復興の機運」とも看做す。
ハルピンの日本領事館で食事に招待され、「近年支那の排外思想が最も抵抗力のない、最も世界の耳目を惹かない此地で、日露両国は勿論、列国の既得権と未来の経済的進出とを蹂躙している時に、この食卓にいられる人達の裏面の苦心と画策とを想像しながら、私は窃に邦人の満蒙経済が露支両国の幸福と矛盾する所のない解決を如何にしたら得られるのかの問題に思い惑うのであった」。
そして「南方ばかりでなく、此の北辺の地にまで、青年支那人の教育ある者が自主権の回復に目覚めている。帝国主義的な見方からは恐ろしい事ながら、人道上からは支那人のために慶賀せねばならない。支那軍閥の小さな嬌児である行政長官張煥相の如きをして、その不法な排外行為を敢えてせしめるのは、その背景を為す支那復興の機運である事を思わずにはいられない」と綴り、食事会に同席した数名の日本の武官に対して「私は此の席にいられる武官達が時代の大勢を観て善処して頂きたいと思うのであった」と“注文”をつけるのであった。
満州における排日・侮日の動きに対する与謝野のような考えは、当時の日本で、どの程度に支持されていたものなのか、いずれにせよ昭和17(1942)年に没した彼女が、満州国の最期も、在満日本人が辿らざるをえなかった道も見届けることはなかったわけだが。
帰路、張作霖爆死後の混乱した奉天市内に足を運び、「奉天支那街の小三越である吉順糸房の屋上から」市内を展望しているが、この店の「支那店員の接客術の上手な事は日本人の及ばない所がある。日本語の流暢な店員がいるのにも感心した。在留邦人の商店で、各地とも此の程度に正しく鄭寧な支那語の出来る店員は稀である。出先で支那人と支那語とを軽視する風を改めなければ、日支の親善の日貨の普及も心細く思われる」(「日支の親善の」は「日支の親善も」では?)と綴り、また別の場所では「満洲に在住する日本の女子達が支那語を学ぶことに冷淡なのを遺憾に思」ってもいる。
「北京に行かない以上は早く東京へ帰りたい」と与謝野は、帰宅を急いだ。
《QED》
◎ BOOKREVIEW ◆書評 ◇しょひょう ♪
黄文雄『学校では絶対に教えない植民地の真実』(ビジネス社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
歴史学者としての黄さんは、『植民地』と奴隷を歴史、文明に照らして比較研究した。集中的に本書では『植民地』の在り方、その百八十度異なる日本の遣り方を比較する。
ロシアの植民地、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガル、そして英国の植民地は現地民を虐殺、虐待、少数民族の分断による分割支配というスタイルで、徹底的に搾り取るシステムだった。
ところが文明を比較しても、歴史開闢以来、日本が行ったことは理想の国家建設であった。
台湾は近代化し、朝鮮はハングルと教育が普及し、日本が力点をおいた満州は、毎年百万人の漢族と朝鮮からの入植があってにぎわった。搾取ではなく、まさに日本の持ち出し、日本の犠牲のもとに行われた。鉄道を敷き、各地に学校、病院を建設し、巨大なダムを建設した。瀋陽の前身、奉天は未曾有の発展を遂げ、新京(いまの長春)には大々的な都が造営された。
ちなみに満州国で発行された通貨は日本の敗戦から二年も命脈を保った。ほかの通貨より、満州国崩壊後にも満州通貨は通用した。
背景にあるのは日本への限りない信頼である。心理的な側面も経済活動のうえでは大きいと言える。
当時、満州を視察したフィリピン外相が言った。
「フィリピンはスペインの植民地として350年、アメリカの支配下で40年が経過している。だが、住民の生活向上に役立つものは一つも作っていない。満州は建国わずか10年にしてこのような建設をしたのか」と驚嘆したのだ。
▽
(読者の声1)貴誌3924号にすこし記述のあったベトナムです。
ベトナムの国土は、日本から九州を差し引いた大きさで、国土の東側は海岸線で3260キロと長くなっています。これだけみれば日本と似ているじゃないかという声もあるかもしれませんが、日本と大きく違うのは、国土がシナ、ラオス、カンボジアと陸地で接していることです。
そのため、日本と違って「密貿易」が巨大です。下図はベトナムのCPI前年同月比推移。2011年夏に23%を記録したときは、シナ商人がベトナムの豚肉を買い占めたことが豚肉価格上昇の一因だったといわれています(コアCPIではありません)。
昨年もシナ人はベトナム南部で水産物を買い取る契約をしてお金を不払いという複数の事件があったりと評判は最悪です。ハノイ郊外の国境ラオカイは友誼関を越えて中国側は片側2車線の綺麗な高速道路ですが、ベトナム側の舗装状況は悪くなっています。
これについて、ベトナムは軍事的理由からわざと国境からハノイまでの道路状況を悪くさせているとも言われています。ベトナムの対シナ赤字104億米ドル分は、対米黒字がほぼ同規模で埋め合わせています。TPPでガーメント・製靴・エビなど水産品、木材でさらに輸出先の米市場依存が強化されると思われます。
なお、貿易収支統計は年初3ヵ月では輸出が前年同期比19.7%増の297億米ドル、輸入が同17.0%増の292億米ドルと、4.8億米ドルの黒字を維持しています。
ベトナムのシナからの輸入品は、発電機などの機械、部品など。まだベトナムの裾野産業は十分に発展していません(最近、サムスン電子、ノキアなど携帯メーカーが大型をはじめていますが)。
発電機などすぐ壊れるシナ製よりも30年持つ日本製を買えばいいのにと思うのですが、すくなくとも先日の円高時までは日本製なんて高くて手がでなかったのです。
仮にシナが禁輸措置を採ってもベトナムは多少のインフレになるだけ(この程度の苦難はベトナム人にはきかないと思います、本当に「しぶとい」「タフ」な人たちです)で日本の中古品の輸入でもはじめるのではと思っています。昨年はシナからダンピング的な鉄鋼製品(鉄建材)などが流れ込んでベトナムの鉄鋼企業は価格低下に苦しんでいるニュースもありました。
対シナデモはハノイのホアンキエム周辺のシナ大使館近くで行われましたが、通常すぐに解散命令がでるのが一日目二日目は何もしないという状況です。
3日目くらいから、当局は政府批判につながるのを恐れて解散命令をだします。
内閣に法案提出権がないことは重大でしょうか?
わたしとしては内閣のなかには国会議員が多数いるということが予定されているだけのことと解釈します。また主権にも色々な意味があるのは法学部学生にとっては一般常識です。
しかし、現行憲法が嘘のかたまりであることには同意します。
96条改正による新憲法は伊藤真など法曹界が反対していますが、それならば一種のクーデターを起こしてでも現行憲法を廃止すべきだと思います。渡辺昇一先生の仰るとおり、現行憲法は国民の総意じゃないから無効の議決を国会ですれば良い。
そして続いて新憲法承認の議決をすれば良いのです。
(R生、ベトナム)
(宮崎正弘のコメント)ベトナム最新情報有り難う御座いました。小生も月末から一週間ほどベトナム各地を回ります。
♪
(読者の声2)貴誌三九二四号にてヒラリー・クリントンの後継者となったジョン・ケリー国務長官に関する記事を拝読。
二〇〇四年にブッシュ・ジュニアと大統領選挙で争った同氏はケネディー以来のカソリック教徒の大統領を目指していた。同時に米国名門エール大学のエリート学生結社のメンバーだそうだが二つは両立しえるのかと考えていたら或る事を思い出した。
今日、共通通貨を持つEU(欧州連合)は一九九二年統合時にはEC(欧州共同体)と呼ばれていた。その頃に何冊か欧州統合に関する本を書かれていた(私は歴史学者と思い込んでいた)経済学者の故篠田雄次郎・上智大学教授に当時既に絶版になっていた著書『聖堂騎士団』を実費で御譲りして貰えないか旨厚かましい手紙を差し上げた事があった。
ところが私が手紙を出した同じ年の一九九二年に六十歳過ぎという若さで篠原教授はお亡くなりになられていた。悲しみの中だったのだろうが奥様から御丁寧な御手紙と御本を御送り頂いた。代金は無用との事で封筒の中には篠原氏が上智大学で西洋の騎士団をモデルに創った学生倶楽部の説明などがあり楽しく読ませて頂いた記憶が有る。
さて、話は戻るが現在米国名門大学などに有る秘密倶楽部は今日どれほどの影響力を持っているのだろう。
また何故人々は開かれた米国社会で閉鎖的な集団を創り維持するのか。それらが国益など公共に反する場合はどうなのか。現に同組織のメンバーは二〇〇四年にブッシュでもケリーでもどちらでも良かったと言う。そんな馬鹿な事が有るか。
日本の松下政経塾出身者が民主党政権で日本を混乱に陥れたが同塾出身者が自民でも維新でも民主でも政経塾ОBが政権内で影響力を持てば良いなどと言ったらそれはおかしい。
明治維新で松下村塾出身者が日本の中枢で活躍したが、それはあくまで日本の為に松下村塾出身者が在ったから出来たのであって、松下村塾出身者が一私塾関係者や山口県の地域エゴの為に在ったならば日本国はとんでもない不幸な指導者を持った事だろう。
松下政経塾は建塾の理念はともかく実体は松下村塾とは違う。民主党の日の丸を切り刻んだ党旗を見て何も怒りを感じず平然とする政治家を輩出してしまった責任は大きい。
もしも松下政経塾が松下村塾の様に国家の為の指導者を養成する事を目的として創設されたならば即刻廃校にすべきだ。実際に日本国民の誰も松下政経塾を必要としていない。逆に松下村塾は吉田松陰死後に亡くなったが、人々は未だ忘れず跡地を訪れる人は絶えない。
(道楽Q)
♪
(読者の声3)金サンの桜吹雪ならぬ桜の風情を台無しに散らすミサイル喧しい昨今、我が国の真心の発露たる祭事が東京にて開催される様子です。
下記に御案内申し上げる行事が我が国のメディアで採り上げられるか否か、期待せず監視ならぬ生温かく見守って止みません。欧米でも類似の行事は相当に以前から催されているやに伝え聞いております。
外交とは別に、或いは外交上の保険として盛大にチベットへの関心を維持発展させることは戦略上重要と愚考いたします。直接の関係者ではございませんけれども、主催者の御教示をもちまして謹んで御案内差し上げる次第です。
TIBET FESTIVAL TOKYO 2013
チベットフェスティバル トウキョウ
http://www.tibethouse.jp/tibetfes/index.html
ヒマラヤの華、チベット芸術。慈悲の国、チベットの心に染まる6日間。
記
日時:2013年5月1日(水)~5月6日(月)
主催:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)
場所:大本山 護国寺 (有楽町線「護国寺」駅1番出口すぐ)
入場無料 (舞踏チャム観覧は有料 http://www.tibethouse.jp/tibetfes/cham.html
25名のチベット僧侶が命あるものの幸せと平和を願い、仏画(タンカ)絵師、仏師を伴って来日。砂曼荼羅を描き、仮面舞踏を行います。
またチベットの料理人や音楽家たちが仏の教えが根づいたチベット人の暮らしを再現します。チベット名物・チャン(ハダカ麦のどぶろく)を、日本の酒屋さんとの協力で製造・売り出します(税務署公認済)。
深く豊かなチベットの心に出会える貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。
(熊本護国生)
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(1)「汚染大国中国、本当に怖いのは放射能」(『サピオ』5月号、発売中)
(2)「社会福祉大国EUと日本の不条理――川口マーン惠美さんとの対談」(『正論』五月号、発売中)
(3)「キリスト教が伴天連と呼ばれた時代」(『月刊日本』五月号、4月22日発売)
(4)「思い出の人々 第2回 林房雄」(『撃論ムック』、初夏号、四月中頃発売予定)
(5)「チャイナ・プラス・ワンを行くシリーズ(第3回)マレーシア紀行」(『エルネオス』5月号、5月1日発売)
(6)「書評『皇室を戴く社会主義』(『改革者』六月号、5月1日発行予定)
(7)「チャイナ・プラス・ワンを行くシリーズ(第3回)マレーシア紀行」(『エルネオス』5月号、5月1日発売)
(8)「クアラルンプール、マラッカのチャイナタウン」(『共同ウィークリー』、5月6日号)
宮崎正弘の最新刊
『中国の『反日』で日本はよくなる』(徳間書店、1000円 税込み)
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352頁、写真200葉以上、定価1575円。分厚い人名辞典、廉価。
この一冊で中国政治の舞台裏が透視できる! 一家一社に一冊。
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『習近平が仕掛ける尖閣戦争』(並木書房、232p、並製。定価1575円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4890632999/
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『中国が世界経済を破綻させる』(清流出版、1680円)
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『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)
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『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)再版
『増長し無限に乱れる欲望大国、中国のいま』(石平と対談第二弾 ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談シリーズ第壱弾。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
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『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
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