「言うだけ番長」=温家宝首相の最後の演説は暗喩にみちていた
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年3月7日(木曜日)
通巻第3895号 <前日発行>
「言うだけ番長」=温家宝首相の最後の演説は暗喩にみちていた
太子党の党規行為を批判するが「中華民族の偉大なる復興」で辻褄合わせ
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温家宝首相は全人代初日に人気任期十年の「最後」の演説を行った。
北京の観測筋には、これを改革が挫折した温家宝の怨念が深く籠もった政治的遺言であると捉える向きがあり、また「保八堅持路線」(GDP成長8%死守)が線説から消えている。
2013年3月5日、全人代初日は2900名の代議員が人民大会堂に結集し、温首相の最後の演説に聴き入った。
16000字、所要時間はおよそ100分。そして「影帝」といわれた温は功績十年の毀誉褒貶があろうが、結局、政治的パワーを発揮できなかった、虚しい結末を意味する。
彼のとなえた改革はなにひとつ実現されず、民主化は後退し、汚職は凄まじくなり貧富の差は広がるばかりに終わった。
そのうえ子飼いの王洋も李源潮も政治局常務委員入りを江沢民派の妨害で阻まれたのだから。
まして党内に燻るアンチ共青団は上海派と組んで温一族の不法な海外蓄財をニューヨークタイムズにリークし、二度に亘ってすっぱ抜かせ、改革者のイメージを徹底的に台無しにした。
やっぱり、「言うだけ番長」というニックネームがふさわしい政治人生となったわけだ。
温家宝演説には、かろうじて「小康社会」のスローガンが虚ろに残ったものの、年間20万件の暴動が沈静化する兆しさえない。
同時に現執行部とのバランスをとるために温演説には習近平が就任以来好んで使う政治目標のお経「中華民族の偉大な復興」が強調された。これも実にちぐはぐな印象を与える。
中国の2013年度国内総生産(GDP)の成長率目標は7・5%前後に設定するとされた。
現状から推測しても、7・5%達成はとても無理な数字だが、数字は数字、温家宝が腹の中で何を考えているかは分からない。
▼国防費は25年連続のふたけた増額、狂気の沙汰
その反面で、狂気の国防費は前年比10・7%増となって、日本の二・四倍強の11兆1千億円が示された。これで25年連続の2桁増という発狂的予算である。
昨秋の党大会で謳われた「強固な国防と強大な軍隊」を前面に出し、胡錦濤が強調した「海洋権益」の保持、すなわち「海洋強国」の軌道は変えず、尖閣諸島には一言も触れないまでも、「海洋強国」の建設加速という基本方針が踏襲されている。
中国の国防費は過去10年間で四倍に膨張しており、周辺諸国ばかりか国際社会の警戒感は強まり、「中国脅威論」となっているが、中国側は「平和のため」と平然と嘯いて開き直った。
しかし温演説では社会矛盾にようやく触れるようになっており、「深刻な大気汚染が社会問題」であるという憂慮の認識の下、「経済発展と資源・環境との矛盾」があり、とくに「大気汚染など大衆の利益に関わる環境汚染問題をしっかり解決する必要がある」として四兆円を越える予算を提示した。
最後に温首相は現路線を暗喩的に批判し、「権力が過度に集中し、制約を受けていない状況に対し制度面から是正を行うべきだ」と発言した。これは「制度改革」を何よりも重視する党内改革派を代弁して、温首相が習近平が王岐山を使って展開している「ジェスチャー」としての「反腐敗、反浪費キャンペーン」を批判したものである。
中国外交に関しては主要国との関係を積極的に推進し、周辺諸国との互恵協力関係を強化した」などと楽観的な総括に終始し、ついに尖閣諸島には触れなかった。しかし、この内容を字句通りに解釈すれば、温首相が、習近平の対日強硬外交を完全に無視したことを意味する。
太子党(高級幹部子弟)関係者による不動産投機に対しても、温執行部の金融政策とりわけ不動産価格抑制策が破綻してしまった原因は太子党の投機行為にありと暗喩的に批判し、「投機的な住宅需要を断固抑制しなければならない」とした。
全人代は17日まで続き、つぎの李克強内閣の陣容が決まる。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 871回】
――ウソつきはドロボー・・・いや、「幹部」の始まりだった
『延安日記』(彼得・弗拉基米洛夫 哈耶出版社 2009年)
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著者のピョートル・ウラジロフ(Peter P.Vladimirov:1905年~58年)を漢字音で表記すると彼得・弗拉基米洛夫になるが、中国在住時には孫平という中国名で活動していた。
農機具工場労働者から機関車修理工に転じ、27年にソ連共産党に入党。31年に入隊し、復員後はモスクワ東方学院に学び成績優秀で卒業。38年から40年の間はタス通信中国特派員を務めている。この時期は毛沢東が政敵を排除し共産党権力の階梯を上り詰める時期に重なるだけに、共産党における禍々しき権力闘争の実態を詳細に見続けたことだろう。
日米戦争開戦の半年ほど前の41年4月、タス通信特派員として再び中国へ。日本軍がビルマを制圧した42年5月にコミンテルン連絡員兼タス通信従軍記者として延安に派遣されている。ならば、自らの目と耳で毛沢東(共産党)、スターリン、?介石(国民党)、ルーズベルトの間で繰り広げられた虚々実々の駆け引きを知る立場にいただろう。
延安滞在は45年11月までというから、日本敗戦後に毛沢東と?介石が展開した将来の中国の主導権をめぐる暗闘と内戦へ向けての態勢固めも見聞しているに違いない。
48年から51年までは上海総領事で、52年にビルマ大使に転じ、58年にモスクワで死去している。
――その足跡を簡単に追ってみただけでも、毛沢東が共産党で絶対権力を揮い、?介石を駆逐して建国を果たした過程をじっくりと“考察“できる立場にいた人物であることが判るはず。この日記は、42年5月から45年9月2日までの延安滞在中の記録である。
毛沢東以下の共産党幹部たちの延安における知られざる日々が克明に綴られ、興味は尽きない。その一例を挙げると、日本側の中国政策の要であった汪兆銘が死去した10日後の44年11月20日の記述に、
「中共中央主席はニセ情報を使うことで,極めて重要な目的を達成することを考えた。共産党は相当に大規模な軍隊に加え民兵も擁している。最近では、民兵の実力は総計で200万とのことだ。現在、書類上では20万人を水増し220万人という新しい数字になって、すでにモスクワとアメリカの友人に報告されている(毛は我われに対しても憚ることなどない)。こういったウソを彼が言い出すわけは、心の内にモスクワとアメリカの友人に信じ込ませようという明確な目標があるからだ。中共の実際の兵力は国民党と優劣つけ難く、このような数字は実情を反映していないばかりか、兵力対比における誤った判断を導くことになる。
私が明確に知るところでは、200万という数字もウソだ。最近になって些か水増しされた数字を宣伝している! 葉剣英が提示する数字が信じられるとしても、絶対に100万を超えてはいない。だが、この八路軍参謀長ですらウソがある。ニセ情報は軍と党の責任者が一貫して用いる手法だと、彼はつけ加えている。
毛沢東は自らがでっち上げた数字に基づく策略に従って正式にモスクワに報告し・・・毛沢東の計略に則り、アメリカ人は来春季には中共軍との共同作戦を展開するだろ」
『延安日記』の記述を信じるなら、毛沢東はニセ情報でスターリンやルーズベルトを手玉に取り、共産党の幹部たちも「中共中央主席」に倣ってニセ情報で敵を翻弄・撹乱し、“革命”を達成したことになる。
「革命の聖地」といわれた延安は、ウソつきの巣窟だったのだ。それから60数年の後、生まれたときから「毛沢東の良い子」として徹底教育された習近平が北京の“玉座”に就いた。
やはり用心しても用心しすぎることはありませんネッ。
《QED》
(ひいずみ・かつお氏は愛知大学教授。華僑と京劇研究の第一人者。このコラムは小誌で独占的に連載されています)
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